HW ELECTROが『ELEMOダンプ』を発売〜価格は高いがニーズはありそう

HW ELECTROは2024年1月26日に、電気自動車(EV)の『ELEMO』をベースにしたダンプトラック『ELEMOダンプ』を発売しました。EVの小型ダンプは日本初と思われます。今後は自治体を中心にユーザーの開拓を進める計画です。

HW ELECTROが『ELEMOダンプ』を発売〜価格は高いがニーズはありそう

ついにEVのダンプが登場

電気自動車(EV)を輸入し、日本市場に合うよう改良して審査をクリア、販売するというユニークな活動を続けるEVベンチャーのHW ELECTRO(HWエレクトロ)が、2024年1月26日に新型の小型EV『ELEMOダンプ』(エレモダンプ)を発売することを発表しました。

HWエレクトロは、アメリカのCENNTRO社が欧米などで販売する車両をベースに、日本仕様に改良した小型商用EVの販売を手がける2019年設立のEVベンチャーです。

HWエレクトロはこれまで、小型の電気自動車(EV)『ELEMO』(エレモ)、『ELEMO』の後ろをカットして全長を軽自動車規格に合わせた『ELEMO-K』(エレモK)、ハイエースサイズのワンボックスEV『ELEMO-L』(エレモ エル)を販売してきました。

初代エレモがナンバーを取得したときにはEVsmartブログも取材に駆けつけ、密着リポートをお届けしました。

そんなHWエレクトロが次の一手として市場に送り出した新型EVが、エレモダンプです。

以前、日本EVフェスティバル(関連記事)でエレモKのピックアップタイプがお披露目されていて、ちょっとごつい荷台のあおり部分を見ながら「ダンプにしたらおもしろそうだなあ」という話を仲間内でしていたのですが、まさか本当に出てくるとは思いませんでした。

HWエレクトロがダンプを手がけるのはもちろん初めてですが、小型ダンプタイプのEVの市販は日本初ではないでしょうか。商用EVのバリエーションが広がるのは、もちろん大歓迎です。

ピックアップタイプのエレモ活用例。 (HWエレクトロ公式サイトから引用)

タイプは多目的仕様と清掃仕様の2種類

今回のエレモダンプのベースになったのは、小型車サイズのEV、エレモです。バッテリー容量は25.92kWhで、一充電の走行距離はベースになったエレモは200kmとなっていますが、エレモダンプは重量が増えているので少し短くなると思われます。

軽自動車ではないのが残念ですが、荷台のダンプ機構のスペースのために後部のオーバーハングを残す必要があったので全長が軽規格の3400mmに収まらず、小型車になったそうです。

荷台のホイスト機構は、車両の動力用バッテリーで駆動する電動モーターを使った油圧ポンプを採用しています。

車種は、アオリの開き方や高さの違いで、多目的用と清掃用の2種類を用意しました。多目的用は農業や園芸関係、畜産、水産業などを想定しています。土砂を運ぶのは重量の関係で禁止していますが、使いやすいようにアオリは3方開にし、テールゲートは荷台を挙げた時に自動で開く機構も搭載しています。

清掃用は、主に自治体のゴミ収集車として使うことを想定しています。

エレモダンプエレモ
多目的仕様清掃仕様ピックアップ
全長×全幅×全高(mm)3950×1410×19053925×1440×1905
荷台内寸法(長さ×幅×高さ)2250×1330×320mm2250×1330×600mm2210×1360×400
荷台容量0.9m31.7m3-
最大積載量※1300kg450kg
アオリ三方開一方開-
テールゲート下開き(自動開閉装置付き)二枚観音-
最高出力24kW
最大トルク38.2Nm
バッテリーリチウムイオン
総電圧86.4V
総電力量25.92kWh
価格423万5000円435万5000円331万1000円※2
※1 最大積載量はシャシー及び仕様によって異なる
※2 エコカー減税、購入時の助成金対象

EVなら走行性能を犠牲にせず小さくできる

HWエレクトロによれば、自治体やリース会社などから清掃用のダンプや、高所作業の可能なリフトゲートを作れないかという声があったそうです。

大きな車が入れる道ではゴミ収集専用のプレス車(いわゆるパッカー車)でいいのですが、狭い道では軽の小型ダンプが使われることが多いためです。東京都23区でも、軽の小型ダンプを数多く所有しています。

エレモダンプは軽規格ではないですが、全長が少し長いだけで車幅は軽自動車並です。清掃車なら走行ルートはほぼ決まっているでしょうし、それほど長く走るわけでもないので、航続距離も導入の障壁にはなりにくそうです。

それにEVなら坂の多い山間部の町でも比較的ラクに走れるはず。小型EVの働く車が活躍する場は多いのではないでしょうか。

ダンプ部分は新明和工業が開発

2021年11月に、日本EVフェスティバルでエレモKのピックアップがお披露目されたとき、来場者から「ダンプカーがあればいいなあ」という声も聞かれました。それが実現したわけですが、発売までにはなかなかの苦労があったそうです。

今回発売されたエレモダンプの開発は、飛行艇の製造や産業機器、特装車などを手がける新明和工業との協業で実現しました。

ダンプ部分の基本的な構造はスズキ『キャリー』のダンプシリーズと同様、電動油圧モーターを使った荷台の機構を含めて架装部分は新明和工業が開発しています。

車体側では、小型EVにダンプ機構を搭載するためシャシーにサブフレームを追加して強化するなど設計を見直したほか、コンタクタ付きヒューズボックスを採用し電気的な安全性を確保するなどしています。

HWエレクトロによれば、新明和工業の基準を満たす強度や横転限界などを確立するため、「開発スタートから発売まで2年かかった」そうです。軽EVダンプが日の目を見ることができて、関係者が胸をなで下ろしている様子が目に浮かびます。

なお車両販売はHWエレクトロですが、架装部分は新明和工業が開発を担っているので取り扱い、問い合わせ先は新明和工業になります。

ネックになりそうなのは価格で、キャリーのダンプタイプが150万円前後なのに対して、EVになると400万円を超えてしまいます。これだけの価格差があると民間での購入にはハードルが高そうですが、カーボンニュートラルを目指していたり、軽自動車では走行が難しい勾配がある道での使用が想定される自治体ならニーズがあるのかもしれません。

HWエレクトロでは事業者向けに、環境省の補助金を利用した商用EV専用のカーリースサービス、「HWEカーリース」も提供しています。公式サイトに、まだエレモダンプのメニューは紹介されていませんが、通常のエレモなどでは、補助金や残価が勘案されてかなりコストパフォーマンスの良い料金設定になっています。エレモダンプはまだ補助金の対象になっていないのですが、興味のある方は相談してみる価値がありそうです。

あとは、数が増えれば安くなる道が開けるかどうかですが、多種多様なEVは市場全体にとってもプラスになります。まずは今後の広がりに期待したいと思うのです。

文/木野 龍逸

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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