ヒョンデIONIQ 5 N で1000km遠征など徹底テスト/走って感じたNの設計思想とは?

ヒョンデのハイパフォーマンスEV『IONIQ 5 N』を、関東から岐阜県白川郷の往復1000kmやワインディングの碓氷バイパスなどを実走検証。長距離におけるEV性能だけではなく、高性能EVとしてどのように仕上がっているのか。通常モデルとも比較しつつIONIQ 5 Nの設計思想を考察します。

ヒョンデIONIQ 5 N で1000km遠征など徹底テスト/ワインディングで実感したNの設計思想とは?

急速充電を中心としたEV性能を確認

私自身、すでに通常モデルの韓国・ヒョンデIONIQ 5は2022年モデルを2回長距離検証行ってEV性能をテストしました。そして今回日本国内でも納車が始まっているIONIQ 5のハイパフォーマンスモデル『IONIQ 5 N』は、通常モデルと比較しても動力性能、EV性能、内外装が大きく異なります。それぞれどのような違いがあるのかを長距離走行テストなどを通してレポートしていきます。

まずIONIQ 5 Nの主要なEV性能を確認しておきます。

●バッテリー容量:84kWh(グロス)/約80kWh(ネット)
●航続距離:561km(WLTCモードクラス2)/448km(WLTCモードクラス3)/356km(EPA)
●定格電圧:697V
●充電性能(最大充電出力/10-80%充電時間):145kW/約35分
●Cd値:0.313

この通り、従来の通常モデルと比較してもバッテリー容量は10kWh以上増量。さらに日本仕様での充電性能も、通常モデルでは最大100kW(250A)を8分間しか持続できなかったのが、Nでは最大150kW弱(350A)と大幅に向上しています。
(編集部注 ※2024年11月8日に発表された THE new IONIQ 5 はバッテリー容量がNと同じ84kWhに増量。800Vシステムに対応可能なNと同等の急速充電性能にアップデートされました)

今回の遠征目的地である岐阜県白川郷までは新東名自動車道と東名自動車道、東海北陸道を経由。新東名には複数箇所に150kW級の急速充電器が設置されているため、IONIQ 5 Nの充電性能を試すために何度か充電を行いました。

結論としては、122kW程度(300A)までしか上がらない場合がほとんどであり、この遠征中一度しか140kW以上(350A)を発揮することができませんでした。理由は不明ですが、おそらく充電インレットの熱対策の一環で350Aを許容できる時間に制限をかけている可能性があります。

実際に140kW級(350A)を発揮できた際も、充電開始後ちょうど5分間で120kW級(300A)に制限をかけている様子を確認できており、一部輸入車メーカーのEVでも、一定時間経過すると充電出力を絞る制御を行なっています。制御の理由はチャデモ規格の急速充電インレットの熱対策がおもな要因であると説明を受けているので、もしかしたらIONIQ 5 Nでも同様の充電出力制限をかけているのかもしれません。


往路での浜松SA・150kW級急速充電器での充電テスト。上の写真でわかるように充電開始から約5分間は142kW(350A)を発揮したものの、下の写真ではちょうど5分後に121kW(300A)に制限している様子を確認できました。

とはいうものの、液冷式の充電ケーブルを搭載することで連続して最大400Aの電流を流すことが可能なフラッシュ・マーク5で充電を行うと、SOC10%→80%を実測値34分で充電することができました。従来の通常モデルがおよそ40分弱程度を要したこと、そしてバッテリー容量が10kWh以上増量されていることを考慮すれば、IONIQ 5 Nは充電性能を大きく向上してきたことが確認できます。

また、新電元製の150kW級急速充電器でも充電テストを行いました。新電元の150kW級急速充電器は空冷ケーブルであるものの、ブーストモードが終了する15分以降も段階的な高出力を発揮できるポテンシャルを有しています。実際にIONIQ 5 NではSOC9%から充電をスタートさせて、26分弱ほど300Aを維持しました。

30分間で57.1kWhを充電することに成功。

ちなみに、直近において経済産業省から「電気設備の技術基準の解釈」にEV充電器に関する保安要件が追加されました。いわゆる「450V規制」の実質的な緩和であり、これで日本国内でも1000V級の急速充電器の設置ができるようになったわけです。

よって、これまでは800Vシステムを採用するEVを発売する一部の輸入車メーカーは、電圧を引き下げるためにバッテリーセルを減らしたり、DCDCコンバーターを搭載しないなど、日本仕様専用の対応に迫られていたわけですが、今後はチャデモ規格への変更のみで、海外仕様とバッテリーやパワートレインの設計まで変更する必要がなくなりました。そして800Vシステムでの超急速充電が可能となり、さらにEV性能の向上をアピールすることができます。

つまりNも含めた新型IONIQ 5でも、800V充電を日本でも解禁することでさらにEV性能を向上させることが可能です。来年以降、ヒョンデジャパンが800V充電の解禁を晴れてアナウンスしてくることに期待したいと思います。

東京駅付近に設置されているEV充電器の公道設置に関する社会実験中の150kW級急速充電器。

圧倒的な走行性能を実現

続いて、IONIQ 5 Nの主要な走行性能を確認しましょう。

●駆動方式:デュアルモーター4輪駆動
●最高出力/最大トルク:478kW/770Nm
●最高速度:260km/h
●0-100km/h加速:3.4秒

この通り、0-100km/h加速が5.2秒と十二分に速い通常モデルと比較してもさらに高性能化を実現。バッテリーだけでなく搭載モーターやインバーターもN専用に開発されており、ヒョンデのNに対する気合いの入れ方を感じます。

白川郷への1000km遠征とは別に、碓氷バイパスを2周ほど往復して、IONIQ 5 Nのワインディング走行性能を試しました。IONIQ 5 Nは通常モデルと異なる走行モードが存在します。Nモードを起動すると、インストルメントクラスターの表示が変わり、モーター温度やバッテリー温度をデジタル表示。さらに画面右上に表示されている通り、出力調整、ステアリングの重さ、サスペンションの硬さなども好みにセッティングできます。

さらに、主にサーキット走行のためのバッテリーやモーターの温度を最適化する4つのモードが搭載されています。

●N Race:バッテリーとモーター温度の最大冷却。Sprintモードは出力制限なし、Enduranceモードは出力制限ありで航続距離の最大化を図る。
●N Battery Preconditioning:レース出走前などのバッテリー温度の最適化。Dragモードは30-40℃、Trackモードは20-30℃を目標に調整。

よって日本のEVレース走行中では主にN RaceのEnduranceモードを使用します。実際に私が高速道路を走行中にEnduranceモードを使用した際は、バッテリー温度は25℃、モーター温度も60℃程度を目安に調整されていました。

さらに、N独自の走行モードをいくつか紹介しましょう。

●N Launch Control:ローンチコントロール。路面状況によってグリップ力の調整が可能。私の検証時には車載計器で3.18秒を記録。

IONIQ 5 Nの公称0-100km/hタイムは3.4秒。競合のテスラモデルYパフォーマンスはロールアウトを差し引いて3.7秒なのでさらに鋭い加速性能を実現。また通常モデルのAWDグレードは5.2秒なのでNは別物と考えた方がいいです。

●N Grin Boost:ステアリングのオレンジのボタンを押すと、バッテリーとモーターの最高出力が10秒間アップ。実はN RaceのEnduranceモードにおける出力制限とは、このGrin Boostがかかるかどうかの違いであることが検証で判明しました。
●N Pedal:さらに強力な回生力を発揮可能。ステアリングのパドルシフトで3段階調整可能。最大にすると0.6Gもの回生Gを発揮。確かに回生力が強すぎて扱いにくく、完全停止までは対応していないので日常の走行シーンで使用することはないものの、碓氷バイパスにおいてはブレーキペダルを一切使わずに攻めた運転が可能。EVレース時でも熱対策のために使用が推奨されていると聞いています。
●N Torque Distribution:前輪と後輪の駆動比率の調整が可能。RWD走行も可能。
●N e-Shift:モータートルクを制御することでマニュアルトランスミッションのシフトチェンジを再現。個人的にはIONIQ 5 Nを購入する層は富裕層が多く高級ガソリン車も所有している方も多いと思うので、シフトチェンジの楽しさはEVではなくガソリン車で体感した方がいいのではないかと感じます。
●N Drift Optimizer:ドリフト走行をスムーズに行うために、前後輪駆動比率と車両制御 を最適化。
●N Active Sound+:走行サウンドを3種類(Ignition / Evolution / Supersonic)から設定可能。Ignitionはガソリン車の音を忠実に再現。実際にオンオフを繰り返してみると、やはりサウンドをオンにした方がより鋭い加速力を感じます。スポーツ走行に特化したパフォーマンスEVには走行サウンドは必要だと個人的には感じました。

通常モデルと異なる内外装の特徴

最後に内外装も通常モデルと設計思想が大きく異なります。ディメンションなどのスペックを紹介します。

●全長/全幅/全高/ホイールベース:4715mm/1940mm/1625mm/3000mm
●最小回転半径:6.21m
●最低地上高:142mm
●車両重量:2210kg
●トランク容量/フランク容量:480L/0L
●装着タイヤ:ピレリP ZERO Elect(前後:275/35ZR21)

まずエクステリアデザインについて、全長と全幅ともに通常モデルよりも一回り大きくなっています。またその分だけ取り回しが悪くなっていたり車両重量も増加するなど、日本の都市部で使用するにはやや懸念が残ります。

タイヤサイズを21インチと大経化させたり、ブレーキ性能を向上させるために4ピストンブレーキキャリパーを採用。ブレーキディスクも400mm(リアは360mm)と、制動力を高めています。

一方、インテリアに目を移してみると、まずはIONIQ 5の代名詞とも言えるウォークスルー可能なスライド式のセンターコンソールは採用せずに、運転席と助手席をしっかり区切るセンターコンソールを搭載。サーキット走行のためにサイドそれぞれに踏ん張りを効かせるためのパッドが装着されています。

通常モデルのウォークスルー方式のインテリアデザインは「リビングルーム」とヒョンデは自称しており、リラクゼーションコンフォートシート機能(スイッチ一つでリクライニングやレッグレストなどを自動調整し、体圧が分散し疲れにくい姿勢でリラックス可能)とともに、快適空間を演出しています。

また、Nにはボンネット下の収納スペースであるフランクがありません。このスペースには外部スピーカーを搭載しており、収納性も幾分犠牲にしています。よってIONIQ 5 Nというのは、リビングルームのような快適空間と積載性を犠牲にする分、スポーツ走行に特化した内外装の設計に成功。通常モデルとは内外装の設計思想がまるで異なるのです。

検証車両は初回限定グレードの「First Edition」。サイドステップに専用ステッププレートを採用。専用バッジはマグネット式なのでくっつけておくこともできます。

いずれにしても、EV性能・走行性能・内外装という3つの項目を見てみると、通常モデルとは全く違う車に仕上がっている様子が見て取れます。そして私が個人的にIONIQ 5 Nに感心したのが、ドライバーにさまざまな選択肢を提供している点です。

というのも、例えば走行サウンドも3種類から選べるだけでなく、必要なければオフにもできます。サスペンションのセッティングも3段階調整可能なので、日々の通勤や家族で遠出などの使用用途では柔らかめにセッティングしながら、一人でワインディングを小気味よく走りたいのであれば硬めに調整可能です。

たしかにリビングルームのような通常モデルと比較すると、運転に集中するためのコックピットというようなインテリアですが、助手席や後席の足元空間の広さなどは通常モデルと同等であり、乗員全員の快適性という点では通常モデルと大した差は感じないでしょう。

つまり、このIONIQ 5 Nは、家族とゆったりロングトリップを楽しみながら、それでいて、特に足回りを取り替えるなどという専用チューニングをせずにサーキット走行もこなしてしまうという、ファミリーSUVとスポーツカーのいいとこ取りを実現したEVなのです。

海外仕様では240kW級の超急速充電(800Vシステム)すでに実現しているEV性能の高さを与えられていることに加えて、N専用モードを多数用意しながらドライバーの好みにセッティング可能、内外装のN独自の設計思想を採用しながらも乗員全員の快適性も両立できています。

今後ヒョンデはNブランドでさらなるEVをラインナップする方針を表明しており、IONIQ 5 Nに続くNブランドのEVにも大いに期待できそうです。また2025年シーズンもJEVRA主催の全日本EV-GPが開催されて、複数のIONIQ 5 Nオーナーが参戦するはず(関連記事)。IONIQ 5 Nのサーキット走行性能を見てみたいという方はぜひ一度足を運んでみることをおすすめします。

取材・文/高橋 優(EVネイティブ※YouTubeチャンネル

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です