日本での受注が始まる前の3月にスタート
『IONIQ情報館』は、Twitterの「コミュニティ」。発起人であり管理人を務めるのは、千葉県内の革工房のご主人である辻榮亮(つじえ りょう)さんです。
辻榮さんは2016年に日産『e-NV200』を購入、さらにリーフも所有している筋金入りのEVオーナーであるとともに、天然素材革工房『革榮(かわざかえ)』を営む革職人。千葉県の睦沢町にあるご自宅には太陽光発電やV2Hを導入して「ほぼオフグリッド生活」を実現しているということで、以前からEVsmartブログでも「取材に行きますよ!」とお声がけしていたのですが、なかなか実現できずにいるところでした。
その辻榮さんが、5月の受注開始初日にIONIQ 5をオーダー。7月初旬、無事に納車されたという知らせが届きました。そこで、納車のお祝いを兼ねてご自宅を訪問。自ら立ち上げて主宰する『IONIQ情報館』についてのお話しを伺ってきました。
辻榮さんが『IONIQ情報館』を立ち上げたのは、2022年3月のこと。もともとSNSは積極的に活用していて、いくつかのコミュニティを運用もしてきました。2月に「Hyundai Mobility Japan」がIONIQ5などの電動車を携えて日本再進出を発表。自らIONIQ 5の購入を決意したものの、ディーラー展開をしないヒョンデの方針もあって、信頼できる情報が少ないと感じたことから、Twitter上で『IONIQ情報館』をスタートさせました。
【関連ページ】
IONIQ情報館(Twitter)
※メンバー登録は要申請です。
「Twitterのコミュニティ機能はローンチされたばかりで、まだほとんど誰もやっていなかったから、活用してみようと思い立ちました。新しいモノ好きなんですよ」と辻榮さん。
本業である『革榮』のコミュニティはFacebook上に開設していますが、『IONIQ情報館』のプラットフォームをTwitterにしたのは「魅力的な電気自動車であるIONIQ 5の情報を30代以下の若い人たちに届けたかったから」とのこと。
8月22日現在のメンバー登録者数は146人。全てのメンバーの詳細を把握しているわけではないそうですが、「わかる範囲で、すでにIONIQ 5を注文したり納車されているオーナーの割合は25%くらい。すでに納車済みなのは10数名だと思います」ということでした。
電気自動車の車種別コミュニティでは、EVsmartブログでも「Tesla Owners Club Japan」や「日産 リーフ・オーナーの会」(ともにFacebook上のグループ)などをしばしば取り上げてきました。『IONIQ情報館』は、ヒョンデの、そしてIONIQ 5に関する、日本で最初のアクティブなSNSコミュニティ、といっていいでしょう。
カスタマーとメーカーを繋ぎたい!
着々と「納車された!」報告も投稿されて、IONIQ情報館の情報交換は活発さを増してきています。「オーナー同士が交流して有意義な情報交換を行うこと。そして電気自動車に興味を持つ若い人たちに、IONIQ 5のオーナーになることの楽しさを伝えたい」という辻榮さん。さらに「このコミュニティを、カスタマーとメーカーを繋ぐ場にしていきたい」という思いを抱いています。
IONIQ 5を購入したオーナーには「これが初めての電気自動車」という方も多いはず。まして、ヒョンデはディーラーがない直販方式。もちろん、購入時などには担当者とメールなどでコミュニケーションは行うものの、不慣れな電気自動車の活用について不安や不満を感じても、個人の声をきちんとメーカーに届けるのは面倒だったり、正しく状況を伝えて対応を求めるのは難しかったりしがちです。
辻榮さんは、オーナー同士で情報交換して意見をまとめ「みんなの声としてヒョンデとコミュニケーションすることができれば、より風通しの良い、カスタマーとメーカーの新たな関係構築ができるのでは」と考えているのです。
IONIQ 5はまだ新しい車種なので「オーナーによるバグ出しをしてヒョンデと情報を共有するのも有効だと思っています」と辻榮さん。
そんな思いからの具体的なアクションとして、コミュニティの投稿トップには、納車時のチェックポイント、納車場所であるアスコット東京(丸の内)や、新横浜のカスタマーエクスペリエンスセンターへのアクセス、納車前のお役立ち情報、納車後のお役立ち情報(トラブルシューティング)などをまとめたGoogleスプレッドシートのファイルが貼り付けられています。
これから納車されたオーナーさんが増えるに従って、ますます有意義な情報交換が活発になっていくことでしょう。私も、まだオーナーではないですが、メンバー登録させていただきました。
EVオーナーとメーカーの橋渡しをする場所でありたいという思い、実はEVsmartブログが目指すところでもあります。
たとえば、今回辻榮さんと話していてIONIQ 5を気に入ったポイントのひとつが「本革を採用していること」であると聞きました。最近はヴィーガンレザーが注目されていますが、本革は本来「食肉の副産物」であり、正しく活用するのは家畜の命へのリスペクト。「ヒョンデが牛革を正しく使うことを意図して採用しているのであれば、ぜひ情報発信したい」ということでした。
取材後、ヒョンデに確認したところ、後日「Hyundaiが採用するのは主に成牛の皮で、食用に加工された残りです。畜産の副産物である皮を無駄にせず、革製品として利用することはエコフレンドリーであると言えます。IONIQ 5の革は『なめし』に亜麻油を使用し、環境負荷の低い工程を経て製造されています」という、まさに辻榮さんの意を得た回答が届きました。
愛車への思いを深めるいい話です。カスタマーとメーカーの風通しのいいコミュニケーションの一例かと思います。この話題はきっと、辻榮さんがIONIQ情報館でも発信してくれることでしょう。
「こういう自治体に税金を払いたい」と移住を決断
さて、そんな辻榮さんは、2019年に千葉県の睦沢町へ移住。ご自宅には出力13kWの太陽光発電パネルとV2H機器であるニチコンの『EVパワー・ステーション』を備え、蓄電池としてのEVはe-NV200と、新たなに加わったヒョンデIONIQ 5の2台態勢で「ほぼオフグリッド」の生活を実現しています。
そんな辻榮さんの「実質オフグリッド生活」は、テスカスさんがYouTubeのEVsmartチャンネルで動画レポートしているので、ぜひご覧ください。
【IONIQ5・日産e-NV200】電気自動車と太陽光発電で実質オフグリッド生活してみた。
天然素材にこだわり、最近はジビエの革製品も手掛ける辻榮さん。そもそもEVに乗り始めたきっかけも「天然素材によるモノ作り」にこだわる思いがスタートでした。「土に還る革製品」を作っているからには、バックボーンにもこだわりたいとエネルギーのことを学び考えて辿り着いたのが、EVという選択肢だったのです。
「地方に移住してオフグリッドに近い暮らしをイメージすると、これはもう電気自動車にするしかないな」と、2016年に最初のEVとなるe-NV200を購入しました。当時は東京都内に工房と住まいがありましたが、移住先を探す中で、「CHIBAむつざわエナジー」という地域電力会社があって再生可能エネルギーによるエネルギー地産地消に取り組んでいる睦沢町(むつざわまち)のことを知りました。「環境に優しい革製品づくりを仕事にしているんだったら、こういう自治体に税金を払いたい!」と、睦沢町を移住先に決めたそうです。
自宅の新築に際しては、地域の避難所の役割も果たせるレジリエンスを高めた家づくりを考えました。太陽光発電の出力は「大きいに越したことはない」と、あえて補助金は使わずに産業用として13kW分のパネルを屋根に載せました。さらに、地下水を活用できる土地であることを確認して井戸を掘り、水道は引いていないので、災害による断水時でも「電気と水は供給できる」家になっているそうです。
V2Hを管理するスマホアプリの画面を見せてもらうと、新築以来のトータルの電力自給率はなんと180%。「V2H機器の仕様で系統電力から切り離すことはしなかった」そうですが、事実上、快適なほとんどオフグリッド生活が実現しています。
仕事のことや経済的なこともあり、後に続くのはなかなか難しいことではありますが。電気自動車時代のクレバーな再エネライフスタイルという意味で「やればできる!」を具現している素晴らしいお手本だと感じます。
IONIQ 5の性能を知って「買わない理由がない」と注文
辻榮さんが購入したIONIQ 5は、バッテリー容量72.6kWhで後輪駆動の「Lounge」というグレードで、車両価格は549万円(税込)です。コストパフォーマンスは世界の電気自動車のなかでもトップクラスですが、客観的に考えれば500万円超の高級車。「リーフは都内にある妻の実家のV2Hで使っている」ということですが、e-NV200は温存しての2台持ち。購入に迷いはなかったのか尋ねてみると……。
まず「エクステリアデザインが、ファミコン世代の僕には大好物」で気に入って、EVとしての性能やV2L、V2Hに対応していること。そして、蓄電池として考えたときの大容量バッテリーとしての価値などを考えると「買わない理由がありませんでした」と辻榮さん。
取材時は納車からおよそ1カ月。「走行距離はまだ1900kmくらい」と言いつつ、IONIQ 5は「死ぬまで大切にするつもり」とのこと。
「もし、20年くらい経って自動車としての役割を終えたとしても、バッテリーはまだ使えるはず。再エネの電力自給自足を支える大容量の蓄電池と考えたら、売却する必要もありません。リセールを考えなくていいのは、V2Hに対応した電気自動車特有のメリットだと思います」と辻榮さん。
太陽光発電&EV&V2Hで、理想的な再エネ&電気自動車生活を構築しているからこその言葉です。
IONIQ情報館は、オーナーではなくても、IONIQ(ヒョンデの電気自動車)に興味があって好きな方であればメンバーに参加可能です。辻榮さん自身は「整備拠点の少なさ」など、IONIQ 5の不安要素と噂される点について「そもそもEVは故障が少ないのを実体験として知ってるし、まったく気にしなかった」とのことですが、多くの日本人がまだ不慣れな電気自動車。しかも韓国メーカーのヒョンデのEV購入を決断するまでには不安やわからないことも多いはず。IONIQ情報館では、ファーストペンギンとなる覚悟を決めてIONIQ 5を購入したオーナーさんたちとの情報交換を通じて、そうした不安を解消できるコミュニティにもなっているのです。
納車されたオーナーさんが増えるに従って、各地でのオフ会情報なども増えつつあります。8月7日〜8日には、富士山麓で『IOQ SUMMER CAMP 2022』が開催されて、EVsmartブログもエニカのカーシェアリングで IONIQ 5 を借りて参加してきました。日本初の IONIQ 5 オーナーのオフ会となった1泊2日の電化キャンプは、改めてレポートします!
(取材・文/寄本 好則)
V2Hでほぼオフグリッド使うということは1週間のうちに複数回もの充電サイクルを経験するわけで5年くらいで充電サイクル1000回超えてきそうですよね
三元系のバッテリーならやっぱちょっと心配でLFPのほうがいいんじゃないかと思ってしまいます。
Hyundaiのバッテリー保証の8年16万キロはV2Hの分はどういう扱いになるのか気になります。
こちらはHyundaiからの公式回答でお客様の使用状況による補償の可変は御座いませんと頂いています。したがって急速充電しか使わなずにバッテリーを酷使しようが、普通充電のみでバッテリーを労わりながら使用しようが補償基準を下回れば対応して頂けます。理由として、BMSがしっかりしているので使用状況の別では補償期間内に不具合は起こらないと自信を持たれていました。
今後、当該車両やV2H機器導入の際の参考になれば幸いです。