ジャガー『アイペイス』鹿児島〜東京、4泊5日の旅で得た気付き

『Eマガジン』編集長の陰山さんが、ジャガー『I-PACE』で鹿児島〜東京、約1900kmを4泊5日で駆け抜ける旅に挑戦しました。EV充電旅の先輩として『EVsmartブログ』編集長の寄本がインタビュー。充電旅で得られた「気付き」を探ってみました。

ジャガー『アイペイス』鹿児島〜東京、4泊5日の旅で得た気付き

自ら旧車セドリックをEVにコンバート

『Eマガジン』(ネコ・パブリッシング)編集長の陰山惣一さんが、ジャガー『I-PACE(アイペイス)』で鹿児島から東京へ、約1900kmを4泊5日で走る充電旅にチャレンジ。その様子を『ル・ボラン CARSMEET WEB』でレポートしています。

『ル・ボラン CARSMEET WEB』から引用(写真/近藤浩之)※以下同

かたや、EVsmartブログ編集長でもある私(寄本)はフリーランスのライターとして、陰山さんの『E-MAGAZINE』にも寄稿していて、2013年に『EVスーパーセブン 急速充電の旅』でメインドライバーとして日本一周の充電旅に成功しました。ここはひとつ、電気自動車充電旅の先輩(笑)として、旅を終えて東京に戻った陰山さんをインタビューして、はたして、今回の充電旅で陰山さんがどんな気付きを得たのか聞き出してみよう、というわけです。

2013年10月28日、大分県の八丁原地熱発電所にて(写真/寄本好則)

ちなみに、陰山さんは『Eマガジン』の企画も兼ねて、改造EV製作のファクトリーである『OZモータース』とともに、1966年式(130系)のセドリックを電気自動車(電池容量は20kWh)にコンバート。YouTubeにアップした『日産本社でEセドリックを充電しようとしたら警備員さんに……』の動画は150万回近い視聴回数をたたき出しています。また、2019年9月には、このEVセドリックで長野県白馬村で日本EVクラブが開催した『JAPAN EV RALLY Hakuba 2019』に参加。一充電航続距離の短いEVで、しかも充電カード無しでの旅の苦労も体験済みです。

出川さんの充電旅のラグジュアリーバージョンに!

まず、おおまかな旅の構想としては、鹿児島県鹿児島市から東京までの走行距離は約1900km。この行程を4泊5日で走ります。1日当たりの走行予定距離は平均すると約400km弱。電池容量90kWh、一充電航続距離はWLTCで438km(EPA=約377km)のアイペイスであれば、毎朝満充電にすれば充電しなくても走れる距離ともいえますが、いろんな充電スポットを体験するために、1日に2回くらいの充電を行う計画だったとのこと。とはいえ、どこで充電するかといったことはほぼ無計画。ルートの途中で気になるスポットがあれば充電しよう、くらいの緩やかな計画です。

とはいえ、メディアの記事にもする充電旅企画。ただ無計画に走るだけでは面白くない。ということで、陰山さんが目指したのは「出川哲朗さんのバイク充電旅の、ラグジュアリーバージョンにしてみよう」ということでした。いきなり湯布院で名旅館の『由布院 玉の湯』に、大阪では『ザ・リッツ・カールトン大阪』に、伊豆・伊東では星野リゾートがリファインした『界 アンジン』に宿泊するといった、なんともゴージャスな充電旅になっています。

記事の通しタイトルに「桜前線は追えるのか!?」とあるように、企画段階の思惑としては鹿児島から北上する桜前線を追いかけようと思っていたのですが、最近は「むしろ東京の開花が一番早い。桜前線が南から北上していくって時代じゃなくなっていた」ことに、走ってみて気付いたそうです。

【全10回の旅レポートはこちら】
第1回●「鹿児島→由布院」で大人の充電旅スタート
第2回●「由布院 玉の湯」に宿泊 桜前線は追えるのか!?
第3回●周南レトロ喫茶で絶品サンドに出会う
第4回●徳山→広島。日産ディーラーの急速充電器で充電してみた
第5回●<広島>英国製折り畳み自転車「ブロンプトン」が活躍
第6回●<岡山>ついにこの旅最初の桜を発見!
第7回●岡山県の城下町・高梁市でノスタルジーに浸る
第8回●5つ星ホテル「ザ・リッツ・カールトン大阪」で桜に出会う!
第9回●大阪→伊豆440km 高速道路の楽しみ方
第10回●EV充電器付きの高級温泉旅館「星野リゾート 界 アンジン」に宿泊

EV旅は寄り道がとても面白い!

旅の詳細な様子は『CARSMEET WEB』のレポートを楽しんでいただくとして、インタビューで聞き出した陰山さんの「気付き」について紹介していきましょう。

まず、充電旅の感想として陰山さんが真っ先に挙げたのが「寄り道が面白かった」こと。今回、陰山さんと近藤浩之さんというカメラマンと2人での旅。途中の充電中もアクティブに楽しむために『ブロンプトン』という英国製折りたたみ式自転車を積んでいきました。そして「自転車散策とかしながら、あえてゆったり走るクルマの旅」の楽しさに気が付いてしまったのです。

「そもそもエンジン車だったら、鹿児島〜東京を4泊5日で旅をするというこの企画自体が成り立たないですからね。大容量電池のアイペイスでも、最初は電池残量を気にしてハラハラしてたけど、慣れてくると、今夜の宿までたどり着ければOK! と、残り航続距離50kmのアラートが出ても慌てることがなくなりました」と陰山さん。

残り50kmという航続距離、満充電で100km程度が目安のEVセドリックなら、まだ残量50%ってことですから、ね。

「電気自動車には、エンジン車とは違う旅のカタチがある」というのは、EV充電旅で得られる重要な気付きのひとつだと思います。大容量電池と高出力の急速充電を組み合わせれば、エンジン車とさほど変わりなく目的地までの距離を駆け抜けることも可能でしょう。でも、ゲーム感覚で充電を繰り返しながら、ゆっくり走るのも楽しいのです。

エンジン車を電気自動車に置き換えるだけでは、理想の脱炭素社会にはなり得ない。MaaSや自動運転もしかり。ちょっと大袈裟にいうと、電気自動車に合わせた価値観やライフスタイルに気付き、楽しんでいくことが、文明社会の大きな一歩になるのではないかと感じています。現実に電気自動車やMaaSが普及すれば、今のような大量生産大量消費型の自動車産業も変容する必要に迫られるのが必然、ですし。「EV旅は寄り道が楽しい」という気付きには、実は、奥深く示唆深い意味があるのだと思います。

朝は満充電で出発したい!

2つ目の気付きは、やはり充電インフラに関わること。旅レポートの中でもいくつかのエピソードが紹介されていますが、端的にまとめると「1日400km近く走る旅では、朝一番は満充電で出発したい」ということでした。

インタビュー時、いろいろぶっちゃけ話をしてみると、充電インフラに関わる「気付き」は大きく2つのポイントにまとめることができます。

宿泊施設で普通充電器が使えれば楽ちん

まず、宿泊施設の目的地充電設備、つまり普通充電器がまだまだ普及していないことが陰山さんのレポートからも実感できます。日本屈指の名旅館やホテルを泊まり歩いたにも関わらず、4泊のうち、宿泊した宿でスムーズに充電できたのは最終日の『星野リゾート 界 アンジン』だけ。『由布院 玉の湯』では近くの宿のコンセントを借り、広島のホテルでは充電区画にエンジン車が泊まっていて充電不可。お好み焼きを食べつつ、近くの急速充電器で天下御免の4回連続急速充電を行ったエピソードが紹介されています。

NCS認証の急速充電器は30分で充電が終了。原則として「おかわり充電」はしないでねということになっています。でも、アイペイスのように大容量電池を搭載していると、たとえ50kW出力器でも30分で30%も入りません。翌朝、できるだけ満充電で出発するために、後続の利用者が来なければ「おかわり」したくなる気持ちは理解できます。

ただ、そもそも宿泊したホテルに十分な数の普通充電設備、あるいはEV充電用の200Vコンセントがありさえすれば、お好み焼きを焼いてる途中で充電器に走ったりすることなく、寝ているうちにEVもお腹いっぱい充電できます。

『界 アンジン』にはテスラのディスティネーションチャージャーもあるし、ビジネスホテルなどでも普通充電設備を備えた宿は増えてきましたが、一般的な宿泊施設を見渡すと、まだ足りない。電気自動車関連のイベントで同じホテル駐車場に複数の電気自動車が集まると「充電できない!」というケースを、私も体験したことがあります。

拡充を急ぐべきなのは、高速道路SAPAと宿泊施設などの目的地充電という日本の充電インフラの緊急課題が、この旅のなかでも明らかになっています。

時間制限がないことの「ありがたさ」

もうひとつ、充電関連で陰山さんが強調していたのが「大阪で行った桜橋駐車場の急速充電器が良かった!」ということでした。

【EVsmart 施設紹介ページ】
『桜橋駐車場 EV充電スタンド』

この駐車場の充電器は、2013年の日本一周の時、私も使ったことがあります。当時は日本ユニシスとJTBがやってた『スマートオアシス』という課金サービスを導入していたはずですが、現在は駐車料金だけで、充電そのものは無料で使える仕組みになっているようです。

しかも、30分で充電が終了するのは『NCS(日本充電サービス)』認証の急速充電器に採用されているルールなので、この急速充電器にはことさらの30分制限はなし。陰山さんが充電する際には充電終了まで「2時間」と表示され「リッツカールトンでの朝食はもとより、朝の散歩までゆったり楽しむことができた」そうです。

そもそも、CHAdeMOの急速充電器が最大50kW出力で、また、30分もしくは80%程度まで充電できたら交替しようというルールは、2010年代前半、24kWhリーフの使い勝手を基準に定まってきた経緯があります。

この桜橋駐車場の充電器が無料&時間制限なしで使えるのは、日本の充電インフラ揺籃期にいち早く設置されたからこその「あだ花」的な出来事といえます。とはいえ、今後は50kWh以上の大容量電池を搭載した電気自動車が増えていくことになるでしょう。すでに広がっている50kW以下の急速充電器活用の利便性を高めるためにも、急速充電の30分制限というルールは見直すべき状況になってきているのではないでしょうか。

ただし、時間制限がなくてもスムーズに充電できるようにするために、高速道路SAPAなどにおける十分な数の複数台設置が必須となることは言うまでもありません。

ところで、陰山さんの旅は3月19日にスタート、春分の日の3連休とどんぴしゃだったものの、深刻な充電待ちはほとんどなかったようです。一度だけ、レポートでも紹介されているのが、大分県の『道の駅 ゆふいん』で4台待ってた! というエピソードでした。陰山さんが現地の係りの方に聞いたところでは「ここの急速充電器は無料のため、休日はいつも混むんですよ」とのことですが、『EVsmart』で確認してみると普通にNCS認証の有料でした。道の駅に電話してもコロナの影響か通じないので、真相はまだ未確認(ご存じの方、コメントで情報提供いただけるとうれしいです)ですが。

ともあれ、個人的な意見ではありますが、「急速充電器が無料で使える」という状態も今後のEV普及を考えるとあまり望ましくないと思います。逆に、充電器の出力に関係なく時間基準で課金される現状も、あまりうれしくありません。

今後、NCSからe-モビリティパワーに充電器管理や課金の仕組みが移行していく中で、日本の充電課金のシステムも刷新されていくことになるのでしょう。従量課金の導入も含めて、設置者にも利用者にとっても合理的な仕組みになっていくことを願っています。

旅してみて、EVがますます好きになった!

3月31日、第5回までのレポートが公開されていた時点でインタビューして、最終回まで公開されるのは4月10日くらいにはなるだろうから、そのくらいに記事にしよう、と高をくくっていたら、なんと、4月6日に10回目の最終回が公開されてしまったので、慌ててこっちの記事をまとめました。

にこやかに思いを話してくれた陰山さん。ほんとに、かなり楽しかったみたいです。

「ゴージャスでラグジュアリーな充電旅を目指してスタートしたけど、旅してみると、EVでゆっくり旅をすること自体がすでにゴージャスなんだと気付いた。今回の旅で、ますますEVが好きになりました」と陰山さん。

次はぜひ、EVセドリックで東京から宗谷岬まで旅してほしい! とリクエストすると、苦笑いしてました。いや、真面目な話、2013年にEVスーパーセブンで旅する時は、旭川から稚内の間とかに充電施設がなくて北海道を巡るのは断念。苫小牧から札幌〜小樽〜函館へとショートカット気味に走りましたが、今では航続距離100kmでも急速充電インフラはしっかりと繫がっています。

不自由なEVセドリックでの旅では、アイペイスとはまたひと味違った「ゴージャス」を実感できるはず。陰山さん、なんなら宗谷岬までお付き合いしますよ!

(取材・文/寄本 好則)

この記事のコメント(新着順)5件

  1. 寄本様
    バイクを乗っていた時はいつもソロツーリングでした。大変そうに思えても、すべて自分の判断で決められるので苦にならなかったです。急な予定変更なんて当たり前ですし、天気で行先変えることもしょっちゅうでした。
    バイクに乗っていたからこそ、過去中古イタ車を4台乗り継いで、今も1台持っています。故障で止まっても屋根ついているしという安心感があるので、壊れることに対してあまり不安はありません。
    バイクもイタ車も好きな人からみれば何も問題無いの世界ですが、世間の目は違いますし、どうもいまのEVはそれに近い様に思えて仕方がありません。
    1人しか乗らない、近距離しか乗らない、使い方が決まっている、自宅充電が出来るであれば、EVは積極的に選んでよいクルマに私は思えます。
    しかし、家族で使う、他人数で乗り自分の意見を常に通すわけには行かないケースがある、GWやお盆に高速道路で帰省してSAで充電待ちをするとなるとハードルが高そうです。
    テスラがスーパーチャージャーを着々と整備していますが、日産がアリア発売で日産ディーラーで新チャデモが整備され高速充電出来るようになったら、売れる!って思います。アリアに乗って日産ディーラーに行けば30分ですぐに300km走れるってなったら便利ですよね。
    いつの間にかi-Paceから脱線してしまいましたが、短時間高速充電に対応出来ていないEVは中古価格が暴落しそうなので通勤専用車で購入するのも有りと思っています。

  2. 学生時代に750でツーリングしていた時代を思い出させる記事でした。読んでいて楽しかったです。
    しかし一般人目線で読むと、「充電面倒くさい、そんなに暇じゃないし」としか思えません。
    現状では、高級EV市場はスーパーチャージャーが揃いつつあるテスラ一択に思えますね。

    1. コメントありがとうございます。

      スーパーチャージャー網がテスラのアドバンテージになっていること、これから(日本国内を走るEV台数が増えるほどに)ますます優位性が際立ってくるだろうことは間違いないでしょうね。

      私はバイクに乗らないので、高速道路でツーリングしているライダーを見ると「大変そうだな」と思ってしまいます。でも、気持ちいいし、大変だからこそ楽しいんですよね、きっと。EVの充電はたしかに面倒だけど、それがまた楽しさでもあるということや、だからこそ充電インフラが大事なんだという叫び(要望)をわかりやすくお伝えできるドライブレポートなども、これからますます発信していきたく思います!

  3. アイ・ミーブXに乗っています。
    >急速充電の30分制限というルールは見直すべき状況になってきているのではないでしょうか。
    コレに関しては2020年の現段階では時期尚早だと考えます。

    現在、街中を走っているCHAdeMO充電出来る電動車両の多くがPHV、PHEVを含めると20kWh未満の小容量電池車です。
    充電待ちが発生している状況で満充電近くなり電流値が数アンペアまで低下しても「あと何分はオレの権利!」と居座るPHV、PHEVのなんと多いことか・・・(←森田美由紀さん風w)
    30分と言う時間制限があるから代わってもらえるものの、もし30分ルールが撤廃されたら「充電器が動いている限りオレの権利!」となってしまい、充電待ちが解消しません。

    ・電動車両を使うほとんどの人が「充電待ちが発生したら譲り合う」ことを当たり前に行う。
    ・ほぼ全ての充電スポットで充電待ちが発生しないだけの台数が設置される。
    ・街中を走る電動車両のほぼ全てが40kWh以上の大容量電池車になる。

    上記3つのどれかにならない限り「急速充電の30分制限というルール」を見直そうと言うことを提案すること自体が時期尚早だと考えます。

    1. よこよこ さま、コメントありがとうございます。

      30分制限見直しは時期尚早とのご意見。正直なところ、まったく同感ではあります。とくに高速道路SAPAでは現状でも充電待ちが多発していますから、充電器が足りない状況で「居座り充電」はトラブルの元、ですよね。

      とはいえ、90kWhのアイペイスのように、大容量電池のEVで、しかも25kW出力とかの急速充電器で「30分かよ!」と感じるのもまた正直な気持ちです。

      ご指摘のように、十分な台数設置が進み、たとえば、80%超えてて次の人が来たら譲るといったユーザーとしての「常識」に対するコンセンサスを広げていくことがとても大切になるでしょう。

      コロナが収束したら、EV・PHEVユーザーのみなさんとリアルに集まり、『EVsmartブログ』としての「急速充電のルールや常識」を話し合い、策定、提言するような企画もやってみたいな、と思っています。

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この記事の著者


					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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