レクサスのEV専用モデル『RZ300e』試乗記/2035年BEV100%に向けたスマートな一歩

レクサス初のBEV専用車種として登場したRZのラインナップに追加されたFWDの『RZ300e』。第3回「JAPAN EV OF THE YEAR 2024」の候補にノミネートされている数少ない国産乗用電気自動車はどうなのか。試乗レポートをお届けします。

レクサスのEV専用モデル『RZ300e』試乗記/2035年BEV100%に向けたスマートな一歩

AWDの『RZ450e』との価格差は60万円

レクサスブランドの電気自動車である「RZ」は2023年3月に発売された2モーターでAWD(全輪駆動)の『RZ450e』と、その8ヶ月後の11月に発売されたFWD(前輪駆動)『RZ300e』の2つのモデルをラインナップしています。どちらもグレードはversion Lのみ。搭載するバッテリーは71.4kWh、フロントモーターも共通です。

なお、この車両構成はトヨタ『bZ4X』と同じです。両車ともにe-TNGA(Toyota New Global Architecture)プラットフォームをベースとしたBEVです。

RZ300eのスペックは全長4805mm、全幅1895mm、全高1635mm、車重は2000kg、モーターの出力は150kW(203.9ps)、トルクは266Nm、一充電走行距離(WLTC)は599kmで、EPA換算推計値は479kmとなります。価格(税込)は820万円で、880万円のAWDとの差は60万円です。

個性を主張するスピンドルデザインが印象的

RZのエクステリアデザインは、レクサスの代名詞である「スピンドルグリル」を発展させたスピンドルボディが顔の特徴です。ヘッドライトの下をブラックパネルとすることで、スピンドル(紡錘)形状がより強調されています。

試乗車のボディカラーはイーサーメタリック。

フロントバンパーの上面はボンネットから連続するように前にせり出しているので、風がレクサスマークから左右に分かれてボディサイドへ流れるような作りであることが想像できます。

サイドビューも特徴的です。フロントフェンダー前端から始まるラインは、2枚のドアにわたって上昇していきます。その下にはドアミラーあたりを起点とする別のラインがリヤドア後端に向かってキックアップし、その後はわずかに下降することで、印象的なボディ後半を形作っています。ブラックアウトされたB、C、Dピラーでフローティングルーフ感を演出。フロントフェンダーの下から始まるラインは、上の2本と並行して上昇し、勢いのある側面を構成しています。

リヤはナンバープレートを囲む山なりのラインとバンパーの左右にある「張り出し」により、フロントと統一性のあるスピンドル感を作り出しています。テールランプはリヤゲート部も光り一文字状に繋がります。

給電口はフロントフェンダーの左右に設けられています。運転席側が普通充電、助手席側が急速充電(CHAdeMO規格)用です。個人的には充電ステーションにはバックで停めたいので、リヤフェンダーに欲しいところですが、bZ4Xも同じ配置になっていること、RZもbZ4Xもリヤフェンダーにテールランプが食い込み、かつ平らな面が少なくリッド(蓋)を作りにくそうですから、デザインを優先した選択だと思われます。

標準の18インチホイールには、235/60R18サイズのヨコハマADVAN V61が組み合わせられています。メーカーオプションで20インチのセットも選択できますが、FWDでは一充電走行距離が599kmから530kmに減ってしまうことがデメリットです。

インテリアにおいてもbZ4Xとは異なるデザインが採用されています。特にドライバーメーターは、プリウスと同じトップマウントメーターのbZ4Xに対して、RZはステアリングのすぐ奥にフード付きのメーターがある見慣れた配置です。

トップマウントメーターは、遠くの上めに配置されるため、HUD(ヘッドアップディスプレイ)要らずの作りになっています。昼間でも見にくいとは思いませんでした。RZのメーターももちろん視認性に問題はありません。

右スポークスイッチで先行車との車間距離設定ボタンに触れている時の写真。ボタンが白くマーカーされています。そして左側に4段階のどの設定になっているか表示されています。

そしてHUDの使い勝手が良いことに感心しました。ステアリングホイールのスイッチを操作する時に、今どのスイッチに触れているかHUDでわかるようになっています。手元を見る必要がないため、安全性に寄与すると思います。

身長172cmの筆者がドライビングポジションに合わせた運転席頭上には10cm、後席頭上は4.5cm、膝前には28cmの余裕がありました。後席は6:4の分割可倒式、2段階のリクライニングがあり、奥が立てた状態、手前が寝かせた状態です。

「ウルトラスエード」のシート表皮は、肌触りの良さと滑りにくさを両立しています。インテリアカラーの「オラージュ」は、ボディカラーとのコンビネーションもバッチリでした。

左がオフ、右がオン。IR・UVカット機能も付いています。税込の26万9500円のメーカーオプションです。

調光機能付のパノラマルーフは、オフだとただのガラスのように見えますが、オンにすると障子のように白くなります。

荷室の最大幅は149cm、最小幅は99cm、奥行きは95cm、トノカバーまでの高さは45cmでした(いずれも実測値)。

荷室容量は522リッターで、写真のように機内持込可能サイズのスーツケースとゴルフバッグを、余裕をもって収納できます。

随所にレクサスらしさを実感

回転式の「ダイヤル式シフト」でドライブを選択して走り始めます。すると駐車場から通りに出る段差だけで、以前試乗したbZ4Xとは異なるサスペンションセッティングを感じました。ショック具合が明らかに丸められているように感じたのです。街中で何度も遭遇するこのような段差を、より滑らかにやり過ごしてくれるのは、レクサスらしい高級感のある乗り心地となるため、オーナーがとても満足できるポイントだと思います。

通常走行時は、bZ4Xと同様にスポーティーできびきびとした乗り心地です。先日RZと同じような大きさである『RX 350 F SPORT』(2.4リッターターボエンジン、ノンハイブリッド、AWD)にも乗る機会がありましたが、RZの乗り心地に、重いバッテリーを搭載している不利はほとんど感じませんでした。

スペック表を見ると、それもそのはず。RX 350 F SPORTはAWDで車重が1950kgなので、FWDで2000kgのRZ300eとは50kgしか変わりません。駆動方式をAWDで揃えたとしてもその差は150kgです。このICEモデルとの車重の開きが小さいことは、RZがBEV専用のe-TNGAを採用しているメリットのひとつではないかと思います。

回生ブレーキの効き具合はパドルで調整できますが、プロアクティブドライビングアシスト(PDA)をオンにしておけば、先行車との車間距離に応じて自動で減速してくれるのでおすすめです。PDAは20km/hくらいまで減速してくれますが、それ以下では働かないので、ドライバーがブレーキペダルを踏む必要があります。つまりワンペダルドライブはできません。

モーター出力は150kW(203.9ps)、トルクは266Nmです。試乗車の車重は2000kg(パノラマルーフ装備で+10kg)ですが、0-100km/h加速は8秒ジャストと、十分な加速力を発揮します。

出力もサービスもプレミアムな充電ステーション

今回の取材ではクルマと一緒に専用アプリをインストールして車両と紐付けたスマートフォンをお借りして、「レクサス充電ステーション 東京ミッドタウン日比谷」での急速充電も試しました。

この充電ステーションは、スマホから事前に30分から最大4時間の枠を予約できるため、充電待ちの心配はありません。予約したクルマがステーション(充電区画)に近づくと、車止めの黄色いバーが自動で降りて駐車可能になります。

最大150kW出力の充電器が2基設置されていて、プラグを差し込むと自動的に充電を開始します。30分で充電が勝手に終了することもありません。充電状況はスマホで確認できます。車両側で充電の上限値を設定しておけば、自動的に充電を終わらせることもできます。

地下3階に2台分の専用充電スペースが用意されています。右側は黄色いバーが立っている状態です。

今回の充電結果は31分で35.0kWhをチャージ。SOCは26%から77%へ51%増、航続可能距離は113kmから357kmへ244km増と、余裕のある数字に増えていました。

ぴったり30分を狙っていたのですが、エレベーター待ちのタイミングもあり、1分6秒オーバーしてしまいました。

充電料金は従量課金制で80円/分(税込)。今回は約31分で2480円分を充電したことになります。このほかには駐車場代が800円(400円/30分)かかりました。

2480円で244km分を充電したので、100km走行分あたりのコストは1016円です。参考までに、前出のRX 350 F SPORTのWLTCモード燃費は11.2km/Lですので、100km走行には8.93リッターの燃料が必要になり、ハイオクがリッター180円だとすると、1607円になります。RXで20.2km/Lと最も燃費が良いRX350hで、同じ計算をすると4.95リッター分のハイオクで891円になります。

RXの2モデルはあくまでカタログ値での計算ですので、もう少し燃費が悪ければ、RZの走行コストが最も安くなる可能性があります。さらに言えばRZは充電コストの安い自宅充電であれば劇的にコストを下げることができます。例えば電気代が1kWhあたり32円であれば35kWhは1120円ですので、100km走行コストは459円になります。

この充電ステーションのメリットはまだあり、充電中に東京ミッドタウン日比谷で様々な優待特典を受けられます。今回は1階の「LEXUS MEET…」で「日比谷 五街道団子」とコーヒーのセット(税込1600円)を無料で頂きました。充電料金は2480円でしたが、差し引き実質880円で充電できたことになり、なんと自宅充電よりもお得になるのです。上記と同じ計算方法だと100km走行コストは360円です。

団子は左から抹茶餡、栗餡、いちご餡、赤ワイン餡、ずんだ餡の5種類。一人で食べると結構お腹いっぱいになるくらいのボリュームです。LEXUS MEET…では他にもかき氷やソフトドリンクのどれかを無料でいただけます。

皇居と東京駅が徒歩圏内の東京のど真ん中で、入庫も出庫も時間がかかる機械式駐車場ではなく、自走の専用スペースがあり、事前に予約もできて、無料でスイーツやドリンクがいただけるこのステーションは、日本一のプレミアムな充電施設と言えるのではないでしょうか。
レクサス充電ステーションは、TOYOTAアカウントを作成すれば、他ブランドのEVオーナーも使用できます。充電料金は120円/分と1.5倍に上がりますが、特典を受けることもできます。

2035年までにBEV100%のブランドへ

RZはbZ4Xと同じプラットフォームを使用していますが、レクサス流の内外装デザインに加えて、レクサスらしい上質な乗り心地の足回りを与えようとしていることがわかりました。サスペンション形式が同じなどの制約がある中で、この差を作り出すのはなかなか難しいことなのではないかと思います。

レクサス充電ステーションの素晴らしさも体験することができました。現時点では、今回紹介した日比谷の他に「軽井沢コモングラウンズ(長野県北佐久郡軽井沢町、3口)」と「グラングリーン大阪(大阪市北区、2口)」の計3ヶ所、7口ですが、レクサスでは2030年までに全国100ヶ所への展開を目標としています。商業施設への充電設備の設置は、買い物などの用事のついでに充電することができとても便利です。

とはいえレクサスディーラーに目を向けると、ほとんどの店舗に充電器が設置されていますが、その多くが50kW器と高性能EVに対しては出力が不十分で、RZの充電性能をフルに発揮させることができません。レクサス充電ステーションの整備と並行して、全国の約190店ほどのディーラーに出力150kW以上の充電器を増設することができれば、全国で300カ所にレクサスの充電網を展開できます。

レクサスは2026年に次世代BEVコンセプトの『LF-ZC』を導入予定です。さらに2030年までにBEVでフルラインナップを実現、2035年までにグローバルでBEV販売100%を目指しています。BEVブランドへの移行を進めるレクサスにおいて、RZは初のBEV専用車だった象徴的なモデルとして、同ブランドの歴史に名を残すことになると思います。RZ300eは、目標に向けた「スマートな一歩」と感じるEVでした。さらなる前進を期待しています。

レクサス
RZ300e version L
全長(mm)4805
全幅(mm)1895
全高(mm)1635
ホイールベース(mm)2850
トレッド(前、mm)1610
トレッド(後、mm)1620
最低地上高(mm)205
車両重量(kg)2000
前軸重(kg)1120
後軸重(kg)880
前後重量配分56:44
乗車定員(人)5
最小回転半径(m)5.6
車両型式ZAA-XEBM10-AWDLS
プラットフォームe-TNGA
交流電力消費率(WLTC、Wh/km)120
一充電走行距離(km)599
上記のモードWLTC
EPA換算推計値(km)479
モーター数1
モーター型式1XM
モーター種類交流同期電動機
モーター出力(kW/ps)150 (203.9)
フロントモータートルク(Nm/kgm)266 (27.1)
バッテリー総電力量(kWh)71.4
急速充電性能(kW)150
普通充電性能(kW)6
V2X対応V2H
駆動方式FWD
フロントサスペンションマクファーソンストラット
リアサスペンションダブルウィッシュボーン
フロントブレーキベンチレーテッドディスク
リアブレーキベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ(前後)235/60R18
タイヤメーカー・銘柄ヨコハマ・ADVAN V61
荷室容量(L)522
フランク(L)なし
0-100km/h加速(秒)8.0
車両本体価格 (万円、A)820
CEV補助金 (万円、B)85
実質価格(万円、A - B)735
※車両重量は車検証に記載の値

取材・文/烏山 大輔

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この記事の著者


					烏山大輔

烏山大輔

1982年生まれ、長崎県出身。高校生の時にゲームソフト「グランツーリスモ」でクルマに目覚め、 自動車整備専門学校を卒業後は整備士、板金塗装工、自動車カタログ制作、 自動車雑誌カーグラフィック制作、ALPINA総輸入代理店のNICOLEで広報・ マーケティングと一貫してクルマに関わる仕事に従事。 現在の所有車はインテグラ・タイプR、ハイゼットとガソリン車のみだが、BEVにもFCEVにもとても興味を持っている。

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