実用性能と充電インフラを検証するため東北へ
まず、私自身、メルセデス・ベンツのEVについてはEQBとEQSの2車種で長距離テストを行ったことがあります。とくにEQSはメルセデス・ベンツのフラグシップEVとして、航続距離や充電性能の高さを実感できました。
では、日本国内ではEQSと同時に発売が開始されたEクラスのEVバージョン「EQE」はどれほどの実力を備えているのか。私のYouTubeチャンネルで恒例の航続距離テスト、充電スピードテスト、1000kmチャレンジは実施しましたが、さらに通常の検証では把握できない、高速道路上以外の充電インフラの実態を把握するために、東北地方を一周する弾丸遠征を試みました。
東北をチョイスしたのは、充電インフラ過疎地帯でありながら、寒冷地帯でもあるため、EVを購入検討しているユーザーにとっても、有意義な検証になり得ると思ったからです。
おおまかなルート構想は、仙台から三陸道経由で盛岡にイン。その後秋田県の日本海側に向かって、山形へ南下。その後福島を経て東北道経由で埼玉方面へ戻るというルートであれば、36時間ほどで東北一周できるというプランです。
ハイペースな高速走行でも電費性能はまずまず
① さいたま市街→安達太良SA下り線(90kW級急速充電器)
・走行距離:221km
・消費電力量:74%→26%
・平均電費:200Wh/km(5.0km/kWh)
・外気温:26℃~33℃
1回目の充電スポットは東北道下り線、郡山市の北に位置する安達太良SAです。ここは東北道の東京―仙台間で蓮田SAとともに90kW級の急速充電器が設置されている数少ないサービスエリアです。東京方面から仙台方面へと向かう下り線の場合、蓮田SAは近すぎるため、実質的には安達太良SAにしか90kW級が設置されていないことになります。
とはいえ、安達太良SAには上下線ともに2基の2本出し90kW級(合計4口)が設置されているため、充電待ちのリスクが低い90kW級を利用することができるでしょう。
今回、さいたま市街をSOC74%で出発していることから、90.6kWhの大容量バッテリーを搭載(WLTCモードの一充電走行距離カタログ値は624km)するEQEでも途中充電を行ったものの、満充電で出発していれば、東京仙台間で充電を必要とすることはないでしょう。とくにこの区間はかなり飛ばし気味で走行していたことから、高速域での電費性能がかなり優れていることを感じました。
② 安達太良SA→日産プリンス石巻港インター店(150kW級急速充電器)
・走行距離:160km
・消費電力量:43%→9%
・平均電費:196Wh/km(5.1km/kWh)
・外気温:24.5℃~26℃
2回目の充電スポットは仙台の東側に位置する石巻の日産ディーラーです。実はこの日産ディーラーには、仙台以北で唯一の150kW級急速充電器が設置されています。よってEQEの充電性能を試すために、石巻にSOC10%程度での到着を目指し、安達太良SAでの充電は50%以下に抑えていたわけです。実際に到着時点でのSOCは9%と完璧な充電残量マネージメントができました。
そして、EQE 350+での150kW級超急速充電器による充電セッションの結果ですが、SOC38%の段階で最大121kWを記録し、SOC10-80%に要した充電時間は44.5分となりました。確かにEQEの最大の充電性能を概ね実現できているように感じます。
ただし、150kWブースト機において、15分の充電セッションが終了した段階で、再度ブーストモードを適用させるといういつもの裏技を行うと、何故かこれまでの350Aブーストではなく250Aに制限されてしまったのです。250A発揮=ブーストモードは作動していると考えることもできますが、なぜ350A発揮できなかったのかは謎。従って海外仕様と比較してもかなりの充電時間を要してしまっています。
また、今回の遠征を終えてから、液冷式のチャデモ充電ケーブルを搭載してブーストモードがないポルシェターボチャージャーで充電を行ってみたところ、充電時間が20分を経過した段階で、やはり同様に電流値が250Aにまで制限されるという挙動が確認されました。10-80%の充電時間は40.5分だったものの、やはり海外仕様と比較してみても電流値の制限が早いです。
メルセデス・ベンツ ジャパンに確認してみたところ、ポルシェターボチャージャーでの充電セッションにおける電流値制限については、車両側の充電インレットの温度が高温になったことによって、保護機能が作動した可能性が高いとのこと。いずれにしても、海外仕様と比較して充電性能が低いことはどうやら間違いなさそうであり、これがチャデモ規格へのローカライズに起因するのだとしたら、非常に残念な点だと感じました。
充電性能や空調効率の高さを実感
③ 日産プリンス石巻港インター店→道の駅大谷海岸(50kW級急速充電器)
・走行距離:62km
・消費電力量:90%→79%
・平均電費:149Wh/km(6.7km/kWh)
・外気温:21.5℃~24.5℃
宮城県北東部の「道の駅大谷海岸」(気仙沼市)に到着しました。目の前が海水浴場ということで、深夜3時過ぎに到着したにも関わらずかなりの車両が駐車していました。翌朝から近くの東日本大震災継承館を訪問する予定だったので、道の駅の駐車場で仮眠兼動画編集を行います。
翌朝、時間調整も兼ねて、併設している50kW級急速充電器で充電を行いました。SOC76%から95%まで充電することができ、充電量にして18.5kWh程度です。やはり大容量バッテリーを搭載しているために、SOC95%程度まで充電したにも関わらず、50kW級の最大充電性能をおおむね享受できています。
また、合計4時間ほどエアコンをつけっぱなしで車中泊を行ったところ、消費電力量は3%分。メーター表示なので多少の誤差はあるでしょうが、消費電力は0.7〜0.8kW程度だったと計算でき、非常に空調効率が高いことが見て取れます。
ただし、EQEは直近で追加設定されたElectric Artという限定仕様以外、暖房の効率を上げるためのヒートポンプが搭載されていません。よって冬場における車中泊の際の消費電力はかなり増加する懸念があります。もちろん電費性能という点でもマイナスですので、冬場に別途追加検証を行う必要性がありそうです。
④ 道の駅大谷海岸→気仙沼「東日本大震災伝承館」→大槌町「さんずろ家」(昼食)
・走行距離:92km
・消費電力量:95%→79%
・平均電費:139Wh/km(7.2km/kWh)
・外気温:29℃~29℃
道の駅大谷海岸から程近い東日本大震災伝承館を見学しました。ここは東日本大震災で津波の直撃を受けた旧気仙沼向洋高校の校舎跡が今でも保存されています。上の写真の3階部分までは完全に浸水、4階の足元付近まで津波が襲ったとのことで、まさに想像を絶します。
伝承館の屋上に展示してある写真が、津波が襲っている最中の様子。高校グラウンドの跡地は市営のパークゴルフ場として整備されています。全く同じ画角で、当時の想像を絶する津波被害の様子、そして震災からの復興を実感できます。
昼食は気仙沼から三陸沿岸道を北上して岩手県大槌町の「さんずろ家」という食事処で頂きました。イカがおすすめとのことでイカ定食を頂きましたが、非常に新鮮、かつボリュームもあり大満足。地元でも有名なお店とのことで20分ほど待ったのも納得です。
⑤ 大槌町「さんずろ家」→イオンモール盛岡南(3kW普通充電)
・走行距離:112km
・消費電力量:79%→60%
・平均電費:149Wh/km(6.9km/kWh)
・外気温:29℃~32.5℃
ついに東北遠征前半戦の目的地、岩手盛岡市街に到着しました。前半戦は655.2km走行、平均電費は5.5km/kWhでした。大半の走行ルートである東北道と三陸沿岸道はややハイペースで走行していたことから、それを踏まえると、2360kgの中大型セダンとしては想像を超える電費だと感じます。
ちなみに、後半戦に向けてショッピングセンター内で動画編集を行ったあと車両に戻ってくると、BYDドルフィンとテスラモデル3が充電中でした。さらに駐車場の別サイドに設置されている急速充電器では、さらに別のドルフィンも充電中。しかもどれも岩手県内のナンバーだったことから、BYDやテスラといったEVも、この岩手県内にぼちぼち増え始めているのではないかと感じた次第です。
東北地方における充電インフラの課題を実感
ただし、前半戦で確認できた範囲だけでも東北地方の充電インフラについては次の2点から「貧弱」であると感じました。
●東北道下り線には90kW級の急速充電器が実質的に1箇所しか設置されておらず、大容量バッテリー搭載EVとしてはかなり貧弱なインフラ網に感じる。
●仙台以北については、東北道、三陸沿岸道路、国道4号線沿線などの全てのエリアで90kW以上の急速充電器がほとんど設置されていない。
確かに仙台以北は過疎地域が多く超高出力急速充電の需要は低いのでしょう。とはいえ、問題は寒冷地帯であるという点です。遠来のEVが、真冬の東北を安心してドライブするためには、高出力複数口の経路充電スポットは必要です。せめて東北道の仙台=盛岡間には90kW級の急速充電器を2口以上のSAPAを設けることがはマストでしょう。
欲を言えば三陸沿岸道路沿線で複数の道の駅にも2本出しの90kW級が設置されると、今回のEQEのような大容量バッテリーを搭載するEVたちも、夏冬関係なく安心して長距離を走破できると思います。
そして、この前半戦を通して改めて感じたのは、1回30分という充電時間制限の不合理さです。というのも、今回は石巻の日産ディーラーにてSOC90%まで充電してしまったものの、その後は90kW級の充電インフラがほぼ皆無な三陸方面においても、まるで充電の心配がありませんでした。これは単に、石巻の150kW級でできる限り充電をできていたことが要因であり、逆にもしここで30分しか充電していなければ、盛岡到着時点のSOCは30%を切っていたでしょう。
もし冬場となると、おそらく10%台で盛岡に到着するはずであり、積雪があれば、マージンを確保するために途中充電は必須だったはずです。すると50kW級の充電器の使用を余儀なくされ、前半戦のスムーズな印象は大きく変わっていたと思います。
いずれにしても、「ここに行けば確実に、高出力で、好きなだけ充電できる」というインフラの整備こそ、EVの経路充電環境構築において最も重要なポイントであり、そのためには、「24時間365日開放された、90kW級以上の、複数台同時充電でき、充電時間の制限がない」スポットを整備する必要があるわけです。
その意味においても、東北道や三陸沿岸道(の中間地点付近が理想ですが)のどこかに、複数台同時充電可能な、充電時間制限がない90kW級の急速充電器の設置が待望されていると思います。むしろ逆に、20〜30km間隔といった短い間隔に90kW級は必要なく、ここは軽EVなどの短距離EVのために、40-50kW級を最小限設置するのが合理的でしょう。
はたして、秋田・山形方面の充電インフラはどのようになっているのか。いよいよ経路充電が定期的に必要になってくるEQEのEV性能がどのような評価となるのか。後半戦のレポートにご注目ください。
取材・文/高橋 優(EVネイティブ※YouTubeチャンネル)