メルセデス・ベンツ『EQE 350+』で東北一周1300km【後編】東北の急速充電ネットワークは思った以上に進化していた!

メルセデス・ベンツの高級EV『EQE 350+』で0泊2日の超弾丸東北遠征を行いました。高級EVとしてどれほどのEV性能を実現できているのか。東北地方の公共充電インフラはどのように普及しているのか。今回は後半戦をレポートします。

メルセデス・ベンツ『EQE 350+』で東北一周1300km【後編】東北の急速充電ネットワークは思った以上に進化していた!

東北の日本海側ルートは90kW級を繋いで走破可能

前半では埼玉を出発して仙台から三陸沿岸道経由で岩手県盛岡市街までの行程をレポートしました。後半戦では盛岡を出発して、秋田県の日本海側に出てから、山形方面へ南下。その後福島方面へさらに南下して、東北道経由で埼玉方面へ戻るというルートをチョイス。埼玉出発から36時間ほどで東北一周する約1300kmの弾丸遠征ルートです。

まず、長距離を走行する上で、EQEにおけるコネクティビティの利便性の高さを実感できた一例を紹介しましょう。メルセデス・ベンツのEVには、スマホアプリ上のGoogleマップで検索したルート情報を、車両のナビゲーションに送信できる機能が存在します。

やはり車両側のナビゲーションシステムから目的地を検索するよりも慣れ親しんだスマホ上で検索した方が利便性は高いはずです。実際、この機能は私のマイカーであるテスラでも採用されており、非常に利便性が高いと感じますし、今回の遠征中、この機能はリモートエアコン機能とともに多用しました。

① 盛岡市街→道の駅象潟「ねむの丘」(90kW級急速充電器)
・走行距離:157km
・消費電力量:68%→45%
・平均電費:131.6Wh/km(7.6km/kWh)
・外気温:29.5℃〜36℃

1回目の充電スポットは秋田南部、日本海に面するにかほ市内の道の駅象潟「ねむの丘」です。ここは90kW級の急速充電器が設置されている秋田県内では、現状、おそらく唯一の道の駅です。

上の画像(クリックすると拡大します)は、秋田から山形にかけて、西東北地方の90kW級以上の急速充電器をフィルタリングしたEV充電エネチェンジの地図画面です。この通り、秋田から鶴岡までは国道7号線沿いに、にかほ、酒田、鶴岡市街にそれぞれ90kW級が設置されており、山形市内にも複数の90kW級が整備されています。よって90kW級だけで経路充電を賄うことができ、充電性能の高いEVでも一定程度満足できるはずです。

また、秋田や山形は豪雪地帯であり、気温が下がる冬季、EVの電費は一定程度低下します。それでもこの程度の間隔で設置されていれば、真冬でも90kW級のみを使用して日本海側を走り抜けることができるでしょう。

90kWブーストモードには力不足を感じる

ただし、eMPが運営する90kW器の多くには15分間のブーストモードが採用されているため、200A(450Vで最大90kW)を発揮可能なのは15分だけ。その後は125A(400Vで最大50kW)に制限されてしまいます。

今回の充電では隣にEVがいなかったので、ブースト終了直前に充電セッションを中断し、隣の充電ケーブルに付け替えて再ブースト。合計30分の充電セッションでSOC36%分と(45%→81%)を充電しました。とはいえ、これでもやや物足りないと感じるのは私だけではないでしょう。もし再ブーストをかけなかったらSOC25%程度しか回復できなかったはずなので、やはりブースト仕様の力不足を実感しました。

15分ブースト状態で充電すると、その使用した方の充電ケーブルが10分程度使用不可となると表示。過疎地帯であれば最低限のスペックを実現しているようにも思いますが、高速道路上など利用率の高い場合は、クールダウンのために充電に余計な時間を要する可能性もあるでしょう。

そして、この区間は郊外走行が中心でしたが、電費は7.6km/kwh(131.6Wh/km)と、2.3トンの中大型セダンということを加味すると、高速走行とともに、かなり良好な電費性能であることが確認できました。

雪国ではシャッター内に充電器が設置されているケースも多い。冬場は充電器使用後、シャッターを下ろすのを忘れずに。

弾丸遠征もいよいよゴールへ

② 道の駅象潟「ねむの丘」→安達太良SA上り(90kW級急速充電器)
・走行距離:256km
・消費電力量:81%→31%
・平均電費:175.4Wh/km(5.7km/kWh)
・外気温:28℃〜29.5℃

後半戦2回目の充電スポットは往路でも使用した安達太良SAです。下りだけでなく上り線にも2本出しの90kW級が2台設置(合計4口)されており、ここに行けばまず間違いなく急速充電を行うことができるはずと感じることができます。この安心感こそ、EVの長距離運用において重要なポイントです。ただし、この充電器も先ほどと同様に15分ブースト仕様であり、力不足感が否めません。

充電器には屋根が設置されており、積雪時における利便性にも配慮されています。

③ 安達太良SA上り→蓮田SA上り(90kW級急速充電器)
・走行距離:207km
・消費電力量:52%→3%
・平均電費:212.8Wh/km(4.7km/kWh)
・外気温:24.5℃~28.5℃

ついに弾丸東北遠征のゴールとなる埼玉県に戻ってきました。後半戦は622km走行、平均電費は5.6km/kWhでした。とくにに最後の区間は次の検証開始時間が迫っていたため、ハイペースで走行していたことを踏まえると、2360kgの中大型セダンとしては想像を超える電費だと感じます。

また、前半戦は655.2km走行、平均電費は5.5km/kWhでしたので、総走行距離は1277.3kmになりました。30時間強で約1300kmを走行したとイメージしてみると、人間側の限界まで走り込んだと感じます。

急速充電30分ルールの撤廃を求めたい

後半戦における充電インフラの印象を総括しておきます。

●日本海側は、秋田市以南の一定間隔に90kW級急速充電器が設置。
●東北道上り線には90kW級の急速充電器が安達太良SAと蓮田SAに設置。

特に日本海側は、50kW級まで対象を拡げるとさらに多くの急速充電器が整備されていて、真冬の豪雪状況でも、きちんと電池残量に配慮したドライブを行えば電欠の心配はないと思います。EQEのような大容量バッテリー搭載EVの場合、90kW級の充電スポットへ余裕をもって到達するために必要な電力量を、途中の50kW級で最低限継ぎ足しつつ走るという運用方法もあるでしょう。

そして、前半戦の総括でも指摘した通り、やはり1回30分という充電時間制限の緩和が求められると思います。

というのも、今回の安達太良SA上り線の充電スポットでは、充電スポット到着から充電終了まで、および1時間ほどの仮眠を取った後も、私以外充電するEVが存在しませんでした。また蓮田SA上り線の充電スポットでも充電中のEVは存在しませんでした。このような場合でも、一回30分までというルールは変わりません。

もし、ルールを気にすることなく30分以上充電することができれば、ユーザーはサービスエリアでゆっくりと食事休憩することが可能となります。さらに、設置者側のNEXCOやeMPとしても、稼働率(充電器利用時間)の改善につながるはずです。

もちろん、充電器の混雑への対策として、SOC90%までに充電を制限するであったり、充電器が満車状態の場合は、SOC80%までの充電セッションに制限。もしくはSOC80%以降の充電には追加の単価料金を設定したり、時間課金を併用した制度にするといった工夫が求められると思います。

いずれにしても重要なポイントは、「1回30分」という充電セッションの制約は、ユーザー視点だけでなく、設置者側の視点でもベストとは言えないのではないかという点です。それを改善するためにも、例に挙げたような別の制約を設けることで、EVユーザーの大きな不満点でもある「1回30分」という制約を撤廃し、30分以上の充電を可能とするべきだと考えます。

急速充電料金の設定にも疑問を感じる

ちなみに、蓮田SA上り線にも6台同時充電可能な200kW級急速充電器、通称青いマルチが設置されています。安達太良SAの充電器や道の駅象潟の充電器と全く同様に、15分のブースト仕様となりますが、ここでさらに指摘したい問題点というのが、その充電料金の課金制度です。

現在eMPは、ビジター料金向けに、50kW級以下、および50kW以上で2種類の充電単価となっています。ところが、ブースト仕様の充電器の場合、充電単価は50kW以上の高い単価が適用されるにもかかわらず、実際に50kW超で充電できるのは15分だけでしかありません。

さらに問題と感じるのが、eMPの青いマルチの場合、複数台のEVが充電する場合、合計出力が最大200kWとなるように、先着のEVに対する充電出力を絞るという制御を行います。すると、充電単価は50kW以上の単価が適用されるにも関わらず、実際に充電できた電力量は50kW以下の充電器並みといったケースが発生するわけです。

すでにeMPについては、従量課金制と時間課金制の併用に向けて準備を進めていると説明しているものの、現状の充電課金制度に対する不公平感の是正という観点も考慮に入れた課金制度が待望されていると思います。

EQEの中古車は、お買い得かも

いずれにしても、今回メルセデス・ベンツのEVセダン『EQE 350+』で1300km弾丸東北遠征を行って、総じて高いEV性能を確認できました。また、前半でレポートした三陸方面はやや心許ない意印象があったものの、東北地方の日本海側においても一定間隔に配備された90kW級急速充電器の存在によって、特に事前の綿密な充電計画を立てることもなく、気楽に走り切ることができました。

乗り心地についても「AIRMATIC」と名付けられたCDC付きのエアサスペンションが標準装備されており、乗り心地の悪いモデルYオーナーとしては羨ましいの一言。さらにシートマッサージ機能もロングトリップの疲労軽減に大きく寄与したと感じています。

また、時速100km巡航時、EクラスのEVとしては特筆するべき静粛性の高さは感じなかったものの、特に郊外走行と時速120kmという超高速走行時では、静粛性の高さも光りました。ホイールベースも3120mmを確保していることで、十二分な車内空間の広さを確保。その上、4WSを採用していることで、最小回転半径も4.9mと、コンパクトカー並みの小回りを実現し、駐車場内での取り回しも大満足という印象です。

実は現在、EQE 350+の中古車価格を調べてみると、乗り出し650万円という個体がいくつも発見できます。EQEの中古車、結構お買い得かもしれません。

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メルセデス・ベンツ『EQE 350+』で東北一周1300km【前編】高級EVの実用性能をチェック(2024年8月11日)

取材・文/高橋 優(EVネイティブ※YouTubeチャンネル
※冒頭写真は今回遠征とは別の機会に撮影したイメージです。

この記事のコメント(新着順)2件

  1. 中古でも650万の車ですか… 庶民には無縁の車ですけど…
    電費5km台って…
    同程度の車格のガソリン車やハイブリッド車で同じ行程を走ったら、燃料費と充電料金、どちらが安いんでしょうか?

  2. 高速道路会社が急速充電スポットに積極的に取り組んでくれたのは十年以上前からで、ev時代の幕開けを感じさせたものですよ。
    ところがどっこい、最大手のT社がが急速充電に及び腰、結局この十年、庶民が使う市中の急速充電環境は劣悪なまま世界に置いてけぼりになりました。
    カージャーナリズムなら、先ずは、その日本史を押さえておくべきでしょうね。

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