メルセデス・ベンツ『EQE SUV』試乗レポート〜エンジンモデルよりリーズナブルでは?

8月末に日本発売が発表されたメルセデス・ベンツの電気自動車『EQE SUV』。台風が接近する悪天候の中、モータージャーナリストの諸星陽一氏が試乗、EV専用プラットフォームによるラグジュアリーなSUVならではの真価を実感したレポートです。

メルセデス・ベンツ『EQE SUV』試乗レポート〜エンジンモデルよりリーズナブルでは?

都内の道で小回りの良さを確認

台風13号が関東に接近していた9月8日午前。メルセデス・ベンツEQE SUVの試乗会に参加しました。雨足も風も強い状態でしたが、悪条件で試乗するほどクルマの本質が見えてくることもあるので、あえて足を運びました。

試乗コースは都内一般道と首都高、そして東京湾アクアラインを選びました。試乗車となったEQE 350 4MATIC SUVの全長×全幅×全高は4880×2030×1670(mm)。2mを超える全幅は、都内ではちょっと持て余すサイズですが、試乗スタートが六本木のメルセデス・ミーで、都内中心部の比較的広い道幅であったためボディサイズの大きさはさほど気にはなりませんでした。一連のEQシリーズ同様にリヤタイヤが最大10度逆位相に転舵する4WS(4輪操舵機構)を備えるため、ボディサイズからは想像できないほど小回りが効くことも運転しやすさに寄与しています。

首都高に入った時点で天気はかなり悪く、土砂降りの状態。路面は排水しきれない雨水で深めのウエット状態でしたが、グリップ感は高いものでした。EQE SUVの車重は2630kgもあります。ヘビーウエット時はこの車重の重さが功を奏します。雨の高速道路を走っているときに、トラックがものすごい勢いで水をまき上げ水煙を作りながら走っている光景を見かけたことがあるかと思います。あの状態と同じように、重い車重によってタイヤが路面に押しつけられることでグリップが増すのです。だからといって、雨で絶対的なグリップは落ちているので、注意は必要です。

緻密で頻繁な駆動輪制御はEVならでは

エネルギーフロー画面を表示しながら走り、駆動配分をチェックすると、実に細やかな制御が行われていることがわかります。4MATICの名からもわかるようにEQE SUVは4輪駆動モデルなのですが、必要に応じて細かく駆動輪を変更していきます。エンジン車の場合、後輪駆動(RWD)ベースの4WDならば4WDかRWD、前輪駆動(FWD)ベースの4WDならば4WDかFWDというように切り替わっていきますが、EQE SUVは4WD、FWD、RWD、コースティングなど、めまぐるしく切り替わりながら走ります。こんな風に切り替わる、とくにFWDとRWDが切り替わる走り方はエンジン車でなかったことです。

この駆動の切り替わりはわずかな勾配の変化にも対応します。たとえば、登り勾配ならば後輪に荷重が掛かるのでRWD、そこでリヤタイヤがスリップするようならば4WDになります。下り勾配で加速状態であればFWDですが、巡航状態のときはコースティングに切り替わります。もちろんアクセルを強く踏み込むと4WD状態でフル加速します。

EQE SUVにはこれまでのEQシリーズにはなかったディスコネクトユニット(DCU)というシステムが組み込まれています。DCUは前輪の左右を切り離すための機構です。左右の前輪はオープンデフによって接続されていますが、この接続を切り離すことで抵抗を減らすことを目的にしています。エンジン車のクロスカントリー4WD車では、フリーホイールハブといってFWD走行時に前輪をフリーにする機構があります。フリーホイールハブはドライブシャフトも回らないのでより抵抗を下げられますが、DCUのように1秒以下の精度でリアルタイム制御というわけにはいきません。DCUの作動は体感できるものではなく、縁の下の力持ち的に燃費を向上させるシステムです。

空気抵抗低減についても精力的に取り組んでいて、ボディ各部はもちろん、フロア下についても徹底した対策を講じ、Cd値(空気抵抗係数)は0.25という高い数値を実現。さらヒーターにはヒートポンプ式を採用し、冬季のエネルギー効率向上をねらっています。

電費性能や価格の価値にも納得

一充電航続距離は528km。試乗前のプレゼンで、WLTCモードでの電費は約4.8km/kWh(208Wh/km)であるものの、実際にメルセデス・ベンツ日本が独自に行った普段使いでの実測電費は5.9km/kWhであったとの説明がありました。今回、豪雨のなかでいろいろと試しながらの試乗でもメーター表示で5.4km/kWhを記録したので、なかなかの実力と言えます。
【編集部注】 WLTCモードの一充電走行距離528kmをバッテリー容量の89kWhで割ると、約5.9km/kWh になるので、208Wh/km = 約4.8km/kWh というカタログスペックがどのように算出、もしくは計測されているのか、ちょっと謎(MBJに問い合わせ中)ですけど……。

267Nm、292馬力の出力感は十分に力強いものです。ヘビーウエットのなかでしたが、アクセルを強く踏んでみるとシートに身体が押しつけられるような強い加速を得られます。EVの動力性能はいくらでも高められるような状況になっていますが、もう出力競争も加速タイム競争もそろそろ十分かなと感じます。エンジン車のころは、さまざまなアプローチでのトルクアップ、パワーアップがありましたが、電動になると要素が単純化してくるだけに、従来の自動車マニア的なワクワク感も減ります。

ハンドリングも安定感にあふれていました。このクラスのボディサイズ、重い車体を扱うということに関して、メルセデスなら間違いのないセッティングをしているのでしょう。4WSも余計な効き方はせずに、クイックな感覚と安定感のある挙動を両立しています。このあたりのクルマとしての成り立ちのよさに関しては、さすがメルセデスと納得させられる部分でもあります。

チャデモ充電口からのV2Hなどにも対応。

今回は試乗会での試乗であり、充電の機会はありませんでした。急速充電はチャデモ規格で最大150kW対応です。メルセデス・ベンツ日本によると、EQE SUVは電池残量10%から80%までの充電に、150kWで約49分、90kWで約54分、50kWでは102分で充電可能とのことです。

今回試乗したモデルはEQE SUVのなかでもベーシックタイプとなるEQE 350 4MATIC SUVの初期限定車ローンチエディション。この上にメルセデスAMG 53 4MATIC SUVローンチエディションが存在します。350の車両本体価格は1369万7000円、AMG53は1707万円。なかなかのプライスですが、エンジン車のGLEが1120万円~2175万円なので、EVだから高価格なのではなく、メルセデス・ベンツの上位モデルらしい価格設定で、補助金や税金面などを考えるとEVのほうがリーズナブルではないかと感じます。

取材・文/諸星 陽一

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					諸星 陽一

諸星 陽一

自動車雑誌の編集部員を経て、23歳でフリーランスのジャーナリストとなる。20歳代後半からは、富士フレッシュマンレースなどに7年間参戦。国産自動車メーカーの安全インストラクターも務めた。サーキットでは写真撮影も行う、フォトジャーナリストとして活動中。自動車一般を幅広く取材、執筆。メカニズム、メンテナンスなどにも明るい。評価の基準には基本的に価格などを含めたコストを重視する。ただし、あまりに高価なモデルは価格など関係ない層のクルマのため、その部分を排除することもある。趣味は料理。

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