神奈川県から一気に愛媛県へ走破
まず、私自身、すでにEQSは2023年モデルの450+を検証済みです。2024年11月、メルセデス・ベンツはEQSのモデルチェンジを行い、バッテリー容量の増量や内外装デザインの変更が加えられています。とくに注目したいのが、一充電航続距離などのEV性能で重要となるヒートポンプシステムが搭載されたことで真冬にどれほどの効率を実現できているのか。そして四国地方のEV充電インフラの実態を把握するために、これまでの遠征史上最も遠方となる四国地方から中国地方にまで足を伸ばしました。
レポートは2回に分けてお届けします。前編では、関東から四国までどのような充電行程だったのかという高速道路上における充電などを中心にレポートしていきます。
走行ルートは神奈川県座間市から新東名自動車道や神戸淡路鳴門自動車道経由で高知県へ。その後海沿いを走り続けて愛媛県へ。そこから松山道、瀬戸大橋、中国道などを経由して埼玉県へノンストップで戻るというルートです。観光も含めておおむね50時間ほどで走破する計画です。
ナビシステムはかなりEVフレンドリー
【区間①】神奈川県座間市街→浜松SA下り(150kW級急速充電器)
●走行距離:200.9km
●消費電力量:81%→43%
●平均電費:217.4Wh/km(4.6km/kWh)
●外気温(座間→浜松):7.0℃→6.5℃
まず初めにEQSのナビゲーションシステムをレビューしたいと思います。
EQSでは目的地をセッティングして充電が足りないと判断した場合、自動的に充電器を目的地にセッティングしてくれます。しかも充電器の選び方もEQSの充電性能を最大化するために150kW級を優先的に選択してくれます。その上充電器を目的地にセッティングすると到着までにバッテリー温度を昇温してくれる「バッテリープレコンディショニング機能」も実装されており、この一連の流れはルート検索で定評のあるテスラと同等の完成度であると言えます。
さらに出発前にルート設定した際の浜松SA到着時点における充電残量予測は48%。実際は43%で到着したものの、新東名の時速120km制限区間を急ぎ目に走行していたことを踏まえると、かなり正確な予測精度であるとも感じます。
ただし唯一残念だったのが、自動的に案内される充電器が現在の稼働状況を反映していない点です。というのもこの検証中は湾岸長島PA下り線の150kW級急速充電器が運休しておりナビ上でも利用不可表示となっていたのですが、その運休状況を考慮せずにナビは湾岸長島PAの充電器を目的地にセッティングしていました。せっかく運休情報は取得できているので、自動充電器案内にも運休情報を反映させる必要はあると思います。
とはいえ、経路上に150kW級がなかった場合90kW級を優先的に案内するなど、EV向けのナビゲーションシステムの作り込みはかなり完成度が高いと感じますし、メルセデスの本気度を感じる部分だと言えるでしょう。
150kW器でもパワーシェアリングでは非力を実感
その一方で、浜松SAでは充電セッションを開始してすぐに充電器を共有する隣接区画でEQEが充電をスタートし、出力を分け合ったことで85kW程度(200A×約420V)しか発揮してくれませんでした。結果として20分間で28kWh、充電残量にして24%の充電量です。やはりEQSとしては力不足感が否めません。
もちろん痛みを分かち合ったEQEも16分間で約17kWhしか充電することができていませんでした。また前日に検証した1000kmチャレンジでも150kW級をシェアする機会に遭遇しており、特に週末は150kW級を占有することが現時点でも難しくなり始めていることを実感できました。
今後さらに高性能な充電性能を有するEVが続々市場に投入されていくことを踏まえると、経路充電は最低でも150kW級が必須、できればシェアリング機能がない150kW級の必要性を改めて実感できるはずです。
また、充電出力を分け合わない状態での充電性能について、150kW級を使用すると15分間は140kW程度(350A×約400V)と規定の充電出力を発揮できるものの、15分後に充電セッションを停止して再度充電セッションをスタートすると、100kW程度(250A×約400V)に充電出力が制限される挙動が確認できました。
実はEQEの検証でも同様の挙動が確認されており、メルセデス・ベンツに確認したところ、おそらく充電インレット部分の問題で充電出力を制限している可能性があると報告を受けています。
いずれにしても海外仕様は最大200kW以上(500A×約400V)に対応していること、および118kWh(ネット値)という大容量バッテリーを搭載していることを踏まえると、もう少し150kW級を持続できると嬉しいという感想です。
高出力急速充電器を効率良く使いこなしたい
【区間②】浜松SA下り→桂川PA下り(90kW級急速充電器)
●走行距離:217.7km
●消費電力量:67%→27%
●平均電費:208.3Wh/km(4.8km/kWh)
●外気温(浜松→桂川):6.5℃→6.5℃
名神高速には桂川PAだけでなく草津PAや吹田SAにも90kW級急速充電器が設置されています。ただし桂川PAの先の吹田SAの場合2本出しの1基しか設置されていないため、浜松SAのような充電出力の痛み分けを避けるために2基(4口)設置してある桂川PAをチョイスしました。
また充電したのはABB製の充電器で、隣のニチコン製の場合15分間200Aのブーストモード(15分以降は最大125Aに制限される)を終えて充電セッションを終了すると、充電ケーブルの冷却のためのクーリングタイムが発生するため、クーリングタイムを必要としないABB製をチョイスしています。
【区間③】桂川PA下り→高知市街(FLASH MARK.5:240kW級急速充電器)
●走行距離:333.4km
●消費電力量:68%→8%
●平均電費:204.1Wh/km(4.9km/kWh)
●外気温(桂川→高知):6.5℃→6.0℃
新名神、神戸淡路鳴門自動車道を経由し、鳴門市から下道を通って高知市街に到着しました。高知にはテンフィールズファクトリー社のFLASHが設置されており、しかも最新世代のMARK.5(最大240kW)ということで新型EQSには最適の超急速充電器です。
ところがなんと、早朝に到着した際には設置場所の日産の販売店の入り口にロープが張ってあり立ち入ることができないハプニングに遭遇。結局営業時間になるまで4時間ほど待ちぼうけ。24時間365日開放されているとアナウンスされていたこともあり、かなり残念な体験になりました。
とはいうものの、テンフィールズファクトリー社に連絡を行ってから数時間以内には、今後24時間365日EVユーザーが利用できるように開放するように日産販売店に連絡が行ったと報告を受けています。充電サービス事業者としての迅速な対応は素晴らしいと思いますので、これを機会に再度、全国各地のスポットで規約通りに充電器を運用できているのかを確認するのがいいかもしれません。
前半の走行距離は1093km
【区間④】高知市街→足摺岬
●走行距離:160.8km
●消費電力量:79%→55%
●平均電費:172.4Wh/km(5.8km/kWh)
●外気温(高知→足摺岬):12.5℃→10.0℃
ついに四国最南端の足摺岬に到着しました。ギリギリ日の入りに間に合いましたが、水平線に沈んでいく太陽の様子は圧巻です。ここはジョン万次郎ゆかりの地としても有名です。
【区間⑤】足摺岬→道の駅八幡浜みなっと
●走行距離:160.0km
●消費電力量:55%→32%
●平均電費:161.3Wh/km(6.2km/kWh)
●外気温(足摺岬→八幡浜):9.0℃→10.0℃
四国最南端の足摺岬海沿いをひた走り愛媛県に突入しました。愛媛西部の八幡浜市街で動画編集や仮眠を取り、その間は暖房をつけっぱなしにしてどれほど電力を消費するのかを検証しました。
結論としては12時間15分の間に14%消費。外気温は最低6℃程度まで低下したものの真冬とまではいかないコンディション。航続距離テストでの使用可能容量から概算すると、おおむね1時間あたり1.3kWh程度の電力を消費していたようです。
私自身が過去に検証を行った車両と比較すると、ヒートポンプシステム搭載車両としては、わずかに消費量が多いイメージです。もしかしたら車両サイズが大きい分だけ車内温度を維持するために暖房消費量が増加した結果なのかもしれません。
遠征前半、ここまでの総走行距離は1093kmに到達。後半は愛媛県から岡山県を経て一気に埼玉まで走り切る際の充電行程を紹介。さらに四国地方や高速道路上の充電インフラ最新動向、設置見通しなどをレポートする予定です。
取材・文/高橋 優(EVネイティブ※YouTubeチャンネル)