メルセデス・ベンツ『G580』のEV日本発売/高速回転「Gターン」は想像以上に迫力満点

メルセデス・ベンツ日本が高級オフローダー「Gクラス」のラインナップに完全な電気自動車である『G 580 with EQ Technology』を追加。受注開始することを発表しました。発表会では4モーターを駆使してその場で車体が回転する「Gターン」を披露。想像以上のスピードで迫力満点でした。

メルセデス・ベンツ『G580』のEV日本発売/高速回転「Gターン」は想像以上に迫力満点

ブレイキンに続いてGターンを披露

2024年10月23日、メルセデス・ベンツ日本は2023年に東京モーターショー改め、開催された第1回ジャパン モビリティ ショーに展示されたオフローダー「EQG」の市販版である『G 580 with EQ Technology』を日本で発表、同日から受注を開始した。

従来、メルセデス・ベンツのEVモデルはEQA、EQBといった車名であったが、今後は「with EQ Technology」と言った文言がプラスされる。これはすべての車種にEVが設定されることを見越してのことで、電動パワーユニットを搭載するモデルをEQA、EQBと分けるのではなく、ガソリン車はA180といったように3桁の数字、ディーゼル車はA200dのように3桁の数字+ディーゼルを表す小文字の「d」と同じように、EVは3桁の数字+with EQ Technologyとなる。つまり今後の新型モデルからはEQという車名は消滅し、with EQ Technologyがグレード名となるわけだ。ただし、現在販売されているEQモデルはその名前を継続。マイナーチェンジおよびフルモデルチェンジのタイミングなどで車名からグレード名への変更が行われる予定だ。

Gターンではタイヤスモークが舞い上がった。

今回の発表会ではまずステージでブレイキン(ブレークダンス)が披露され、ステージ横へとG 580 with EQ Technologyが進入してきた。ステージ横に停車したG 580 with EQ Technologyはその場でGターンと呼ばれる360度ターンを披露。助手席から下り立ったゲルティンガー剛社長がステージに向かった。ゲルティンガー剛氏は今年9月1日に会長となった上野金太郎氏に代わって社長に就任している。

ゲルティンガー剛 社長兼CEO

冒頭、ゲルティンガー氏は「ブレイクダンスはひとつひとつの筋肉を細かくコントロールすることで、われわれが想像もできない動きを表現し見ている人を魅了するダンスを繰り広げます。今回発表させていただくG580も電気自動車の特徴を最大限に生かしたものです」と語った。

4モーターで116kWhのバッテリーを搭載

登場したG 580 with EQ Technologyは見まごうことのないGクラスのスタイリング。ガッチリとしたドアハンドルやアウターヒンジのドア、フロントフェンダー上に配置されたウインカーなど誰が見てもGクラスである。しかしながら、ICE車に比べてキックアップ度を高めたボンネット、リヤホイールアーチのエアカーテンなどによって空力性能を向上。CD値は450dの0.46に対し0.44に向上されている。

G 580 with EQ Technologyのプラットフォームに関する基本構成は現在のGクラスと同じと考えていい。ただし、EV化によって細かい部分についてまで変更が行われている。まずモーターは各輪に1つずつ計4つが採用された。4モーターの量産EVが日本で正式に販売されるのは初となる。各モーターの出力は108kWでシステムスペックは432kW/1164Nm。モーターはインホイール方式ではなく、ミッションを介してドライブシャフトとつながっている。このミッションも当然4つが搭載される。ミッションの役目は一般的なオフローダーと同じでローモードの選択ができること。ローモード時の減速比は2対1で、最高速度は85km/hに制限される。

技術解説を行ったGクラスプロダクトマネージャーのトニ・メンテル氏。

バッテリーは床下一面に配置される。容量は116kWhで216個のセルを12のモジュールに収めたもの。バッテリーだけで700kgを超える重量となり、このバッテリーを支えるために最大4mm厚のスチール製ラダーフレームを採用。さらにバッテリーを保護するためカーボンファイバーなどの複合素材を用いた26mm厚のプロテクションパネルが装着される。最大6kWの普通充電とCHAdeMO規格の急速充電に対応。CHAdeMOは150kWに対応する。残量10%からのCHAdeMO充電性能は50kw機で18%増/106分、90kW機で36%増/55分、150kW機で57%増/41分という社内テストデータが発表されている。WLTC一充電走行航続距離は530km。実用に近いEPA換算推計値は約424kmとなる。

走行モードは基本的に後輪駆動となる「コンフォートモード」。俊敏なアクセルレスポンスとトルクベクタリングによりダイナミックなドライビングとなる「スポーツモード」、ドライブ、サスペンション、ステアリングの設定を自分好みに組み合わせられる「インデビジュアルモード」、未舗装路や砂利道などに対応する「トレイルモード」、オフロード走行に特化した「ロックモード」の5種が用意される

回生ブレーキは弱い順に、コースティング、通常回生、強回生、最大回生の4モードに加えて走行状態に合わせて回生量を調整するD autoも採用。D auto使用時はアクセルペダルを緩めるタイミングをディスプレイに表示。最適なペダルワークをアシストする。

オフロードだけでなくオンロードを含めて、走破性を高めるキーテクノロジーが「仮想ディファレンシャルロック」。各輪のトルクを制御し、独立コントロールすることで最大限のトラクションを確保できる。

公道では使用禁止のユニークな機能も

発表会冒頭で披露されたGターンは、左右のタイヤを逆回転(対角線上は同位相)に制御しその場で方向転換できるシステム。左右どちらの回転も可能で、最大720度(2回転)まで回ることができる、この機構は公道使用が禁止されていて、林道などを走行中、倒木や落石などで行く手を阻まれた際などに使うことが前提とされている。

シゲキックスチームのブレイキンからのGターン(YouTube)

同様に公道使用が禁止されている機能でGステアリングというシステムも採用された。Gステアリングは各輪モータートルクの制限により、後輪を中心としたコーナリングが可能。オフロードコースなどのタイトコーナーで切り返しなしのコーナリングを行える。Gステアリングは25km/h以下の作動条件。

さらにもうひとつ、公道使用が禁止されている機能がオフロードクロール機能。オフロードクロール機能は3モードが用意される。「スロークロール」ではアップヒル、ダウンヒル、フラット路のいずれでも約2km/hを維持。「可変クロール」ではフラットでは徒歩程度の速度を維持。10~20%勾配のダウンヒルでは最大約14km/hまでの可変が可能。「ファーストクロール」ではアップヒル、フラット路で約8km/hを維持。ダウンヒルでは勾配に応じて車速制御が行われる。

カメラ&モニターを用いた視界確保も積極的で、360度カメラシステムのフロントカメラ、サイドカメラからの映像を元にディスプレイにクルマの前方下部の路面イメージを仮想表示する「トランスペアレントボンネット」を採用。死角となる部分の路面状況の把握が可能となる。オフロード走行を視覚的にサポートするオフロードコックピットは勾配、傾斜、高度、操舵角、出力やトルク、タイヤ空気圧や温度、さらには各輪のサスペンションや仮想ディファレンシャルロックの状態などオフロード走行に役立つ情報がグラフィカルに表示される。

ギミックの走行サウンドにはV8サウンドを採用。加速や車速、モーター負荷、騒音レベル、走行モードに応じて変化するとのこと。

最大850mmの渡河水深

EVは水に弱いと思っている方も多いだろう(もちろんこのサイトを頻繁に読んでいる方は違うかもしれないが)。しかしメルセデス・ベンツではエンジンへの吸気も排気もないEVだからこそ最大渡河水深はディーゼルエンジン搭載のG450dの700mmを大幅に上回る850mmを実現したことを発表。その自信の高さがうかがえる。

導入時のグレードはG 580 with EQ Technology Edition 1のみで、税込価格は2635万円。CEV補助金は高額車ということで52万円。新車購入から5年間または10万kmのいずれか早い方まで、一般保証修理・定期メンテナンス(点検整備の作業工賃・交換部品)、24時間ツーリングサポートが無償で提供される保証プログラム「EQケア」が適用。高電圧バッテリーは8年16万km以内で、サービス工場の診断機により高電圧バッテリー残量が70%に満たないと診断された場合の保証を付帯する。

納車時には『Mercedes me Charge』の充電カードが付帯され(別途申し込み必要)、e-Mobility Powerと提携した公共の充電器が1年間は月額基本料金、都度の充電料金も無料となる。

Gターンをはじめとする公道で使えない機能や走行サウンドには賛否両論があるだろうが、そのような機能はICE車でありEVであり装備されるのは多いこと。欲しいと思うユーザーが存在するから設定がある。ただ、それをどう使うかはユーザー次第。目立つクルマだけに間違ったり勘違いしたユーザーが出てくるとせっかくの高性能EVの評価が下がってしまいそうなのが気になる点だ。

取材・文/諸星 陽一

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です


この記事の著者


					諸星 陽一

諸星 陽一

自動車雑誌の編集部員を経て、23歳でフリーランスのジャーナリストとなる。20歳代後半からは、富士フレッシュマンレースなどに7年間参戦。国産自動車メーカーの安全インストラクターも務めた。サーキットでは写真撮影も行う、フォトジャーナリストとして活動中。自動車一般を幅広く取材、執筆。メカニズム、メンテナンスなどにも明るい。評価の基準には基本的に価格などを含めたコストを重視する。ただし、あまりに高価なモデルは価格など関係ない層のクルマのため、その部分を排除することもある。趣味は料理。

執筆した記事