メルセデス・ベンツ『G580 with EQ Technology』試乗記/街も悪路も川も走れる電気自動車

メルセデス・ベンツ「Gクラス」の電気自動車が日本でも発売されました。はたしてどんなクルマに仕上がっているのでしょうか。2日間で600kmをともにした試乗レポートをお届けします。

メルセデス・ベンツ『G580 with EQ Technology』試乗記/街も悪路も川も走れる電気自動車

Gクラスの人気の謎

G580 with EQ Technology(以下、G580とします)は45年と長い歴史を有するGクラスに初めて導入された電気自動車(BEV)で、今回の試乗車は内外装に特別装備を取り入れたEdition1です。同車の詳細についてはこちらの記事をご覧ください。

以前はセダンやステーションワゴンが主流だったファミリーカーの形は、ミニバンの登場により、すっかりこの箱形のクルマに移ってしまいました。開口部の大きいスライドドアを開ければ、チャイルドシートに子供を乗せやすく、乗り降りも楽に行えます。

そんなミニバンが数多くラインナップされている日本において、小さなお子さんがいる家族でもGクラスに乗っているのを見かけます。無骨なハンドルでドアを開けて、ステップに足をかけて「よいしょ」と乗る必要があるのに、です。さらには富裕層や芸能人にも人気があります。そんなGクラスの人気の謎に迫るのが、今回の試乗のひとつの目的です。

そしてG580は、EQSなどのようにBEVとしての完全な新型車ではなく、歴史あるモデルに追加されたBEVです。これまでのGクラスのICE車に乗っていたオーナーからすれば、「電気のゲレンデ」がどんなクルマに仕上がっているかも重要な関心事だと思います。

しかし筆者は10年ほど前にAMGモデルの助手席にしか乗ったことがありません。そこで自動車メディア界の先輩2人にもG580に乗ってもらい、従来モデルとの差を教えてもらうことにしました。

伝統の外観と最新の室内

現在、Gクラスのラインナップは3種類があり、ディーゼルエンジンの「G450d」、ガソリンエンジンの「Mercedes AMG G63」、そして今回の試乗車である「G580 with EQ Technology」です。簡単にスペックをまとめたのが下記表です。

Gクラス/グレード構成

グレード最大出力
kW/ps
最大トルク
Nm
車重
kg
価格
万円
G580432/587116431202635
G63430/58585025702820
G450d270/36775025601824

車重がエンジンを搭載した2モデルよりも500kg以上重いG580ですが、出力とトルクは最も優れており、0-100km/h加速はG63の4.4秒に対して4.7秒とわずかな差にとどまっています。

価格はG450dより811万円高く、G63より185万円安くなっていて、116kWhと大容量バッテリーを搭載しているにも関わらず、この2モデルの間に位置しています。52万円の国の補助金(CEV補助金)を活用すれば、もう少しだけディーゼルモデルに近づきます。なお、ICE 2モデルもローンチ・エディションの価格ですので、3モデルともに「素の仕様」が出た際も同じような価格差のままだと思われます。

ボディサイズは全長が4730mm、全幅が1985mm、全高が1990mmと、幅と高さはほぼ2mです。意外と短く感じる全長は、スペアタイヤに代わり設置された充電ケーブルなどを収納できるデザインボックス分を除くと4625mmで、なんと5ナンバーサイズです。

どのモデルもハンドル位置は右と左から選択可能で、今回の広報車は左でした。高い着座位置からはシートポジションを最も下にセットしても、ボンネットと左右のウインカーレンズを確認できるため、ほぼ2mの全幅の割にすぐに慣れることができました。

メルセデスはG580に専用のボンネットとリヤホイールアーチのエアカーテンを採用して、Cd値をG450dの0.46から0.44に低減させています。しかしCd値0.4オーバーのクルマ自体が珍しく、空力性能を突き詰めた同じメルセデスのEQSセダンは0.20とその差は歴然です。ボクシーなGクラスのスタイルでは、これ以上の大幅な改善は難しいかもしれません。

左:ボンネットはICEモデルと比べると中央がより盛り上がった形状になっていて、フロントガラスへの風の流れをよくしています。右:リヤホイールアーチのエアカーテン。

伝統的な形を引き継いでいる外観に対して、インテリアは左右がダブルスポークになっているステアリングホイール、12.3インチのディスプレイが二つ並ぶインパネなど最新のメルセデス流デザインが取り入れられています。

G580のインテリア。Gクラス以外のモデルと比較して装備されていないのはHUD(ヘッドアップディスプレイ)くらいです。インパネの奥行きが短いことやフロントガラスの角度が立っていることから搭載が難しいのだと思います。

着座位置は、ステップに足をかけて、時にはアシストグリップも掴みたくなるほどに高いです。しかし乗り込んでしまえば1990mmの全高のおかげで前席、後席ともに余裕のある空間が確保されています。ドライビングポジションを決めた身長172cmの筆者の頭上には15.5cm、後席では17.5cmもの空間があり、後席の膝前にも19.5cmの余裕が確保されていました。

前席頭上には手動式シェード、電動チルトのサンルーフがあります。後席は7段のリクライニングがあり、下の写真は奥が最も立てた状態、手前が最も寝かせた状態です。ドアオープンハンドルは膝の位置にある四角いシルバーのパーツです。その前方にある同色のスピーカーと一体化されたデザインではじめは分かりませんでした。

シートクッションは前後ともに適度に張りがあり、ふかふかという感じではありませんが、車体が大きく揺れる悪路走行時に、クルマの挙動を掴みやすくするためだと考えれば納得です。ロングドライブ時にはマッサージ機能が重宝しました。

助手席側のインパネには「EDITION ONE」のロゴが入ったグリップハンドルがあります。レザーステッチの青のように、このハンドル以外にも採用されているインテリア各所のカーボンファイバートリムにはブルーが織り込まれています。これらはEdition1の特別装備です。

ラゲッジスペースの容量は620〜1990リッターです。スクエアな荷室の幅は107cm、奥行きは69cmでした。

左は機内持込可能サイズのスーツケースとゴルフバッグを入れた様子です。ゴルフバッグはシートを倒して載せる必要があります。右は後席のシートクッションを起こして背もたれを前に倒したダブルフォールディングの状態です。荷室とリヤシートには約18cmの段差があります。

アンビエントライトは単色の他にマルチカラーも用意されていて、夜間の車内をゴージャスにしてくれます。

マルチカラーの例として3パターンの写真です。カップホルダーの照明も連動して変化します。前席のカップホルダーは温冷機能付きです。

自由自在な走り

ここからはG580を走らせた印象です。動き出しのほんの一瞬だけ「3120kgの重さ」を感じるような気がしますが、アクセルを踏み込めば1164Nmの大トルクのおかげで、ヘビーな車体であることを一切感じさせない活発な加速を披露します。

しかもそれをG63のような轟音もなしに、シフトショックも伴わず、すーっと気持ちよく滑らかに速度を上げていくのがG580の美点です。この加速にハマってしまうエンジン車のGクラスオーナーが多く発生するような気がします。

「そんなの静かすぎてつまらない」という方は、G-ROARサウンドをオンにすれば、ボンネット内と車内のスピーカーからエレキチックなV8エンジン音を車内外に響かせることができます。加減速に応じて音色や音量も変化します。

なお、G-ROARサウンドをオフにしても、車両接近通報装置として似たような音が30km/hくらいまで聞こえるのが気になりました。EQSやEQEでは聞こえなかったので、個人的にはもう少し音量を小さくできたら良いなと思いました。

渡河性能はG450dの700mm(バンパー上端くらい)から、850mm(ヘッドライトの下から1/3くらい)に向上しています。

乗り心地を端的に一言で表すと「ごりごり」です。SUVというよりは「クロカン」的で、良いとは言えません。段差もその通りに伝えてくるし、相当重いものが前後のアクスルでドタドタしている感じで、3トン超の重さを隠しきれていない印象です。

どんな小さな段差でも、もっと言えばアスファルトの粒でさえも、ステアリングホイールとシートに微振動として常に伝えてきます。タイヤ1本に760〜800kgの重さがかかっていますので、このような特性になるのも想像できます。

メルセデスに乗り心地の良いBEVのSUVを求める人は、G580よりも1000万円もお求めやすく、エアサスペンションを装備するEQSやEQEのSUVをお勧めします。

タイヤはファルケンのアゼニスFK520 MO、サイズは275/50R20。青いブレーキキャリパーはEdition1の特別装備。

その一方、路面のうねりはふわっといなしてくれます。車重をしっかりと支えつつ、悪路走破性も確保し、大パワーを受け止め、G-TURNなども実現し、なるべく乗り心地も良くする、という難題をまとめ上げたエンジニア陣の手腕は賞賛に値します。

なお、ドライブモードの「DYNAMIC SELECT」はコンフォートがデフォルトで、スポーツにしても、乗り心地はさほど変わりませんでした。基本2WDのコンフォートに対して、スポーツは常時AWDになりますので、電費のことを考えても日常的にはコンフォートが良いと思います。

回生ブレーキは、ステアリングのパドルで4段階から選択できます。さらに先行車がいると自動で減速度を調整するインテリジェント回生もありますが、停車まではしませんので、最後はブレーキペダルを踏む必要があります。つまりワンペダルドライブはできません。このような回生についての考え方は他のメルセデス製BEVと同じです。

右パドルとシフトレバー。パワーメーターの下に選択中のインテリジェント回生が表示されています。

そんなG580ですが、滑空感は高く、一度速度を上げるとすーっと走っていきます。これが同車特有の無骨な走行感でも実現できているから驚きです。つまり明らかにステアリングやシートからはゴツゴツの手応えがあり、抵抗が大きいクルマのように感じますが、実は空力以外は相当高効率に仕上がっているクルマだと思えます。

全開加速はまさにワープの表現がピッタリで、0-100km/h 4.7秒の実力を思い知らされます。パワー(432kW/587ps)とトルク(1164Nm)の数字の通り、トルクで力強く加速していく印象です。

パワーメーターを観察すると、一気に針が振れるのは90%くらいまでで、速度が乗ってきてから100%に向かってさらに勢いを増していきます。これだけの発進性能でありながら、一切スキール音を出さず、さらに直進性も全く乱されないことに、4モーター制御の緻密さと車重がトラクション性能に効いていることを感じさせます。

本格的クロカンマシン初のBEV

G580は着座位置が高いため乗り降りがしづらいです。また閉める時に「ガチャン!」と盛大な音を発するドアは、きちんとハンドルを持って意識して「閉める動作」を行わないとほぼ間違いなく半ドアになります。もちろんソフトクローズ機能はありません。

乗り心地も良くはなく、カーブを曲がり終えた後にハンドルが自然に直進方向に戻ろうとするセルフアライニングトルクも弱めなため、意識してハンドルを戻す必要があるなど、現代のクルマに慣れていると手を焼く印象もあります。

しかし、約半世紀も前からほとんど変わっていない唯一無二の外装デザインは、むしろ変えてこなかったからこそ多くのファンを魅了し続けるのと同時に、それが新鮮に映る若いユーザーにも響いているのだと思います(何人かの小学生男子にカッコイイ!と指をさされました)。

そんな人たちには、同車の扱いづらいポイントさえも愛おしいものになっているのではないでしょうか。何を隠そう私自身も、ここ数年で最も返却が惜しくなった広報車でした。エンジンがなくすっきり、さっぱりな後味が多いBEVの中で、これだけ濃厚な個性を持ったG580は稀有な存在です。

ここで歴代のGクラスを知る筆者の先輩の衝撃の言葉を紹介します。なんとこんなG580は、それでもかなり乗用車チックになっているというのです。以前のモデルのドアの開閉は、鉄製の重い金庫の扉を閉めるような感じで、音ももっと金属的なものだったとのこと。

G580の乗り心地に関しても、圧倒的に現代水準に引き上げられていて「まるでGLEを運転しているようだ」とも言っていました。さらにコーナリング性能も飛躍的に向上していると驚きの声をあげていました。

右フロントサスペンションを前方から。上からシルバーのタイロッド、ドライブシャフト、内側が黒に塗られたロアーアーム、奥には厚さ26mmのアンダーボディパネルに守られたフラットなバッテリーが見えます。ステアリング機構は2018年にボール&ナット式からラック&ピニオン式に変わっています。

そして、Gクラスと同じクロカンを出自とする「ランクル」や「レンジローバー」にまだBEVモデルがない中で、メルセデスはいち早くG580を発売しました。これは同社の電気自動車戦略の先進性を感じるポイントです。

G63はガソリン代が高い、G450dは給油時の軽油の匂いが苦手という人にG580はぴったりではないでしょうか。このクルマの気になる電費・航続性能については後日「電費検証シリーズ」の記事として報告します。

Gクラスは、資産価値が高いことでも知られています。中古車サイトを見ると、年式の浅いモデルは新車価格よりも高くなっているものもあります。しかしながら以前の記事で紹介したように、他のメルセデス製のBEVは値落ち幅が大きいことも事実です。電気自動車であるG580の中古価格が数年後にどうなっているのか、とても興味深いです。ICEのGクラスのように下がるどころか上がっていたら、「ゲレンデ」のブランド力の強さを証明することになるでしょう。

メルセデス・ベンツ
G580 with EQテクノロジー
Edition 1
全長(mm)4730
全幅(mm)1985
全高(mm)1990
ホイールベース(mm)2890
トレッド(前、mm)1660
トレッド(後、mm)1660
最低地上高(mm)250
車両重量(kg)3120
前軸重(kg)1520
後軸重(kg)1600
前後重量配分47:53
乗車定員(人)5
最小回転半径(m)6.3
車両型式ZAA-465600CC
交流電力消費率(WLTC、Wh/km)262
一充電走行距離(WLTC、km)530
EPA換算推計値(km)424
モーター数4
モーター型式、フロント、リヤE0033
モーター種類、フロント、リヤ交流同期電動機
モーター出力(kW/ps)108/147
モータートルク(Nm)291
システム最高出力(kW/ps)432/587
システム最大トルク(Nm/kgm)1164
バッテリー総電力量(kWh)116
急速充電性能(kW)150
急速充電時間150kW器で10-80%が41分
普通充電性能(kW)6
普通充電時間14時間
V2X対応非対応
トランスミッション2段
駆動方式AWD
フロントサスペンションダブルウィッシュボーン
リアサスペンションリジッド(ドディオン)
フロントブレーキベンチレーテッドディスク
リアブレーキベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ(前後)275/50R20
タイヤメーカー・銘柄ファルケン・アゼニスFK520
荷室容量(L)620-1990
フランク(L)なし
0-100km/h加速(秒)4.7
渡河性能(mm)850
Cd値(空気抵抗係数)0.44
車両本体価格 (万円、A)2635
CEV補助金 (万円、B)52
実質価格(万円、A - B)2583

取材・文/烏山 大輔

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この記事の著者


					烏山大輔

烏山大輔

1982年生まれ、長崎県出身。高校生の時にゲームソフト「グランツーリスモ」でクルマに目覚め、 自動車整備専門学校を卒業後は整備士、板金塗装工、自動車カタログ制作、 自動車雑誌カーグラフィック制作、ALPINA総輸入代理店のNICOLEで広報・ マーケティングと一貫してクルマに関わる仕事に従事。 現在の所有車はインテグラ・タイプR、ハイゼットとガソリン車のみだが、BEVにもFCEVにもとても興味を持っている。

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