メルセデス・ベンツとパワーエックスが充電ネットワーク整備へ/今後2年間で25拠点100口

メルセデス・ベンツが新会社を設立。パワーエックスとともに急速充電ネットワーク整備を進める包括的業務提携を締結したことを発表しました。今後2年間で25拠点に計100口のEV用超急速充電器を設置する計画です。

メルセデス・ベンツとパワーエックスが充電ネットワーク整備へ/今後2年間で25拠点100口

超急速充電ネットワーク構築の新会社を設立

2024年10月23日、株式会社パワーエックス(Power X)は、メルセデス・ベンツグループが100%出資する新会社「メルセデス・ベンツ・ハイパワー・チャージング日本合同会社(MBHPCJ)」を設立(予定)し、日本市場におけるEV充電事業パートナーに選定されたことを発表しました。

写真左から、パワーエックスCEOの伊藤正裕氏。メルセデス・ベンツ・ファイナンス社長のアンドレアス・レーア氏。MBJ社長兼CEOのゲルティンガー剛氏。

パワーエックスがMBHPCJと提携して開発するEV充電ネットワークは、EVユーザーの利便性向上を目指し、大都市圏を中心に商業施設等において1拠点あたり4口を基本とした公共の充電ステーションを展開。今後2年間で25拠点、合計で100口の超急速充電ネットワークを構築するとしています。

設置される急速充電器はパワーエックスが開発&製造している「Hypercharger(ハイパーチャージャー)」で、358kWhの大容量蓄電池と2口のディスペンサー(充電ケーブルを備えたストール)がセットになった機種。これを1拠点あたり2基(4口)ずつ設置していくことになります。

パワーエックスが独自に展開する充電ステーションに設置されているハイパーチャージャーのディスペンサーに液晶画面は付いていません。MBHPCJと構築する充電ステーションのディスペンサーには液晶画面や、メルセデス・ベンツの顧客向け充電サービスである「Mercedes me Charge」のカードで認証するためのカードリーダーなどを備えた特別仕様&オリジナルデザインとなります。メルセデス・ベンツが展開する経路充電ネットワークではありますが、他社EVのユーザーも「PowerXアプリ」を通じて利用できるようになる予定です。

パワーエックスからの「朗報」が連続しています

今日、10月23日は東京都内でメルセデス・ベンツ日本が電気自動車にしてオフロードカーのフラッグシップとなる『G 580 with EQ Technology Edition 1』の発表会を開催。著者陣で自動車ジャーナリストの諸星陽一さんと一緒に取材に出かけました。G580の詳細は追って諸星さんのレポートをお届けしますが、その会場でサプライズ的に発表されたのがメルセデスベンツグループによる充電ネットワーク新会社の設立&パワーエックスとの提携だったのです。

実は、今日公開する別記事の用意を進めていたのですが、「メルセデス・ベンツとパワーエックスが充電ネットワーク整備」というのはEVsmartブログ(ニッポンのEVユーザー)としてはスルーできない大ニュース。急遽速報で伝えることにした次第です。

ここ10日ほどの間にも、東京都江東区の「有明アーバンスポーツパーク」駐車場に2基4口のハイパーチャージャーを設置とか、月額900円で45円/kWh〜の新サービス「PowerX First」を発表とか、パワーエックスからの朗報が相次いでいます。まずは賛辞を贈りつつ、今後、EVユーザーにとって利便性が高い超急速充電インフラが拡充されていくことに期待します。

気になるところと期待のポイント

今回の発表内容で気になったところを確認しつつ、なぜEVsmartブログ(というか私)がパワーエックス「ハイパーチャージャー」の超急速充電ネットワークを評価しているのかという、いわば期待のポイントを紹介します。

低圧受電で合理的な従量課金

一般的な最大出力150kWの急速充電器を4口設置するためには、600kWの電源を用意する必要があり、ピーク時の消費電力で1年間毎月の金額が決まってしまうデマンド基本料金が高額になってしまいます。でも、ハイパーチャージャーは50kW未満の低圧受電で蓄電した大容量バッテリーからの電力でEVに充電する方式で、今回のように2基4口設置する場合でも「50×2基=100kW」程度の電源でまかなうことが可能。キュービクルなど受電設備への初期投資や、ランニングコストを抑えることができます。

さらに、「PowerXアプリ」では一般利用で65円/kWh〜、月額900円の会員であれば45円/kWh〜という合理的な価格の従量課金で、ユーザー本位の充電サービスとなっているのがポイントです。

「Mercedes me Charge」はe-Mobility Power(eMP)と提携しており、今のところ時間課金です。とはいえ、2025年にはeMPでも従量課金制を導入するというアナウンスがされています。実際にMBHPCJとパワーエックスによる独自ステーションがどのような料金体系で充電できるようになるのかといった詳細はまだ未定。来年以降、ステーションが開設されてサービスが開始する際に発表するということでした。

パワーエックスが提言しつつネットワークを構築

「今後2年間で25拠点に計100口」という数だけ見ると、少ないのではと感じる方もいるでしょう。とはいえ、先日「PowerX First」の記事で紹介したように、パワーエックスではハイパーチャージャーによる超急速&複数口の充電ステーションを「2025年度中には約300カ所に拡大」することを発表しています。

300カ所の計画に今回発表されたベンツとの充電拠点がどのくらい含まれるのかは明示されませんでしたが、25拠点の具体的な場所については「パワーエックスが提案しつつ、MBHPCJと協議の上で決めていくとのこと。EVユーザーにとって便利な「一等地主義」を標榜するパワーエックスが全体のバランスを考えながら配置していくことになるでしょうから、きっと「そうそう、そこに、そういう充電ステーションが欲しかったんですよ」といったインフラが増えていくことを期待したいと思います。

大手ブランドとのアライアンス展開

パワーエックスでは、アウディジャパンと「充電に関する事業提携の基本合意」を締結し、各地の正規ディーラーや東京都港区の「Audi charging hub 紀尾井町」にハイパーチャージャーを設置。また、正式なアライアンスではないものの、全国各地のBMWディーラーへのハイパーチャージャー設置を進めています。

急速充電ステーションの利便性を確保するためには、テスラのスーパーチャージャーが基本的に1カ所4口以上となっているような「複数口設置」が大切です。蓄電池付きのハイパーチャージャー1基(2口)の価格は一般的な150kWの1口器よりは当然高価になるでしょう。とはいえ、アウディ(VWグループ)、メルセデス・ベンツ、BMWディーラーといったドイツ御三家が揃ってパワーエックスを選択しているのは事実。推測ですが、150kW器を4口設置して受電設備に高額な投資をするよりも、ハイパーチャージャーを2基導入するほうが合理的という判断なのであろうと考えることができます。

かくなる上は、まだ車種数は少ないとはいえ150kW対応のEVを発売しているトヨタやレクサスがパワーエックスと連携し、できれば高速SAPAやIC周辺を含めた場所に大規模なネットワーク構築を発表してくれたら、日本の景色も大きく変わるのになぁというのは、個人的な妄想なのでした。

ともあれ、メルセデス・ベンツとパワーエックスによる超急速充電ネットワーク整備のニュースは、日本のEVユーザーにとって朗報です。おそらく来年の春ごろになるのでしょうか(料金システムの調整が大変そうなのでもう少しずれ込むかもですけど)、実際に開設されるステーションを訪れるのが楽しみです。

取材・文/寄本 好則

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					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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