戦略的な価格設定になった『EQA 250』
『EQA』はメルセデス・ベンツのコンパクトSUV、『GLA』と基本構造を共有するエントリーモデルの電気自動車(EV)です。『GLA』は日本でも2020年に発売されていて、JAIA(日本自動車輸入組合)の2020年第4四半期の統計を見ると、メルセデス・ベンツブランドではAクラス、GLB、Cクラスに次ぐ人気になっています。
ベースになる『GLA』のラインナップは、『200』、『250』、『250 4MATIC』なので、今回発表された『EQA 250』はミドルクラス相当になります。
まずは価格から見ていきましょう。『EQA 250』のドイツでの価格は、19%の付加価値税込みで4万7540.50ユーロ(約601万円)からとなっています。
では内燃機関からEVになって価格はどのくらい変わったのでしょうか。ドイツでの設定を見ると、『GLA 250』は19%の付加価値税込みで4万995.5ユーロ(約518万円)。つまり『EQA 250』とは6545ユーロ(約83万円)の違いになります。それほど違いが大きくないですね。
それにドイツでは、3万9950ユーロの税別価格に基づき、連邦政府による6000ユーロの補助金や、メルセデス・ベンツから提供される3000ユーロの環境ボーナスを利用できるため、なんとなんと、場合によってはガソリン車の『GLA』より安くなるようで驚きです。
ちなみにですが、すでに日本でも発売されているメルセデス・ベンツのEV、『EQC 400 4MATIC』の日本での価格は税込みで1080万円。一方、内燃機関では最も上級クラスで、かつプラグインハイブリッド車の『GLC 350 e 4MATIC』は税込みで899万円なので、EVになることで180万円以上も高くなっています。ガソリンエンジンのモデルと比較すると、差はさらに100万円ほど広がります。
それに比べると、装備の違いもあるとはいえ、売れ筋の内燃機関モデルとの差を100万円以下に抑えている『EQA 250』はかなり挑戦的かつ戦略的な価格設定になっていることがわかります。それだけ電気自動車モデルの製造コストがこなれてきたということでもあるのかもしれません。
車体はドイツと中国、バッテリーはドイツなどで生産
『EQA 250』の生産ラインはドイツのラシュタットと中国の北京に設置されています。バッテリーは、2012年以来、メルセデス・ベンツAGの完全子会社として操業する『Deutsche Accumotive』(ドイツ・アキュモーティブ)が生産します。
ドイツ・アキュモーティブの工場はドレスデンの北東約40kmにあるカーメンツにあり、『EQC』やメルセデス・ベンツのプラグインハイブリッド車のバッテリーを生産しています。メルセデス・ベンツでは、このほかポーランドの工場でも『EQA』用バッテリーを生産する予定です。
『EQA 250』の諸元を以下の表にまとめてみました。車体の大きさはEQCより少し小ぶりです。最大出力は定格で140kWなので、それほど強大なパワーというわけではないようです。0-100km/h加速も8.9秒なので必要十分と言ったところでしょう。なぜか、最高出力や最大トルクはアナウンスされていませんでした。
EQAスペック | |
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【車体】 | |
全長 | 4463mm |
全幅 | 1834mm ※ミラー除く |
全高 | 1620mm |
車重 | 2040kg |
【動力性能】 | |
定格出力 | 140kW |
定格トルク | 375Nm |
最大回生能力 | 140kW |
駆動方式 | 前輪駆動 |
0-100km/h加速 | 8.9秒 |
最高速度 | 160km/h |
【バッテリー】 | |
実容量 | 66.5kWh |
電圧 | 420V |
1時間電流値 | 190Ah |
モジュール数 | 5 |
セル数 | 200 |
【充電】 | |
オンボード充電器(交流) | 11kW |
急速充電対応出力(直流) | 100kW |
【航続距離】 | |
WLTP複合 | 426km |
EPA推計値 | 約380km |
エネルギー消費率(EPA推計値) | 約5.7km/kWh |
【予定価格】 | |
ドイツ | 4万7540.5ユーロ〜 |
日本円換算 | 約601万円 |
ドイツ税別価格 | 3万9950ユーロ〜 |
日本円換算 | 約505万円〜 |
ドイツの価格は1ユーロ=126.35円で計算していて、19%の付加価値税込みの金額です。航続距離のEPA推計値は、欧州WLTPの数値を「1.121」で割って計算しています。
バッテリー容量は66.5kWhなので、最近のコンパクトEVの平均より少し多いという感じでしょうか。一充電での航続距離はWLTPモードで426km、EPA推計値では約380kmになります。
Cd値0.28なので空力性能は良いのですが、車重が2トンを超えることもあり、電費が5.7km/kWhにとどまるのは致し方ないというところでしょうか。EVでは、電費(効率)が内燃機関の車よりもシビアに商品性に影響するため、車体が大きく重くなってしまうラグジュアリーカーが多い自動車メーカーにとっては、将来的には悩みどころになっていくかもしれません。
とは言え、スペック上では現行の『EQC』に比べると20%以上も改善されている様子が見えます。このあたりは実走行テストで確認したいと思います。
バッテリーは床下に配置され、押し出し成形のフレーム内に収められています。衝突安全性に関しては、基本的には『GLA』シリーズの基本性能を継承しています。
充電ネットワークは、欧州では『Mercedes me Charge』を利用することで17万5000カ所以上の公共充電スポットを利用することができます。が、このへんは日本では関係ないですね。それよりも日本では、急速充電器の対応出力が車に合わせて高くなっていってほしいところです。
『EQA』のラインナップが拡大する計画もあり
ところで『EQA』は、内燃機関の車のようにラインナップを広げていく計画があるようです。ダイムラーAGおよびメルセデス・ベンツAGの取締役会メンバー、マーカス・シェーファーは公式リリースの中で、今後の計画について次のように話しています。
「新しい『EQA』により、顧客のニーズに合わせたe-モビリティの構想を示しことができました。私たちは、140kWから200kWの出力を持ち、前輪駆動(FWD)および全輪駆動(AWD)のEQAファミリーを提供していきます。特に航続距離が重要という人のためには、半径500km(WLTP)をカバーする特別バージョンの『EQA』も計画に含まれています」
またダイムラーAGとメルセデス・ベンツAGの取締役会メンバーでメルセデス・ベンツカーズのマーケティング/セールスを担当するブリッタ・シーガーは「新しい『EQA』は、すべてのセグメントを電動化する道筋に沿った、重要な車です」と話しています。
つまり今回の『EQA 250』は、『EQA』ファミリーの最初の一歩、ほんとうの意味でのエントリーモデルということになります。メルセデス・ベンツはEVでも、内燃機関と同じように複数のモデルを揃えて選択の幅を広げていくのは間違いありません。
実際に車を見ないことにはなんともですが、EVがぽつんと1モデルだけ出ておしまいということにならないのは大きな前進かもしれません。特別扱いしてないというか、ちゃんとセールスをしていくという心づもりが感じられます。
ただし、今のところメルセデス・ベンツからリリースされている電気自動車の市販モデルは『EQC』も『EQA』もエンジン車をベースにしたいわゆるコンバージョンです。新開発のEV用プラットフォームを採用する『EQS』が2021年中に投入されるという報道もあり、メルセデス・ベンツの電気自動車ラインアップがさらに充実していくのが楽しみです。
日本での導入予定は未確認ですが、『EQC』も入ってきていることですし、大いに期待していいのではないでしょうか。その日を、首を長くして待つことにしたいと思います。
(文/木野 龍逸)
今回の140kWモデルは「全輪駆動」ではなく「前輪駆動」では?
全輪駆動モデルは200kWとEQAのWPではアナウンスされていたと思うのですが。
RiotNa さま、ご指摘ありがとうございます。
表内、タイプミスでしたので、修正しました。ありがとうございました!