バッテリーは16kWhから20kWhに増量
『ミニキャブEV』は三菱自動車が2023年11月に発売した軽商用EVです。三菱の軽商用EVといえば2011年に発売された『ミニキャブMiEV』が世界でも唯一無二の草分け的存在でした。日本郵便の集配車に採用されるなどカーボンニュートラル社会の実現に向けたニーズがあったものの、駆動用バッテリーの容量が16kWhと小さく一充電航続距離が短かったことなどから売れ行きは限定的で、2021年3月には生産を終了。でも、その後も「サステナブルな事業活動を展開する物流関係や自治体などで軽商用EVの需要が高まっている」として、2022年10月に一般販売を再開した経緯がありました。
『ミニキャブEV』はミニキャブMiEVをベースに、駆動用バッテリーを日産サクラや三菱eKクロスEVと同じ20kWhに増量して一充電航続距離は従来の133kmから180km(ともにWLTCモード)に延長。パワートレインを一新するなどの大幅な改良を受けながら、販売価格は従来モデルと同等に抑えて発売。今年はホンダの『N-VAN e:』が発売されたものの、軽商用EVの数少ない選択肢の1台として存在感をキープしています。
軽商用車はシンプルさが魅力であることを再認識
「大幅な改良」といいつつも、インテリアや装備などちょこっと試乗で外見的に確認できるもろもろは、ミニキャブMiEVからそれほど変わっていません。カーナビは前時代的な仕様のモデルが埋め込まれ、小さな円形の組み合わせが特徴的なメーターパネルや、セレクターレバーなどの見た目はそのままです。メーターパネルなどは2005年くらいに開発されたi-MiEVとも共通だったので、基本的な設計はかれこれ20年来の伝統モノということになります。
ミニキャブMiEVは白馬村の友人の愛車で何度も乗ったことあるし、無理をお願いして広報車をお借りしたこともありますが、新型のミニキャブEVの実車のハンドルを握るのは初めてです。インテリアなどが「変わっていない」ことはプレスリリースなどで承知していたので、最初は「うん、変わってないな」と苦笑気味に乗り込んで……。
でも、広い駐車場でフル加速を試したりジムカーナ的なスラローム走行を試しているうちに、商用車らしいシンプルさが楽しくなってきました。先日試乗したN-VAN e:と比べても、運転中の印象は気持ちよく質実剛健。荷室の床がフラットなのが使いやすそうだし。毎日の仕事のパートナーとしては「このくらいシンプルでいいんだよなぁ」と改めてその魅力を感じることができたのでした。
100km以下の航続距離表示には「慣れ」が必要
EVらしいスムーズな加速や、拠点にEV充電設備を設置すれば毎日の充電にも不安なし。毎日の走行距離が100km未満の軽商用車として、やっぱりEVは魅力的であることを再確認。2シーターモデル限定のメーカーオプションではありますが、100V最大1500Wのアクセサリーコンセント(税込8万2500円)を装備できるのも、工事などの現場では活躍できるポイントになりそうです。
一方で、バッテリーが増量されたとはいえ20kWhなので、メーターに表示される航続可能距離は控えめです。試乗時の残量計は「12/16セル」の表示で、SOCにすると75%程度だったと思われます(SOCの%表示はありません)が、航続可能距離は「85km」と表示されていました。試乗会場でジャーナリストの方々がアクセルペダルを遠慮なく踏み込んでいたはずなので、若干割り引いて考える必要はありますが、航続距離が100kmを切るのはエンジン車で考えればエンプティランプ点灯状態。EVに不慣れな方であれば不安を感じることでしょう。
限りあるエネルギー(電気)を上手に使って走るのがEVの楽しさでもあります。毎日使っていれば、拠点まで10kmの地点で航続可能距離が「30km」と表示されていると「全然余裕だね」と感じられるようになるはず。このあたりは、やっぱり慣れが必要であることも再確認することができました。
課題はやはり「価格」の高さ
新型発売時のプレスリリースでは「先代モデルから走行距離向上や安全装備の充実を図りながら販売価格は同等に抑えました」とアピールされていました。ミニキャブEVの価格は、バッテリー容量20kWhの1グレードのみで、2シーターが243万1000円。4シーターが248万6000円です。エンジン車のミニキャブバンは120万円くらい〜なので、ざっくり100万円くらいは高くなっています。
拠点で充電する電気代はガソリン代よりも安かったり、オイル交換などのメンテナンス費用が抑えられるといったEVのメリットはありますが、ランニングコストまで含めたトータルコストがエンジン車を下回るためには、10年ほどはバリバリ走り続ける必要があります。EVには自家用車の場合は経産省、営業車の場合は環境省が所管する補助金があるとはいうものの、広く商用車ユーザーの方が「あえてEVを選ぶ」ようになるために、車両価格がハードルになっていることは間違いありません。
EVsmartブログではEVの車両価格をバッテリー容量で割った数値を挙げてコストパフォーマンスの指標として紹介することがあります。たとえば、BYDのコンパクトEVであるドルフィンは、44.9kWhのスタンダードモデルが363万円で「約8.1万円/kWh」。58.56kWhのロングレンジが407万円で「約7万円/kWh」です。ミニキャブEVは2シーターでも約243万円で20kWhですから「約12万円/kWh」とかなり割高。先進運転支援システムなどをてんこ盛りで装備したドルフィンに比べて、kWh単価が1.5倍ほどにもなっているのはいかがなものか。
なんとか「10万円/kWh」以下に価格を抑え、補助金を活用すればエンジン車より安い! を実現すれば、世の中の雰囲気が変わるだろうにと思いつつ……。
カーボンニュートラル社会の実現や、より多様なモビリティ社会構築のためにも、軽商用EVはとても大切な、そして魅力的なツールになることは間違いありません。価格を下げるのも技術の成果。三菱をはじめ、日本の自動車メーカー各社に「2025年はもっと頑張れー!」と声援を送っておきたいと思います。
取材・文/寄本 好則