『アリア limited』に標準装備される「BOSE プレミアムサウンドシステム」の真価とは?

6月に特別限定車『limited』の予約注文が始まって以来、なかなか詳細な全貌は見えてこない日産『ARIYA(アリア)』。標準装備することが発表されている「BOSE プレミアムサウンドシステム」は何がスゴいのか? モーターエヴァンジェリスト宇野智氏による、BOSE のシニアマーケティングマネージャー、鈴木玄氏へのインタビューです。

『アリア limited』に標準装備される「BOSE プレミアムサウンドシステム」の真価とは?

『BOSE Premium Sound System』に注目

急加速するEVシフト、さまざまな課題が浮き彫りになっていますが、筆者としては、EVがもたらす新しい可能性にも着目して、みなさまにお伝えしたいと思っています。

そんな中、今年6月4日(2021年)に新型電気自動車SUVである『ARIYA(アリア)』の日本専用特別限定車『日産 ARIYA limited』の予約注文開始の発表が行われ、一部の仕様が明らかになりました。そのプレスリリースを読むと「日産アリア専用のサウンドシステムである「BOSE Premium Sound System(プレミアムサウンドシステム)&10スピーカー」を標準装備しているため、まるでコンサート会場にいるような臨場感をご体感いただけます」の一文がありました。

BOSEのサウンドシステムを搭載したモデルは他にも多数あり、国産車ではマツダが採用しています。また、BOSEに限らず、トヨタはJBL、メルセデス・ベンツはブルメスターといった高級ブランドのオーディオシステムが搭載されています。したがって、日産アリアのプレスリリースの一文は、何も珍しいことではありません。しかし、筆者はそこに目を付けました。

アリアの発表の少し前に実施された、日産『ノート オーラ』(以下、オーラ)のプレス向け試乗会に参加したとき、オーラ専用の「BOSE パーソナルプラスサウンドシステム」が試乗車に搭載されており、BOSEの技術担当者からの商品説明を受ける機会がありました。

まずは『オーラ』のシステムをチェック

日産オーラの「BOSE パーソナルプラスサウンドシステム」には、専用設計のヘッドレストスピーカーを備える。

オーラはノートの上級モデルで、静粛性がより高められた上、新世代になったシリーズハイブリッド「e-POWER」のエンジンの回転制御がより静かになるようチューニングされ、モーター走行領域が広げられています。BEVにより近い走行フィーリングと静粛性のなかで、BOSEパーソナルプラスサウンドシステムから流れる音楽が臨場感にあふれ、楽器のひとつひとつ、音符のひとつひとつまでがはっきりとわかるような解像度の高い音だったことが強く印象に残りました。また、BOSEと日産は、開発の早い段階から「共同でスピーカーの設置位置やチューニングなどの開発を行なった」そうです。

その取材から、アリアもきっと肝いりのオーディオシステムであろうことが容易に推察できましたが、その割には「10スピーカー」と日産のフラッグシップEVのプレミアムサウンドシステムとして数が少ないなと感じ、共同開発の背景も気になったため、日産広報に問い合わせを入れてみました。

すると、日産がBOSEの担当者と個別のオンライン取材の場を特別に設けてくださいました。ご対応いただいたのは、BOSE シニアマーケティングマネージャーの鈴木玄氏です。

オーラのBOSEパーソナルプラスサウンドシステムは、「NissanConnectナビゲーションシステム」や「プロパイロット」、「ETC2.0ユニット」などとセットオプションとなっていて、価格は40万1500円。アリアの「BOSE プレミアムサウンドシステム」がどのような価格でオプション設定されるのかはまだわかりませんが、はたして、その真価はどうなのか。気になる点を鈴木氏に尋ねました。

BOSE シニアマーケティングマネージャーの鈴木玄氏。

10スピーカーは数が少ないのでは?

まずは、直感的に気になった「10スピーカー」は、プレミアムオーディオシステムとして数が少ないのではないかという点です。端的に質問すると、鈴木氏はプレスリリースでは公表されていなかった、日産アリア limited 専用システムのスピーカー構成を教えてくれました。

搭載されるスピーカーの種類と場所は、ご覧のとおりの5ヵ所の10スピーカーです。

日産 アリア limited のスピーカー配置図(画像提供:BOSE)

① 65mm中高音域用スピーカー☓2(ダッシュボード左右コーナー)
② 19mmネオジウムツィーター☓2(左右ミラーパッチ)
③ 165mmウーファー☓2(左右フロントドア)
④ 130mmネオジウムワイドレンジスピーカー☓2(左右リアドア)
⑤ 115mmウーファー☓2 アクースティマス ベースボックス(リアカーゴ)
※デジタルアンプは、リアカーゴ右サイドに設置

鈴木氏によると「フロントに低域用、中域用、高域用と3タイプのスピーカーを分けて配置する『フロント3ウェイ』であること。また、アクースティマス ベースボックスでリッチな重低音を再現した」のが特長とのこと。たしかに、フロント3ウェイを採用するモデルはそう多くないですね。

しかし、日産のフラッグシップたる高級SUV電気自動車のスピーカーが10個とは、いささか少ないように感じる方も多いのでは? たとえば、スカイライン現行モデルの「BOSE パフォーマンス シリーズ サウンドシステム」は16スピーカー構成となっています。さらに、プレミアムオーディオでは備えることが多いセンタースピーカーも付いていません。車内では、運転席では左側スピーカーより右側のスピーカーが圧倒的にリスナーからの距離が短くなり、センタースピーカーは音の定位のための大きな役割を果たします。スピーカーの数が多ければ多いほど良い音となる、というわけではないことは承知の上で、どうしてこのような構成になったのかを尋ねてみました。

その回答は「早い段階からスピーカーの設置場所などの設計に関わった。その中でアリアの室内の特性に合わせて、最良の音作りを追求した結果、スピーカーの個数は10個となり、センタースピーカーは不要となった」とのこと。

また、レイアウト図を見るとフロントのほうがスピーカー数が多く、前席重視の設計で、後席は音が劣ってしまうのでは? と気になったのですが「アリアの車室に合わせた最適にレイアウトされたスピーカーとデジタル信号処理による音響チューニングを施し、自然なサウンドステージが前席、後席のすべて体験できるようにした」と、10スピーカー&センタースピーカーなしでも「十二分にプレミアム!」を実現できたと理解できます。

車内はそもそもHi-Fiオーディオ再生が難しい環境

プレミアムなカーオーディオとは何なのか。それを説明するために、鈴木氏はオーディオとBOSEについて少し掘り下げて解説してくださいました。

部屋の中でのオーディオは、一定の間隔で配置されたスピーカーの中心で聴くことが基本となります。対して、クルマの室内はどの席に座っても左右非対称のスピーカー配置(運転席では、左側スピーカーが遠くなる)となり、広い面積のウィンドウは音の反射体になり、シートや天井、フロアマットなどは音の吸収体となり、Hi-Fi(原音に忠実な音)オーディオの再生が難しい環境となります。

スピーカーの音は直接音と反射音で構成される。(画像提供:BOSE)

しかし、BOSE創業者であるアマー・G・ボーズ博士(1929~2013)は、左右非対称のスピーカー配置ながら、リスナーとスピーカーの位置関係は常時固定できること(逆に、部屋の中でリスナー位置の特定は難しい)に着目し、それぞれのスピーカーからの直接音や反射音を測定して緻密に制御、さらにスピーカー位置を適切に配置して、信号処理とイコライザーを組み合わせたプレミアムオーディオシステムを開発したのでした。

車種に合わせて専用設計されたプレミアムオーディオが世界で初めて採用されたのはBOSE。世界初の採用車は、1983年発売のキャデラック セビル(2代目)でした。

2代目 キャデラック セビル 2代目 1981年型。(画像提供:GMジャパン)

EVはオーディオの音の良し悪しが如実に表れる

EVはエンジン車よりも圧倒的に静かで、走行時にはモーター音より、風切り音やロードノイズのほうが目立ち、この雑音を消すためにさまざまな工夫が凝らされています。特に、アリアのような高級車では、なおさら静粛性は高められます。この高い静粛性の中で聴く音は、エンジン車以上にオーディオの良し悪しを感じやすいものとなります。

このあたりの理解を深めるために、鈴木氏はボーズ博士が掲げた3つの「サウンドフィソロフィー(哲学)」について解説してくださいました。

BOSEのサウンドフィロソフィー

●Spatial(空間表現)
スピーカーの位置を感じさせない、包み込まれるようなリスニング体験を実現。原音に忠実で車室のサイズを感じさせない音場、まるでコンサート会場にいるかのような感覚と興奮をもたらす。

●Spectral(周波数特性)
すべての周波数帯域を忠実に再現。高音域は音楽に繊細なディテールを与え、中音域では自然なボーカルを再現、低音域はリッチで体を震わせるようなパワーをもたらす。

●Large Signal(大音量でのパフォーマンス)
フルオーケストラを大音量で聴いても、空間表現と周波数特性を崩さず、不快な歪みも起こさない。

このフィソロフィを具現するサウンドシステムが目指すのは「優れた音響設計のコンサートホールの特等席でクラシック音楽を聴くリスニング体験を再現すること」(ボーズ博士の理念)です。

BOSEの創業は1960年代。創業者のフィロソフィーは、EVに適した音響技術にも活かされたようですが、日産との共同開発、それも高級SUVでEVのアリアともなると、それは双方の意見がぶつかりあってしまったのではないかと老婆心ながら心配になりました。

この点について鈴木氏は「開発の早い段階から、日産と協力できたので、多くの方に満足いただけるオーディオシステムが実現できた」と、さらりと答えていただいたが、それを語る氏の表情からは、なんとなくそれは大変だったんだろうな、と感じてしまいました。

BOSEは、日産以外にも車両の開発時から協力してオーディオの開発も行っていますが、EV専用プレミアムとなると、まだまだ経験も少ない段階です。これまでに培った技術と製品をEVで構築するのは、さぞかし大変なことと推察します。

BOSEについて思い当たること

オーディオ好きでもある筆者は、鈴木氏の説明を伺いながらBOSEに関するいくつかの特長を思い出しました。

まず、騒音に強く、公共施設などでも多く採用されていることです。たしか、山手線のいくつかの駅ホームのスピーカーはBOSE。西新井大師で厄祓いをしてもらったとき本堂のスピーカーがBOSEでした。「坊主のお経がBOSEのスピーカーから流れてくる」というシャレなのかどうかはさておいて、騒音が大きい中でもしっかりと聞き取れる、破綻のない音を鳴らすのは、たしかな技術をもったサウンドシステムが必要でしょう。

もうひとつがノイズキャンセリング技術。BOSEは世界初のノイズキャンセリング機能を開発し、航空機パイロット用のヘッドフォンに採用されて革新をもたらしたことは、オーディオ好きはよく知っているエピソードです。

また、「合計◯Wの出力を誇る…」といったようなオーディオシステムのスペックを謳うメーカーは多いですが、BOSEはかねてより出力数を表に出していません。鈴木氏によると「大音量でのパフォーマンスを大切にするオーディオメーカーながら、出力数を明示しないのは、カタログスペック上の数値が実際の性能を表すものではないと言う信念に基づくものである」とのことでした。

BOSEは低消費電力で大きな音を生み出す高効率のスイッチングアンプを早くから採用しています。EVにとって、消費電力が少ないオーディオの搭載は無論望ましいことです。

EVは最高のオーディオルームになる!

もともとクルマは、オーディオルームとしてふさわしくない空間でした。しかし、これからのEVは違います。先駆者BOSEをライバルとする高級オーディオメーカーは無数にあり、各社はそれぞれがもつ技術を活かして、最良の音をEVで体験できるようにしてくるでしょう。この切磋琢磨は、音にこだわるユーザーにとってとても価値のあるすばらしい体験を提供してくれるだろう、という期待にもつながります。

また、この先続々とEVが登場していく中で、どのモデルを選ぶのかの判断材料に、プレミアムオーディオの良し悪しや好みなどが、内燃機関モデル以上に大きなウェイトを占めてくる方が増えていくのではないか、と推察しています。

また、日本の住宅事情では、家庭にオーディオルームを備えることができるのはレアケース。自宅には無理でも、クルマになら……という選択肢が、ますますアリになってくるでしょうね。

「未来が楽しみになってきた」……、どこかで聞いたことのあるフレーズですが、今回の「BOSE☓日産」の取材には、そんな印象を持ちました。

残念ながら、アリア実車での試乗や試聴はまだできない状況ですが、その機会が到来したら実際の音のレポートをお届けしたいと思います。

(取材・文/宇野 智)

この記事のコメント(新着順)2件

  1. アリア、オーラ、スカイライン(後期型の16スピーカー)を同じ場所で聴き比べしました。

    結論から言うと、
    スカイライン>>アリア>オーラ
    で、スカイラインが1つ抜けて高音質。
    アリアとオーラでは、オーラのほうが音の広がりの調整ができて多機能でしたが、
    音質自体はアリアのほうが高音質でした。

    これはオーラを悪く言うものではなく、どれも優れていますが、
    同じBOSEでもやはり車によってかけられるコストが違うのだなと感じたことです。

    これからはエンジン音を楽しむということも出来なくなってくるので、代わりに一層優れたオーディオの搭載を期待したいと思います。

  2. オーディオも最高ですが、無音で森を走ると自然の音がたくさん聞こえて贅沢な気分になります。

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この記事の著者


					宇野 智

宇野 智

エヴァンジェリストとは「伝道者」のこと。クルマ好きでない人にもクルマ楽しさを伝えたい、がコンセプト。元「MOBY」編集長で現在は編集プロダクション「撮る書く編む株式会社」を主宰、ライター/フォトグラファー/エディターとしていくつかの自動車メディアへの寄稿も行う。

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