【EV長距離対決】アリアNISMO B9 e-4ORCE 対 モデルYパフォーマンスで1000kmチャレンジ

日産のフラグシップEVである日産アリアNISMOとテスラモデルYパフォーマンスという日米電動SUVによる1000kmチャレンジ対決を行いました。スーパーチャージャーを使用するモデルYに対して、アリアは公共のチャデモ充電器を利用。どちらが短時間で走り切ることができたのかレポートします。

【EV長距離対決】アリアNISMO B9 e-4ORCE 対 モデルYパフォーマンスで1000kmチャレンジ

1000kmチャレンジの条件など

まず、1000kmチャレンジの前提条件などは以下の通りです。

【走行ルート】

<スタート>
東名海老名SA下り(神奈川県)

<折り返し>
アリア/山陽道加古川北IC(兵庫県)
モデルY/山陽道三木小野IC(兵庫県)
※ゴールまでの走行距離を1000kmに合わせるためモデルYは加古川北よりも約14km手前の三木小野ICで折り返しとする。

<ゴール>
東名海老名SA上り(神奈川県)

【走行条件】

●途中充電のための停車以外はノンストップで海老名SA上りを目指す。
●車内の空調システムは常にONにして快適な状態をキープ(アリアNISMOの場合22℃オートに設定。モデルYは21℃オートに設定)。
●追い越しなど含めて、制限速度+10%までは許容。
●渋滞や充電エラー、充電渋滞など、車両の問題以外についてはトータルのタイムから除外する。

【主要スペック】

2024日産アリアNISMO B9 e-4ORCE
●搭載バッテリー容量(グロス/ネット):91/87kWh
●EPA換算推計航続距離:373km(B9 e-4ORCE 20インチの数値を9割掛けして概算)
●最大充電出力/SOC 10-80%充電時間:130kW/33分
●装着タイヤ:ミシュランパイロットスポーツEV
●タイヤサイズ:255/45/R20
●空気圧:2.4 kgf/cm2(適正値2.4)

2022テスラモデルYパフォーマンス
●搭載バッテリー容量(グロス/ネット):78.4/75kWh
●EPA航続距離:459km
●最大充電出力/SOC 10-80%充電時間:250kW/33分
●装着タイヤ:ピレリP ZERO Elect(テスラ認証タイヤ)
●タイヤサイズ:255/35/R21(前)275/35R21(後)
●空気圧:2.9 kgf/cm2(適正値2.9)

充電など1000kmの走行をレポート

今回の検証では、アリアを私が運転し、モデルYは協力者の方に運転していただきました。結果として、アリアは5回の充電を行い、モデルYはスーパーチャージャー3回の充電で完走しました。充電回数ごとにそれぞれのEVの区間電費などのデータをまとめていきます。

【充電1回目】

日産アリアNISMO B9 e-4ORCE
●海老名SA下り→湾岸長島PA下り(150kW級急速充電器)
●走行距離:302.5km
●消費電力量:100%→17%
●平均電費:4.6km/kWh(217.4Wh/km)
●外気温:24℃〜28℃

テスラモデルYパフォーマンス
●海老名SA下り→みえ川越スーパーチャージャー(250kW級急速充電器)
●走行距離:309km
●消費電力量:100%→22%
●平均電費:5.88km/kWh(170Wh/km)
●外気温:24℃〜28℃

まず、この区間で注目するべきは、120km/h制限区間をがっつり走行するという、EVの電費という点で最も厳しい300km以上の区間を、どちらのEVも無充電で走破しているという点です。しかも湾岸長島PAとみえ川越SCのどちらも、ちょうど関東を出発した高性能EVの最初の充電スポットとして、非常に考えられた経路充電設置計画であることが伺えます。

ここまでかなりの区間で隊列走行を続けてきた両車種で明確な差が現れたのが電費性能です。モデルYの方が、1kWhで走行可能な距離が1.2km以上も長くなることから、モデルYの使用可能容量(ネット値)75kWhをフルで走り続けると、アリアよりも90kmも長く走れる計算となります。

ただし、アリアはネット値87kWhとさらに大容量バッテリーを搭載しているので、SOCベースだと、アリアは17%到着と、モデルYのSOC22%到着と比較しても、そこまで差がついていません。

いずれにしても、アリアと比較してモデルYの効率性がいかにして優れているかが見て取れる区間だったと思います。

【充電2回目】

日産アリアNISMO B9 e-4ORCE
●湾岸長島PA下り→加古川北IC(折り返し)→桂川PA上り(90kW級急速充電器)
●走行距離:305.5km
●消費電力量:85%→0%
●平均電費:4.8km/kWh(208.3Wh/km)
●外気温:24℃〜27℃

テスラモデルYパフォーマンス
●みえ川越スーパーチャージャー→三木小野IC(折り返し)→大津スーパーチャージャー(250kW級急速充電器)
●走行距離:306km
●消費電力量:78.5%→5%
●平均電費:6.1km/kWh(164Wh/km)
●外気温:24℃〜26℃

両車ともに折り返し地点を越えて、復路に入ってからの2回目の充電となりました。ちなみにモデルYはアリアよりも一個手前の三木小野ICで降りていますが、これはモデルYの場合スーパーチャージャーを利用するためにICを降りることで走行距離が伸び、海老名SA上り線到着までに1000kmを達成できるからです。

モデルYは想定通りの電費を達成して5%で到着。他方でアリアも0%到着と充電残量マネージメントは完璧であったものの、桂川PAの新電元製の90kW級の画面に、最大175Aに制限されているとのエラー表示。バッテリー電圧が350V程度だとすると、60kW強の出力になってしまいます。よってもう一基のABB製の90kW級に繋ぎ直すことで、期待通り70kW程度(=200A)の充電出力を発揮することに成功。150kW級で充電するために、最寄りの湾岸長島PAに到着できるギリギリで充電を切り上げました。

私自身、この1ヶ月ほどで3回ほど、新電元製の90kW級で同様のエラー表示を見かけています。

【充電3回目】

最大150kW級充電器には先客が……。

日産アリアNISMO B9 e-4ORCE
●桂川PA上り→湾岸長島PA上り(150kW級急速充電器)
●走行距離:109.8km
●消費電力量:35%→0%
●平均電費:4.2 km/kWh(238Wh/km)
●外気温:24℃〜27℃

テスラモデルYパフォーマンス
●大津スーパーチャージャー→浜松スーパーチャージャー(138kW級急速充電器)
●走行距離:199km
●消費電力量:47.4%→ ―0.61%
●平均電費:5.99km/kWh(167Wh/km)
●外気温:24℃〜26℃

モデルYはSOCほぼ0%で到着したものの、SOCが低いことから120km/h制限区間のスピードを上限いっぱい出すことをためらいました。他方でアリアも、先着のEVが150kW級を使用していたことで、しばらくは約70kW(=200A)でしか充電できず。モデルYのスーパーチャージャーにおける安定性と比較すると、かなり見劣りする結果です。

何よりも、アリアの場合は70kW(=200A)で充電しようが125kW(=350A)で充電しようが現状の時間課金システムによる充電料金は一緒です。充電出力によって充電単価が設定されているテスラと比較しても、充電スピードの安定性とともに充電料金の公平性という観点でも疑問を感じます。

【充電4回目】

日産アリアNISMO B9 e-4ORCE
●湾岸長島PA上り→浜松SA上り(150kW級急速充電器)
●走行距離:110.8km
●消費電力量:51%→14%
●平均電費:4.2km/kWh(238Wh/km)
●外気温:24℃

150kW級充電器で痛恨のエラーが発生して、やむなく青いマルチで充電。

すでにモデルYは3回目で最後の充電を終了していますが、アリアは電費と充電器の能力が劣ることで余分に充電する必要がありました。

また、浜松の150kW級で充電エラーが発生してしまい、何度か接続をやり直す状況が発生。なんとか15分間のブーストを終えて、再度充電セッションをやり直そうとしたものの、何度も充電エラー表示となり充電することができなくなりました。よって隣の90kW級である青いマルチで充電をする羽目になり、想定以上に充電時間を要してしまいました。

EVsmartの口コミを確認すると、私以外にも充電エラーが多数報告されています。

【充電5回目】

日産アリアNISMO B9 e-4ORCE
●浜松SA上り→駿河湾沼津SA上り(150kW級急速充電器)
●走行距離:115.8km
●消費電力量:59%→12%
●平均電費:3.3km/kWh(303Wh/km)
●外気温:23℃〜25℃

アリアの最後の充電スポットは1000kmチャレンジ終了直前の駿河湾沼津SA上りの150kW級です。海老名SAに辿り着けるよう4分間だけ充電を行いました。

【ゴール】

日産アリアNISMO B9 e-4ORCE
●駿河湾沼津SA上り→海老名SA上り
●走行距離:75.8km
●消費電力量:20%→0%
●平均電費:4.7km/kWh(212.8Wh/km)
●外気温:25℃〜26℃

テスラモデルYパフォーマンス
●浜松スーパーチャージャー→海老名SA上り
●走行距離:194km
●消費電力量:57.3%→3%
●平均電費:5.24km/kWh(191Wh/km)
●外気温:24℃→26℃

テスラの残量予想グラフが秀逸

1000kmチャレンジ対決の結果は、約35分の差でモデルYが先に海老名SAに到着しました。トータルの電費は、モデルYが172Wh/kmであるのに対して、アリアは233Wh/kmと、モデルYがはるかに優れた電費性能であることが見て取れます。

その上、モデルYは全ての充電スポットで安定した充電性能を実現したものの、アリアは充電器側の充電エラーであったり、さらには2台同時充電による充電出力配分が発生。

さらに、今回モデルYのドライバーはEVを所有していない方で、確かに私自身も充電残量マネージメントについていくつかアドバイスを行ってはいたものの、プラグ&チャージによる充電の簡単さも含めて、1000kmを難なく走破しました。

これはモデルYの大津SCから浜松SC間の充電残量予測のグラフです。追い越しなどの際に制限速度を最大10%許容しているということ、そして後半に大雨が降ってきたことによって、当初の予測値よりも若干下振れしているものの、やはりそれを考慮に入れると極めて正確な充電残量予測であることが見て取れます。この予測値を参考にすれば、私のようにEV経験豊富な人間でなくても、安心して長距離を走破することができるのです。

それに対してアリアでは、大まかな充電残量予測はナビ上に表示されるものの、120km/h制限区間をはじめとして、天候状態などを考慮されているようには感じません。もちろん事前に充電カードを作成しておく必要があったり、場合によっては充電エラーが発生する可能性なども考慮しておく必要があります。

いずれにしても、日本国内で購入できる電動SUV対決として日産アリアとテスラモデルYの1000kmチャレンジ対決は、スーパーチャージャーネットワークを含めたモデルYの安定性、それに対して、アリアの電費性能の低さ、というよりも公共のチャデモ充電ネットワークの信頼性の低さが露呈した格好となりました。

ただし150kW級の急速充電器を安定して使用できるようになれば、実はモデルYとアリアの長距離走破性能には大した差がないとも言えるかもしれません。やはり鍵は「急速充電ネットワークの安定性」であり、2024年の現時点でEVの購入を検討している方は、この安定性も購入の判断材料とするべきだと思います。

取材・文/高橋 優(EVネイティブ※YouTubeチャンネル

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