電気自動車の使い勝手は走ってみなけりゃわからない
YouTubeの「EVsmartチャンネル」は2018年くらいから開設していたのですが、記事を補足する動画を思い出したようにアップしてた程度で、あまり積極的に活用していませんでした。でも昨年末、EVsmartチームにテスカスさんが加わり、身体を張った検証動画を中心に、いろんな動画を発信してくれています。
9月15日に公開された最新の動画が「日産アリアで150kW・90kWの連続充電を検証!真夏の急速充電に耐えられる??」です。7月23日〜24日、長野県白馬村で開催された『JAPAN EV Rally(ジャパンEVラリー)白馬』に参加(レポート動画にリンク)した帰途、バッテリー容量66kWhの日産アリアB6リミテッドを、長野市内の最大出力150kWの急速充電器と、神奈川県の海老名SA上り線の最大90kW器で連続充電した結果をレポートする内容です。
【動画はこちら】
日産アリアで150kW・90kWの連続充電を検証!真夏の急速充電に耐えられる??
EVsmartブログの読者にはすでにEVオーナーであって、電気自動車の急速充電についての幅広い知識や感覚をお持ちの方が多いでしょう。でも「サクラが納車されて初めてEVオーナーになりました」とか、「EVに興味はあるけど充電とか大変そうで……」とEV購入の決断を迷ってらっしゃる方も多いはず。テスカスさんの丁寧な体当たり検証は、そういうEVビギナー&EV未経験者の疑問や不安を解きほぐす役割を果たしてくれる内容になっています。
また、ベテランEVオーナーの方にとっても、長野市のBMWディーラーに設置されている、東日本では唯一の「150kW器」で急速充電を行うチャンスは、そうそう作れるものではないでしょう。EV、そして急速充電の利便性や実力などは、実際に使ってみなければきちんと理解できません。
同じ編集部内にいる私が言うのも手前味噌ですが、テスカスさんが発信しているのは、いわば、日本のみなさんの身代わりとなった疑似体験を提供する検証動画が中心で、EVや急速充電について、正しい理解を拡げるために有意義な情報発信だと感じています。
連続した高出力急速充電でもしっかりと充電可能
検証結果は動画を視聴いただければわかるのですが。記事として、ことにEVビギナー&EV未経験者に向けて、ポイントをピックアップしておきたいと思います。
最初に、2回行った急速充電の結果について確認しておきます。
長野県長野市内の Nagano BMW 本社ショールームに設置されている最大150kW出力の新電元製急速充電器による充電出力(電力)推移のグラフです。
緑のラインで比較している「春」というのは、2022年4月18日に、埼玉県朝霞市内の新電元工業本社における検証時のデータです。今回検証時の外気温は33度、4月の検証時は20度前後でした。EV用のリチウムイオンバッテリーは「人肌くらい」が最も充放電性能を発揮しやすいとされていて、充電開始から20分くらいまで「夏」の方が高出力で充電できているのは、バッテリー温度の影響が大きいと思われます。
とはいえ、車載のプログラムで急速充電は最適に制御されているので、バッテリー温度が上昇した後半は逆転。30分間(厳密には30分手前で終了してますけど)の充電電力量は、「春」が約41kWh、今回の「夏」は約45kWhと、あまり気にするほどではない程度の差になっています。
連続して2回目の急速充電。長野から約277km、高速道路を走行して、東名高速海老名サービスエリア上り線の最大90kWの新電元製急速充電器による充電出力(電力)推移グラフです。
外気温は28度。途中渋滞もあり、およそ5時間半の高速道路走行後も、日産アリアの急速充電性能がフルに発揮されていることがわかります。
急速充電を正しく理解するためのポイントを解説
では、今回の検証結果を例示しながら、電気自動車の急速充電を正しく理解するためのポイントを挙げていきましょう。
出力は「バッテリー総電圧×電流」で決まる
2回目の急速充電。海老名SAの90kW器における、電流と電力の推移を確認してみましょう。
まず、電流値。充電開始から終了直前まで、ずっと200Aで流れ続けたことがわかります。
新電元の90kW器、仕様としては「出力電圧範囲=150~450V」、「出力電流範囲=0~200」となっています。つまり、最大電圧450V×最大電流200A=最大出力90kW(VA)の性能があるということになります。
一方、日産アリアのカタログスペックを確認すると、駆動用バッテリーの総電圧は「352V」となっています。これは、直列で使われている電池セルの定格電圧にユニットのセル数(アリアの場合96セル。つまり定格電圧は約3.7V)を掛けた数値です。EVの「電池残量」というのは電圧の推移と言い換えることができ、一般的なリチウムイオン電池はおおむね2.8V〜4.2Vあたりで変動します。
今回、充電器側からはずっと200Aの最大出力が流れていました。でも、「電力=電圧×電流」であり、電圧は車両側の「バッテリー総電圧」の値となります。つまり、充電器の仕様である450Vよりも低い電圧なので、充電器はフル出力でも70kW台の電力値となり、充電が進んで車両側のバッテリー総電圧が上がるにつれて、充電の電力値が増えているのです。
充電器メーカーの仕様などによっても異なりますが、新電元工業の機種では、90kW器の最大電流は200A、150kW器では350Aとなっています。
このあたりの詳細は、EVsmartブログのアーカイブ記事でも解説しているのでご参照ください。
【関連記事】
充電器の出力が50kWなのに電気自動車を50kWで充電できないのはなぜか?(2022年3月12日)
電気自動車のバッテリー(2015年12月29日)
急速充電の出力はEVからの要求で決まる
もうひとつ、理解しておきたいポイントが、急速充電の出力は充電器の性能だけで決まるのではなく、車両側からの要求によって決められているということです。
1回目、Nagano BMW 本社の150kW器における、電力を確認してみましょう。
使用した急速充電器の最大出力は150kW。ただし、日産アリアの急速充電は最大130kW対応とされているので、フル出力であれば130kWになって欲しいところではありますが、実際には116kWから60kWの範囲で、徐々に下がりながら推移しています。
高出力で充電すると、バッテリーには大きな電流が押し寄せることになります。おおむね、電流が大きいほどバッテリーの発熱は大きくなり、熱は電池劣化の大敵です。そこで、市販EVではバッテリー劣化を抑えるために急速充電の出力を制御して、急速充電器との通信で望ましい出力の要求を送っています。
急速充電時の出力を決めるためのプログラムは車種によって違うので、同じ急速充電器を同じ条件で使っても、実際の充電電力値は車種によって異なる、ということになるのです。また、「春」と「夏」で出力グラフの曲線が異なっているように、外気温や直前の走行状況など、おもにバッテリー温度の影響で充電出力は変わってきます。
そんなこんなを鑑みて、春でも夏でも150kW器30分間で40kWh以上の電力を補給することができた日産アリアの急速充電性能はかなり優秀だと評することができるでしょう。
同じ日産のEVでも、バッテリー容量62kWhとアリアの66kWhに近いリーフe+には、アリアに搭載されたバッテリー強制冷却のシステムがありません。今回、アリアは海老名の90kW器30分間で約36kWhを充電することができました。でも、冷却システムをもたないリーフe+では、かなり好条件で充電した検証結果(レポートはこちら)でも約29kWhに留まりました。
日産だけで考えても、電気自動車は着実に進化している、ということですね。
あと、動画の中でテスカスさんがOBD2のツールを使ってアリアのリアルなバッテリー残量などを計測しています。日産はもとよりメーカーはユーザーによるOBD2接続を推奨していないので、あくまでも自己責任、よい子はマネしないでね、であることをご承知ください。
ちなみに、OBD2接続ツールは私が30kWhリーフ、iPhone用に購入したWi-Fi対応のもの。テスカスさんは「Car Scanner」というアプリを使っているそうです。
そんなわけで、走ってみなきゃ、使ってみなきゃわからない電気自動車や急速充電の使い勝手を、EVsmartブログではテスカスさんの動画検証も含めてこれからも丁寧に発信していきたいと思っています。より多くのEVユーザーのみなさん、そしてEVビギナーのみなさんの参考にしていただければうれしいです。
(文/寄本 好則)
電気自動車は家での充電がメインですが長距離の場合、急速充電器のお世話になります。
日本の場合、電気の再販売が法律で規制されていて、これが急速充電器の設置に制限をかけています。
世界のEV化に追いつくためにも、法整備も含め国が主導でインフラを作って欲しいものです。
電気自動車への電気の販売方法、走行税など早急に法整備をしてEV充電ビジネスなど早急に決めてほしい。
風じ 様、コメントありがとうございます。
>>日本の場合、電気の再販売が法律で規制
規制はもちろんある業界なのですが、きちんと積算電力量計を付けて計測した上で販売するのであれば、kWh単位での販売に支障はないと聞いています。
国として欧米に負けないEV充電インフラ整備を真剣に考えていく時期だと思います。EVは単にクルマ単体としての性能の優劣が問われるだけでなく、どの様に優れたエコシステムを構築していくかが問われていきます。米国は関係各省庁が集まり、将来の脱炭素交通社会への青写真を90日以内にまとめていきます。
https://www.autonews.com/regulation-safety/four-us-agencies-unveil-transportation-decarbonization-blueprint
”敵は炭素であって内燃機関ではない???”などと訳の分からない事を言っているのでなく、日本としてどうゼロエミッション社会をいち早く構築し、次世代自動車競争に打ち勝っていくかを議論すべきと思います。