―10℃以下の北海道で車中泊検証
第一弾では、さいたま市から日本最北端の北海道・宗谷岬まで約1350kmの超長距離を移動(青森~函館はフェリーを利用)した際の電費や充電行程、走行性能などをレポートしました。第二弾では、私の所有するリーフを北海道で運用する私の父とともに、一晩暖房をつけっぱなしにして車中泊を行うと、どれほどの電気を消費してしまうのかという暖房による電力消費量テストを敢行しました。
※冒頭写真は念のために準備していたシールからリーフへのV2Vによる100V充電のイメージ写真。
最新のEVは、エアコンのヒートポンプシステムを搭載している車種が多く、熱を生み出すだけでなく移動させるという原理であることから、電気を熱に変換するだけのヒーターよりも電力消費量を減らすことが可能です。日産リーフ(ZE1)もBYDシールもヒートポンプ式エアコンを搭載しています。
ただし、ヒートポンプシステムの欠点というのが、外気温が氷点下以下の場合、その性能が極端に低下してしまう、もしくは極端な低温環境下においては動作しなくなるといった懸念があります。はたして、両車種のヒートポンプシステムは真冬の北海道における車中泊という極寒環境下においてどのような性能を発揮するのでしょうか。
まず、今回の検証に関する前提条件を列挙します。
●検証場所:江丹別(旭川から北に20-30km進んだ地域)
●検証時間:7時間(00時15分~7時15分)
●空調設定:リーフが21℃オート、シールは23℃オート
●ガラスルーフを含めた窓ガラスには断熱材を一切使用しない
●車外(地表)に温度計を設置し、正確な温度をモニタリング
●車載ディスプレイとともにOBD2経由で正確なバッテリー残量も計測
まず検証時間については、今回の「北海道遠征」でデータ計測した車中泊は全て夜間に実施(夜明けからの数時間を除き)しています。というのも昼間の場合は太陽光があるため、外気温が低かったとしても、ある程度車内温度が保温されることから、天候の状態によって検証結果が大きくブレてしまうからです。太陽の影響がない夜間の検証であれば、気温に対するエアコンの性能や消費電力を正しく検証することができます。
検証場所の江丹別は旭川の北側、やや標高が上がった場所に位置しており、道内でも気温が低下する地域として有名です。さらに車外温度や充電残量といった数値の計測についても、車両のディスプレイ上に表示される数値は四捨五入されてしまっていたり、計測場所が統一されていないことから、独自に信頼性の高い温度計を使用しました。
充電残量も、リーフもシールもOBD2とサードパーティー製のアプリを使用することで、かなり正確な充電残量やSOCを計測可能です。これも検証前と検証終了時点で記録しておきます。7時間の車中泊でどのくらい電力を消費したのか、そしてリーフとシールで消費量にどれほどの差が生じたのか。端的に結果を紹介します。
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【2017年製日産リーフ(40kWh)】
検証開始時点の状態
●SOC(車載ディスプレイ):78%
●充電残量(OBD2):26.2kWh
検証終了時点の状態
●SOC(車載ディスプレイ):40%
●充電残量(OBD2):16.0kWh
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【2024年製BYDシールAWD(82.56kWh)】
検証開始時点の状態
●SOC(OBD2):70.2%
●充電残量(OBD2):56.16kWh
検証終了時点の状態
●SOC(OBD2):58.8%
●充電残量(OBD2):47.04kWh
外に設置した温度計による外気温の変遷をグラフで紹介しておきます。気温が徐々に低下し、明け方にマイナス10.4℃まで低下しました。
この表は、両車種の車中泊テストの結果とともに、シールとテスラモデルYで実施した車中泊テストの結果の一部を比較したものです。
青で囲ったのが今回の江丹別での検証結果です。リーフの場合は1時間で1.46kWh、シールの場合は1時間あたり1.3kWhずつ減っていくようなイメージとなりました。
比較材料としてテスラモデルYでは、今回の検証の条件と近い一番右側の道の駅尾岱沼での検証において、1時間あたり1.3kWhという電力消費量。この比較からもシールとモデルYは全く同等の消費量であり、リーフは若干ではあるものの消費量が多いという結果といえそうです。
リーフの消費量が若干多い理由としては、ヒートポンプの効率と気密性(車体の断熱性)の低さが考えられます。まずヒートポンプの効率ですが、リーフは2017年製であり、2024年製のシールと2022年製のテスラと比較すると古めです。ここは最新のアリア、および2025年度に投入される次期型リーフを使用してどれほどの暖房消費量になるのか検証してみたいところです。
また気密性の低さですが、シールはフロントサイドガラスに二重ガラスを使用。モデルYはリアサイドガラスも含めて二重ガラス化されており、二重ガラスを採用していないリーフが不利な部分です。さらにドアの開閉の音でも分かる通りシールやモデルYは重厚感があり、ドアの厚さも含めて、リーフの方が気密性や断熱性が低いことで外気の侵入、おもに窓からの車内冷却を許し、結果として若干暖房消費量が増加したものと思われます。
また車中泊時の様子について、リーフもシールも設定温度で車内は非常に快適な温度に保たれており熟睡することができました。ただしリーフは後席を倒してもフルフラットにならないため、事前に段差部分を調整するマットレスなどを用意する必要があるでしょう。
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シールは陸別でも単独で車中泊再検証
また、シールについてはさらに寒さが厳しい陸別においても車中泊テストを実施しました。
検証開始時点の状態
●SOC(OBD2):58.1%
●充電残量(OBD2):46.48kWh
検証終了時点の状態
●SOC(OBD2):42.4%
●充電残量(OBD2):33.92kWh
この表は、今年のシールと昨年行ったモデルYの車中泊テストの結果の一部を比較したものです。青で囲ったのが陸別での検証結果であり、モデルYでは昨年検証した際の最も条件が近い結果を示しています。シールの場合は1時間で1.79kWh、モデルYの場合は1時間あたり2.44kWhずつ減っていくようなイメージとなりました。
この結果からもシールはマイナス20℃級の超極寒環境下ではモデルYよりも暖房消費量の効率が高いことが見て取れます。テスラはPTCヒーターを搭載していないため超極寒環境下ではモーターを駆動させることなどで熱を生成し、オクトバルブを通して空調用の熱に利用しますが、この熱の生成方法はマイナス20℃レベルの超極寒環境下では効率が低下するものと思われます。とはいえ世界広しと言えどもマイナス20℃級という超極寒環境になる時期や地域はほんのわずかです。よってごく一部の暖房効率性の悪化よりも、PTCヒーターを搭載しないことによる空間効率の最大化などの恩恵を享受してきたことになるわけです。テスラの設計思想の一端が垣間見られるでしょう。
北海道でリーフに乗る父の実感
次に、私が購入したリーフの現状についてお話ししましょう。リーフは現在北海道に在住する父が使用しています。かなり距離を走っており、走行距離は2025年2月時点で16.5万kmを超えています。
リーフに関する最大の懸念はバッテリー劣化でしょう。特に父は初期型リーフ(24kWh)を購入して、私の2017年製リーフ(40kWh)を使用するまで初期型リーフを使用していたのですが、やはりバッテリー劣化による航続距離や充電性能の悪化に悩まされていました。この初期型リーフのイメージによって、リーフ、ひいてはEV全体に「EVは電池がすぐに劣化してしまう」というマイナスイメージが付いてしまったと感じます。
ところが16.5万km走行後の2017年製リーフのバッテリー劣化率を確認してみると、おおよそ15.82%と、ようやくひと目盛りだけ「セグ欠け」が発生した状況です。ちなみにリーフに限らず日産のEVのバッテリー容量(SOH)を示すメーターは、最初のセグが約15%を示しており、その後の11セル分がそれぞれ一定割合、具体的には約7.73%ずつ減少していきます(グローバルで公表されているデータやユーザーの検証による数値)。つまり最初のセグ欠けというのは、それ以降のセグ欠けと比較して倍程度の重みを持つわけです。個人的にはこの表示の仕方はユーザーに誤解を与える可能性があるので変更するべきと感じます。
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いずれにしても、16.5万km走行してバッテリー劣化率が15.82%というのは、初期型リーフと比較してみると驚くべき改善です。確かにテスラ車と比較すると劣化の進行度合いがやや早いと感じますが、それでもバッテリーの冷却方法が空冷式(液冷による温度管理のシステムをもたない)ということ、また、北海道で運用する父の住居には基礎充電環境がないので基本的に急速充電中心の運用(OBD2経由の情報では、普通充電が338回に対して急速充電は3357回)であることを踏まえると、セル材料の変更やバッテリーマネジメントなどによって耐久性が向上している様子が見て取れるでしょう。
現在北海道で2017年製リーフを基礎充電環境なしで運用する父に、真冬の北海道で満足している部分と運用面の悩みについて聞いてきました。端的に箇条書きで紹介します。
【満足している部分】
●乗車前や車両を停車中にもエアコンを付けっぱなしにできる。特に犬を飼っているので短時間安全に車両を離れることができる。
●e-Pedal(ワンペダルドライブ)によってフットブレーキを使う頻度が大幅減少。特に凍結路での安心感が増す。
●16.5万km走行後でもメンテナンス面での出費がタイヤとワイパーブレード、ブレーキフルードなどの消耗品以外でほとんどなくお財布に優しい。
【運用上の不満や悩み】
●集合住宅に住んでいるので基礎充電環境が整備できず、遠出の際に満充電で出発することができない。
●真冬は電池温度が低くなり、自宅を出発後の1回目の急速充電のスピードが高速走行後でも上がらない。
●一部地域は急速充電が周辺数十キロに存在せず、リーフで行くことを躊躇することがある。
●電池劣化によって急速充電性能が低下。50kW充電器を使用して、私が使用していた頃は30分間で21kWh程度充電されていたが、現在は春秋の理想条件下でも15kWh弱程度がいいところ。
●電池劣化が理由なのか、充電残量の減り方の挙動が不安定な時があり、充電残量を目一杯減らすことに躊躇がある。(※これはもしかしたら何年間も普通充電で満充電にしていないことで、セルの電圧がばらつきすぎていることが原因かも? いわゆるキャリブレーションすると電圧差が一定程度改善されて充電残量急減などの現象は無くなる可能性はあります)
以上のような点を指摘していました。自分一人で夏場に使用する分には問題ないものの、やはり冬、ましてや北海道ともなると絶対的な航続距離の長さも心許なく、「新車であってもまだまだ万人にお勧めすることはできない」という意見には同意できます。さらにリーフはバッテリーの温調システムが採用されていないので、冬場は充電スピードも大きく制限されてしまいます。
とはいうものの、週末はリーフとともに道内をあちこち回って旅をしており、基礎充電環境がないながらも、割安なエコ給電なども利用しながら電気代は春秋などはガソリン車と比較しても半額程度。諸々の効率が落ちる冬でも1〜2割ほどは安価に運用できており経済的であると実感。
さらに16.5万km走行後でも約15%程度のバッテリー劣化を除くと、まだハード部分でガタが来ているところはほとんどなく、これまで所有してきた多くのガソリン車と比較しても、車両としての耐久性はピカイチとも評価。仮に次の車に乗り換える際もEVしか考えていないと話していました。
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また、リーフオーナーでもある私自身の意見として、やはり最も課題であると感じているのがソフトウェアの部分です。これは日産のフラッグシップEVであるアリアでも共通する部分ですが、「EVオーナーの気持ちにもっと寄り添ってほしい」という課題です。具体的に長距離運用の際、EVユーザーは何を考えるのか、どんな機能を実装して欲しいのかをいくつか列挙しておきます。
●都度走行時の外部環境下で目的地に充電せずにたどり着けるのか。その際にどれほどの充電残量を残して到着するのかを分かりやすく表示してほしい。
●充電が足りないのであればどこの充電ステーションで何分間充電すればいいのかを分かりやすく表示してほしい(もちろん急速充電器のスペックを考慮して出力の高い充電器へ案内するようなロジックは当然欲しいところ。欲を言えば充電器の休止情報や混雑状況も考慮して、別の充電ステーションの提案などの機能実装も見据えて欲しい)。
●充電時間はカタログスペックと乖離がないように電池温度のプレコンディショニング機能を実装すべき(アリアは装備済み)。またその際にルート情報が連動されていることでユーザーが電池温度を気にすることがないように自動的にプレコンディショニング機能が起動するようにして欲しい。
これらの不満点が2025年度に導入が発表された次期型リーフでどれほど改善されているのかに注目しています。世界における量産EVのパイオニアである、日産の奮起に期待したいと思います。
取材・文/高橋 優(EVネイティブ※YouTubeチャンネル)