さいたま=金沢の往復走行レポート
まず今回使用したモデル3のスペック情報を簡単にまとめておきます。
●車両グレード:2022テスラモデル3ロングレンジ
●搭載バッテリー容量(グロス/ネット):78.4/72kWh(新品状態のネット値は約75kWh)
●航続距離テスト結果:571km(外気温平均26℃)
●最大充電出力/SOC 10-80%充電時間:250kW/33分
●装着タイヤ:ミシュラン CROSSCLIMATE 2(235/40/R19)
●空気圧:2.9(適正値:2.9)
今回2022年製モデル3の実力を試すために埼玉から石川県金沢市の往復1000kmを走行することにしました。往路では高速道路中心、復路では峠道を含む一般道中心で走行しました。はじめに、電費や充電セッションの様子を区間ごとにレポートします。
① さいたま市街→道の駅KOKOくろべ(100kW級急速充電器)
・走行距離:367km
・消費電力量:90%→16%
・平均電費:153Wh/km(6.54km/kWh)
・外気温:27〜30℃
目的地の金沢市へ向かうのは、関越〜上信越道〜北陸自動車道の上越ジャンクション経由で日本海側に出てしまい、そこからは国道8号線が非常に走りやすいため、高速を降りて一般道ドライブを楽しむルートを選択。若干充電が足りない可能性があったため、道の駅KOKOくろべに寄って注ぎ足し充電を行いました。
この区間で注目するべきポイントが2つあります。まず高速中心の走行シチュエーションでも、電費性能が153Wh/km(6.54km/kWh)と非常に優れていた点です。特に今回検証に使用した車両はオールシーズンタイヤを装着しており、かつややハイペースで走行したことで電費の悪さを懸念していましたが、それ以上にモデル3自体の効率性の高さが上回る結果となりました。正直、この効率性を上回る日本国内で購入できる市販EVは存在しないというのが個人的な実感です。
次に、数ヶ月前に検証(関連記事)したアリアB9 e-4ORCE Limitedでも立ち寄った道の駅KOKOくろべには100kW級の急速充電器が2口設置されている点です。チャデモアダプターを使うモデル3での最大充電出力は50kWとなりますが、このエリアではとくに2口設置の安心感が貴重なスポット。国道8号線沿いということもあり、24時間365日トイレ休憩ができることなど、経路充電として最適な立地にあるという点で、北陸方面に向かう際は重宝する充電スポットです。
② 道の駅KOKOくろべ→金沢スーパーチャージャー(250kW級急速充電器)
・走行距離:97km
・消費電力量:30%→13%
・平均電費:126Wh/km(7.94km/kWh)
・外気温:27℃
金沢スーパーチャージャーまでは国道8号線を中心に走行し、電費性能は126Wh/km(7.94km/kWh)と素晴らしい電費を記録。埼玉から金沢まで464km走行し、総合電費も147Wh/km(6.8km/kWh)という電費を達成しました。
ただし、北陸方面のEV運用で気になるのは何と言っても冬場の電費でしょう。ヒートポンプを搭載するEVにおいて最も電費に悪影響を及ぼすのは、暖房使用以上に、積雪による転がり抵抗の悪化の方です。いずれにしても、機会があれば冬場に同じルートを走行して、どれほど電費が悪化するのか、そしてそれによる充電回数などがどのように変化するのかをレポートしようと思います。
③ 金沢スーパーチャージャー→大宮スーパーチャージャー(150kW級急速充電器)
・走行距離:396km
・消費電力量:100%→9.66%
・平均電費:158Wh/km(6.33km/kWh)
・外気温:26〜27℃
復路は日本海側を通らずに、高山方面に向かい安房峠経由で長野県松本市へ。その後佐久市街から上信越道に乗ってさいたま市街に向かうというルートを選択しました。北陸道を使用するよりもやや時間を要するものの、走行距離をかなり短縮可能であり、よって途中充電することなくさいたま市街の大宮スーパーチャージャーにたどり着くことができています。
当然と言えば当然なのですが、私は普段SUVのモデルYを運転しているので、モデル3のハンドリングや軽快感は安房峠などの峠道をより気持ちよく走り抜けられることを実感しました。
ちなみに、今回検証した2022年製のモデル3ロングレンジは、2023年12月から日本国内で納車をスタートしている、いわゆるハイランドと比較しても、同じLGエナジーソリューション製の78.4kWhバッテリーを搭載。私自身が検証している航続距離テストの結果で、電費性能もほとんど変わらないことが判明しています。
同じバッテリーなので充電性能も全く変わりません。その一方でハイランドでは乗り心地がわずかにマイルドになっていたり、特にリアガラスも二重ガラス化したことで静粛性が向上するなど、車両の完成度はさらに高まったものの、EV性能という面では大きな差はないのが実態です。
モデル3の中古車はオススメなのか?
次に、2022年製モデル3が中古EVとしてオススメであるのかどうか考えます。テスラをはじめとする中古のEVを購入する上で最も注視するべきはバッテリー劣化だと思います。
テスラのバッテリー劣化を正確に知るためにはOBD2経由で「Scan My Tesla」というアプリから情報を参照するのがいいでしょう。
注目するべきは3段目の真ん中「Nominal Full Pack」と4段目の左「Full Pack When New」の項目です。Nominal Full Packとは、現時点で、SOC100%から完全に電欠するまで電気を使い果たした際に使用可能な電力量を指します。Full Pack When Newとは文字通り、新品時に使用可能な電力量を指します。よって、この両数値の差が現時点におけるバッテリー劣化を示すことになります。
つまり、このモデル3ロングレンジのバッテリー劣化率は約4.06%ということになります。EVのバッテリー劣化に大きく影響するのがCレートの高い急速充電でしょう。これは個人的にさまざまなデータを見ている感覚値となりますが、テスラ車において2〜3年という短期的なスパンで大きくバッテリーが劣化した個体に遭遇したことはありません。
ただし、中長期的には、急速充電回数によってバッテリー劣化の進行度合いが変わってくるため、特に年式が古いEVを購入する際は販売業者に「Scan My Tesla」のデータを確認してみるなど、少し注意したほうがいいでしょう。
とはいうものの、テスラが公式に発表しているバッテリー劣化率のデータを見てみると、米国における廃車までの平均走行距離と言われている20万マイル(約32万km)走行後でも、モデル3とモデルYは15%ほどの劣化率。さらにモデルSとXでは12%の劣化率に収まっているとしています。よって日本国内で中古のテスラ車を購入したとしても、20%も劣化した車両を購入する可能性は限りなく低いと言えるわけです。
特にCレートの高いスーパーチャージャーでの急速充電を多用する場合は、中長期的に普通充電主体の車両と比較してもバッテリー劣化が進行する傾向があります。実際にテスラのデータを見ると、距離数が伸びるとともに標準偏差が大きくなっています。急速充電を多用する車両のバッテリー劣化率が中長期的に進行しているのかもしれません。
最後に、現在のモデル3の中古車価格を見ていきましょう。大手中古車サイトのカーセンサーを見てみると、今回の2022年製ロングレンジの車両本体価格は概ね360~380万円程度で推移しています。また、バッテリー容量の少ないRWDグレードは330~350万円と、ロングレンジとの価格差が小さく、ロングレンジの方がコスパが高いと言えそうです。
現在のハイランド世代の2024年製モデル3ロングレンジは621.9万円、RWDグレードでも531.3万円です。ここから令和5年度のCEV補助金を差し引くと、ロングレンジは実質536.9万円、RWDグレードも実質466.3万円となり、モデルイヤーで2年落ちの場合、その値落ち率はマイナス20%程度。新車を購入するには手が届かないが、それでもテスラ車を購入したいという方は、この際2年落ちの中古車の購入を検討してもいいのではないでしょうか?
さらに、テスラジャパン公式の認定中古車では、9月22日時点で2022年製の1.1万km走行したRWDグレードが390.5万円で販売されています。確かに認定中古車だと数十万円高額であることは間違いないものの、販売前にテスラが公式に整備点検してくれるという点、および認定中古車限定保証として1年2万kmが基本車両限定保証に追加される点を加味すれば、そこまで大きな差額ではないとも感じます。
また、個人的に中古テスラ購入を検討する上でアドバイスしたいのが、2021年モデル以降を購入するべきという点です。モデル3は2021年モデルから中国上海製造に切り替わっており、製造品質が大幅に改善しています。さらにスタンダードレンジプラスグレード(現在のRWDグレードに相当)はLFPに切り替わっており、耐久性が向上している点などを含めると、2021年以降の車両を購入した方がいいというのが個人的見解です。
さらにもう一点、中古テスラ購入の際に注意するべきは延長保証が受けられないことを理解しておく必要があります。テスラジャパンは延長保証プログラムを提供しており、基本車両限定保証の4年8万kmを超える前に追加料金を支払うと、2年4万km延長され、合計6年12万kmが基本車両限定保証の保証期間となります。ただし、認定中古車を含めて、すべての中古テスラ車に対しては延長保証は適用できません。2年4万kmの延長保証分の追加の安心を買いたい方は新車で購入する必要があるということです。
いずれにしても、新車を購入するのか、サードパーティー経由で中古車を購入するのか、もしくはテスラ認定中古車を購入するのかで、受けられる保証内容が変わってくるという点は、テスラを購入する上で理解しておくべきポイントといえるでしょう。
ともあれ、バッテリー劣化やEV性能という観点で、2021年製以降のモデル3が魅力的であることが今回の遠征でも確認できました。新車購入の際のCEV補助金が今後いつまで続くかわからない中、バッテリーの耐久性に定評のあるテスラ車を中古で購入するという選択肢はますます広がっていくのかも知れません。
取材・文/高橋 優(EVネイティブ※YouTubeチャンネル)