「1000kmチャレンジ」の前提条件
テスラのフラグシップセダンであり、2023年に納車がスタートしている新型モデルSで「1000kmチャレンジ」をレポートします。チャレンジに使用したのは、デュアルモーターのAWDグレード。テスラは公式にはバッテリー容量を公開していませんが、推定で98.4kWh。欧州WLTP値の航続距離は634km(実用に近いEPA換算推計値で約566km)で、車両価格1296万9000円(2024年2月9日現在)の超高級EVです。
まず、私が自身のYouTubeチャンネルで行っている「1000kmチャレンジ」で共通の前提条件は以下の通りです。
【走行ルート】片道約510km
東名高速海老名SA下り(神奈川県)
↓
山陽自動車道三木小野IC(兵庫県)
↓
東名高速海老名SA上り(神奈川県)
【走行条件】
●充電のための停車以外はノンストップで往復しゴールの海老名SA上りを目指す。
●車内の空調システムは常にONにして快適な状態をキープ。
●追い越しなど含めて、制限速度+10%までは許容範囲として走行。
●渋滞や充電エラー、充電渋滞など、車両の問題以外についてはトータルのタイムから除外。
●車種それぞれのオドメーターとGPS上の距離を補正する。(今回のモデルS・19インチスタッドレスタイヤ装着の場合はズレがほとんどなかったので補正なし)
このルールに従って、今まで数多くの市販EVで1000kmチャレンジを行ってきました。
スーパーチャージャー2回の充電で走破
では、今回のチャレンジの結果を端的に紹介していきましょう。まず、通常は海老名SAにて100%まで充電してから出発するのですが、新型モデルSとモデルXの場合、駆動用バッテリーの電圧が450Vをオーバーするため、チャデモ急速充電器で充電できないケースが多く、最寄りの厚木スーパーチャージャーで100%にしてから海老名SA下りを出発しているため、98%での出発となりました。
以下、充電を行った区間ごとのデータです。
【充電1回目まで】
海老名SA下り→大津V3スーパーチャージャー(250kW級急速充電器)
●走行距離:393km
●消費電力量:98.0%→5.61%
●平均電費:4.61km/kWh(217Wh/km)
●外気温:7℃〜-2℃
1回目の充電は、滋賀県大津市の大津スーパーチャージャーで行いました。海老名SAからの走行距離は393km。新名神の草津田上ICから2kmほどの場所に立地しています。
ここでは、約25分でSOCは68.9%まで充電しました。充電電力量は約62kWh。テスラ車&スーパーチャージャーの威力がわかる数値です。ただし、気温が氷点下まで下がったこともあり、電費はかなり厳しい数値でした。
【充電2回目まで】
大津スーパーチャージャー→三木小野IC→みえ川越V3スーパーチャージャー(250kW級急速充電器)
●走行距離:308km
●消費電力量:68.9%→-0.29%
●平均電費:4.81km/kWh(208Wh/km)
●外気温:0℃〜5℃
折り返し地点を早々に通過し、2回目の充電スポットはみえ川越スーパーチャージャーです。ここは2023年末にオープンしたばかりのスーパーチャージャーであり、伊勢湾岸自動車道沿いのカインズホーム駐車場内にあるために、経路充電にとって利便性が高い充電スポットです。
ここでは30分間。0%から75.1%まで、約74kWhを充電しました。チャデモ規格の急速充電器&車両では望めない充電量です。
充電残量は0%で到着したものの、このモデルSには0%より下に4kWh以上のバッファーが存在することから、私にとっては想定内の充電残量マネージメントでした(もちろんギリギリ運用の推奨はしません。特に降雪地域などでは余裕を持った充電計画を!)。
この区間の電費推移グラフを確認すると、やはり前区間同様、EPA基準(推移グラフの上の白線)と比較しても電費がかなり悪いことが見て取れます。
英語表記ですが備考欄には次のような注記がありました。
●冬場による暖房や空気抵抗の増加によって9.1%も消費量が増加している。
●110km/h以下で走行していれば2.9%消費量を削減できた。
●標高を登ったことで10.2%電力を余分に消費、標高低下によって10.6%電力を節約できた。
このようなレビューを確認することで、例えば同じようなルートを定期的に走行するユーザーとしては、なぜ今回の走行では前回よりも電費が悪かったのか、良かったのかの理由が可視化されるのもテスラ車の特長です。EVユーザーに親切、そしてEVユーザーを教化する良いツールであると思います。
【ゴールまで】
みえ川越スーパーチャージャー海老名SA上り(ゴール)
●走行距離:311km
●消費電力量:75.1%→1.32%
●平均電費:4.55km/kWh(220Wh/km)
●外気温:3℃〜5℃
海老名SA直前で走行距離1000kmを達成しました。海老名SAには充電残量1%で到着。この海老名SA到着時点での充電残量が少ければ少ないほど、最後の充電時間を短縮することができるので、総合的なタイムを短縮するためには綿密な充電残量コントロールが求められるわけです。今回は、その点でもかなり上出来だったと言えるでしょう。
秀逸なテスラの充電残量予測システム
今回の検証で改めて注目していただきたいのが、テスラ車が備えている充電残量予測システムの優秀さです。簡単に言うと、目的地までの充電残量予測と実際に使用した充電量との乖離をわかりやすいグラフで示してくれる機能です。
表示されるグラフには「Rated」と「Trip」という基準が異なる2種類が存在。Ratedの場合は「EPA航続距離と比較した実際の電費との乖離」を、そしてTripについては「外気温や標高差、速度制限などを総合的に勘案してテスラが独自算出した電費予測と実際の電費との乖離」を可視化してくれます。
この画像は、今回走行中のRatedのグラフです。ご覧の通り、EPA基準の電費予測と比較して、実電費が大きく低下してしまっていることが見て取れます。これは新東名の120km/h制限区間が長いこと、および外気温がマイナス2℃という環境下による暖房消費量の増加が要因と考えられます。世界的にみて最も基準が厳しく実用値に近いとされるEPAサイクルであったとしても、実電費とこれほど乖離がある点は、EVの長距離運用において注意する必要があると思います。
実は、私のミスで、最終区間以外Ratedしか撮影することができていなかったのですが……。表示フォーマットを変えたよりわかりやすいグラフで、最終区間のRatedとTripのグラフを比較してみます。
Ratedのグラフ
Tripのグラフ
前述の通りRatedではEPA基準の電費性能を大きく下回っていることが見て取れるものの、Tripに関しては、むしろ想定よりも僅かに電費性能で上回っている結果となっています。この最終区間は新東名120km/h制限区間がフルに含まれており、速度上限で走行しています。それでもなお、極めて正確な充電残量予測をテスラが行っていたことが確認できるわけです。
まさに、この充電残量予測の正確性こそ、さまざまなEVの長距離テストを行う上でテスラに驚かされる部分であり、テスラ以外のほとんどのEVでは、これほど正確な予測ができない、そもそも到着時の充電残量予測という機能すらないというEVも存在します。
長距離運用が多いEV購入検討者にとっては、テスラ車ならではの「充電残量予測の正確性」という観点も、安心なEVを選ぶ上で重要な点であると感じます。
チャレンジ史上初の10時間切りを達成
トータルの所要時間は9時間46分と、私がこれまで行ってきた1000kmチャレンジの中で最速タイムを更新しました。
すぐ横の欄に、2019年製のモデルS 100Dの結果を記載していますが、概ね1時間のタイム短縮に成功していることがわかります。
やはりこれは、充電性能の大幅な改善(充電時間は30分以上短縮)とともに、パワートレインの刷新による電費性能の改善が要因と考えられます。2019年式の217Wh/kmと比較して、今回の新型モデルSでは215Wh/kmとほとんど変わらないものの「最低気温マイナス2℃と冬場の検証」であったことや「より転がり抵抗が増すスタッドレスタイヤを装着していた」点を考慮に入れれば、テスラの進化が見て取れます。ただし、2019年製の検証の際は雨が降っていたことから、通常より電費が悪化していた点は同時に押さえておくべきポイントであるとは思います。
スーパーチャージャーの強みを再確認
いずれにしても、今回の新型テスラモデルSの1000kmチャレンジを通して実感したことは、なんといっても、テスラ専用の経路充電ネットワークであるスーパーチャージャーによる「安心感」です。
私自身、テスラオーナーとなって3年が経過、すでに3台のテスラ車を乗り継いできて、次のような強みを実感しています。
●1箇所に4基以上の充電器が併設。
●24時間365日開放されている充電ステーションが多い(特に経路充電スポット)。
●充電器を車両に差し込むと、認証作業を一切必要とせずに充電がスタート、充電料金はあらかじめ紐づけているクレジットカードから自動決済。
●バッテリーのプレコンディショニング機能によって、最大250kW級、SOC10-80%の充電時間30分以内という高い充電性能を常に発揮可能。
●その上、テスラの高精度の充電残量予測によって、ドライバーが曖昧な予測に頼った充電計画を考える必要がない。
これらの観点は、私のようなEV所有歴の長い人間だけではなく、EV初心者の方にとって、極めて安心感のある設計であると思います。おそらく、私以外のEV初心者に新型モデルSの1000kmチャレンジをやってもらっても、非常に似たようなタイムを出せると思いますし、逆に、それ以外のEVでは、タイムに大きな差がつくことも間違いありません。
EVの所有歴が長くなると、「考えて使いこなす」といった考えになりがちですが、EVを普及させるのであれば、「何も考えなくても(勝手に)使いこなせる」のが理想的であるはずです。その意味において、テスラは国内で販売されているEVの中では圧倒的に、「何も考えなくても使いこなせる」EVに仕上がっているわけなのです。
取材・文/髙橋 優(EVネイティブ※YouTubeチャンネル)
車種別の充電スコア表を見ると、30分程度の誤差はあると思うので、上位6車種は同じ程度のスコアと考えてよいと思います。その中で注目したいのは、バッテリ容量です。100kWhと80kWh程度の車種がありますが、結果はそれほど変わらないので、80kWhくらいが上限と考えてよいのではないでしょうか。バッテリ容量が多いと車重が重くなり電費にマイナスなので、それくらいがバランスがよいと思います。
もう一点注目したいのは、1回の充電時間です。CHAdeMOで時間がかかるのは仕方ないですが、Model 3とModel Yで1回15分程度で終えているのは、充電時間が気にならない段階に近づいています。長距離走行していて、15分程度なら休憩を入れるでしょう。充電回数も2〜3回なので2〜3時間に1回休憩を入れることになります。平均車速100km/時でこの程度の充電時間と充電頻度なら、ICEと比較してもさほど変わらないと思います。
個人的には充電時間は15分位がいいと思います。30分は長すぎます。充電効率を考えるなら、SOC10%からスタートして15分が理想的です。ただそうなるためには、充電器と車体の充電出力が150kWが必要でしょう。
1000kmは長すぎますが、500kmを15分の充電2回で走行できるなら十分実用に近づくと思います。このスペックを200万円代で販売できるなら、EVの普及率は上がり、高速充電器も増えていくと思います。
>制限速度+10%までは許容範囲として走行。
スピード違反しておおっぴらに犯罪告白はいかがなものか
約350km前後走る毎に
98.0%→5.61%
68.9%→-0.29%
75.1%→1.32%
ギリギリの充電残量まで走ったところで丁度スーパーチャージャーに到着、充電してて、慣れた人じゃないと厳しいんじゃないかね。
想定が少し狂ったら大変そう。
HVなら何も考えなくていい。
2019年式と比べると、気温が下がり平均速度が10km/h近く上がっても電費がほぼ変わらない点は進化を感じました。
一方でタイヤサイズが21から19インチに小さくなっていますが、(スタッドレスであることを考慮しても)インチダウンによるプラス影響も小さくないように思います。気温やタイヤ、速度などの条件を揃えた際の違いが分かるような検証も期待しています。