電気自動車で、走行可能距離すなわち航続距離を超える長距離を移動する際には、必ず充電計画を立てます。その時に、途中で電気が足りなくならないように計画しているわけなのですが、予定よりたくさん電気を使ってしまうことがあります。この使い過ぎた電気の量がちょっとなら良いのですが、余裕分を超えてしまうと予定していた充電スポットにたどりつけず、電欠の可能性が出てきます。今は急速充電スポットが日本国内でも6000か所以上ありますので、どんなにマイナーな(!失礼)ところに行っても、近くの急速充電器を探すことは簡単なはずですが、あとちょっと、と思って無理をすると電欠になってしまうわけですね。
予定より電力消費が多くなる理由には、以下のようなものがあります。
- 気温が低く、暖房を使用している。車種により冬季の暖房を使用した場合の電費は異なりますが、私の車では満充電で夏380km走行できるのに対し、冬は316km程度になります。目的地まであと10km、航続距離の表示が11kmだった場合、あと1km余裕があるはずですが、冬は10kmの実走行で12km分の航続距離を消費しますので、電欠してしまいます。また、モデルSの場合は暖房以外にもバッテリーヒーターも電気を消費しますので、考慮に入れる必要があります。
- 走行速度。車が一定の距離を走行するために消費する電力量(ガソリン車の場合はガソリン)は、速度の二乗に比例して増加します。例えば80km/hと100km/hでは約1.6倍。100km/hで走行していて電欠の可能性がある場合、速度をたった10キロだけ落として90km/hにするだけで、電力消費を19%節約できるのです。
- 目的地の標高が現在地より高い。例えば箱根ターンパイクの箱根小田原本線を登ると、距離は13.8km、標高差は981mですが、私の車では1m標高が上がるたびに航続距離が0.037m程度減少しますので、このルートを走行すると、実際には13.8 + 981 x 0.037 = 50.1km分の航続距離を消費します。逆に1m下りる場合は0.021m航続距離が増えますので、同じく箱根ターンパイクを下った場合には、13.8 – 981 x 0.021 = 6.8km分、航続距離が増えてしまいます。
- 向かい風。例えば東京では風速が13m/sすなわち46.8km/hに達すると強風注意報が発令されますが、これが向かい風だとそのまま速度に効いてきます。実際風は弱まったり向きが変わったりしますので、例えばその半分の23.4km/hの向かい風がコンスタントに吹いていたと仮定すると、100km/hで走行している場合、実際に車が受ける空気抵抗は123.4km/h相当となり、100km/hで走行していた場合と比べて1.5倍以上にもなります。
これらの理由の中で、速度は出しても制限がありますし、自分でコントロールができます。標高は通常、上りがあれば下りもあります。また風の方向などは比較的しょっちゅう変化していることも多いです。すなわち、通常気にして運転すべきは暖房であり、危なそうだな、と感じたらまず速度を少し落としてみる対策で、ほとんどの電欠は防ぐことができるのです。
もう一点、私が電気自動車の運転をしていて、絶対電欠しないために必須だと思っている機能をご紹介したいと思います。それは、正確な航続距離計です。
理想の航続距離計とは何でしょうか?例えば今まさに、箱根ターンパイクを登り始めたとします。航続距離計は、今まで200km前後を表示していたのに、急に100kmに減少してしまったとしたら、それは正確なのでしょうか。確かに、箱根ターンパイクのような道路が「永遠に続けば」、先ほどの計算では、本来走行できるはずの距離の半分から1/3くらいしか走行できなくなりますので、100kmと表示してもおそらく正確なのでしょう。実際、このような方式を採用している車は多く、ガソリン車やほとんどの電気自動車がこのような基準で航続距離を表示しています。
テスラは違います。上記の基準、すなわち「現在の状況が永遠に続くと仮定した場合の航続距離」も表示できますが、「現時点で、平地で100km/h程度で暖房OFFで走行した場合の航続距離」が標準で表示されており、標準値と呼ばれています。標準値は増加はせず、2km以上一気に減少することもありません。例えば先ほどのターンパイクの例では、上り始めても航続距離計は200km近辺から急には変化せず、0.5km走行するごとに1km、すなわち倍の速さで減少するだけです。
この標準値、実はバッテリーの残量に厳密に比例しています。バッテリーの残量を%で表示する代わりに、kmに変換して表示してくれているだけなのです。しかし、これが大きな安心感をもたらします。この写真を見てください。
これは私が先日、航続距離の残り0km、すなわち電欠寸前でスーパーチャージャーに到着したときの写真です。なぜ電欠しないか、それは、数字が1ずつ減っていくからです。カーナビを見れば、目的地まであと正確に何キロあるかは分かります。そして、それと比較して標準値がその距離より多ければ、夏なら100%絶対にたどり着けるのです。冬の場合、実際この写真撮影時は暖房は切っていますが、右の電費計が200Wh/km(=標準値の基準ライン)を上回っていることからもわかるように、バッテリーヒーターがなけなしの電気を食べています。しかし、それでも標準値の1.15倍程度。すなわち目的地まで5.5kmなら、標準値7kmあれば絶対に電欠はあり得ません。
この絶対に、というところに注目してください。誰でも、標準値で表示された数字を1.2倍して、それをナビで表示されている実距離と比較することは暗算でできます。その時に標準値の1.2倍のほうが実距離を超えてさえいれば、落ち着いて走行すれば目的地または次の充電スポットへの到着は問題なくできるのです。
テスラの、バッテリーの残量を正確に予測するアルゴリズムは、他社の電気自動車でも可能なのかも知れません。しかし、一見不正確に見えるこの標準値という仕組みは、非常にユーザーエクスペリエンスが高く、簡単にかつ安心して電気自動車を使いこなせる必須の機能であると言えると思います。