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充電計画
今回の旅行の宿泊は、奥志賀ではホテルグランフェニックス奥志賀、軽井沢では旧軽井沢KIKYOです。往路は関越道→上信越道を信州中野ICで降りて奥志賀へ行くルートで約282km、奥志賀→軽井沢は約125km(上信越道経由)。帰路は最初の逆パターンで約162km、計569kmの予定。私のテスラモデルXのおおよその夏の航続距離は390kmで、冬は325kmくらいと見なければなりませんので、途中で充電しないと帰ってこられません。
ホテルグランフェニックス奥志賀には残念ながら現時点で電気自動車の充電器はないのですが、お隣の奥志賀高原ホテルにはテスラ用の充電器(なんと14kW出ます)が1基設置されていますので、今回はこちらを予約して、税込1000円でお借りします。テスラの方はこちらに宿泊された方がいいかもしれませんね。
一方、旧軽井沢KIKYOは3kWですが普通充電器が2基あり、こちらも予約が可能です。
距離だけを考えると、自宅→奥志賀は無充電、ホテルで寝てる間に充電、奥志賀→軽井沢も無充電、寝てる間に充電、軽井沢→自宅も無充電、という流れでいいように思います。しかし実は、長野近辺から奥志賀までは標高にして1146m分の上り。車両の総重量を人や荷物込みで約2.7tとすると位置エネルギーは8.4kWhにもなります。これはガソリン車でも同じ。標高の高いところに移動すると、その分燃費が悪くなるのです。つまり安全を見るならば、途中で少し追加充電したほうが良いということになります。実際、東京→長野までが2時間半、長野→奥志賀までが1時間で計3時間半は最低かかりますので、途中で休憩はした方がいいですよね。
ということで、今回は経路での充電は一回、往路で長野IC近くにあるテスラ長野スーパーチャージャーで、トイレに行っている間だけ充電します。残りはホテルでの充電で賄います。
基礎知識をおさらいしておくと、スーパーチャージャーでの充電は「経路充電」。ホテルでの充電を「目的地充電」、またはデスティネーションチャージングと呼んでいます。
往路:東京から奥志賀
2/23 12:01 東京を出発。充電は自宅で98%まで入れておきました。この車は2017年式で、出発時点でオドメーターは12万2千キロ。結構走行しています。
14:32 長野スーパーチャージャーのあるロイヤルホテル長野に到着。車をスーパーチャージャーに繋いだらトイレをホテルで借ります。もちろん飲み物は買います。
14:45 50%まで充電できたので出発します。充電時間は12分間、充電電力量は車両側で24.16kWh。この車はスーパーチャージャー無料の契約なので、お金はかかりません。充電完了間際、充電器出力は110kW出ています。
15:54 ホテルグランフェニックス奥志賀に到着。天気は良く気温も0℃とそこまで寒くはありません。路面の雪はかなり溶けています。
到着時の電池残量は18%です。長野SCで50%だったので、もし無充電できていたら、50-18-23=9%も足りなかったということになります。これが春になると無充電で行けちゃう感じになります。
部屋からの眺めです。さすがに2月ですので雪はかなりあります。
こちらのホテルはイタリアンレストランがあり、東京さながらの食事が楽しめます。旅館とはまた違う楽しみですね。
22:44 奥志賀高原ホテルのテスラ用普通充電器に接続したテスラから通知。16:08から開始した充電が6時間36分で終わってしまいました。。ここのホテルの設備は200V 72A。普通のホテルは16Aですから実に4.5倍速。寝る前に充電終わってしまいます。翌朝、車を自分が泊まっているホテルの駐車場に移動させます。充電料金は1000円。
往路:奥志賀から軽井沢
2/25 9:33 奥志賀での2泊後の朝、雪はこれくらい積もりました。
奥志賀は雪です。昼頃からこんな感じで少し強く雪が降っています。
15:40 奥志賀を出発し軽井沢に向かいます。出発直前に暖房をフルパワーで入れた状態にしておき、フロントガラスの氷を溶かしつつ、ホテルの方に車を駐車場から持ってきてもらいました(こちらのホテルは100%バレーパーキングとなります)。気温はマイナス7.5℃くらいでしたが、電池温度(Cell temp avg)もさすがに2晩放置しただけあってマイナス3.2℃。この状態では、充電することはできません。しかし、当然ですが、放電=電気を使うことはできるのです。この時点でバッテリーヒーター(Coolant heater)はフルパワー100%、暖房用のヒーター(PTC air heater)は74%で、二つ合わせて(Thermal)約9kWもの電力を使用しています。
ダッシュボードの表示。右下に表示されている-8℃は外気温、画面右上に表示されている点線は、最高出力が200kW(約272馬力)に制限されていることを意味し、画面右端の点線は、アクセルを離したときの回生ブレーキがほぼ効かない状態になっていることを意味します。またkWと書いてあるところにわずかにオレンジの線が出ていますが、これは暖房とバッテリーヒーターのためにこれだけ電力を使っていることを意味します。そう、電気自動車では、走行に使うパワーと暖房に使うパワーは同じバッテリーの電気が元になっているのです。
17:46 旧軽井沢KIKYOに到着! すぐ充電器に接続します。ここはこんな風にホテルの車寄せのすぐ横に充電器が設置されているので便利です。また写真を拡大していただくと分かりますが、この充電器は積雪を考慮し、ケーブルが伸びるようになっています。1m程度の積雪があっても、手を伸ばしてケーブルを引いて車につなぐだけ。さすがヒルトンと思わせます。
外気温はマイナス3℃、バッテリーは92%から50%まで使用しました。充電開始直前に撮影。
復路:軽井沢から東京
10:42 今日は高峰マウンテンパーク スキー場に行くことにしました。気温マイナス8℃、一晩の充電で95%まで回復しました。
11:34 高峰マウンテンパーク(旧、アサマ2000)に到着。気温は寒ーいマイナス11℃。電池は75%まで減ってしまいました!ここも旧軽井沢からは962mも上の標高になります。
17:34 スキーは16時まで滑りました。寒かったので、すぐ横にある高峰高原ホテルにいって、温泉に入りに来ました。ホテルは営業しておらず、温泉とカフェだけ。写真はカフェの窓から撮影した富士山の山頂部分です。
18:26 6時5分に高峰高原ホテルを出て、佐久にある霧下そば 地粉やさんを訪問。ここで夕食にしてあとは一気に帰宅しようという考えです。
標高にして632m下り、距離にして19.25km走りましたが、電池残量はほんのわずか増えて0.97kWh戻ってきました。山を下りるとガソリンが増えることはないのですが、電気は増えるんです。電池温度が5時53分現在で7.25℃しかなかったので、充電できている量自体は大したことないのですが。
22:14 午後7時34分に佐久を出て、ノンストップで東京に帰ってきました。明日に備えて自宅の充電器に繋ぎます。
到着時の電池残量は22%。お蕎麦屋さんではマイナス2℃くらいと氷点下の時間が長かったので、それなりに電気を使いました。
まとめ
東京に到着時、走行距離は660.8km、消費電力量は180.7kWh、電費は273Wh/km=3.66km/kWhでした。厳寒期だとこんなものですね。
273Wh/kmっていったい燃費だとどのくらいなの?と思われるかもしれません。ざっくり電気代を40円/kWh、ガソリン代を164円/Lと仮定すると
1[km] / (0.273[kWh/km] x 40[円]) = 0.0916[km/1円]
164[円/L] x 0.0916[km/1円] = 15.0[km/L]相当
「俺のハイブリッドのほうがもっと燃費いいぞ!」って方もいらっしゃるかもしれません。しかしこの車は車幅199cm、約2.5トン、約679馬力(500kW)。電気自動車はなかなかに燃費が良いのです。
今回は自宅で充電した分を使って最初は走行し、スーパーチャージャーで1回、目的地で2回充電して帰宅しました。実際に払ったお金は、奥志賀での1000円のみです。到着時22%だったので、仮に98%-22%=76%を76kWhと換算すると、76[kWh]x40円=3040円。計4040円で、3日間の旅行ができたことになります。ずるい計算ですが、これは現実に近いと言えば近いんですよね。
改めて、4040円ではガソリンに換算した場合、どのくらいになるのでしょうか?
4040円 / 164[円/L] = 24.6[L}
660.8[km] / 26.6[L] = 26.8[km/L]
もっと節約することもできます。長野スーパーチャージャーに、0%で到着するような充電レベルでスタートすればいいわけです。今回長野では23%だったわけですから、3%で到着するように、ということは、自宅を98%ではなく、20%減らして78%で出発すれば良かったことになります。そうなると、上記の計算に当てはめた場合、76kWhじゃなくて56kWhとなりますから、33.4km/Lってことになりますね。完全に捕らぬ狸の皮算用です(汗)。
今回のように厳寒期に長距離のスキーという旅行のパターンでも、適切な場所に、適切な台数だけ超急速の経路充電器があり、かつ目的地に普通充電器があれば、エネルギーの心配なく、快適に旅行ができることがお分かりいただけるかと思います。車で行く冬のスキーであれば当然必要な、フロントガラスの霜取りや氷を削ったりの作業も、電気自動車ならヒーター入れれば即溶けますので快適です。暖房も乗り込んだ瞬間から温風が吹き出します。
往路に使用した長野スーパーチャージャーでは、12分間、超急速充電を行いました。
こちらの図は2月23日の実際のテレメトリーデータをグラフにしたものです。薄い青が充電%(SOC)、濃い青が充電器から車両に入っている電力、赤が電池に入っている実際の充電電力です。濃い青と赤の間に結構な差があるように思えると思いますが、充電開始時に車はすでに高速道路メインで230km以上走行してきていますので、電池温度は最適な40℃程度になっていたと考えられ、100kW以上の超急速充電を行うためにはバッテリークーラーがフルパワーで作動していたと考えられます。この差は、バッテリークーラーの消費電力がメインと考えてよいと思います。
※注、リチウムイオン電池の最適な充放電温度は40℃前後と言われています。
長野スーパーチャージャーは4基あり、写真を見ていただければ分かりますが、私が到着した時点ではすでに白のモデル3が充電中でした。この設備はV2という設備で、モデル3は1B、私は2Bというストール(充電コネクター)で充電していたのですが、1Aと1B、2Aと2Bがセットになっているため、モデル3の方と私は完全に独立した電源を使用しており、お互いに影響を受けないように設計されています。これは、eモビリティパワーさんが導入を進めているニチコンのマルチプラグ器(6口器)のように、後から充電開始した電気自動車に優先権があり、かつ出力が充電中に72kW→16kWと4分の1まで減少してしまう充電器とは異なります。テスラのV2スーパーチャージャーは1台の場合135kW、2台で同時に充電する場合でも72kWと、出力の減少率は47%と少なくなっています。
テスラのV2スーパーチャージャーでは、ニチコン6口基を1〜2台で独占使用するより、常に多くの充電電力を供給することができ、隣り合うストールに車がいなければ、ピーク1.9倍、平均的にも1.4倍の速度で充電できるのです。
※最新型のV3スーパーチャージャーでは場所によりますが、多くの場所で1台で250kW、4台で85kW程度が保証されています。
経路充電で重要なのは、確実に、超急速充電ができるということです。そのためには、基数が多いだけでなく、最低出力が保証されている必要があります。その点、現在のニチコンのマルチプラグ急速充電器の設計は、最適であるとは言えないでしょう。2013年から10年先行しているテスラに学ぶべき点は、多くあるのではないでしょうか?
取材・文/安川 洋