【テスラってどうなの? 特別講座】株主総会からロボタクシー発表や新モデル、MaaSの加速を考える

世界のEV普及をけん引してきたテスラの力。もちろん、今後の日本におけるEV普及進展にも重要なファクターになっていくでしょう。元テスラの中の人にして、現在は電動モビリティブランディングのコンサルタントである前田謙一郎氏が、注目すべき「テスラの動き」を解説する特別講座企画。第1回は6月13日に開催された株主総会からの考察です。

【テスラってどうなの? 特別講座】株主総会からロボタクシー発表や新モデル、MaaSの加速を考える

8月発表予定のロボタクシーを大予測

先月のテスラ株主総会において、イーロンはテスラの将来について多くを語り、同時にそれらは将来の自動車の未来を示唆するものでもありました。今回はその中でもロボタクシーやモデル2(通称)、MaaSの加速について考えてみたいと思います。先週にはクロアチアのリマックも高級ロボタクシーを発表、グーグルのウェイモもサンフランシスコ全域で自動運転車の24時間運行を開始したりと、テスラだけでなく今後の自動車業界の進む方向がどんどん具体的になってきたと感じる昨今です。

テスラは株主投票にあたり、これまでのテスラの業績の数々や将来の展望を訴えかけるブランドムービーを公開しています。この動画の最後のテロップには「We need your vote」、「Protect Tesla」というメッセージがあり、株主へ投票と団結を呼びかけていました。

2024 Annual Shareholder Meeting | Tesla(YouTube)

投票の呼びかけのため、世界中の株主にイーロンの業績を纏めたレターが国際郵便で送られてきたり、取締役会長のロビン・デルホルムもCNBCのインタビューに答えたりと、テスラの投票に対する想いをひしひしと感じました。総会の重要議題であったイーロンの報酬とテキサスへの本社移転、キンバルの取締役復帰等については無事承認されましたね。総会のハイライトはEVsmartブログの記事(関連記事)にまとめられています。

動画の中には1秒未満のいくつかの車やアプリのカットが入っており、これらから登場するロボタクシーについて予測することができます。8月8日に予定されているロボタクシーの発表会では実際に自律運転するプロトタイプが公開されるのではないかと考えています。

伝記の中に掲載されたロボタクシーイメージ。

ロボタクシーは完全自律運転のモデルになるため、エンターテインメントや情報を映し出すユーザーインターフェース(モニター)は残りますが、それ以外の操作系は省かれるでしょう。ステアリングホイールやペダル、もしかするとサイドミラーまでない仕様になるかもしれない。そのような機能をプレゼンするには、ロボタクシーがテスラのライドシェアアプリのサモン機能で呼び出され、自律走行能力を示すデモが発表会では相応しいように思います。

すでにテスラのライドシェア用アプリ「Tesla Ride-Hailing App」のデモ画面は公開されており、車を呼び寄せて、車内の温度やシートヒーターの設定をしたりすることができます。

Tesla Ride-Hailing App

イーロンはこれまで、ロボタクシーを「サイバーキャブ」とも呼んでおり、サイバートラックのような未来的デザインであることが予想されます。プラットフォームは「モデル2」や「レッドウッド」と呼ばれていた2万5,000ドルの小型クロスオーバーモデルと共通です。

この動画の中ではデザイナーのフランツがチームメートと一緒にロボタクシーを検討しているようなカットがあります。ここから読み取れるのはロボタクシーが2シーターであり前方にモニターはありますが、ステアリング等はないこと。次の画像でも、二人乗りのデザインがみて取れます。最後の画像では車体のリアもしくはフロントの一部分が写っており、以前、アイザックソンの伝記の中で紹介されたロボタクシーのリアの形状にも似ています。

これらから確実に分かるのはロボタクシーが二人乗りとなることです。実際に日本を含め、世界においても人が車を使って移動するのは一人が非常に多く、ロボタクシーとしても二人乗りまでがライドシェアのニーズや車体開発やコストにおいても有利と考えていると思います。より多くの人数を輸送し、将来的には公共交通機関の役割も担う可能性があるのは次に紹介するテスラバン(サイバーバン)かもしれません。いずれにせよ、8月8日のロボタクシーの発表には非常に期待をしています。

2万5000ドルのモデル2やテスラバンの登場は?

これまで2025年に予定されていたモデル2は前倒しとなり、今年の終わりから生産が開始されることが以前明らかになりました。そして、8月のロボタクシーの発表会にでは、このモデル2のプロトタイプも出て欲しいと期待しています。ロボタクシーはモデル2とプラットフォームを共有しますが、こちらは、リアシートを備え、FSDは従来通りオプション、人間が運転することが前提となります。

そのため、デザインや形状は違えど、従来のモデル3などと運転機能は同じであるはずので、運転デモまでする必要はないでしょう。元々、モデル2はロボタクシーの前提条件的位置付けでしたので、エクステリアだけでもお披露目することは可能でしょうし、テスラファンとしてはとても興味があります。

モデル2についてもFSDにより自動運転が可能になり、自分が使っていない時にはAirbnbのようにフリートとして使うことができ、収益化することができる。実際に前述の「Tesla Ride Hailing App」においても、画面にレンダリングされている車はモデル3もしくはYのような車であり、アプリにはCapacityの項目があり、1という数字も見えます。ロボタクシーが二人乗りのフリートであるならば、モデル2や従来のモデルYなどはライドシェアサービスとして使用される際には4人や5人乗りとして使うことができます。

そして、にわかに盛り上がっているのが、テスラバン(サイバーバン)登場への期待です。以下のベールに包まれた背が少し高いモデルです。セミトラックのようなスタイルで小型になるのか、もしくはロボタクシー(サイバーキャブ)をより腰高に大きくしたモデルになるのか、予測は分かれているようです。乗用バン、商用バン、両方の可能性が考えられ、自律運転を活かしながら、手頃な価格の輸送に重点が置かれており、将来的には公共交通機関の役割を果たす可能性もあります。

まだまだ情報が少ないテスラバンですが、セミトラック発表時にセミトラックの後ろから突然走り出した次期型ロードスターのように、8月8日にもサプライズ発表があったら面白いなとも考えています。

ロボタクシーはUberとAirbnbを足したもの?

株主総会のプレゼンの中でイーロンは改めて大量のフリートをどうマネタイズしていくか説明していました。今後FSD機能が向上していくことによって、以前は夢物語のように聞こえてきた話も、現実味を帯びています。将来的にはテスラもフリート(車両)を保有するでしょうから、それはテスラ版Uberのような形態になる。一方、テスラオーナーとしては、保有する車を使わない時にはテスラアプリのボタンひとつで、フリートとして使うことができ、車がお金を稼いできてくれる。Airbnbのような形態に近いと説明していました。それは数日であったり、数週間であったり、車を保有するためのコスト以上の利益をもたらしてくれる可能性もあります。

「この状況は近い将来必ず起きるので、時間の問題。自分の言葉を信じて欲しい」とイーロンは述べていました。その後は「自分が楽観主義すぎるのは知っている、でも楽観主義じゃなかったらこのテキサス工場も存在しなかった、あはは」のようなコメントもあり会場は盛り上がっていました。おそらくこの大きなテスラフリートを使ったライドシェアサービスには相当な自信を持っているのでしょう。

株主総会で上機嫌のイーロン。

先月からは中国の上海でもFSDテストの許可を得て、今では10台のテスト車両が走っていると報道されています。日本への展開はなかなか時間が掛かりそうですが、FSDの世界展開はとても楽しみです。

6月27日 にはクロアチアのリマックもロボタクシー発表!

時期を同じくして、クロアチアの電動スポーツカー、ドライブトレイン、バッテリーシステムを専門とするリマック・アウトモビリ(Rimac)もロボタクシー「ヴェルヌ Verne」を6月27日に発表しました。リマックのロボタクシー「ヴェルヌ」は、2026年にクロアチアのザグレブでライドシェアを開始予定。その後はイギリス、ドイツ、中東の都市をターゲットに、グローバルに拡大する計画を立てています。

元々リマックは0-60mphを2秒未満で加速するハイパーカー、「リマック・ネヴェラ」を展開しており、ポルシェAGと戦略的パートナーシップを結ぶなど、どちらかというとハイエンドなポジショニングのブランドでありました。

今回のヴェルヌは新しいEVプラットフォームで構築され、カメラ、レーダー、ライダーを組み込んだMobileye技術を使用。レベル4の自律走行機能の提供を目指しているようです。このロボタクシーのデザインはスリムでコンパクトなデザインと広々としたインテリアが特徴です。43インチのワイドスクリーンや17個のスピーカーを持つオーディオシステムなど高級感のある車で、テスラやUberとの差別化を図っていると考えらえます。室内温度、香り、エンターテイメントオプションなどをカスタマイズできる専用のライドシェアアプリを見ても彼らの目指している方向がわかります。

Rimac Robotaxi! Bugatti CEO’s ‘Verne’ Ready To Take On Tesla(YouTube)

私がポルシェ在籍当時にはドイツ本社でリマックとのパートナーシップの話題がよく上がっていました。個人的にはリマックのネヴェラが社内でもかなりの評価を得ていたので、今後の展開はどうなるのだろうと考えていましたが、通常の車を飛び越えて、高級ロボタクシーを目指すところに改めて彼らの先見の目を感じます。時代はロボタクシーが当たり前でそこでの差別化のステージに来ています。

自動運転テクノロジーやMaaS化はますます加速していく

テスラの株主総会でも「Tesla is way more than a car company」いうように自動車会社以上であると改めて強調していました。車の知能化はますます進み、ソフトウェアや自動運転がこれまで以上に重要になっていることは違いありません。

EVは今のところエンジン車と同じ自動車の形をしていますが、中身はバッテリー、OS、さらにはAIの実装など、全く異なるプロダクトとなり、従来のメーカーが積み上げてきたこれまでの内燃機関の強みが全く通用しない時代が到来しています。HEVかEVかのようなレベルの議論ではなく、いち早くAIや自動運転への投資を加速しなければいけない、そんなことを感じた6月でした。また次の記事でお会いしましょう。

文/前田 謙一郎
※記事中画像はYouTubeのテスラ公式チャンネル動画から引用。

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この記事の著者


					前田 謙一郎

前田 謙一郎

テスラ、ポルシェなど外資系自動車メーカーで執行役員などを経験後、2023年Undertones Consulting株式会社を設立。自動車会社を中心に電動化やブランディングのコンサルティングを行いながら、世界の自動車業界動向、EVやAI、マーケティング等に関してメディア登壇や講演、執筆を行う。上智大学経済学部を卒業、オランダの現地企業でインターン、ベルギーで富士通とトヨタの合弁会社である富士通テンに入社。2008年に帰国後、複数の自動車会社に勤務。2016年からテスラでシニア・マーケティングマネージャー、2020年よりポルシェ・ジャパン マーケティング&CRM部 執行役員。テスラではModel 3の国内立ち上げ、ポルシェではEVタイカンの日本導入やMLB大谷翔平選手とのアンバサダー契約を結ぶなど、日本の自動車業界において電動化やマーケティングで実績を残す。

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