テスラが大量解雇で充電器部門を閉鎖? スーパーチャージャーは大丈夫か

テスラが充電器部門で大量解雇を行ったニュースが伝えられ、テスラがEVの充電サービスから撤退するかのような言説がSNSや一般メディアの記事などで飛び交っています。はたして、このニュースをどう受け止めるべきなのか。GWボケに喝を入れつつ論考してみます。

テスラが大量解雇で充電器部門を閉鎖? スーパーチャージャーは大丈夫か

充電サービスから撤退なんてするはずはない

ニッポンがGWに浮かれる4月30日、アメリカで、テスラが充電器部門の幹部や社員を大量解雇したというニュースが伝えられました。

テスラの充電方式は北米標準充電規格(NACS=North American Charging Standard)として公開(SAE J3400)されており、日本のトヨタや日産も今後北米で発売するEVに採用していくことを発表しているほか、フォードやGMなどのアメリカメーカー、メルセデス・ベンツやBMWなどの欧州メーカーも今後は北米発売のEVにNACSを採用することになっています。

NACSを採用した他社車種にはテスラの独自充電ネットワークであるスーパーチャージャー(SC)での充電が開放されることになっていたこともあり、テスラが充電器部門で大量解雇というニュースは、少なからず動揺の波紋を拡げることになりました。

日本でも、日経新聞までが「テスラ、充電器部門を閉鎖」と報じるなどして、誤解に満ちた言説(もしくはEVや急速充電、SCのサービスについてまったく理解してしない)がSNSや一般メディアの記事などで見受けられます。

はたして、このニュースをどう受け止めるべきなのでしょうか。

アメリカのテスラでSCチームメンバーの大量解雇が行われたのは事実でしょう。とはいえ、SCはテスラが自社のEVの性能を担保するためのネットワーク。いわばテスラ車の性能の一部であり、世界中に拡充したSC網をいきなりないがしろにするはずはありません。

もちろん、テスラから「充電器部門を閉鎖」なんていう発表もありません。むしろ、5月1日にテスラCEOのイーロンマスク氏はXで以下のようなコメントをポストしています。

イーロン氏は「新設のペースを落として、可動率100%や既存ステーションの拡大に重点を置く」と説明しています。
※当初記事で、コメント欄のパロディアカウントに気付かず併せて引用していました。反省しつつ修正しました。m(_ _)m

とはいえ「既存ステーションの拡大(expansion)」というイーロン氏の意図は発信されているものの、具体的にどんな態勢でサービスをどのように「expansion」させていくかという説明や情報発信があるといいのにな、とは感じます。

たとえば、来年あたりからNACSを採用した多くの他社製EVがSCを利用し始めたり、テスラが設置する以外のNACS対応ステーションでテスラ車を含めた多様なEVが充電を行うようになれば、想定外のいろんなことも起こるはず。現在の情報だけで、こうした懸念への対応についてはよくわかりません。

そもそも、テスラ(イーロン氏)にとってEVは再生可能エネルギー社会構築に向けたピースのひとつであり、SC網はそのEVの一部ともいえるインフラに過ぎません。果ては宇宙まで見据えているイーロン氏がどのような判断で今回の大量解雇を行ったのか、そして、これから北米のSC網がどのように進化していくのか、凡人としては引き続き注目していくしかありません。

個人的には、もしかすると日本でも参考にすべき「EV充電インフラのあるべき姿」(すでにSCそのものが模範例ですけど)を、さらに一歩踏み込んで提示してくれるのではないかという期待すら抱いています。

日本のスーパーチャージャー網は急ピッチで拡大中

アメリカからの気になるニュースはさておき、日本国内のSCステーション数は順調に拡大中。4月末時点で112カ所(累計114カ所ですが2カ所は移転などで閉鎖)になりました。ことにここ数年は新設ペースが加速していて、2023年1月からだけで56カ所もオープンしています。

北海道など「もう少し新設してほしい」と感じるエリアもありますが……。テスラ車が、日本で市販されているEVの中で最もパワフルに利便性高く経路充電できる状況は、ますます強化されています。

最後に、SCの話題を記事にする度に更新している、日本国内のSCリストをアップデートしておきます。このリスト以外にも、テスラジャパンの公式Xで紹介されているマップによると、旭川、帯広(北海道)、茅ヶ崎、小田原(神奈川県)、堺、りんくう泉南(大阪府)、山口(山口県)などへの新設が予定されていることが示されています。

開設順名称場所タイプ公称最大出力基数開設年月
1東京-六本木東京都港区V1/V2120kW22014年9月
2神奈川 横浜神奈川県横浜市V1/V2120kW42014年9月
3東京-お台場東京都江東区V1/V2120kW42014年11月
4神戸兵庫県神戸市V1/V2120kW42014年12月
※2024/1/14閉鎖
5大阪大阪市北区V1/V2120kW42015年2月
※大阪-扇町に移設
6東京-丸の内東京都千代田区V1/V2120kW22015年3月
7盛岡岩手県盛岡市V1/V2120kW62016年1月
8仙台宮城県仙台市V1/V2120kW42016年1月
9倉敷岡山県倉敷市V1/V2120kW42016年3月
10長野長野県長野市V1/V2120kW42016年7月
11浜松静岡県浜松市V1/V2120kW42016年7月
12岐阜羽島岐阜県羽島市V1/V2120kW42016年11月
13高崎群馬県玉村町V1/V2120kW62016年12月
14福岡福岡県須恵町V1/V2120kW62017年2月
15佐野栃木県佐野市V1/V2120kW42017年9月
16御殿場静岡県御殿場市V1/V2120kW62017年12月
17甲府山梨県甲府市V1/V2120kW62018年1月
18名古屋-名城名古屋市北区V1/V2120kW62018年4月
19木更津千葉県木更津市V1/V2120kW62018年9月
20京都京都市下京区アーバン72kW42018年12月
21東京-東京ベイ東京都江東区アーバン72kW82019年10月
22広島広島市西区アーバン72kW82020年2月
23大阪 豊中大阪府豊中市V1/V2120kW82020年3月
24鳴門徳島県鳴門市V1/V2120kW82020年6月
25名古屋-星が丘名古屋市千種アーバン72kW82020年7月
26川口埼玉県川口市V3250kW42020年12月
27東京-赤坂東京都港区V1/V2120kW42021年3月
28湘南神奈川県藤沢市V1/V2120kW22021年4月
29伊賀三重県伊賀市V3250kW42021年6月
30松戸千葉県松戸市V3250kW42021年7月
31函館北海道函館市V3250kW42021年7月
32東京-代官山東京都渋谷区V3250kW42021年7月
33熊本熊本県熊本市V3250kW42021年9月
34大阪-天王寺大阪市天王寺区V3250kW52021年9月
35大津滋賀県大津市V3250kW42021年9月
36新潟新潟県新潟市V3250kW42021年9月
37鳥取鳥取県鳥取市V3250kW42021年10月
38東京 - 日比谷東京都千代田区V3250kW42021年10月
39つくば茨城県つくば市V3250kW42021年11月
40郡山福島県郡山市V3250kW42021年12月
41金沢石川県金沢市V3250kW42021年12月
42神戸 - 御影兵庫県神戸市V3250kW42021年12月
43山形山形県山形市V3250kW42022年1月
44高知高知県高知市アーバン72kW42022年1月
45札幌 - 大通北海道札幌市V3250kW42022年2月
46福井福井県福井市V3250kW42022年2月
47富山富山県富山市アーバン72kW42022年3月
48川崎神奈川県川崎市V3250kW32022年6月
49大阪-扇町大阪府大阪市V3250kW62022年6月(移設)
50高松香川県高松市V3250kW42022年6月
51京都-四条京都府京都市V3250kW62022年9月
52東京-新宿東京都新宿区V3250kW42022年9月
53東京-調布東京都調布市アーバン72kW42022年9月
54松山愛媛県松山市アーバン72kW42022年10月
55焼津静岡県焼津市V3250kW62022年12月
56神戸-北兵庫県神戸市V3250kW62022年12月
57千葉-柏の葉千葉県柏市V3250kW42022年12月
58春日井愛知県春日井市V3250kW42022年12月
59千葉-稲毛千葉県千葉市V3250kW82023年1月
60東京-世田谷砧東京都世田谷区V3250kW62023年1月
61富士川静岡県富士市V3250kW42023年2月
62伊丹昆陽兵庫県伊丹市V3250kW82023年2月
63厚木神奈川県厚木市V3250kW82023年3月
64大井松田神奈川県大井町V3250kW62023年3月
65東京-八重洲東京都中央区V3250kW42023年3月
66静岡静岡県静岡市V3250kW62023年3月
67宮崎宮崎県宮崎市V3250kW42023年3月
68東京-板橋前野東京都板橋区V3250kW42023年3月
69鹿児島鹿児島県鹿児島市V3250kW62023年3月
70岡山岡山県岡山市V3250kW42023年4月
71奈良-橿原奈良県橿原市V3250kW42023年5月
72さいたま-与野埼玉県さいたま市V3250kW82023年6月
73橋本神奈川県相模原市V3250kW42023年6月
74ひたちなか茨城県ひたちなか市V3250kW62023年6月
75飯田長野県飯田市V3250kW42023年6月
76多気三重県多気町V3250kW42023年6月
77高槻大阪府高槻市V3250kW82023年6月
78豊田愛知県豊田市V3250kW82023年6月
79所沢埼玉県所沢市V3250kW42023年6月
80東京-有明東京都江東区V3250kW82023年6月
81横浜-みなとみらい神奈川県横浜市V3250kW62023年7月
82大阪-上本町大阪府大阪市V3250kW82023年8月
83三郷埼玉県三郷市V3250kW62023年8月
84福岡 - 中洲川端福岡県福岡市アーバン72kW32023年8月
85鶴ヶ島埼玉県鶴ヶ島市V3250kW42023年8月
86浜松市野静岡県浜松市V3250kW62023年9月
87横浜 - 青葉神奈川県横浜市V3250kW62023年9月
88貝塚大阪府貝塚市V3250kW32023年9月
89秦野神奈川県秦野市V3250kW42023年9月
90名古屋 - 神宮愛知県名古屋市V3250kW42023年9月
91さいたま - 大宮埼玉県さいたま市V1/V2150kW42023年9月
92軽井沢長野県軽井沢町V3250kW42023年9月
93千葉 - 海浜幕張千葉県千葉市V3250kW62023年9月
94名古屋 - 南大高愛知県名古屋市V3250kW42023年10月
95宇都宮栃木県宇都宮市V3250kW62023年10月
96福岡 - 博多駅南福岡県福岡市V3250kW42023年10月
97東京 - 千住東京都足立区V3250kW62023年11月
98茨木大阪府茨木市V3250kW62023年12月
99青森青森県青森市V3250kW32023年12月
100松本長野県松本市V3250kW42023年12月
101東名川崎神奈川県川崎市V3250kW32023年12月
102北九州福岡県北九州市V3250kW62023年12月
103神戸 - 三宮兵庫県神戸市V3250kW62023年12月
104東京 - 豊玉東京都練馬区V3250kW42023年12月
105みえ川越三重県川越町V3250kW62024年1月
106東京 - 芦花公園東京都世田谷区V3250kW122024年2月
107大分大分県大分市V1/V2150kW42024年3月
108東京 - 六本木 P2東京都港区V3250kW42024年3月
109那須栃木県那須町V3250kW62024年3月
110名古屋-則武愛知県名古屋市V3250kW82024年3月
111東京 - 池袋東京都豊島区V3250kW42024年3月
112横浜 - 本牧神奈川県横浜市V3250kW42024年3月
113横須賀神奈川県横須賀市V3250kW62024年3月
114東京 - 杉並東京都杉並区V3250kW42024年4月
115南紀和歌山県田辺市V1/V2130kW42024年5月
116大阪-鶴見大阪府大阪市V3250kW42024年5月
117横浜-港北神奈川横浜市V3250kW62024年5月
118東京-秋葉原東京都千代田区V3250kW42024年6月
119名古屋-北愛知県名古屋市V3250kW82024年6月
120茅ヶ崎神奈川県茅ヶ崎市V3250kW42024年7月
121仙台-宮城野宮城県仙台市V3250kW42024年7月
122高山岐阜県高山市V3250kW42024年7月
合計598
※表内「名称」はテスラ公式サイトのスポット詳細ページにリンク。
※ リスト作成はテスカスさん運営の『Tesla Wiki』などを参照させていただきました。
※場所によって利用時間の制限時間などがあることにご注意ください。
(2024年9月9日更新)

EVに関する日本国内のニュース。先入観や思い込みでいきなりSNSに書き込んだりすることに注意しつつ、フラットな気持ちで受け止めることが大切ですね。

取材・文/寄本 好則

この記事のコメント(新着順)2件

  1. イーロン・マスクさんのXでのポストが2つ並んでいますが2つ目はパロディーアカウントのリプライですよ

    1. SCユーザー さま、ご指摘ありがとうございます。

      今夜、すでにほろ酔いだったのですが、著者の八重さくらさんから同じご指摘をいただき、大あわてで仕事場に戻ってきたところでした。

      記事、修正しました。
      GWボケですね。気をつけます。。。

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					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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