イーロン・マスク氏が進めるEVによるラスベガスの地下交通システム『Loop』を体験!

イーロン・マスク氏が起業した『The Boring Company』が、ラスベガスの地下に建設を進めているのが、電気自動車であるテスラ車を活用した地下交通システム『ベガス・ループ』。すでに完成したトンネルでの移動体験を、現役の学生にして中国車研究家の加藤ヒロトさんがレポートします。

イーロン・マスク氏が進めるラスベガスの地下交通システム『Loop』を体験!

The Boring Company とは?

イーロン・マスクという名前を聞いた時、ほとんどの人はテスラを思い浮かべ、宇宙・航空関係にも詳しい人はスペースXまで連想するでしょう。でも『The Boring Company(ザ・ボーリング・カンパニー)』の名前を思い浮かべる人は少数派だと思います。

ザ・ボーリング・カンパニーは2016年にイーロン・マスク氏によって設立された地下トンネル掘削会社です。マスク氏自身がロサンゼルスの「心を病むような」ひどい渋滞に嫌気がさしたのを機に設立し、2017年2月にはスペースXの本社敷地に試験用のトンネルを掘削しました。最初の本格的な地下移動用トンネルが完成したのは2018年12月、スペースX本社の横に作られた全長1.83キロのトンネルです。

試験用に開業した当初は地上を走るテスラを台の上に載せ、台ごと地下へ降下。そのままトンネル内を走行するというものでした。2019年にはテスラの車が自動運転で移動できるように改修され、トンネル内も通常の道路のようにアスファルトで舗装されました。トンネル内では自動運転で時速140キロ、有人運転で時速187キロの速さで移動できるとしています。ですが、これまで掘られたトンネルはあくまで試験用であり、一般客の移動用に用いられたものではありませんでした。

2021年4月、初めて一般客の移動を想定したトンネルが、ラスベガスに完成したのです。完成したトンネルはラスベガス観光局 (Las Vegas Convention and Visitors Authority= LVCVA) が保有するラスベガス・コンベンション・センター (Las Vegas Convention Center,=LVCC) の各展示ホールを全長1364メートルの地下トンネル2本で結ぶ交通システムで、2019年5月にザ・ボーリング・カンパニーが約55億円規模の事業として受注を勝ち取り、同年10月に建設が開始しました。

「LVCC」に完成したトンネルを体験!

1本目の掘削は11月15日に開始し、1日に15メートルという速いペースで91日後の2020年2月14日に完了しましました。それに加え、全ての作業は地上で開かれている各展示会、並びに地上交通に一切影響を与えなかったということを同社はアピールしています。

この新しい地下交通システムはどんなものなのでしょうか?

2021年11月にLVCCで開かれた世界最大級のカスタムカー・カスタムパーツやアフターマーケットの自動車部品用品の見本市『SEMAショー』の取材で現地を訪れた筆者が実際に体験してみました。

『LVCCループ』と名付けられたこのシステムは2021年5月に行った実証実験において、1時間で約4400人の乗客を運搬できることが証明されました。初めて一般客に向けて供用開始したのは6月に開催された北米最大級の建設関連技術見本市『ワールド・オブ・コンクリート』ですが、SEMAショーは毎回約15万人以上が4日間の会期で来場するので、その全員がLVCCループを使わないにせよ、はたして乗客を捌ききることができるのかと気になっていました。

2021年のSEMAショーは前年が新型コロナウィルス感染症拡大の影響を受けてオンライン開催となったため、リアルなイベントとしての開催は2年ぶりとなりました。実際に2年ぶりに訪れてみると、今までよりも来場者は少なく、出展企業も少ないためか空き展示スペースが目立っていました。来場者数も例年は約15万人以上となっていますが、今年はそれよりも少ない数だったでしょう。

それでも数万人規模のイベントであることには変わりありません。今年の詳細な来場者数はまだ公表されていませんが、バイヤーだけで3万人は来場しており、それ以外にもバイヤーの家族や出展企業関係者、メディアなど、多くの人が訪れていたので、実際の数はその数倍にも及ぶでしょう。

現在はまだ人間がモデルYなどを運転

LVCCループは主に1つの地下駅、2つの地上駅、2つのトンネルで構成されています。駅はサウスホールの外に位置する「サウス・ステーション」、2021年に完成したウェストホールの外に位置する「ウェスト・ステーション」、そしてセントラルホール付近の地下に位置する「セントラス・ステーション」となります。LVCC全体を横断する2本のトンネルで構成されているため、どこから乗ってもいずれかの駅にたどり着くことが可能です。ちなみに、何回乗っても無料です。

使用されている車は日本ではまだ販売されていないテスラ モデルYがほとんどで、車椅子などの身体障害者用に、より大きいモデルXが数台用意されています。乗客用の車両のみならず、トンネル内での火災や事故、犯罪などに対応するLVCCループ専用のセキュリティ車両にもモデルYが使われています。車両は合計約70台用意されているそうですが、消防の関係で同時にトンネルを走れるのは11台程度までと決まっています。

また、現時点ではテスラのオートパイロットを用いた自動運転ではなく、ザ・ボーリング・カンパニーがパートタイムで雇っている人間のドライバーが全て運転しています。肝心の速度ですが、カーブ区間では時速30マイル(時速約48.3キロ)、直線区間では時速40マイル(時速約64.3キロ)となっています。私有地内、しかも各種安全装備を揃えた車でもそれまでしか出せないのかと思う方も多いかもしれませんが、トンネル自体がそこまで長いものではないので十分な速度だと感じました。

このシステムは開業前から「ただ単にテスラが地下トンネルを走っているだけ」などと各種メディアに批判されてきました。確かにそうですし、ザ・ボーリング・カンパニーもこのシステムを 「Tesla in Tunnels(トンネルの中を走るテスラたち)」と説明しています。ですが、毎年のように訪れるSEMAショーで1日何回もLVCCの端から端まで歩いた経験がある筆者からすれば、素晴らしく楽な移動手段だと強く思います。事実、横断するのに歩くと約45分はかかるLVCCを、わずか3分足らずで移動できるのですから。

体験して気になった「問題点」

しかし、実際に何度か乗って問題点もいくつか見えてきました。第一に気になったのが乗り心地です。先述の通り、最初に作られた試験用のトンネルは車両が自走するのではなく、台に載せてトンネル内を移動するシステムでしたが、自動運転を見据えてトンネル内が舗装されました。

このLVCCループもトンネル内はアスファルトで舗装されているのですが、その路面は完全な平らにはなっておらず、走行中もかなり気になるレベルで車体の揺れを感じました。軽いうねりのある路面を時速50キロとかで走行するので、当然揺れを感じない静かな移動とはならないわけです。

また、アスファルトは使っていくうちに路面にワダチができ、凹んでしまう点が難点です。コンクリートを用いた舗装ではそのような懸念はありませんが、長い時間使っていくうちにその現象は避けられず、舗装をやり直すとなった時にこの移動手段を使うことができなくなるのではないかというのが筆者の率直な感想でした。

待ち時間も気になりました。LVCCで開かれる催し全てが同じ規模のものではありませんが、このSEMAショーをはじめ、世界最大級の電子機器見本市であるCESも同じ会場で開催されています。今回のSEMAショーでも乗車待ちの列が各駅で見られ、実際に車に乗り込むまで20分以上も待たされることがありました。疲れはしますが、目的のブースに歩きで到達することが十分にできるほどの時間です。ただし、待ち時間問題は駅内での係員による誘導や、配車のタイミング、そして同時にトンネルを走行できる台数の問題なので、今後も場数をふんでいくことで徐々に改善されていくでしょう。

いずれ完全自動運転となり、トンネル内の安全性も今よりもはるかに改善されれば、『Vegas Loop(ベガス・ループ)』と名付けられて計画が進められている、ラスベガスの街全体を移動する大規模なシステムになった際でも、スムーズに移動できると思うのです。

街全体を繋ぐ『Vegas Loop』計画が進行中

Vegas Loopの完成度を高めるために大切なのは、第一に優先されるのが操縦の完全自動化でしょう。自動運転はテスラ肝入りの機能で、専用トンネルは自動運転にとって好条件でもあるので、そう遠くない時期に実現するのだろうと思います。自動運転となった際の事故対応や乗客の避難手順もしっかりと演習しており、あとはタイミングを見ての開始といった印象です。

ラスベガスの主要ホテルやネバダ大学ラスベガスキャンパス、アレジアント・スタジアムなどを繋ぐ巨大な地下トンネルシステムの計画も2021年10月に承認されたばかりです。この計画では最終的に51の駅を有する全長15マイル(約24.1キロ)の地下交通システムを50年規模で開発するものとなっています。このような都市全体をカバーするザ・ボーリング・カンパニーの地下交通システムはラスベガスのみならず、フロリダ州フォートローダーデールやカリフォルニア州サンバーナーディーノなどでも具体的な計画として承認されています。

海外ではオーストラリアや中国などでも同様の地下交通システムの建設を予定しているという話も上がっています。ザ・ボーリング・カンパニーに対しては「地下鉄のほうが優れている」という批判がよくなされていますが、そもそもの大前提として地上の渋滞を解消してEVを有意義に活用するためのアイデアであるという点を理解する必要があります。

ザ・ボーリング・カンパニーは地下トンネルにこだわる理由として「地上の渋滞を解決するには3次元的なアプローチが必要」としています。地下は実質無限の空間であり、地上の限られたスペースを圧迫することもないことから「拡張性や景観の点から考えても交通システムを作る最適な空間」という見解も示しています。

日本ではすでに東京をはじめとする大都市に世界有数の地下鉄システムが構築されているために建設は困難、もしくは不要かと思われますが、より重度な自動車社会である諸外国の地域では渋滞の解決にもってこいの方法だと感じました。ザ・ボーリング・カンパニーが作る地下交通のこれからに期待したいと思います。

(取材・文/加藤ヒロト)

この記事のコメント(新着順)2件

  1. イーロン・マスク

    個人的には、何度も思います。
    彼は、地下文明?表舞台からは失われた、古代から続く高度な文明と繋がる方と考えますが。

    卑しい!戦争好きな資産家達=石油資本からは距離を置いた方。
    一時は、カルロス・ゴーンもその立場だったが!(汗)

    石油資本に喧嘩を売る方(笑)

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この記事の著者


					加藤 博人

加藤 博人

下関生まれ、横浜在住。現在は慶應義塾大学環境情報学部にて学ぶ傍ら、さまざまな自動車メディアにて主に中国の自動車事情関連を執筆している。くるまのニュースでは中国車研究家として記事執筆の他に、英文記事への翻訳も担当(https://kuruma-news.jp/en/)。FRIDAY誌では時々、カメラマンとしても活動している。ミニカー研究家としてのメディア出演も多数。小6の時、番組史上初の小学生ゲストとして「マツコの知らない世界」に出演。愛車はトヨタ カレンとホンダ モトコンポ。