アウディ『e-tron』アブダビ試乗会で体感した「洗練」の力

産油国が点在する中東の砂漠地帯でEVの試乗会とは少々意外に感じたが、アウディ初の量産電気自動車となるe-tronの国際試乗会がUAE(アラブ首長国連邦)の首都アブダビで開かれた。路上では日本でハイブリッド車を見かけるのと同じ頻度で大排気量のV8エンジンを搭載したSUVを見かける。そうした環境で、ほぼ音のしないEVを走らせたというわけだ。

アウディ『e-tron』アブダビ試乗会で体感した「洗練」の力

例えば昨年末、電気自動車によるフォーミュラレースの『フォーミュラE』が世界最大級の産油国であるサウジアラビアで開催されたように、中東各国は近頃こぞって脱石油依存を標榜している。アブダビには政府系企業の投資によって開発中の、太陽光発電をはじめとする再生可能エネルギーを活用してゼロ・エミッションを目指すマスダールシティという特区があるのだが、これもそうしたムーブメントのひとつだ。

この街ではICE(Internal Combustion Engine=エンジン車)の乗り入れが禁止されているが、BEV(Battery Electric Vehicle=電気自動車)はOKということで、e-tronの試乗会が開催された。まぁ元々中東各国はエキゾティックな風景に事欠かないため、新型車の国際試乗会の拠点として人気のゾーンではあるのだが。

電気自動車として開発されたブランニューモデル

e-tronは既存のモデルのEV化ではなくブランニューモデルとして開発された。後からこのボディにエンジンを載せたモデルが追加される予定もない。アウディは現在Q2からQ8まで大小さまざまなサイズのSUVをラインナップするが、e-tronはサイズでいうとQ5とQ7の間に位置する。同社のSUVは、コンベンショナルなSUVにはQ3、Q5、Q7と奇数の車名を割り当て、いわゆるクーペのようなオルタナティブSUVにはQ2、Q8にように偶数の車名を割り当てる。e-tronのルックスは低くクーペライクで、その意味でもQ6と呼びたくなる存在だ。

全長4901mm、全幅1935mm、全高1616mm。ホイールベースは2928mm。巨大なシングルフレームグリルは上下部分がダミーで、中央部分にはシャッターが備わっている。可能な限り閉じた状態を保ち空気抵抗低減を図り、補機類の冷却が必要になると開く。

ヘッドランプは最近のアウディの流儀にのっとったシャープなデザイン、リアコンビランプは流行りの左右がつながったデザインだ。車高はさほど高くないが、大径のタイヤがこのクルマをSUVたらしめている。

インテリアで最も目を引くのは未来感にあふれるユニークな形状のATシフターだ。シフターといってもEVの場合、変速するわけではなく、R、N、Dを選択するためのもの。使用頻度が高くないので遊び心のある形状と操作のシフターでもまったく問題ない。EVの普及によってクルマの内外装もどんどん様変わりしていくのだろう。

エンジンの代わりに前車軸に最高出力125kW、後車軸に同140kWの電気モーターがそれぞれ備わり、4輪を駆動する。通常走行ではリアモーターのみを使って駆動し、鋭い加速や必要になったり後輪がスリップしたりした場合、瞬時(0.03秒以内)にフロントモーターが加勢する。

システム全体の最高出力は最高出力265kW、最大トルクは561Nm。アクセルを床まで踏み込むとブーストモードが起動し、最大8秒間、同300kW、同664Nmにまで性能が上がる。テスラ・モデルX100Dの最大トルクは625Nm、ジャガーI-PACEは696Nmといずれも600Nmを超えている。これらはエンジンでいえば6リッター級、もしくは4リッターターボ級に相当する数値だ。現状ラグジュアリーEVは総じて1000万円前後と高価だが、600Nm級の最大トルクを得ようとするならむしろ割安と考えることもできる。

現段階で最も「洗練」された電気自動車という印象

乗った印象は、過去に試乗したEVのなかで最も優れていると感じた。まず路面へのパワーの伝わり方が非常に洗練されている。とにかくトルキーで暴力的な加速を楽しめるというのではなく、アクセルワークに対してクルマがとにかく正確に、そしてレスポンシブ(過敏というわけではない)に反応してくれるため、非常に心地よいのだ。これらはEV全般の特徴と言えなくもないが、剛性感の高いボディをはじめ、全体に生産精度の高さを感じさせるe-tronでそれらを味わうと、一層ありがたみが増す。電力の出し入れやモーター出力の特性、それらを制御するプログラムが優れているのだろう。

0-100km加速は通常モードで6.6秒、ブーストモードで5.7秒と十分な加速力ではあるものの、ラグジュアリーEVとしては控えめではある。EVの場合、加速力はいくらでも速く設定できるといっても過言ではないが、e-tronはそこでは勝負していない。アウディが「新興のテスラと違って、我々は過激な加速力をもって魅力をアピールする必要がない」と言っているようにも思える。もしくは後から過激なハイパフォーマンスバージョンを出す余地を残しているだけなのかもしれない。

減速は(たとえブレーキペダルを踏んだとしても)0.3Gまでは回生ブレーキが担う。それ以上の減速Gが必要な場合は油圧ブレーキが作動するが、日常的な使い方で発生する減速Gの実に90%が0.3未満だという。ブレーキパッドが長持ちするだろう。ただし実際に運転した印象では、アクセルオフでの減速Gの立ち上がりは、例えば日産リーフやテスラ各モデルよりもマイルド。いわゆるワンペダルドライビングを行うにはより早くからアクセルを戻す必要があった。EVらしさを演出するなら強い減速Gが立ち上がる設定にすべきだが、従来のICEからでも違和感なく乗り換えることができるような配慮かもしれない。

運転中、常にボディが堅牢な感じを受ける感があり、エアサスの動きも終始しなやか。ステアリングホイールやペダル類の取り付け剛性も高いため、乗り心地や操作フィーリングが上々だ。加えて静粛性が高い。例えばエアロダイナミクスを追求したボディの採用によってCd値0.28を実現している。風切り音も非常に小さい。エンジン音のないEVの場合、高速走行では風切り音が気になりがちだが、e-tronはアブダビの高速道路の制限速度である130km/hで巡航している間も車内は静かだった。もちろん専用ガラスをはじめとするさまざまな遮音対策も効いているはずだ。

e-tronには「バーチャルエクステリアミラー」という空力性能向上のために象徴的な装備が採用された(オプション装備)。すでにレクサスESが量産車に初採用したデジタルアウターミラーと同種の装備で、後方の情報をミラーを通じてではなく、カメラ映像を映すモニターで確認する。ES同様、本来ドラミラーが備わる場所からステーが伸びてその先にカメラが備わる。そのカメラが映した映像がドアの一部に自然に組み込まれたモニターに映し出される。ESのそれよりも映像がはるかに高精細だった。なおこのオプションを装着するとCd値は0.27に向上する。

搭載するバッテリー容量は95kWh

e-tronのバッテリーの総電力量は95kWh。リチウムイオン・バッテリーを床下に敷き詰める搭載方法はテスラやI-PACEと同じである。一充電で走行可能な距離は400km超(WLTPモード)。急速充電中のバッテリーを冷却することにより、IONITY(ドイツ勢が中心になって進めている欧州での大出力充電インフラサービスを提供する会社)ネットワークなどが提供するDC急速充電ステーションであれば最大150kWの速さで充電することができる。そもそもe-tronが搭載するバッテリーは108個のセルが4並列(総電圧は約453V)となっており大出力の受け入れ性能も高いので、これならほとんど電力が残っていない状態からでも30分もあれば十分な充電(単純計算で150×0.5=75kWhは総容量95kWhの約80%)が可能となる。

ただしこのコンボ式充電器は日本には存在しない。I-PACEと同様に日本でe-tronを急速充電するにはCHAdeMO(チャデモ)規格の充電器を使うことになる。チャデモの現状では最高出力が50kW、最大電流は125Aという制約があり、充電には長時間を要することになる。今、中国と連携して進められている大出力(150kWが計画されている)化のスムーズかつスピーディな整備が望まれるだろう。

また、今後アウディやジャガーがテスラのスーパーチャージャーのような独自の超急速充電設備を販売店などに整備できるかどうかは不明で、できたとしても何年も先の話だろう。日本でe-tronやI-PACEのようなラグジュアリーEVを普及させるには、クルマ自体の付加価値に加え、超高速充電インフラを整備することが急務だ。既存の自動車メーカーのEVに対する取り組みを見ていると、車両開発と同時に充電環境整備を進めたテスラの彗眼が際立つ。

e-tronは車両そのものの完成度が高い。車内空間は前後とも十分に確保されるほか、ラゲッジ容量も十分で、実用性が高い。ドイツで来春早々に発売される。アウディジャパンは2019年内の日本導入を予定している。ドイツでの価格は7万9900ユーロ(1022万円)~。アウディジャパンによれば、日本仕様は最もベーシックな仕様でギリギリ1000万円を切る価格を目指しているようだ。

アブダビでアウディe-tronに乗ってきた! Audi e-tron @ Abudabi

(文:塩見 智)
(写真:アウディジャパン、塩見 智)


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