三菱アウトランダーPHEV(2019)雪上試乗〜4WDシステムの完成度を実感

季節は春になってしまいましたが、電気自動車の雪道性能は気になる話題。日本国内メーカーから市販される唯一の4WD電気自動車ともいえる三菱『アウトランダーPHEV』(2019バージョン)の雪上試乗インプレッション。EVsmartブログチームのジャーナリスト、塩見 智のレポートをお楽しみください。

三菱アウトランダーPHEV(2019)雪上試乗〜4WDシステムの完成度を実感

2018年の改良で「力強さ」が向上

三菱アウトランダーPHEVを雪上の特設コースで試す機会を得た。雪上ドライブは低い速度でクルマの限界域の挙動を知ることができるため、クルマの車両安定技術やトラクション性能、コーナリング性能などを試すのにもってこいだ。アウトランダーPHEVはモーター駆動の電動車ならではのアクセルレスポンスの良さや、パドルで強さをコントロールできる回生ブレーキ、それに高性能の4WDシステムが有効にはたらき、常にクルマをコントロール下に置くことができた。

写真:三菱自動車工業

2012年末に発売されたアウトランダーPHEV。6年目の18年に大幅に改良され、最新型ではエンジン排気量が従来の2リッターから2.4リッターへ拡大、バッテリーの総電力量も12.0kWhから13.8kWhへと増えた。モーターの最高出力および最大トルクは、フロントが82kW、137Nm、リアが95kW、195Nmに。リアは従来よりもパワーアップを果たした。ジェネレーターの出力も約10%向上しており、充電能力も向上した。EV走行換算距離はEPA基準で約35km(※推定値、WLTCモードでは57.6km)、ハイブリッド燃費は16.4km/L(WLTCモード平均)となっている。

パワートレーンについては、乗り始めてすぐに力強さが向上していることを体感した。より少ないアクセルペダルの踏み込み量でも求める速度に達するという印象。ペダルをやや深く踏んで加速しても従来型よりもエンジンが始動するタイミングが若干遅く、頻度も低く感じられる。ICE(エンジン車)でマニュアル変速する時のように、ステアリングの裏側にあるパドルを操作することで回生ブレーキの強さをコントロールできる。これが楽しい。減速時、まずアクセルオフである程度の減速度が得られ、足りなければ左パドルを引くごとに減速の度合いが強まる。急のつく操作が厳禁とされる雪上では、フットブレーキを踏んで減速するよりも微妙なコントロールをしやすい。

三菱がS-AWC(スーパー・オールホイール・コントロール)と呼ぶアウトランダーPHEVの4WDシステムは素晴らしい。基本原理は新しいわけではなく、かつてWRCで大暴れしたランエボが採用していたシステムの言わば電動車版。クルマを前へ進めることと曲げることを高い次元で両立させている。前後ツインモーター式の4WDなので、プロペラシャフトは存在しない。前後のモーターを独立して制御するため、前後トルク配分は自由自在(通常時はフロント45%、リア55%)。前輪か後輪かどちらかがスリップすると、瞬時に駆動力を失っていないほうの車輪(モーター)にトルクを重点配分する。コーナーに差し掛かると、必要に応じて内側の前輪のみにブレーキをかけて車両の向きを変えやすくするAYC(アクティブ・ヨー・コントロール)が備わる。

複雑なシステムを採用するものの、複雑な操作を強いられるわけではない。ドライバーは直線ではアクセルとブレーキを操作し、コーナーではそれにステアリングを操作を加えるだけで、思い通りのラインをトレースしていくことができる。制御がきめ細かく、瞬時に行われるため「前輪がスリップしたから後輪にトルクが移動したな」とか「内輪をブレーキでコントロールして曲がりやすくしたな」と体感することはできない。ただ、あれっ結構なペースで曲がれちゃったなと感じるのみ。

クルマの運動性能は絶対的な車両重量や前後重量配分、それにタイヤの性能にも大きく左右されるため、アウトランダーPHEVが低ミュー路で最高の走破性を誇るとは限らないが、トルクを前後左右輪へ最適配分する能力という意味では、ツインモーター式4WDは最高レベルといえる。電気信号によってコマンドを出すほうが、シャフトを通じてトルクを伝え、メカニカルなデフによって差動するよりも明らかにレスポンシブだからだ。

このクルマの場合、車名にも含まれる「PHEV」の部分にまず注目が集まるのはしかたないが、4WDシステムにおいてももっと注目されてよいクルマだ。

(塩見 智)

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この記事のコメント(新着順)2件

  1. アウトランダーPHEVいいですよね。自分も欲しくなってしまいます(^^;;;
    三菱ならパジェロやデリカD5にも設定すべきですね…デリカPHEVならアウトドアのみならず主婦層にも人気になりそうです(笑)

    ランエボだなんて言われると元スバリストとしてはインプレッサ等とも比べたくなりますwwあっちは低重心シンメトリカル水平対向4WDの素性のよさが売り、かたやランエボは一般的なFFベースでありながらインプレッサに充分対抗できるほど電子制御技術を投入して戦った記憶があります…WRCで大活躍したスバルも三菱も4WD技術は熟成の域ですよね。
    コリン・マクレーをひいきしていた当時の自分もトミ・マキネンのドライブテクニックやランエボの強さは目を見張っていました。

    アウトランダーに限らず、電動4WD車両は雪国などでの需要もあるから増えて欲しいですね…各メーカーから電動SUVが出てくれば比較もできますし。
    当然トヨタも黙って見ている訳ではないでしょうし、技術供与の形でマツダ・スバル・スズキなどからも出てくればこのジャンルは相当活性化すると思われます。
    もっともバッテリーやモーターの性能・航続可能距離等に問題が出ると思いますが、電動パワートレインならではのメリットがあると自分は見ています。スタックしにくい・山小屋の停電時救援…などが考えられますね。

    1. A4以上のクアトロと911の四駆も「シンメトリカル」なんじゃないんですかー

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					塩見 智

塩見 智

先日自宅マンションが駐車場を修繕するというので各区画への普通充電設備の導入を進言したところ、「時期尚早」という返答をいただきました。無念! いつの日かEVユーザーとなることを諦めません!

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