VW『e-Golf(ゴルフ)』にじっくり乗って電気自動車購入について考えてみた

ID.3 が発表されて電動化への動きが活発なフォルクスワーゲン。ID.3 を日本で普通に買えるようになるのはまだまだ先ですが、すでに純電気自動車の『e-Golf(ゴルフ)』が発売されています。ジャーナリストの塩見 智氏による試乗インプレッションをお届けします。

VW『e-Golf(ゴルフ)』にじっくり乗って電気自動車購入について考えてみた

ディーゼル『ゴルフ』と比較してみる

2015年に発覚したいわゆるディーゼルゲートの影響で本来のスケジュールよりも大幅に遅れたものの、このほどVWゴルフのディーゼルモデルがようやく日本導入された。2リッター直4ターボディーゼルエンジンは最高出力110kW、最大トルク340Nmを発揮し、ディーゼルでありながら軽やかに吹け上がる特性をもっていた。これによりゴルフはICE(ガソリン&ディーゼル)モデル、PHVモデルのGTE、そして今回試乗したBEVモデルのeゴルフと、2020年のフルモデルチェンジ(19年内に発表されるかもしれない)を前にバラエティに富んだパワートレーンをラインアップするクルマとなった。ディーゼルゴルフの印象が鮮明なうちにeゴルフを借り出して比較してみた。

フロントバンパーあたりのデザインを除けば、エンジンを搭載するゴルフと変わらぬルックスをまとうeゴルフ。インテリアデザインもそう。エンジンの代わりに総電力量35.8kWhのバッテリーとモーターが搭載されており、前輪を駆動する。モーター最高出力は100kW/3300-1万1750rpm、最大トルクは290Nm/0-3300rpm。車重はディーゼルゴルフの1430kgに対し、eゴルフは1590kgと160kg重い。重いのはBEVの宿命だ。

eゴルフは、BEVだからといって走らせるのに特別な操作が必要というわけではなく、スターターボタンを押し、Dレンジに入れてアクセルペダルを踏みさえすれば発進させることができる。アウディe-tron、ジャガーI-Pace、メルセデス・ベンツEQCといった80~90kWhの大容量バッテリーを搭載するラグジュアリーEV群ほどではないものの、BEVらしく発進加速は十分に鋭い。ディーゼルゴルフもエンジン付きのクルマとしてはなかなか力強い加速をするが、モーター駆動車と比べるのは酷というもの。スペックを見る限り、最高出力、最大トルクともにディーゼルゴルフのほうが高いが、最大トルクの発生回転域を見ればわかるとおり、eゴルフのほうが“最初が”速い。短い距離での加速競走であればあるほどeゴルフが速いはずだ。

レスポンスの良さや重心の低さが印象的

加速力そのものに加えレスポンスも違う。アクセル操作に対してeゴルフがほぼ遅れゼロで反応するのに対し、ディーゼルゴルフはアクセルペダルを踏んでからクルマが動きだすまでに一瞬の間(ま)がある。ただしこれはBEVを知るまではまったく気にならなかった間だ。

ディーゼルゴルフはディーゼルモデルとしては静かなほうだが、eゴルフはほとんど音がしないので、静粛性の高さもeゴルフが圧倒的に上回る。

乗り心地はほぼ同等で、速度域を問わず快適だ。ハンドリングは多少違っていて、どちらにも街中から山道まで思い通りに走らせることができるくせのない素直なハンドリングが備わっているが、eゴルフは常に重心の低さを感じさせる。より安定感がある。人間で言えば、腰を落として低く構えているから前後左右どの方向にもすっと移動しやすいといった感じ。

特別な操作は必要ないと書いたが、エンジン付きゴルフにない操作はある。回生ブレーキの強さの選び方だ。Dレンジを選択中はアクセルペダルを戻すとコースティング状態となる。この際、シフトレバーを一度左へ倒すとやや減速する。これがD1レンジ。もう一度左へ倒すとD2レンジとなって減速が強まる。さらに倒すとD3レンジとなってもっと減速が強まる。シフトレバーを左へ倒すことで3段階の減速の強さを選ぶことができる(レバーはその都度元の位置に戻る)。右へ倒すと減速が弱まり、3度右へ倒すとDレンジに戻る。D、D1~3のどのモードで走行中であっても、シフトレバーを手元に引くように倒すとBレンジとなり、最大の減速を得られる。

さまざまな状況で積極的にシフトレバーを操作して試してみた結果、D1~3レンジは緩やかかつ長い下り坂などでスピードを一定に保ちたい場合にいずれかのレンジがピタリとはまることがあるにはあったが、結論としてはDレンジとBレンジがあれば事足りると感じた。先行車両の減速、停止に対応するにはDからBへ入れて自車を減速させればよく、ちょっと減速が強すぎて先行車両よりもかなり手前で停止してしまいそうだったら少しアクセルを足して調節すればOKだ。これはやり慣れていないだけかもしれないが、シフトレバーを左右に倒す操作自体がやりづらい。三菱アウトランダーPHEVのように、パドルによって回生の強さをコントロールするタイプだったら、もっと積極的に試そうという気になったかもしれない。

2012年末に登場し、翌13年に日本導入された現行型ゴルフ(7世代目)は、今では多くの自動車メーカーが採用するモジュラー式プラットフォームをいち早く採用して登場した。このプラットフォームを開発している時期には、自らが引き起こした騒動をきっかけに、いわゆるディーゼルの“社会的な寿命”が縮まるとは考えていなかった。そのためMQBはBEVにも対応可能な設計ではあるが、まだまだエンジンを用いるICEやPHV寄りの設計になっていると考えるのが自然ではないだろうか。eゴルフの総電力量が35.8kWhなのはその辺りの都合なのかもしれない。

日常生活には十分な航続距離を実感

ではeゴルフの総電力量35.8kWhは十分か、それとも足りないか。一般的にEVは同じ空力特性、同じ車両重量の車体の場合、バッテリー容量が大きいほうが一充電での走行可能距離は長くなるいっぽう、車両価格が上がり、車両重量が増す。このためユーザーは一充電での走行可能距離と支払ってよいと思える価格のバランスを取って車種を選ぶことになる。ここ数日間eゴルフで生活してみて、JC08モードで301km、EPAモードで200km前後(推計値)の航続距離のeゴルフ一台で、十分やっていかれるなと感じた。

借りていた期間のeゴルフの電費は7km/kWh。これに35.8kWhをかけると満充電から250.6km走行可能という計算だ。いっぽうで借りていた期間の一日の平均走行距離は30kmだった。あくまでその週の僕の走行距離がそうだったというだけで、もっと乗らない週もあれば乗る週もあるが、計算上は一充電で8日間使えることになる。借りていた期間、新丸ビルで普通充電を1時間、羽田空港の駐車場で急速充電を30分間行ったが、いずれもまだ3分の2以上残っていた状態から体験として行っただけ。普通充電は用事を済ませている間のことだったので時間はまったく無駄になっていないし、羽田での急速充電も、車内で出張中にためていたメールの返信をしている間に30分間経過していたので待ったという感覚はない。EVに合わせて自分のカーライフを変更する必要はほとんどないことがわかった。

とはいえ自宅(集合住宅)に充電施設を用意できない現状では、EVは購入候補には挙がらない。やっぱり大原則として夜間に充電でき、毎朝、満充電かそれに近い状態で出発できる基本パターンがないと嫌だ。動力性能や快適性能の面でEVは非常に魅力的で、とても欲しいけれど、そのために引っ越すほどではない。もし戸建てに住んでいて駐車場も自分の土地だったら、間違いなく充電設備を整え、EVもしくはPHVを買う。マンションの役員が回ってきたら、空きが目立つ敷地内の駐車場の何区画かに充電施設を設置してはどうかと提案するつもりでもいる。けれどそのためにわざわざ積極的に役員に立候補するほどでもない。現状のICE(ディーゼル)でのカーライフに大きな不満があれば、EVに活路を見出そうというマインドになるのだろうが、さほど不満でもない。

eゴルフはもちろん、現在販売されているEVは素晴らしい魅力をもっていると思う。実際そう考えて購入して使っている人も少なくない。今よりももう一段階、社会がEV寄りになるにはふたつの条件があると思う。ひとつはEVがさらに魅力を増すこと。それは一充電での航続距離の大幅な進化かもしれないし、構造上ICEには不可能な、問答無用のカッコよさやパッケージングのよさかもしれない。もうひとつはICEが魅力を失うこと。失うとしたら燃料価格が高騰したり、燃費基準や排ガス規制が大幅に厳しくなったりした影響で動力性能が大幅に低下することだろう。真剣にEV購入を検討するのは、どちらかが起こってから、あるいは起こりそうになってからになりそうだ。

(塩見 智)


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