BMWのプラグインハイブリッド〜G20型『330e M sports』インプレッション【片岡英明】

先代の「F30型」から「G20型」に進化したBMW「3シリーズ」のプラグインハイブリッド車『330e』に、プライベートな愛車としてもBMW『i3』に乗るモータージャーナリストの片岡英明氏が試乗。インプレッションをお届けします。

BMWのプラグインハイブリッド〜G20型『330e M sports』インプレッション【片岡英明】

「駆け抜ける歓び」を楽しめるBMWの電動化モデル

ドイツのBMWは、早い時期から電動化に取り組んでいる自動車メーカーだ。2013年にバッテリーEV(BEV)とレンジエクステンダー(REV)の『i3』、そしてプラグインハイブリッド(PHEV)の『i8』を発表し、2014年から日本でもi3の発売を開始した。これ以降、BMWはPHEVを中心とした電動化モデルを意欲的に増やし続けている。2020年5月現在、日本で買える電動化モデルは11車種を数えるまでになった。

2020年は、新型コロナウイルスの影響で、どの自動車メーカーも販売台数を大きく減らしている。BMWも例外ではなく、1~3月の第一四半期の販売台数は前年同期比で20%も落ち込んでしまった。が、PHEVやREV、BEVなどの電動化モデルは15%もの伸びを見せているのだ。持続可能(サスティナブル)な未来の実現が叫ばれるようになり、日本でも電動化モデルに興味を持つ人が増えてきた。

BMWのオーナーやファンにも、次は電動化モデルを、と考えている人が少なくない。地球にやさしいエコカーでも、BMWが掲げている「駆け抜ける歓び」の設計ポリシーは、いささかもスポイルされていないからだ。電動化モデルのなかで、ここ数年、注目され、人気が高まっているのがPHEVである。

ご存知のように、エンジンに電気モーターを組み合わせて効率を高め、燃費を向上させて地球温暖化の元凶となっている二酸化炭素(CO2)の排出量を抑えようというのがハイブリッドシステムの売りだ。PHEVは、これを発展させたハイブリッド車で、通常のHV車よりも大容量のバッテリーを搭載して外部充電機能を加えることによって電気だけで走れる距離を大幅に延ばしている。

近場の通勤や買い物は、電気だけを使ってEV走行を行う。遠出するときは、最初の30~40kmほどはEV走行だ。が、走行用のバッテリーの電気を使い切ったり、電気が少なくなるとエンジンをかけ、ガソリンを使って走り続ける。電欠の心配がないから、BEVより安心感があり、ガソリン車やディーゼル車に乗っている人も馴染みやすい。充電インフラが整っている日本では最適なシステムといえる。

充電口は普通充電のみ。

ただし、充電は200V交流の普通充電のみ。いわゆる「チャデモ」の急速充電には対応していない。もっとも、PHEV が急速充電に対応しないのはBMWに限ったことではなく、欧米メーカーには共通のことであり、日本メーカーの車種でも欧米市場では非対応となっているケースもある。「PHEVに急速充電は不必要」というのが世界の常識となっていることは知っておきたい。

BMW電動化モデルのベストセラー車種

BMWが送り出しているPHEVのベストセラー車種が330eだ。先代のF30系3シリーズは、後期モデルで2.0ℓの直列4気筒DOHCターボにモーターを組み合わせたPHEVの330eを加えた。2.0ℓエンジンなのに330eを名乗っているのは、3.0ℓクラスの実力を秘めているからである。だが、初代の330eは認知度が低く、今ひとつ盛り上がらなかった。この3シリーズは、2019年に次世代のG20型にバトンを託している。この新しい3シリーズに追加設定されたのが、第2世代の330eということだ。

G20型の新しい衣装をまとった330eは、電動化のメカニズムも進化させた。トランク下に収めた駆動用バッテリーの量を7.7kWhから12kWhに増やし、電気による航続距離を延ばしたのである。ちょっとトランクの容量は減っているが、パッキングを工夫すれば大きな不満にはならないだろう。日本で販売されるのは、エクステリアをスポーティなルックスに変え、サスペンションやタイヤなどを専用チューニングしたプレミアムスポーツモデルの『Mスポーツ』だ。

気になるパワートレインは、1998ccの直列4気筒DOHCターボに電気モーターと、先代と大きくは変わっていない。が、運転してみると、まったくの別物だ。2.0ℓエンジンの最高出力は135kW(184ps)/5000rpmである。先代の330eと数値はまったく同じだ。が、最大トルクは30N・m(3.0kgf・m)も高められ、300N・m(30.6kgf・m)になった。

それだけではない。8速ATの中に収めたモーターの出力も向上している。先代の330eのモーター出力は64kw(88ps)/250N・mだった。これに対し新型330eは83kW(113ps)/265N・mを発生する。また、エクストラブースト機能が追加され、これを使えばシステム出力は215kW(295ps)/420N・m(42.7 kgf・m)へと向上する。リチウムイオンバッテリーの総電力量は12kWhと大幅に増やし、ゼロエミッションでの航続距離も52.4km(WLTCモード ※EPA換算推計値=約47km)へと大きく延ばした。ちなみに200V電源を使った普通充電(出力3kW)では満充電まで約3〜4時間が目安となる。

加速は冴えている。基本はEVモードでのスタートだ。右足にちょっと力を込めると、レスポンス鋭く瞬時にパワーとトルクが湧き上がる。モーターならではの鋭い瞬発力を低回転から味わえ、加速は力強い。滑らかな加速フィールも内燃機関では真似のできない魅力だ。エンジンがかかってからも力強い加速を見せつけた。アクセルを積極的に踏んだときのエンジン音もBMWらしい耳に心地よい音色だ。

特筆したいのは、エンジンにモーターアシストの組み合わせが高回転を好む味付けになる「スポーツモード」である。10秒間は高い過給を続けるエクストラブースト機能が働き、パワーは40psも増えるのだ。100km/hまでの加速タイムは5.9秒と発表されている。だから330iを凌ぐ刺激的な加速を見せるし、シフトアップ時のトルクの落ち込みもまったく感じない。車両重両は1700kg近いが、重さを感じさせない豪快な加速を披露した。バッテリーに電気がたくさんあれば110km/hを超える速度域まで快適なEV走行を楽しむことが可能だ。

一方、街中を流す走りでは驚くほどジェントルな走りを見せた。モーターを内蔵した8速ステップトロニックもいい仕上がりだから、渋滞している道路でも扱いやすい。加減速のコントロールも思いのままだ。エンジンがかかっても静粛性が高いのも美点にあげられる。EV走行できる距離は、WLTCモードで約52kmだ。乗り方によってEV走行できる距離は変わってくるが、回生も利くので40km程度は安心して走れた印象だ。

ガソリンを使って走っているときの燃費は15km/ℓ前後だ。走行条件などにもよるが、ハイブリッドモードでモーターアシストを上手に活用すれば20km/ℓの大台を狙うのも難しくないだろう。この大きさのセダンとして優れた燃費性能で、走行フィールもまったく違和感がない。自然体で乗れるのがいいところだ。ただし、燃料タンク容量は40ℓと、このクラスのセダンとしては小さめだから過信は禁物だ。ロングドライブのときは燃料計のチェックを怠らないようにしたい。

ハンドリングは、さすがBMWである。「駆け抜ける歓び」というキャッチフレーズのように、スポーティな走りを満喫できる。Mスポーツは引き締められたスポーツサスペンションにインチアップした18インチの前後異サイズタイヤの組み合わせだ。だから活発にドライビングを楽しむ走りが似合う。

ワインディングロードでも鼻先が気持ちよく向きを変え、狙ったラインにたやすく乗せることができる。ただし、バッテリーが載っているからリアの重さを感じさせ、330iや320iより軽快感は薄い。基本はグランドツアラーだ。本気でサーキットを責めるような走りは得意ではない。意外だったのは、太いスポーツタイヤを履いているのに乗り心地が驚くほどよかったことである。後席でも快適だ。

また、3眼カメラとミリ波レーダーを組み合わせた先進運転支援システムの実力も高かった。先行車両や車線などの認識能力は驚くほど高く、レーンキープ機能も違和感なく使うことができる。ステアリングから手を離して走行するハンズオフ機能も、予想した以上に使うことができた。うまく使えば、高速道路での疲労は大幅に減らせるだろう。胸を張って乗れる、

地球に優しい上質なスポーツセダンがBMW330eだ。自宅ガレージに充電環境の整っている人はもちろん、充電環境のない人でも出先の公共充電スポットなどを上手に活用すればいいことであるし、エンジン走行中に充電する「SAVE」モードなどを活用すれば、ゼロエミッションの気持ちよさを日常のシーンのなかで存分に味わうことができる。

(文/片岡 英明)

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