プラグインハイブリッドのボルボ『S60 T6 Twin Engine』に感じた「美しい走り」

ボルボから登場したプラグインハイブリッド車『S60 T6 Twin Engine AWD Inscription』に、自動車評論家の御堀直嗣氏が試乗。EV化への期待感まで含めた詳細な試乗インプレッションレポートが届きました。

プラグインハイブリッドのボルボ『S60 T6 Twin Engine』に感じた「美しい走り」

PHEVの市場投入に積極的なボルボ

スウェーデンのボルボは、XC90からプラグインハイブリッド車(PHEV)の市場投入をはじめている。さらに電動化を進めるうえで、ディーゼルエンジンの車種を持たない4ドアセダンのS60にもPHEVが追加され、短距離ではあるが試乗の機会を得た。(ボルボ・カー・ジャパンの木村隆之社長は、今後、小型の車種ではディーゼル車を販売しないと語っている)

試乗したのは、S60 T6 Twin Engine AWD Inscriptionだ。ボルボは、PHEVのことをツインエンジンと称する。

ツインエンジンの機構は、排気量2.0リッターの直列4気筒エンジンと変速機の間に薄い円盤状のモーター/発電機を備え、後輪側に駆動用モーターを配置する。ピュアモードと呼ぶモーター走行は、後輪モーターのみで行う。この構成は、XC90のときから変わらない。

S60のツインエンジンには、T6とT8という二つの仕様がある。しかしそれぞれPHEVの機構はまったく同じであり、制御によってガソリンエンジン側の出力を変えている。T8のほうが高出力で、最高出力は333ps(245kW)、最大トルクが430Nmだ。これに対し今回試乗したT6は、最高出力が253ps(186kW)で、最大トルクは350Nmである。

後輪の交流同期モーターの性能は、T8もT6もまったく同じで、最高出力は65kW、最大トルクは240Nmである。

搭載されるバッテリーはリチウムイオンで、96セル、11.9kWh(350V×34Ah)である。充電は、欧州自動車メーカーのPHEVの常として、普通充電のみだ。充電時間は、表示ゼロからおよそ3〜4時間で満充電になる。急速充電口は設けていない。

現在、日本でラインアップされているのはこのT6のみで、車両本体価格は779万円(税込)。30台限定で発売された『S60 T8 Polestar Engineered』はすでに完売している。

エンジン車との乗り心地比較

S60については、昨2019年10月にT5 Inscriptionというガソリンエンジン車に試乗している。T4の一つ上の、ガソリンエンジン車としては上級車種だ。素直な運転感覚で、山間の屈曲路においてやや速度を上げて走行し、奥の深いカーブでハンドルをさらに切り込んでいっても前輪がよく食いつき、切れ味よく曲がっていく様が印象に残っている。

一方で、乗り心地はサスペンションにしなやかさが足りずやや硬めで、美しく快い北欧デザインの内装に必ずしもあわない印象があった。もう少し滑らかな乗り味であったらよいのにと思った。競合とみられるBMW3シリーズや、メルセデス・ベンツCクラス、あるいはアルファロメオのジュリアなどと比べると、特有の利点をあまり感じられないというのが、エンジン車での率直な感想だった。そのうえで、PHEVという特徴が加われば、印象が変わるのではないかと想像していた。その機会が、ようやく訪れたのである。

試乗の際にバッテリーは満充電で、T6は諸元上48.2km(WLTC ※EPA換算参考値=約43km)をモーターのみで走れることになっている。ちなみに、T8は42km(WLTC ※EPA換算参考値=約37km)である。ともに国土交通省の審査値であり、計測時の状況によっても異なるが、標準装備のタイヤ寸法や車両重量の違いなどにより差が生じたのではないだろうか。

イグニッションを入れ、そのまま走るとモーター走行になる。モーター走行をどれくらい続けられるかの目安が、メータ右側に表示される。水滴の印の下がモーター走行可能な水色で示され、走行を続けるうちにその面積が少なくなっていく。

電動ならではの上質な走りを体感

ガソリンエンジン車のT5に試乗したときよりT6のモーター走行は上質で、上級な4ドアセダンという満足を得た。運転操作に対する基本的な操縦性は、T5試乗のときからもともと素直であり、限界もかなり高そうな様子を実感していたが、その際の不満は外観の佇まいや室内の雰囲気に比べ高級感が足りないことであった。それが、モーター走行をしてみると一気に水準を上げ、上級の味わいをもたらしたのである。また、モーター走行では後輪駆動となる点も、上級4ドアセダンにふさわしい走り味になる。

昨今、前輪駆動であろうが後輪駆動であろうがそれほど違いは感じにくいものだが、後輪駆動は速度を上げなくてもおのずと手ごたえの差を伝えてくる。

T5ではやや乗り心地が硬く、粗い印象を受けたが、T5に比べバッテリー搭載などで増えた350kgの重さが、振動を抑え、落ち着きある乗り心地をT6にもたらしているようだ。当然ながら静粛性にも優れ、逆にエアコンディショナーの送風音や、タイヤ騒音が耳に届くほどであった。

タイヤ騒音については、ドイツ製タイヤが今回は標準装着されており、これを国内メーカーの快適性重視の銘柄に交換すれば、軽減されるのではないか。またタイヤを変えることで、乗り味もよりしっとりとした感触に変わるかもしれない。欧州と違い、国内の速度域であるなら試す価値はあると思う。

回生の利きについては、シフトレバーのDポジションではそれほど強く働かず、Bへ切り替えると右足で速度を自在に調整することができ、とくに市街地では丁度よい効き具合になる。この遅れのない速度調整が可能な点も、モーター走行の大きな利点であり、これがS60 T6 Twin Engine AWDを、T5に比べ、よりクルマと一体となる運転を覚えさせ、快く思わせた要因ではないだろうか。回生は、速度が時速10km以下くらいになると切れる。したがって、日産のe‐Pedalのようなワンペダルでの運転までは想定していない。

モーター走行の電力を使い切ると、エンジンを併用するハイブリッド走行になる。ただし、車名にAWD(全輪駆動=4輪駆動)とあるように、駆動力配分を行う場合に後輪のモーターが機能するよう、バッテリー電力は実は残されている。この点は、BMWミニのPHEVも同様で、後輪のモーターを追加することでPHEV化した車種は、発進や4輪駆動としての必要性がある状況に備え、完全にバッテリー電力を使い切ってしまうことはない。

美しいデザインにはモーター走行が似合う

ここで改めて、エンジン走行をしてみたらどうかと思い、あえてチャージ(充電)モードで運転してみた。チャージモードの選択は、カーナビゲーション画面をスワイプすると、各種設定画面となり、そこでアイコンを選択し、タッチする。

現在ボルボは、エンジンをすべて4気筒の過給仕様とし、仕様を絞り込んで効率的な原動機生産を行っている。S60のT5も排気量2.0Lの直列4気筒で、これにターボチャージャーを装備する。T6になると、ターボチャージャーのほかにスーパーチャージャーも装備する。ただし、性能値はほぼ同じで、T5が最高出力254psであるのに対してT6は253psという具合だ。

それでもターボチャージャーが排気に応じて過給を行うのに対し、スーパーチャージャーはエンジン回転に応じて過給を行うので、より低回転から遅れなく過給効果を得られるのが特徴だ。T6ではスーパーチャージャーも装備することにより、低速トルクの大きいモーターとの走行感覚の違いを少なくすることができるだろう。

実際、チャージモードを選んでエンジンだけで運転しても、よく走る印象だ。とはいえ、モーター走行は当然ながら静粛性が高いので、かえってエンジン音の存在を意識させられた。そしてモーター走行で実感した上質さはやや削がれる。ハイブリッド走行となってもエンジンは働くので、モーター走行との快適さの違いは大きい。

北欧デザインの洗練された美しさにあうのは、やはりモーター走行であると改めて思った。

快適&安全装備にも抜かりはない

その北欧という点で、試乗車にはシートヒーターが前後の座席に設けられ、ハンドルにもヒーター機能を備えていた。運転席に座り、ハンドルを握った瞬間にぬくもりを感じられるのは、冬の時期にはありがたく、心を和ませる。そうした穏やかな気持ちは、ボルボが得意とする車両の安全性能だけでなく、運転者の安全意識も補助するのではないだろうか。

またボルボのカーナビゲーションは、手袋をしたままでもタッチ操作のできる赤外線方式を採用する。北欧のクルマならではの技術だ。音声による目的地設定やエアコンディショナーの調整機能も、ボルボは早くから採り入れている。快適かつ安全な移動をもたらす装備の採用に躊躇がない。

電動化に加え、自動運転にも積極的に取り組み、自動運転車による万一の事故はメーカー責任であると早くも宣言したボルボは、電動化や自動運転の時代を迎えるとき先駆的ブランドとしてさらに世界で認められる存在になるかもしれない。

S60 T6 Twin Engine AWD Inscriptionの印象は極めてよく、電気自動車(EV)になればもっとよさが高まるのではないかと想像できた。しかし、2016年から日本に導入されたXC90から採用されているスケーラブル・プロダクト・アーキテクチャー(SPA)と名付けられたプラットフォームはPHEVまでの想定で、EV用は次期型プラットフォームに委ねられるとのことだ。EV化は少し先の話となるだろう。

また、SPAの導入がSUV(スポーツ多目的車)のXC90からはじまったように、EV化もSUVから行われるかもしれない。というのも、世界的に各自動車メーカーの売れ筋はSUVであるからだ。メルセデス・ベンツも、EVはEQCからとなっている。

(取材・文/御堀 直嗣)

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この記事の著者


					御堀 直嗣

御堀 直嗣

1955年生まれ65歳。一般社団法人日本EVクラブ理事。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。1984年からフリーランスライター。著書:「快走・電気自動車レーシング」「図解・エコフレンドリーカー」「電気自動車が加速する!」「電気自動車は日本を救う」「知らなきゃヤバイ・電気自動車は新たな市場をつくれるか」「よくわかる最新・電気自動車の基本と仕組み」「電気自動車の“なぜ”を科学する」など全29冊。

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