小型商用EV『ELEMO』試乗レポート〜ドライバーに優しい乗り心地【御堀直嗣】

7月24日からの受注開始が発表されたHW ELECTRO社の小型商用電気自動車『ELEMO』に自動車評論家の御堀直嗣氏が試乗。さらなる進化への期待を込めたインプレッションとともに、ELEMOの可能性を提言します。

小型商用EV『ELEMO』試乗レポート〜ドライバーに優しい乗り心地【御堀直嗣】

待望していた小型商用電気自動車の登場

小型商用EVのELEMOが、いよいよお披露目となった。

私は、5年以上前から『100km100万円軽商用EV』を提唱し、国内自動車メーカーに陳情して回った経験があり、生産財として原価に厳しい商用でEVを実現することこそ、EVにふさわしい装備と原価を確認し、消費財である乗用EVの価格低減に役立つと考えてきた。しかし、既存の自動車メーカーは各社とも、総論賛成だがバッテリー原価を持ち出して実現は難しいとの回答だった。唯一、本田技術研究所(ホンダの研究所)の元社長である松本宜之氏のみ、「こういう挑戦こそホンダがやるべきだ」との意見を述べられた。

こうした経緯を踏まえ、ELEMOの登場はまさに我が意を得たりなのである。

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発表会のあと、広場を利用した試乗会が催された。公道ではないものの、小型商用EVの基本性能を知るには適当な広さが確保され、直線とカーブを組み合わせた特設コースは、試乗会の意味を知る管理者が設定したと思われる練られた内容だった。

ELEMOの諸元をまず確認しておこう。全長は3,925mm(荷台を載せないフラットベッドは3,910mm)、全幅が1,440~1,450mm(ピックアップとボックスと呼ぶパネルバンで若干の差がある)、全高が1,905mmだ。全長が、3,400mmを超えるため軽自動車規格には入らず、登録車の商用車となる。

ただし、今後は軽自動車化を視野に入れており、競合も軽商用EVとなるはずで、三菱ミニキャブMiEVと比較すると、こちらは全長3,395mm、全幅1,475mm、全高1,915mm(商用バン)となる。

改めて、全長だけ調整できれば、ELEMOが軽自動車となり得ることがわかる。

運転する人への優しさが感じられる乗り心地

運転席に座ると、EVらしく簡素にまとめられたダッシュボードとスイッチ類が並んでいる。シフトレバーはなく、前進/後退/ニュートラルの切り替えスイッチであるところがEVならではだ。したがって、エンジン車の自動変速機付きと異なり、Pポジションはないので、駐車の際には必ずサイドブレーキのレバーを引くことが求められる。

EVなので、発進は滑らかかつ十分な動力で、伸びやかに走る。商用車といえども、静粛性に優れ快適性が保たれるところは、配送などに従事する人の労働条件の緩和に一役買うはずだ。職業運転者は、長い時間クルマを使うので、車内の快適性が疲労を軽減し、それによって事故などの予防につながることも期待される。つまり、私が100km100万円軽商用EVを提唱した背景にも、環境対応だけでなく、人が働くことに対する余計な労力の軽減の目的もある。

もう一つ、乗り心地が柔らかめで、強い振動が伝わらず体にやさしいことも印象に残った。

バスやトラックのようにハンドルが寝た運転席では、送りハンドルのような操作をすることでカーブを曲がりやすくなる。カーブではやや車体が傾く(ロールする)が、都市での配送などを主目的とする商用車として問題となる水準ではない。

運転しているうちに、1990年代に米国でベンチャー企業などが製造した簡易的なEVに似ていると思った。ある意味で、電動ゴルフカートの延長ともいえるが、それは良し悪しではなく、目的にあった車両であることが重要だ。ELEMOは、そんな手作り感、あるいは製造した人々のぬくもりの伝わる小型商用EVである。

ブレーキペダルのストロークの大きさなどは改良を望む

一方、気になる点もあった。一つは、ブレーキペダルのストロークが大きく、かなり奥まで踏み込まないと制動しはじめないことだ。またそれによって、ブレーキペダルとアクセルペダルが近いこともあり、両方のペダルを同時に踏み込んでしまうこともあった。しかしそれでも、ブレーキ優先で暴走することはなく、安全は確保されていた。

装備表を見ていて、踏み間違い防止装置が取り付けられている(日本仕様独自の改良点)とのことで、時流を汲み取った標準装備だと資料の段階で思っていたが、なるほど試乗をしてみると上記のようなことが起こりかねない予防策だと得心した。

それでも、より少ないストロークで減速しはじめることは、市街地や住宅地を走ることを前提とする配送では重要だ。また改めて、ペダル配置を確認すると、アクセルとブレーキのペダル高さがほぼ同一で、しかも間隔が近い。これでは、両ペダルを同時に踏み込む可能性がある。

まず、ペダル配置の改善と、ブレーキペダルのストロークの調整を実証実験の期間を利用するなどして改良することを望む。

クルマに限らず、何事も(他の製品も、またスポーツの習得などにおいても)基本が適切であることが大切で、対処療法ではおのずと限界があるからだ。

回生ブレーキのさらなる活用も望みたい

次に、快適な乗り心地であるのは好ましいが、走行場面の映像などを観てもピッチングやバウンシングという上下動が収まりにくい様子がある。試乗では積載がなく、450~650kgという荷を積めば、違った乗り心地や振動の収まり具合にもなるのかもしれない。それでも、商用車であるならもう少し乗り心地が硬くなったとしても、上下振動の収まりやすさを改善したほうがいいのではないかと感じた。その点、三菱のミニキャブMiEVは乗り心地が少し硬めだが、不快ではなく、走行安定性は高い。

そうした乗車感覚は、ホイールベースやトレッドという諸元からも影響を受けているかもしれない。

ELEMOのホイールベースは1,800mmで、トレッドは前が1,095mm、後ろが1,110mmである。これに対しミニキャブMiEVはホイールベースが2,390mm、トレッドは前が1,305mm、後ろが1,300mmと、いずれも寸法が長い。このタイヤ配置の寸法の違いも、操縦安定性や乗り心地に影響しているはずだ。だがそこは、ダンパーの選び方などで対処できる余地もあると思う。

もう一つ、試乗ですぐに感じたのは、回生の効きの弱さだ。せっかく永久磁石式同期モーターを利用しているのだから、また、商用EVとして一充電走行距離120~200kmと割り切った仕様としているのだから、回生を強めの設定とし、発進停止が繰り返される都市部などでの利用を視野に回生を活かした充電を期待するだけでなく、ワンペダル的なアクセルの活用によって、先のペダル配置に対する懸念も解消方向(ただし根本的な対処ではないが)へ向かうだろう。e-Pedalやe-Powerドライブを売りの一つとする日産自動車によれば、ワンペダル操作によってペダル踏み替えを約7割減らせられるとしている。

納車時にEVの特徴を活かした運転方法について助言を

そのうえで、これは提案だが、納車の際には、EVでの発進では強くアクセルペダルを踏み込みすぎないよう助言をするといい。

エンジン車をずっと運転してきた人は、たとえ職業運転者であっても発進でアクセルペダルを深く踏み込みすぎる傾向がある。それは、ことに自然吸気エンジンの軽商用バンなどでは、発進加速が物足りないことがあるからだ。しかしEVでのモーター走行になれば、発進のときこそ最大トルクを出せるのであり、余分なアクセル操作は無駄な電力消費を増やすだけだ。

かつて、電動スクーターを導入した食品配送者が、走行距離が短くて使いものにならないといったが、それは、エンジンスクーターが無断変速機(CVT)を使うため、発進時にアクセルを大きく開ける癖があるからだった。「電動車のモーターではアクセルのグリップを少し動かすだけで十分な発進加速が得られる」と助言されて以降、走行距離への不満が解消されたことがある。

そのように、エンジン車からEVへ乗り換えるときには、特徴を活かしたコツを知ることが何より重要だ。それは難しいことではなく、すぐに会得できる操作方法である。

回生を活かしたアクセルによる速度調整法とあわせて、エンジン車とは違うとの意識で運転操作を変えていくことが、商用EVをいっそう活かすことにつながる。

「1km1万円を視野に」さらなる挑戦に期待したい

最後に、この先3か月の実証実験を行う花キューピットの澤田会長が、実車を前に「配送だけでなく、農業でも活かせそうな直観を得た」と発言した。まさにその通りで、わずかなアクセル操作で自在の速度調整できるEVは、働くクルマとして、農業や林業、漁業などの現場でも活かされる次世代車だ。

ELEMOへの期待を述べた花キューピットの澤田將信会長。

ただし、その場合は4輪駆動であることも前提となる場合が多い。ミニキャブMiEVのバンやトラックは、その4輪駆動がないため、そうした地域への波及効果をもてなかった。4輪駆動方式は、昨今のフルタイム式ではなく、昔ながらのパートタイム式(2輪駆動と4輪駆動を状況に応じて使い分ける)の簡素な手法でいいだろう。またエンジン車と異なり、小さな角で曲がり切れなくなるタイトコーナーブレーキング現象も、モーターなら影響を受けにくいのではないか。

今後、軽商用EVの新型の開発も行われるとのことなので、4輪駆動車の構想も加われば、欲しいと願う人が増えるのではないか。

また、原価低減に際しては、現行の永久磁石式同期モーターではなく、誘導モーターの選択肢もあるのではないか。誘導モーターは、テスラが使っており、アウディe-tron、メルセデス・ベンツEQAでも使っている。BMWも、レアアールからの脱却を謳っており、誘導モーターを採用する可能性もあるのではないか。

人権問題から、新疆ウイグル自治区の綿製品に関する課題が持ち上がっているが、中国に多くを依存するレアアースの採掘現場は、放射能を持つ鉱物から採りだされているはずだ。単に二酸化炭素(CO2)の排出削減や脱炭素だけでなく、SDGsを念頭に置くなら、脱レアアースとしてのEVの在り方も模索されるべきだろう。

誘導モーターでも、テスラはもちろん、e-tronもEQAも十分な動力性能を発揮しているはずだ。誘導モーターなら、磁石に使う材料は鉄芯と銅線だけである。

HW ELECTROの蕭偉城社長。

将来的に軽商用EVの普及へ向け、「1km1万円を視野に入れていきたい」と、HWエレクトロの蕭偉城(ショウ・ウェイチェン)社長は抱負を述べた。それは私が提唱した「100km100万円軽商用EV」の構想そのものである。ELEMOへの期待は高まるばかりだ。

(取材・文/御堀 直嗣 写真/木野 龍逸)

この記事のコメント(新着順)2件

  1. ミニキャブMiEVバンが法人向けだけになっとはいえ存続していることが驚きです。
    クルマとしての出来は流石にかないませんが
    そもそも同じ土俵で勝負しようとしているわけではないでしょうからそれはそれでよいのですが、、、
    登録車とするならライトエーストラックと比べるべきで、ミニキャブMiEVバン/トラックと比べるのはおかしいのではないかと思ってしまいました。

  2. EVの選択肢が増えるのは良い事ですね、ミニキャブのバッテリー見直しで低価格化の話も有る様です。(私の車はMタイプで生産打ち切られてますが、車体よりバッテリー寿命が長いのでは?と言われてるのでどこ迄乗るか?)

    ミニキャブのオーナーとしては仲間が増えて色々改善されると良いなと思います。

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					御堀 直嗣

御堀 直嗣

1955年生まれ65歳。一般社団法人日本EVクラブ理事。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。1984年からフリーランスライター。著書:「快走・電気自動車レーシング」「図解・エコフレンドリーカー」「電気自動車が加速する!」「電気自動車は日本を救う」「知らなきゃヤバイ・電気自動車は新たな市場をつくれるか」「よくわかる最新・電気自動車の基本と仕組み」「電気自動車の“なぜ”を科学する」など全29冊。

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