『Jeep』ブランドのプラグインハイブリッド=電動車
世界的にEVシフトが進んでいるなか、その波はクロスカントリーモデルの代名詞「Jeep」にも及んでいる。「Jeep」に設定されたEVはエントリーモデルであるレネゲード。EVといってもエンジンも搭載するPHEVである。レネゲードはフィアット500Xと兄弟関係にあるモデルで、全長が4255mm、全幅が1805mmとSUVとしては比較的コンパクトなモデルだ。
エンジン車の場合、1.3リットルのターボエンジンを搭載するが、PHEVはこのエンジンに加えてフロントにISG(Integrated Starter Generator=スターター兼発電器)式のモータージェネレーター、リヤに駆動用モーターを組み合わせる。モータースペックはフロントが33kW/53Nm、リヤが94kW/250Nm。搭載されるバッテリーはリチウムイオンで11.4kWhの容量を持つ。
すでにオンロードでのレポートはお届けしているが、今回は冬の北海道で乗る機会を得たのでその詳細をお届けしたい。ジープの魅力はなんといってもその高い走破性にある。そこに電気がどう貢献するのだろう? まずはその話をしておきたい。
オフロード性能を高める電動化のメリット
ジープは駆動力を4つのタイヤに配分することで高い走破性を獲得している。この考え方は電気が介入してもまったく変わらないが、そのアプローチがずいぶんと違う。4WDの走破性を向上するもっともクラシカルな方法は、前後のデファレンシャルとセンターのディファレンシャル、3つのデファレンシャルをロックするという方法だ。デファレンシャルは前後のデファレンシャルは左右輪の、センターのデファレンシャルは前後駆動軸の回転差を吸収しているが、これをロック(デフロック)する方式だ。
悪路でスタックした際などはデフロックを使うと高い脱出性能を発揮できるが、ステアリングが効かなくなるなどさまざまな弊害が出る。それを回避するためにデフの働きを制限するLSD(リミテッド・スリップ・デファレンシャル)も存在する。LSDには機械式(クラッチ式)や流体継手式、ギヤ式などさまざまなタイプがあるが、それぞれに走破性の高さとイージーさがあり、一長一短である。最近はエンジンの出力を絞ったり、4輪のブレーキを独立して制御するなどの方式が取り入れられるようになってきている。
エンジンの出力を絞るという方式はじつはエンジンには不向きな制御方式だ。しかし、EVには非常に向いている。モーターはエンジンの10倍以上の速度で出力を制限することができるし、緻密さにおいてもエンジンの何十倍も正確だ。4輪への伝達トルクを個別に制御することで走破性を上げるという現代の4WDの考えにおいては、モーターという動力源に勝るものはないだろう。
雪道での高い安定性を実感
さて、ジープ・レネゲードのPHEVである「4xe」の雪道ドライブだ。レネゲード4xeにはハイブリッド、エレクトリック、Eセーブの3つのドライブモードがある。ハイブリッドでは条件が合えば、エンジンが始動する。先にも説明したが、レネゲード4xeの動力系統はフロントがエンジン+ISG、リヤがモーターである。ISGが単体で動力となることはなく、ハイブリッドでのエンジン未始動時はFR状態となっている。
にも関わらず、雪道での安定性はかなり高い。速めの速度でコーナーに入ってもスタビリティコントロールが働いて、しっかりとクルマを安定化させる。試乗車はトレイルホークで、標準ではオールシーズンタイヤを装着しているが、今回の試乗では雪道中心になるということでタイヤをミシュランのスタッドレスタイヤ『X-ICE 3+』を履いていたのも大きな要因だろう。4WDならば雪道でも強いと勘違いをしている人がいるが、路面と接しているのはタイヤであり、駆動方式よりもタイヤの性能がもっとも影響する。
基本の動力をどう選ぶかが上記の3パターンだが、そのほかに走行モードの切り替えもある。モードはオート、スポーツ、スノー、サンド&マッド、ロック(ROCK、岩)の5種で、そのほかにローギヤード相当の4WD LOWとリヤデフロックを行う4WDロック(LOCK、固定)も用意される。
新雪や圧雪ならばオートで走っていればまったく問題がない。ハイブリッド&オートモードの場合はエンジン走行とモーター走行を切り替えながら走る状態となる。面白いのは走行用バッテリーが空近くになっても、常に充電を行いながら4WD走行を続けること、FRの2WD走行はEVモード時のみしかできない仕組みだ。ジープという走破性重視のブランドを大事にする設定というわけだ。
少しでも安定した走りを求めるのであれば、スノーモードを選ぶといい。スノーモードを選ぶとオーバーステア(アクセルを踏み込んだときにはリヤが滑ってしまうような状況)を極力抑えてくれるので、安心感が増す。その逆にせっかくの雪道なのだから、さらにアクティブに走りたいというならスポーツモードを選ぶことでアクセルコントロールでクルマを走らせるようなことが可能となる。
ジープのようなクロスカントリーモデルの電動化については、普通の乗用車以上に賛否が分かれるところだ。運転技術を競うような場面ではデフロックの使い方やアクセルワーク、ブレーキワークのテクニックを楽しむこと自体が魅力で、その場合はシステムがクラシカルなほどいいだろう。しかし、日常使いがイージーで、しかも高い走破性を持つ電動化はウエルカムなことだ。
最終的にEVだからこそできるのが、各輪それぞれにモーターを取り付ける方式だ。4つの車輪にそれぞれモーターが取り付けられる方式では、それぞれのモーターを緻密に制御することでさまざまな走りが可能になる。4モーター&4WSならば、今までとは違う動きが可能だ。また、4つのモーターをホイール外の上側に配置しモーターと車軸をギヤでつなぐハブリダクション方式を使えば、最低地上高も上げることができる。モーターの持つ、大トルクだけでなく、緻密な制御を行ってこそ、このシステムは成立するが、そうした世界に足を踏み入れられるのもモーターならではのことだ。その世界もすぐそこまで来ているように感じる。
(取材・文/諸星 陽一)