純エンジンモデルをラインアップから排除
2030年までにEV専門メーカーに転身することを宣言しているボルボ。その歩みは着々と進んでいる。2020年8月には日本に導入されているSUV系のパワートレインからピュアエンジンモデルを排除、全車を48Vハイブリッド、もしくはPHEVとした。PHEVについてはグレード名も変更し「Recharge=リチャージ」の名を使うこととなった。
今回試乗したのはシリーズ最大のサイズを誇るXC90 Recharge。ボディ全長は4950mm、全幅は1960mm、全高は1760mm。ホイールベースは2985mmで、車両重量は2トンを超え2370kgにもなる。
XC90の初代は2002年デビューで、今回の試乗車は2015年にフルモデルチェンジ(日本導入は2016年から)した2代目に当たる。現行XC90はボルボの大型系モデルに共通のSPAと呼ばれるプラットフォームを用いた最初のモデルだ。サスペンションはフロントにダブルウィッシュボーン、リヤにマルチリンクを採用。通常モデルはリヤのスプリングを複合素材製のリーフスプリングとしているが、試乗したT8リチャージはエアスプリングを採用している。なお、このエアスプリングはほかのグレードでもオプションで選ぶことが可能だ。
搭載されるパワーユニットは2リットルのガソリンエンジンと前後のモーターとなる。ガソリンエンジンはターボ+スーパーチャージャー付きで、233kW/400Nmのスペック。一方のモーターはデビューよりスペックアップされフロントが34kW/160Nm、リヤが65kW/240Nm。搭載されるバッテリーはリチウムイオンで96セル、350V/34Ah(11.9kWh)。WLTCモードにおける燃費は12.8km/ℓで、バッテリーのみでの走行可能距離(等価EVレンジ)は39.2km、プラグインレンジが40.6km(EPA基準値約29km)となっている。
大きなクルマだが優れた機能のおかげで運転は楽
そもそもかなりのボリュームのあるクルマだけに、走るのにはそれなりに気をつかう。東京の世田谷や中野、杉並あたりや地方の昔からある住宅街ではちょっと乗りたくないタイプのサイズである。しかし、今回の試乗は石川県金沢市がベース。狭い道も存在するが、道路を選んで走ればさほどキツい印象はない。ボディは大きいが、目線が高く見通しがいい。さらにボディの面や線がわかりやすいデザインであること、360°ビューカメラのおかげで駐車などの際に助けてくれるのが、さらに運転を楽にしてくれる。
ベース基地となっていたホテルの駐車場を出る際、すでにバッテリーは満充電の状態である。モーターアシストのある発進はじつに楽だ。2トンオーバーの車体をものともせずに加速させる。しかし、まずはEVとしての性能をみないと……ということでEVモードに切り替えたのだが、ここでひとつ失敗を冒した。
EVモードに切り替えた際のオドメーターを読み忘れたのだ。痛恨のミスである。そして電池切れは訪れた。オドメーターは60kmを示していた。プラグインレンジが40.6kmで、おおむね「そんなものだったかな」という印象ではあった。
プラグインハイブリッドの場合、航続距離のカタログ数値が2つ存在する。ひとつは「等価EVレンジ」というもので国交省では「外部充電で電気走行可能な距離」と定義している。もうひとつが「プラグインレンジ」で「外部充電で電気走行し、完全に燃料走行に切り替わるまでの走行距離」である。普通に考えれば、どちらも同じ「外部充電の電気で走れる距離」ではあるのだが、プラグインレンジは「実際の試験でバッテリー残量がなくなってエンジンで走り始めるまでの、外部充電によるバッテリーの電力による走行距離」で、等価EVレンジは「試験で求められた電費と搭載バッテリー容量からの計算で求められた外部充電によるバッテリーの電力だけで走れる距離」ということになる。
(編集部注※この点については国土交通省にも確認の上、別記事でまとめてみたいと思います)
そもそも、WLTCと実用上の航続距離が大きく違うのが当然で、世界各国でさまざまな基準が適用されていることもあり、ユーザーにとってわかりにくいことこの上ない。
電気の量は「Wh」で表される。大容量電池を搭載するEVの場合は1000倍の「kWh」を使う。いわゆる電費は1kWhで何km走れるか? を表したものでXC90の場合はWLTCモードで3.78km/kWhだ。1kWhの電気がいくらで買えるかで、走行コストは変わる。仮に電気1kWhが25円、ガソリン1ℓが150円としてコストを計算しよう。150円で買える電気は6kWhで、これに電費をかけ算すると22.68km/ℓに相当する。このサイズのSUVであることを考えると抜群の低燃費となり、ガソリンで走るよりもはるかにコストは掛からないのが明らかだ。
余談となるが輸入車のほうが燃費や電費は実性能とカタログ性能が近い傾向にある。モード燃費などはシャシーダイナモの上にクルマを載せて、決められたモード(加速、減速、定常走行など)で走って計測するが、運転操作をするのは人間だ。国産車の場合は、それを行うスペシャリストのテストドライバーが担当するが、輸入車の場合はインポーターの担当者が行う。国産のテストドライバーにくらべてインポーターの担当者の腕が悪いわけではないが、0.1km/Lの燃費(EVだとkm/kWhで電費ですね)を追い求める国産車のようなことはしていない。
型式認証の際にこの計測をするのだが、燃費や電費を追い求めて運転を失敗(指定速度を維持できないなど)する、つまり数値にこだわって再計測するようなことになるとすぐに再試験は受けられず、一定期間を空けなくてはならない。つまり、販売開始が遅れてしまうのだ。ならば、0.1kmを追い求めるよりも、予定通りに発売できる方を選ぶのは当たり前。ことモード系の数値に関しては、輸入車のほうがリアルワールドに近い数値となる傾向が生じるわけだ。
走行モード選択を支援してくれる機能があってもいい
さて話をXC90に戻そう。EVモード(ボルボの呼び方ではピュアモード)では、基本はリヤのモーターのみを使う後輪駆動となる。フロントタイヤが操舵のみを担当する状態となるので、全体的に動きがスッキリとした印象だ。おもしろいのはピュアモードで走っていても路面状況が変わり、4WDのほうが安全だと判断すると即座にハイブリッドモードに切り替わるという。このあたりの思想は安全性を重要視するボルボらしいところ、そして凍結した路面を走る機会も多いであろう北欧メーカーならではの機能と言えるのだろう。
ハイブリッドモードになるとエネルギー効率を重視しモーターとエンジンを適度に切り替え、または併用しながら走ることになる。この効率はその瞬間の(アクセルペダルの踏み込み量に対する)加速力などで調整されているとのことだが、せっかくのPHEVの性能を最大限に生かすなら、ナビのルート設定と協調してEV走行領域を増やすことができるのではないだろうか?
PHEVは外部から充電して走ることが基本で、バッテリー残量がなくなったらハイブリッド走行に移るという使い方が現段階では正しいのだろうが、そうなると効率の悪い場所でEV走行をしたり、効率の悪い場所でハイブリッド走行をしたりということが起きる可能性がある。つまり満充電スタートで最初に高速道路を走るようなシチュエーションで電池を使い切ってしまうようなことが考えられる。本当は、ガソリンエンジンでも効率がいい高速走行時は、電力を上手に節約しておきたい。
もちろん電気自動車リテラシーが高い方が多いこのブログ読者ならそんなことはしないだろうが、多くの人が何も考えずにクルマを使うようになると、間違った知識で使うことも増えてくる。そこで、ナビとの協調制御によって走行モードの選択を支援してくれる機能が欲しくなる。目的地を設定すると、充電器の有無を判断、充電器がある場合は滞在時間を入力するとその行程でもっとも効率がいいモードを自動的に制御するようになれば、よりエネルギーの無駄づかいがなくなるだろう。今後、高級なPHEVにはそうした機能が求められていいと感じた。
さて、もっとも力強く走れるのはパワーモードだ。重量級のXC90ではあるが、2リットルのターボ+スーパーチャージャーは233kW(馬力に直すと318馬力)もあり、そこにフロント34kW(46馬力)、リヤに65kW (87馬力)のモーターが組み合わされるのだから、パワフルさに関して不満は一切ない。
T5はエアサスが標準で装備される。エアサスというと、ブワブワして挙動が安定しないサスペンションという印象を持っている人も多いが、決してそんなことはない。XC90のエアサスは高い安定感を持っている。エアサスというのはスプリングを金属から空気に置き換えたもので、ショックアブソーバー+エアスプリングの組み合わせで使われる。金属スプリングは縮み始めから同じ硬さだが、エアサスは最初は柔らかく徐々に固くという特性を持つ。このため、重量級のクルマとの相性が非常にいい。
XC90もゆったりと落ちついた乗り心地を確保しつつ、ワインディングのコーナリングなどでもしっかりとしたハンドリングを実現している。車格を考えるとこの足まわりは絶賛ものと言ってもいいほどだ。
1139万円というプライスタグを付けられたXC90リチャージは、ボルボのなかでもっとも大きく、そしてもっとも高いモデルだ。細かくコストを気にして使う人は多くないとみていいが、こうした高級モデルをエコロジーを考えて使えることこそ、スマートなライフスタイルであると私は考える。
(取材・文/諸星 陽一)