過激でも上品な加速が印象的〜BMW『iX』試乗レポート【塩見 智】

BMWのフラッグシップ的な電気自動車となる『iX』にモータージャーナリストの塩見智氏が試乗。印象的なデザインとともに演出された音など魅力十分。過激でありながら上品な加速の印象などをレポートします。

過激でも上品な加速が印象的〜BMW『iX』試乗レポート【塩見 智】

何よりもまず、音にやられた

BMW iXがついに日本の路上を走行し始めた。あのアバンギャルド過ぎるデザインが雑多な東京の街にどう溶け込むのか、浮きまくるのか興味があったが、雑多ということはなんでも受け入れるということなのか、違和感はなかった。そしてあらためて見るiXは、画像で見るよりも数段カッコよかった。

何よりも先に報告したいのは音だ。音といっても「エンジン音がないから静か」とか「エンジン音がないからロードノイズや風切り音がかえって目立つ」という話ではなく、BMW自らが演出としてつけている音だ。スタートボタンを押すと「ブーン」(←実際には違うが、表現しようがない音)という効果音が聞こえる。疑似走行音も、SF映画でUFOが飛ぶ時のような音が付けられていて、これがとにかく楽しいのだ。

走行モードによって音が変えられているので、違いも楽しめる。ちなみにこれらの音は人気映画音楽作曲家のハンス・ジマーによって作曲された。最近では『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』を担当した。クライマックスの悲しい結末のバックで流れていた音楽には涙を誘われた。

とにかく眺めて姿でやられ、走らせて音にやられた。BEVは音も形も自由度が高い。iXはBMWがBEVの自由さを目一杯表現したクルマだと感じた。

デカくて重いが余裕は十分

iXはなかなかデカい。全長4955mm、全幅1965mm、全高1695mm、ホイールベース3000mm。そして重い。車両重量 2530kg。とはいえ大きさも重量も他社のラグジュアリーBEVと同程度だし、ICEのSUVにもこのくらいのサイズと重量のクルマはごろごろしている。

スタイルは5ドアハッチバックだ。フロントフードの下には補機類がびっしりあって、トランクはない。基本的にユーザーは開閉できない。エンブレム部分のみがパカッと開くのはウォッシャー液を補充するため。室内は広く、前後席ともに天地、左右、前後いずれの方向にも余裕がある。ラゲッジ容量も十分。

ウオッシャー液はここから補充。

グレードが2種類あって、バッテリーの総電力量とモーターの性能が違う。上級のxDrive50は、前車軸に最高出力 190kW、最大トルク 365Nm、後車軸に同 230kW、同 400Nm のモーターが備わり、システム全体の最高出力は 385kW、 最大トルクは 765Nm 。リチウムイオン電池容量は 303Ah(総電力量111.5kWh)。一充電走行距離は 650km、 電費は190Wh/km である。価格は1116万円。
(EPA航続距離推計490〜562km程度)

xDrive40は、前車軸に最高出力 190kW、最大トルク 290Nm、後車軸に同 200kW、同 340Nmのモーターが備わり、システム全体の最高出力は 240kW、 最大トルクは 630Nm。リチウムイオン電池容量は 232Ah(総電力量76.6kWh) であり、一充電走行距離は 450km、電力量消費率は 183Wh/km (数値はいずれもWLTCモード)。価格は981万円。
(EPA航続距離推計291〜379km程度)

力強くも上品な加速が印象的

今回乗ったのは、xDrive50のほうで、有償ボディカラーのアヴェンチュリン・レッド(31万5000円)をはじめ、ファーストクラスパッケージ(63万5000円)、ラウンジパッケージ(65万2000円)、テクノロジーパッケージ(75万8000円)、スポーツパッケージ(22万円)など、計273万8000円のオプションがのっかった1389万8000円の仕様だ。

システム最高出力の値から想像がつく通り、加速力は相当なもの。とはいえ、他社のラグジュアリーEVもおしなべて速いので、速さではもはや驚かない。感心するのは加速Gの立ち上げ方だ。アクセルペダルをグイッと踏んだ場合、テスラ・モデルSのルーディクラスのように、タイヤの能力の限界まで使った強烈な加速ではなく、速度がある程度に達してからどんどん盛り上がっていくような加速を見せる。過激な中にも上品さがある。テスラはBEVの性能を誇示するためにあえて下品ともいえる猛烈な加速力を備え、ICEに対する優位性を強調したが、BMWはそれは自分たちの仕事ではないと考えているのだろう。

ジェントルに加速させた際のスムーズさは絶品。また減速もスムーズで、アクセルペダルを戻した時の回生ブレーキの強さを3段階から選べ、それぞれドライバーの意図に沿う減速をしてくれる。またアダプティプモードを選ぶと、先行車両がいれば強めの減速となり、前が開けていればコースティング状態となる。

ハンドリングは正確で乗り心地もよい。BEV特有の重心の低さとよくできたエアサスによって、足が硬くないのに加減速や旋回の際の姿勢変化が少ない。後輪操舵システムが備わっていて、後輪が低速走行時には最大 3.2度逆位相に、高速走行時には最大 2度同位相に切れる。車庫入れ時に重宝した。ステアリングホイールが丸みはあるものの六角形なので、持ち替えるほど回す時には操作しにくいが、クイックなギア比なので車庫入れ時を含め、ほぼ持ち替える必要はなかった。操縦桿のイメージ。

チャデモでも100kW以上の急速充電に対応

xDrive50は日本のチャデモ規格でも最大150kWでの急速充電が可能(xDrive40は最大100kW)。この場合、40 分で約 80%まで充電でき約500km走行できるようになるほか、 10分の充電で航続可能距離を約100km伸ばすことができると説明されている。普通充電は最大11 kW で充電可能。

ただし、日本国内のチャデモ公共充電インフラに、まだ出力150kWの急速充電器は存在していない。普通充電も出力3kWが中心だ。

ポルシェやアウディは独自に最大出力150kWの急速充電ネットワーク構築を表明している。BMWがどうするのか、今後の動向に注目したい。

BMWは元々電動車には積極的なメーカーで、古くはミニEVがあったし、早くからi3やi8(PHEV)などを発表してきた。それらは販売面ではあまりうまくいかなかったようだが、ここへきて新たなフラッグシップとしてBEV専用モデルのiXを出し、同時に普及を目指す既存モデルのBEV版としてiX3を出して、iシリーズの立て直しを図っている。いまさら電動車に消極的な戦略を取る選択肢はないからだ。

(取材・文/塩見 智)

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					塩見 智

塩見 智

先日自宅マンションが駐車場を修繕するというので各区画への普通充電設備の導入を進言したところ、「時期尚早」という返答をいただきました。無念! いつの日かEVユーザーとなることを諦めません!

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