グループ内ブランドのEVと車台は共通
FCAとPSAが合併して誕生したステランティス。多くのブランドを抱え、販売台数ではトヨタ、VW、GM、ルノー日産三菱に次ぐ勢力となった。それぞれのインポーターも今年3月1日に合併し、ステランティス・ジャパンに。とたんにフィアット500e、プジョーe-208、e-2008、DS3クロスバックE-TENSE、そしてシトロエンE-C4(正式には「Ë-C4」)エレクトリックと、BEVを5モデルもラインアップするインポーターになった。
このうち500eを除く旧PSAブランドの4モデルはeCMP(コモン・モジュラー・プラットフォーム)という共通の車台で開発されており、モーター性能やバッテリー容量は共通、航続距離も似通っている(車重などによってやや異なる)。今回はË-C4に試乗した。
CMPはICE(内燃機関)とEVの混流生産を考慮して設計されており、車室や荷室の広さが変わらないほか、販売比率によって柔軟な生産体制を整えられる。総電力量50kwhのリチウムイオンバッテリーは液冷ヒートポンプで充放電時のバッテリー温度を管理する。総体積約220ℓ、重量約350kgのバッテリーは、前席座面下、後席座面下、センターコンソールなどにH型に搭載される。
EVとしては穏やかで十分に力強い走り
Ë-C4の第一印象は、EVであることを意識させないということ。悪い意味ではない。例えばEVとしては珍しく穏やかな加速性能に留められている。発進と同時に最大トルクに達するモーターの特性によって(正確にはË-C4は300rpmで最大トルクに達する)、勢いよく発進するEVが多いなか、このクルマの加速はおとなしい。といってもEVにしてはという意味で、C4ディーゼルと同程度の加速性能は備わっている。
最高出力100kW、最大トルク260Nm(スポーツモード)、車両重量は1630kg。C4ディーゼルは同130ps、同300Nm、同1380kgなのでË-C4のほうが250kg重いが、重さによるハンデはモーター特性によって相殺され、同程度の加速感なのだろう。60km/hあたりまでは実にスムーズに達するが、そのまま100km/hまで加速しようとすると勢いがやや鈍る。
先日発売された500eも似たような加速性能をもつ。あちらは同87kW、同220Nmで、車両重量がË-C4に近い1320〜1360kgなので、ややË-C4のほうが力強いはずだが、ギアリングが異なるのか、体感的にはほぼ一緒だった。いずれにせよ、これで十分だ。
アクセルペダルを戻して得られる回生ブレーキによる減速感もマイルド。こちらは500eのレンジモードのほうが明らかに強く減速してくれる。ボタン操作でDレンジからBレンジに切り替えるとやや強まるものの、それでも穏やかな印象だった。好みを言うならBレンジではもっと強く減速してほしい。
充電は、一般的なCHAdeMO規格の急速充電だと80%まで約50分。試乗の合間に東京都庁第一本庁舎地下駐車場のCHAdeMO式急速充電器(最高出力90kW。充電無料で低公害車は駐車料金も1時間無料)で充電を試した。1基を2台でシェアできるタイプで、充電時は自車しか充電していなかったが、なぜか13kW程度の出力でしか入らなかった。大黒PAに新設された6口器など、複数口タイプの急速充電器とは相性の課題があるようだ。(関連記事)
普通充電は6kWにも対応しており、その場合は満充電まで約9時間。標準装備のケーブルを使った3kWであればおよそ2倍の時間がかかる。充電口は左リア後部。航続距離はWLTCモードで405km(実用に近いEPA基準換算推計約311km)。
昨日までICEに乗っていた人でも違和感のないEV
低反発系のクッションをふんだんに詰め込んだコンフォートシートと、PHC(プログレッシブ・ハイドローリック・クッション)なるセカンダリーダンパーを組み込んだサスペンションシステムの組み合わせによって、浮遊感を感じさせる乗り心地を味わうことができる。これはICEのC4やC5エアクロスSUVにも採用されるメカニズムだが、BEVと組み合わせられると走行音が格段に静かな分、浮遊感はさらに増し、うっとりする。
一点不満に感じたのは十分な温風が出なかったこと。試乗日は気温が低くエアコンをつけっぱなしにしていたが、時間がたってもほのかな温風しか出てこず、車内を温めるに至らなかった。シートヒーターとステアリングヒーターが備わるので決定的に辛いわけではないが、これが本来の能力だとすると、いかにエンジンの廃熱を利用できないEVとはいえ物足りない。
テスラをはじめとする1000万円級のラグジュアリーBEVが総じて強烈な加速性能を備えて登場したのは、同じような価格のICEで味わうことができない刺激的性能を備えることで、BEVであることを強調し、目を向けさせる意味合いがあった。数年たってアフォーダブルなBEVが増え、珍しい存在というわけでもなくなり、単に生活環境にマッチする人の選択肢となり、そうでない人は見送るというだけの話になりつつある。Ë-C4は昨日までICEに乗っていた人でも違和感なく使うことができる、よくできた普通のEVだ。車両本体価格は465万円(2022年度のCEV補助金は65万円)。
(取材・文/塩見 智)