バッテリー交換式EVバイクサービスの先駆的事例
電動バイク普及の鍵は、航続距離をいかに伸ばすか。さまざまな取り組みがなされているが、現状でかなり有力と思われるのが、充電スポットでバッテリーを交換するシステムだ。10月25日に国産バイクメーカー4社とENEOSによる「Gachaco」が東京都でもEVバイクバッテリーシェアサービスを開始したが、複数の充電スポットをつなぐ「EVツーリング」がどんなものなのか、一足先に普及している沖縄県の石垣島で試してきた。
石垣島で、バッテリーシェア方式による電動バイクのレンタルサービス「GO SHARE」がスタートしたのは2018年。かなり先駆的な取り組みだと思っていたが、現地ではすっかり当たり前の風景になっている、というのはあとでわかる。初めて使う身としては、特別な体験にちょっとドキドキしながら、レンタル窓口がある石垣港離島ターミナルを訪ねた。西表島や竹富島などを結ぶ海運会社「安栄観光」の案内所の中に「GO SHARE」の受付があった。
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電動バイクはスクータータイプで、台湾ではすでに定評ある電気バイクベンチャーである「Gogoro」の製品。定格出力の違いで、原付(50cc相当)と原付二種(125cc以下相当)の二種類がある。4~24時間の料金はそれぞれ5,000円と6,500円。タンデムするつもりだったので原付二種を選び、ヘルメットも二つ貸してもらった。にわか雨に備えて簡易雨具をプレゼントしてくれる。南国らしいサービスだ。
手続きを済ませて、建物の外にあるバイク置き場へと案内してもらう。印象的な水色に塗られたスクーターがずらりと並んでいた。スタッフが取り扱い方法を丁寧にレクチャーしてくれる。アクセルやブレーキなどの扱い方は内燃スクーターと同じ。メーター画面に充電量と航続距離が表示される。丸みを帯びたデザインがかわいい。
充電ステーションのある場所の確認も大事だ。島内に5ヶ所。旧市役所、川平、伊原間、石垣空港、ドン・キホーテ(店舗)。石垣島の沿岸部に、ほぼ均等に配置されている。借りた時点で航続距離は81キロと表示されていた。
丸1日借りるだけならそんなに充電しなくても、と思ったが、「交換は無料ですし、バッテリーは何回でも交換してくださいね」とアドバイスされる。とくに東北端の平久保崎に向かうなら「必ず伊原間で交換を」と念押し。意外に距離があって、電欠でヘルプに向かった例があるそうだ。充電ステーションの場所はGoogleマップに登録されているので、自分のスマホをハンドルにセットしてアプリを立ち上げたら、ナビしてくれるので迷うことはない。
シート下に収められたバッテリーを抜き差しする方法も教えてもらう。バッテリーは約1.3kWhが2つ搭載で約2.6kWh。シート下はバッテリーで埋まっているわけではなく、意外に大きな収納スペースも。車体設計の良さを感じさせる。子供用のヘルメットと借りたカッパを収納しておく。
観光地では当然のようにEVバイクと出会う
早速スタート。島の西北端近くにある底地ビーチに向かう。家族旅行だったので妻子と荷物はとりあえずレンタカーで移動。ソロライドでバイクの挙動を試してみることにした。アクセルを捻ると思った以上に反応する。十分にパワフルだ。
じつは、昨年購入したホンダeに加えて、今春からバイクも電動化して、いまは電動2&4ユーザー。乗っているのは「SUPER SOCO TS STREET HUNTER」というやたらと長い名前の電動バイクである。借りたGogoroスクーターも同じ原付二種登録で、定格出力も同じだが、テイストは別物。ポジションの違いもあると思うけれど、加速感とスピードの伸びは、こちらのほうが強く感じられた。このあたりは内燃車でも乗り味が違うのと同じだろう。
首をひねったのは加速時に「ウィーン」とかなり大きな音がすること。私の「SUPER SOCO」はほぼ無音。静粛性はEVの利点だと思うので、少し気になった。あとで聞いたら「安全のためにわざわざ出している」のだそうだ。ただGogoroも定速走行に入ると静かになる。排気ガスの匂いやエンジン音とは無縁に、風と戯れることができる。
南国の日差しを浴びて、マングローブの林が連なる海岸沿いの道を、すいーっと北上。いやぁ、気持ちいい。スクーターなので上半身は立っているが、疲れなどは感じることもなく、約24キロを走って底地ビーチに到着した。バイクは宿泊先のホテルで休ませて、家族とマリンレジャーを楽しむ。翌日、いよいよツーリング本番だ。
バッテリーはまだまだ大丈夫なはずだが、アドバイスされた通り、出発してすぐの場所にある川平の充電ステーションで初のバッテリー交換に挑むことにした。観光名所とあって人出が多い。遊覧船の発着場近くの駐輪場には「GO」印の水色スクーターが3台も止まっていた。当たり前のようにEVバイクが走っている風景がなかなか新鮮。今はまだ日本でもここだけだろう。
ほどなく専用充電ステーションを発見。ケースには緑色の取手がついた充電済みバッテリーがずらっと並んでいて、2つ分だけ空いている場所がある。つまり、そこに差し込みなさい、ということだろう。
シートを開けて、バッテリーを2つ抜く。そこそこ重さがある(約10キロ)。なんとか2本いっぺんに運んだが、無理しないで1本ずつ運んでもいいかも。ステーションにぐいっと押し込むとバッテリーが2つ、ぬっと飛び出した。すべてのバッテリーの中から受電量の多いものが自動的に選ばれるそうだ。取扱説明書などを読むのが苦手なタイプで、よく失敗もするのだが、これはじつに簡単。間違えようもないほど手順はシンプルだ。
新しいバッテリーを元の位置に収めて、シートを閉める。スイッチを入れると当然のように満充電の表示になっていた。航続距離も再び80キロに。EVは充電時間の長さがネックと指摘されたりするが、バッテリー交換は給油よりスピーディー。2分もかからない。ガソリン臭さもないし、うっかり汚れたりすることもない。
そのまま石垣島の沿岸部の道を時計回りに走る。天気もいいので、子供を後ろに乗せて走ってみた。島の北部はアップダウンとゆるやかなコーナーが続く。タンデムでプラス40kgほど重量増のはずだが、かなりの上り坂でも速度が落ちることはない。電動バイク全般のことなのかどうか確かめたわけではないが、「SUPER SOC0」では充電量(SOC)が低下すると顕著にパワーダウンする。なのでなるべく30%以下にならないようにしているのだが、バッテリー交換式ならいつも満充電に近い状態がキープできる。これも大きなメリットだろう。早めの交換をアドバイスするのには、そういう意味もあるのかもしれない。
太陽光発電と組み合わせたステーションが素晴らしい
次のステーションは、島の東北部、平久保半島のつけねにある伊原間。ここは屋根に太陽光パネルが設置されていた。再生可能エネルギーで充電されたバッテリーで走れるわけだ。これはうれしい。太陽光発電でEVを運用するのは理想的だが、発電効率の良い日中に駐車しておかなければならないという制約はちょっと困りもの。といっていったん別のバッテリーに蓄電してバイクに充電という仕組みだと効率が悪い。現在のステーションは太陽光だけで運用されているわけではなく、日産リーフのバッテリーを再利用した蓄電池もついているし、発電量が少ないことも想定して買電もしているという。そうしたバックアップも整えての太陽光+交換式バッテリーのソリューションは、注目に値する取り組みだろう。
再び満充電になったバイクを南へ向けて、石垣港を目指す。最初はすべての充電ステーションに立ち寄ろうと思っていたが、観光名所への寄り道で帰りの飛行機まであまり時間がなくなってしまった。新石垣空港とドン・キホーテはスルーして先を急ぐ。無充電でも楽々と石垣港まで戻ってこられた。ただし、レンタカーの満タン返しと同じく「返却時には満充電で」という決まりがある。どうせ交換は無料だし、次に乗る人のためだ。港に近い石垣市役所旧庁舎の充電ステーションでもう一回交換してから、無事に返却した。
平久保半島を抜いた石垣島一周で、トリップメーターは82.2キロ。電池は計3回交換。各回とも航続距離は50キロ以上残していて、電欠の不安は全くなかった。
GO SHAREを運営する「e-SHARE石垣」の安藤誠二さんによると、現在、レンタルバイクは約150台が稼働していて、バッテリーは約100個が充電ステーションに配置されている。つまり、島全体で400個程度のバッテリーがぐるぐる循環しているイメージ。基本的にステーションは無人で、戻されたバッテリーは自動的に3~4時間で満充電になるという。トラブルなどはオンラインで営業所に通知されるので、その都度メインテナンスに向かう、という。
「Gogoro」のバッテリー交換システムは台湾ではすっかり普及していて、充電網もほぼ全土で使えるようになっているそうだ。日本ではまだまだこれからだが、少なくとも石垣島では電動バイクの旅が「やばいよやばいよ」無しで楽しめる。観光客の足としてすっかり定着しているようで、島内のあちこちで水色のスクーターとすれ違った。
大資本による「Gachaco」が今後、どんなふうにして充電スポットを増やしていくかは注目されるし、レンタルバイクではない一般EVライダーにどう課金するかも気になるところ。でも、魅力的な車種と充電インフラが揃えば、一気にバイクのEV化も進む可能性はありそうだ。
(取材・文/篠原 知存)