ブランド初のBEVというより「新しい500である」
イタリアを代表する自動車メーカーであったフィアットは、現在ステランティスという巨大自動車メーカーの主要ブランドとなっている。ステランティスが所有するブランドは、このフィアットをはじめ、クライスラー、プジョー、シトロエン、ジープ、オペルなど14ブランドにもなる。
今回試乗した500e(チンクエチェントイー)はフィアットブランドとして初のBEVであると発表されているが、じつはフィアットは1990年代にパンダエレトラという鉛蓄電池を搭載した電気自動車を製造したことがあるので、「フィアット初の本格的電気自動車」という表現のほうがぴったりくるだろう。さらに、フィアットとしてはブランド初のBEVというよりも「新しい500である」ことを大切しているというフィアットからの発言も聞こえてきた。
フィアット500は1936年に初代モデルが発表されたフィアットのコンパクトカーだ。初代にはトッポリーノ(ハツカネズミ)というニックネームが与えられ、多くのユーザーに愛用されたFRモデルであった。2007年にFFとなって登場した現行モデルは(1991年~1998年にチンクエチェントの名前で発売されていたモデルを3代目とした場合)4代目となる。
エンジンモデルと同様にキュートなスタイリングで登場したフィアット500eだが、プラットフォームは新設計でボディパネルなども刷新されて、エンジンモデルのフィアット500と共通となるパーツはわずか4%に過ぎないという。ボディサイズは全長が3630mm、全幅が1685mm、全高が1530mmの5ナンバーサイズとなる。日本に多い都市部の住宅街や地方で迷い込むあぜ道のような狭い道でも取り回しは楽だ。
エンジン車の500より気持ちいい走り
「新しいフィアット500」という発言については、乗った瞬間に納得できた。乗り味はフィアット500そのものなのである。フィアット500に乗ったことある人なら「おお、500っぽい」と感じるだろうし、乗ったことがない人でも「こんな感じだと期待していた」と思うであろう納得感のあるものだ。
スペックを見てみよう。モーター出力は118馬力/220Nm、車両重量はアイコンで1330kg、オープンは1360kg、ホイールベースは2320mmだ。対してガソリンエンジン車のフィアット500のターボエンジンは145馬力/100Nmで車両重量は1040kg、ホイールベースは2300mmである。500eは2倍以上のトルクを得た一方で、車重の増加は3割ほどとなっている。
従って、走りに関してはエンジン車の500よりもずっと気持ちのいいフィーリングを持っている。とくにコーナリング時のグッと大地をつかむような安定感はとてつもなく気持ちいい。
このフィーリングを生んでいる最大の要因は、バッテリーを床下に搭載し重心がグッと低くなっていることにある。「車両重量がどれほど重いか?」よりも「重心がどこにあるか?」によって走りのフィーリングは大きく変わる。また1トンのクルマと1.3トンのクルマだと装着されるスプリングの硬さもタイヤも違う、ビシッと引き締まった感覚はフィアット500らしいものだが、エンジン車のそれとはひと味違うのも当然だ。
では乗り心地が悪いのかというとそんなことはない。しっかりとした乗り心地であることはもちろんなのだが、突き上げが強かったりすることはなく、段差を乗り越えてもショックをしっかりと吸収してくれる。サスペンションが軽薄に動くわけでもなければ、突っ張って動かないというものでもない。しっかりしているが、スムーズに動くのである。
走行モードは「ノーマル」、「レンジ」、「シェルパ」の3つ。ノーマルはアクセルペダルを戻した際にコースティングモードになるモード。レンジでは1ペダル走行が可能で、EVらしく乗るならこちらがデフォルトとなるだろう。回生量も多くなるはずだ。
シェルパを選ぶとエアコンやシートヒーターがオフとなり、走行距離を伸ばせるモードとなる。ちなみにシェルパというのは、ネパールの少数民族から採ったネーミングで「遠くまで連れて行ってくれるガイド役」というような意味を持たせている。
バッテリーはリチウムイオンで容量は42kWh。充電は普通充電とCHAdeMOでの急速充電に対応する。EVsmartブログで先日紹介した記事にあるように、クルマ側の充電口はコンボ規格(CCS1)だが、アダプターを使ってCHAdeMOと接続する方式となる。この充電アダプターの開発はすでに終了しているものの、まだ量産に入ったばかりの段階ということで、今回の試乗会で実物を見ることができなかった。
ハッチバックの「アイコン」がおすすめモデル
ボディタイプはハッチバックとオープンの2種で、ハッチバックのグレードは上級の「アイコン」とベーシックで受注生産となる「ポップ」の2種。オープンは単一グレードとなる。
ポップの場合はクルーズコントロールが前車追従しないタイプであったり、ヘッドライトがハロゲンだったり、固定式のサンルーフが未装着だったりするので、やはり多くの方が選ぶべきはアイコンになるのだろう。
オープンの装備はほぼアイコンと同じで、十分に満足がいく。リヤのガラスウインドウを残してのルーフ開閉は100km/h程度までなら走行中でも可能だ。フルオープンにすると、ルームミラーの視界を妨げてしまうため、後続車の迫り具合がわかりににくくなるのが少し気になった。うっかり速度を出しすぎているときにパトカーに追従されても気付かないという状態になる。まあ、うっかり速度違反をしないようにすることがもっとも大切であることはいうまでもない。また、ハッチバックに比べてラゲッジルームの容量が小さくなり、開口部が狭くなるので、レジャーユースを考えている方はハッチバックのほうがいいだろう。
満タン充電での走行可能距離はWLTCモードで335km(欧州値は320km、EPA換算推計値約285km)なので、普段使いはもちろんレジャーユースでも十分使える。アダプターを介したチャデモ規格での急速充電性能も、欧州と同様の最大85kW対応であることも実用性を高めてくれるポイントだ。
今後、日産&三菱から軽自動車規格のEVが登場して、日本の実状にあった5ナンバーサイズの新型EVが貴重な存在となることは間違いない。ただし、実情に合ったマイカーとして、もっとも重要(人によって違いはあるが私はこの部分がもっと重要と考える)なのは価格である。
500eの価格はベーシックモデルのポップで450万円、アイコンで485万円、オープンで495万円とやや高価。
また、現状ではフィアット500eは普通に購入することは不可で、サブスクリプションサービスもしくは残価設定型リースを利用して乗ることになる。
アイコンの場合、任意保険までがセットとなったサブスク型カーリース「フィアット・エコ・プラン」(5年契約)で月々7万7000円、ボーナス月11万円(10回)の加算の場合月額5万8300円の利用料となる。残価設定型リースの「パケット・フィアット」では、任意保険は別で月々3万9000円〜(ボーナス月11万円の加算、残価設定150万円)で利用できる。
※編集部注/サブスクやリースを利用する際、CEV補助金や東京都の補助金がどうなるのか、5年経過後の再リースや買取は可能なのかなど、実際の購入(利用)決断に関わる詳細を、改めて取材の上ご紹介したいと思っています。
(取材・文/諸星 陽一)
デザインの好きずきやブランド力はあるにせよあと60万円ほど追加で車格も大きく、航続距離も長いTesla model3のRWDが買えるとなると巨大グループのストランティスといえども量産型EVを作ることの難しさとTesla社の市場競争力を感じてしまいます。
走りに関してはエンジン車の500よりもずっと気持ちのいいフィーリングというのは、驚きでした。BEV化で室内空間が500よりも広くなりましたというのがあれば、さらによかったのですが、プラットフォーム的に無理そうですね。
このような魅力的なEV、それも月々4万円というのは歓迎です!
リースアップ後の扱いについて、ぜひレポートをお願いします。
ところで、初代のRWDの500は、FRではなくRRでした。
500eがRWDだったら更に魅力upだったのにな、と思わずにいられませんが、現モデルの500との共用化も多少なりともあるでしょうし、回生量を考えるとFWDは仕方がないのかもしれません。
初代500はFRです。RRは、nuova500からです。500eは、バッテリー半分で良いから、もう少し安くして欲しいですね。
RRになったのは1957年〜1977年の「二代目」です。この型がルパン三世にも登場するなどして一番有名なので初代と思われがちですが、Fiat 500の「初代」は戦前から戦後にかけて存在したフェンダーの張り出したクラシカルな形状の2シーター「トッポリーノ」で、これはFRでした(映画『ローマの休日』にも出てきます)。筆者の諸星さんはさらに一般にはあまり知られていない(そしてFiat 500ファンでさえ見て見ぬふりをしがちな)1990年代の「チンクエチェント」にも言及されていて(ある意味マニアック且つ)とても正確な記述だと思います。
ちなみに、初代、2代目と現行4代目の呼称表記は数字の「500」であり、3代目は「Cinquecento」となります。どちらもイタリア語の読みは「チンクエチェント」で意味は「五百」となるのですが、、、。そのため「500」と書いた場合は3代目を含めないことになり、またこのCinquecentoは126でもパンダでもないどことなく半端な車だったため、陽の当たらない存在として軽んじられれがちなわけです。