初年度は500台限定〜EVに生まれ変わったフィアット『500e』を端的に評価【塩見 智】

6月25日の正式発売を控え、注目度が高まる電気自動車『FIAT 500e』に、モータージャーナリストの塩見智氏が試乗。走りから購入方法まで、独自の視点で取材&評価したレポートをお届けします。

初年度は500台限定〜EVに生まれ変わったフィアット『500e』を端的に評価【塩見 智】

エンジンモデル以上に「魅力的なコンパクトカー」

欧州で2020年秋にデビューしたフィアット初のBEV、500e(チンクエチェントイー)がこのほど日本導入された。欧州以外の市場では3番目、インド・アジアパシフィックでは日本が最初の導入国となった。発売は6月25日。価格は450万〜495万円。5年リースでの販売のみとなる。

「これは500のEV版ではなく、新しい500がEVだ」と話すのはフィアットのオリヴィエ・フランソワCEO。また「我々は義務感からクルマを買うわけではなく、欲しいから買うのだ」と話し、EVを成功させるにはまずそのクルマが魅力的でなければならないという、至極まっとうな考えを述べ、500eに対する自信をのぞかせた。実際、500eは欧州各国でベストセラーEVになっているという。

細かい説明の前にまずは試乗した印象をお伝えしたい。結論から言えば、500eはEVか否かということよりも先に、単純に魅力的なコンパクトカーだった。品質の高い素材とポップなデザインを、視覚、触覚の両面で味わうことができ、コンパクトで取り回しのよいサイズに感心した。カブリオレではほどよく巻き込んでくる風が快適だった。そういえばオープンのEVは10年以上前に乗ったテスラ・ロードスター以来だ。

そのうえで、EVが共通してもつ利点は備わっている。静かで、変速ショックとは無縁で、十分な加速力をもち、アクセルオフで十分な減速力を得られる。振動もない。ICE版の500にはツインエアなる2気筒エンジン搭載モデルがあって、我々はそのエンジンが発する大きめの振動を「キャラクタリスティック」などと表現して擁護してきたが、振動のない500の魅力をまだ知らないだけだった。振動がない500はもっとずっと魅力的だった。いや強がりでもなんでもなくあれはあれで魅力的なのだが、どちらがよいと聞かれたら答えは明白だ。

ワンペダルの完全停止にも対応

価格的にもサイズ的にも比較されるのはホンダeだろう。あちらは運転の楽しさを最優先した後輪駆動であり、よりキビキビしているが、その分高速道路での落ち着きは500eに軍配が上がる。

パワー感はシトロエンe-C4に近い。最高出力87kW、最大トルク220Nmで前輪を駆動する。おとなしいスペックだが、車両重量が1320〜1360kgにとどまるため、街なかから高速道路まで、力不足を感じることはなかった。

ドライブモードを選択できる。ノーマルモードはペダル応答性が高いほか、アクセルオフ時の回生ブレーキの効きが弱められていて、ICEのように空走する。

レンジモードは反対にアクセルオフ時の回生ブレーキの効きが強い。喜ばしいことにレンジモードでは完全停止にまで対応する。近頃のEVは総じて最後はクリープモードに切り替わるようになっていて、つまらないし不便だが、500eはやってくれた。

シェルパモードを選ぶとペダル応答性がマイルドになるほかシートヒーターがオフになる。80km/h未満で走行中にこのモードを選ぶと80km/hでリミッターが作動する。感覚的にはこれをレンジモードと呼びたい。

42kWhの駆動用バッテリーを床下に配置する。航続距離は335km(WLTC ※欧州値は320km、EPA換算推計値約285km)。200Vの普通充電(最大11kW)と、チャデモ規格の急速充電(最大85kW)に対応。車両の充電口はいわゆるコンボ方式の形状のままになっていて、日本では標準装備として付属されるCHAdeMO用アダプターを介して充電することになる。

インパネ中央に10.25インチのディスプレイが配置され、ほとんどの機能をここで操作できる。AppleCarPlay、Android Autoに対応し、CarPlayは無線接続に対応する。

装備を簡略化したPOPが450万円(受注生産)、全車速対応ACCをはじめ装備が充実したICONが485万円、装備はICONに準じるカブリオレのOPENが495万円。今年度のCEV補助金は全グレード65万円となる。

初年度の日本割り当て数は500台

注目すべきは車両本体価格よりも、サブスクリプションとリースのみの購入方式を採用したこと。月額利用料は自動車保険が含まれるサブスク型が月額5万3900円(POPの場合。11万円のボーナス払いが10回ある)、リース型が月額3万4000円(POPの場合。11万円のボーナス払いが10回ある)。自動車保険の等級が低い若者はサブスク、高い人はリース型が有利という。

どちらも5年間の契約終了後に車両返却が条件だが、今後、バッテリーを含む数年後の車両コンディションが把握できるようになり次第、新たな契約プランが追加される。

今年中にフィアットディーラー73店舗に有料の急速充電器(最大50kW)を設置する予定で、さらにステランティスの他ブランドのディーラーにも設置を進めるという。加えてステランティス独自の充電カードサービスの展開も予定しているとのこと。

今年の日本割当台数はわずか500台。牛久保均ステランティス営業本部長が「販売できる台数が限られていることもあり、当面は自宅で充電できる環境の方を対象にセールスを展開していくことになると思います」とはっきり述べたのには好感がもてた。

(取材・文/塩見 智)

この記事のコメント(新着順)2件

  1. 充電器を設置できる家庭から売る…なんだか初期の三菱アイミーブと同じ売り方に見えますな。要は一戸建てオンリー。
    そう考えると電気音痴の人に電気自動車は売りづらいとも感じますよ。実際電気工事士(自分)のいる当家でさえ僕以外の家族は典型的な電気音痴、電力と電力量の違いがわからないです…そういう人に売りづらいのも電気自動車ビジネスの難しさやないですか!?
    固定概念を壊すのは「ベルリンの壁を壊す」くらいに難しい、だがいざ壊し始めたらあっさり簡単に崩れる…今はそのときかもしれません。

  2. サブスクとかリースとか表現すると聞こえはいいですが、中身は残価設定型ローン強制という事ですよね。

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					塩見 智

塩見 智

先日自宅マンションが駐車場を修繕するというので各区画への普通充電設備の導入を進言したところ、「時期尚早」という返答をいただきました。無念! いつの日かEVユーザーとなることを諦めません!

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