EVならではの車格を超えた乗り味
2009年の三菱i-MiEVに次ぐ軽自動車のEVとして、日産『サクラ』と三菱『eKクロスEV』が正式発表された。発売は、部品調達などの状況をみながら今夏になるという。
そのような状況なので、公道での新車試乗会はまだ催されておらず、日産のテストコースで数周しかできていない。それでも、実車を目の当たりにし、手応えは体感できた。試乗したのはサクラだけだが、外観や内装の違いはあっても、走行性能はeKクロスEVにも通じていると考えられる。
日産と三菱はEVの販売で十数年の歴史を持つため、走行性能や乗り心地に関しての仕上がりは、手慣れたものだ。走りだしから何の違和感もなく、自然に馴染む感触を得た。アクセル操作に対し期待通り滑らかな動き出しと、出力の適切な出方は、心地よい加速をもたらした。モーター駆動を知り尽くした日産ならではの仕立てだ。
日産サクラと三菱eKクロスEVは、両社の商品企画に沿った商品性をそれぞれに求めながら、車両開発は日産が担い、生産は三菱が担う役割分担で市場投入される。したがって、乗り味が開発を担当した日産車らしい感じになるのは当然だ。タイヤが確実に路面をとらえ、運転操作に対ししっかりとした手応えを伝えてくる様子は、リーフやアリアにも通じる。
そのうえで、かつてi-MiEVでも感じたことだが、いま運転しているクルマが軽自動車であるか登録車であるかを意識させないところは、EVならではの特徴だ。モータートルクの強さや、車載バッテリーの重量、そして静粛性などによって、エンジン車の軽自動車に比べ圧倒的に上質であり、車体寸法こそ軽自動車規格だが、車格を忘れさせるところがある。
エコモードでも日常的には十分な加速性能
モーターの出力特性は、走行モードの切り替えによって、スタンダードのほかにエコとスポーツを選べる。公道での走りを想定しながらの運転では、エコで十分だと思った。車種を問わず、エコモードの設定があるEVでは、それで十分だと思わされることが多い。サクラも同様だ。無理に出力を抑えた様子がなく、通常の運転では中間加速での勢いも十分に感じた。
スポーツモードにすると、わずかなアクセルペダルの踏み込みで、加速の鋭さが増す。しかしアクセル全開では、モードを問わず加速の様子は変わらない。たとえば山間の屈曲路などで運転を集中的に楽しみたいという以外、スポーツモードにする意味は薄いと思う。
ワンペダル的な運転を促すe-Pedal Step(イー・ペダル・ステップ)機構を使うと、停止はできないが、ほとんどの交通状況でアクセル中心の運転ができる。シフトをDからBへ切り替えると、回生がより強まる。私はワンペダルの運転を好むので、エコモードで、Bレンジ、イー・ペダル・ステップをオンの設定が、もっとも運転しやすく、ちょうどよいと感じた。
車両のパッケージングは、エンジン車のデイズやeKクロスを損なわないよう開発が進められ、室内の広さや床の高さ、荷室の容量もエンジン車と同じだ。このため後席の快適性も十分で、前後位置の調節をもっとも前よりにしても、膝が前の座席背もたれに触れることなく、荷室は最大の容量を確保できる。後席をもっとも後ろへさげると、軽自動車とは思えない広々とした空間を味わえる。ただしその分、着座位置が後輪に近づくので上下振動を感じやすくなるのは軽ハイトワゴンの常だ。それでも、車両重量がエンジン車に比べ重くなるEVでは、それほど悪い乗り心地にはならない。
日産サクラの車両価格は、Sグレードの233万3100円からとなる。国の補助金55万円分を差し引くと、178万3100円だ。売れ筋車種とされるXグレードの車両価格は、239万9100円、最上級のGグレードは294万300円である。
Gグレードになると、運転支援機能のプロパイロットが標準装備になる。ざっくりとした金銭感覚として、補助金を利用すれば180~240万円ほどで買える軽EVということだ。参考として、エンジン車のデイズでもっとも高価な車種が、ハイウェイスターGターボ・アーバンクロム・プロパイロットエディションの178万900円である。
サクラの廉価車種と、デイズの最上級車種を並べて比べるのは公平といえないかもしれない。とはいえ、軽自動車の価格帯にだいぶ近い金額になったとはいえるのではないか。それによって、選択肢の一つと考える消費者が現われる期待がある。
グレードの上下で装備の違いはあっても、走行性能について軽EVはグレードを問わず同一という満足が得られる。サクラの最高出力は、デイズのガソリンターボエンジン車と同じ47kWで、最大トルクは2倍近い195Nmだ(ガソリンターボは100Nm)。車両重量は、サクラが60~70kg重くなるが、大きなモータートルクを活かして加速への不満はなく、逆に、アクセルペダルのわずかな調節次第で自在に速度を変えられる。ターボエンジンの過給効果を待つような遅れはない。
航続距離や急速充電性能は控えめ
一充電走行距離は、WLTCで180km(EPA換算推計約144km)である。車載バッテリー容量は20kWhだ。単純にいえば、リーフの40kWhの半分であり、バッテリーもリーフと同じラミネート型を採用する。部品の共通化をはかりながら、軽自動車として適切な走行距離や価格の実現を果たした。
もちろん、軽自動車で長距離を走る人もあるだろう。一方、日々の通勤や買い物などが中心の利用者に、余分なバッテリーを搭載するのも不都合なことだ。長距離移動に際し、急速充電も可能である。ただし、サクラ、eKクロスEVともに、急速充電の受け入れ最大出力は30kWに抑えられている。とはいえ、そもそも車載バッテリーが20kWhなので、出力30kW以上の急速充電器であれば1回30分でほぼ80%の充電を終えられるだろう。
数年前、都内から長野県の白馬までi-MiEVで移動したことがある。約290kmの行程で、4回の急速充電をした。高速道路のサービスエリアで2回、役場が1回、ガソリンスタンドが1回という内訳だ。それでも、親しい仲間3人での移動は楽しかった。立て込んだ日々の予定から解放され、時を忘れて見知らぬ人や景色と出会うことが旅の醍醐味ではないか。EVでの充電の旅は、その喜びを味わわせてくれるだろう。
集合住宅や職場への基礎充電設備普及を進めたい
仕事で長距離移動を急ぐなら、大容量バッテリーを搭載して高出力急速充電に対応した別のEVを選択すればよい。また、新幹線やカーシェアリングを活用した、より効率のよい移動方法もあるだろう。スマートフォンの普及が、新たな利便性を生んでいる。20世紀までは考えられなかったことだ。何でも1台のクルマで済ませ、万能でなければならないとの発想は、産業革命以来、密度の高い化石燃料を使った、大きく、速く、高性能を目指した過去の価値観だと思う。それが今日、様々な課題を生んでいる。
エネルギーが電気に移り、再生可能エネルギー(筆者は次世代原子力も否定すべきではないと考えている)を活用しながら、CO2排出量ゼロを目指す21世紀には、化石燃料時代と違った道具の使い方があるはずで、その象徴がEVではないのか。
日々の用途で満足できる一充電走行距離であるなら、自宅での基礎充電が前提となるだろう。一方で、日本はマンションやアパートなど集合住宅に住む人が多く、その駐車場に普通充電のコンセントを設置することが大きなハードルになっている。今後、都市部の集合住宅への十分な数の充電設備設置は早急に解決すべき大切な課題だ。
基礎充電を行うのは必ずしも自宅と限る必要もない。コロナ禍であっても現場で仕事をしなければならない製造業では、工場への出勤に軽自動車を利用している人は多いのではないか。とすると、勤務先の事業所の社員用駐車場に200Vのコンセントを設置できれば、就業中に充電することで、帰宅し、翌日また出勤する程度の充電はかなうだろう。ほかの用事をしている時間に充電できることこそ、EVならではの利点だ。
サクラで1kmの走行に使う電力はWLTCで124Whである。これは、eKクロスEVも同じだ。これを、東京電力管内の電気代で計算すると、3.7円/kmになる。
ガソリンエンジン車の日産デイズの燃費は、ガソリンターボエンジン車で19.2km/Lであり、5月30日現在の全国のガソリン価格の平均値は約163円なので、8.4円/kmと計算できる。自然吸気エンジンの燃費は21.2km/Lだが、それでも7.6円/kmになる。したがって、電気代と比較すればガソリン代は2倍前後になる。
これを、個人で支払うか、通勤交通費として会社も費用負担をしてくれるか、いずれにしても、個人も企業も、交通費の負担は半減近く軽くなる。この経済性を背景に、会社が社員駐車場に200Vコンセント設置を理解してくれれば、双方に利益が生まれるのではないか。
企業としても、社員がEVで通勤するようになれば、事業を通じての二酸化炭素(CO2)排出量削減に役立ち、脱炭素社会を実現するためのアクションの一貫となるのではないか。それは、企業の社会貢献であり、投資を促すきっかけにもなるだろう。
こうして町を走る軽EVを頻繁に見かけるようになれば、集合住宅の管理組合など、あるいは月極駐車場を運営する不動産業の人たちも、駐車場に200Vの充電設備を持つ理解を深めてくれるのではないか。
一朝一夕にはいかないだろう。だが、これまでのEVは価格帯も含め普及の困難さが残った。しかし、軽EVの市販によって状況が変化しはじめると、国内市場の1%に満たないEV販売が上向くことも期待できる。ことに日本にとって、軽EVの販売は、EV時代を築く大きな礎になると期待している。
(取材・文/御堀 直嗣)
遂に山がうごいた?この記事を読んでそう感じました。
https://jp.reuters.com/article/nissan-sakura-idJPKBN2NU0DO
そうなると、恐ろしいのは特に高速道路での充電渋滞。遅々として進まない増設に怒りが込み上げています。
高速道路事業者とeMP連名で早急な増設ロードマップを公表すべきです。進まない理由を述べるのではなく、進めるためにこうするという具体策を聞きたいですね、姉川さん!
Farfetchd様
EV用の急速充電器は入力に三相交流を使っているのだから、単相利用もOK
と思うのですがどうなんしょうか?
それと、工場で使用する交流アーク溶接機は単相200V50A程のものを
三相のR-Sなどにつないでいると思いますが、バランスの崩れが問題にならないのでしょうか?
林 美紀男様、コメントありがとうございます。横から失礼いたします。
三相(動力)契約は、kWh単価が通常の単相(電灯)契約より安く設定されています。また、近隣の相間のバランスが崩れる可能性もあります。そのため、三相を単相で使用することは技術的には可能ですが、契約で禁止されています。
安川様 返信ありがとうございます。
この件について調べてみました。
安川さんの描かれている、契約違反は三相の低圧受電(動力契約)の時であり、
一般的な工場での高圧受電(6600V):三相機器でも単相機器でも契約電力までは使い放題
但し、許容不平衡率30%を超えない事となっていますね。
御堀さんの記事にある「勤務先の事業所の社員用駐車場に200Vのコンセントを設置」安価に充電環境を整えることが出来、EVの普及に大いに役立つと思います。
まず、サクラのSグレード(eKXEVも法人、官公庁向けグレードあり)については、法人や官公庁向けなので一般的にはXないしはGを例にされたほうが誤解を生まないのではないかと思います。
※上記部分は表記についてのことなので記載は省いていただいたいて構いません。
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自宅で充電することや、勤務先での充電が整うことで駆動用電池が大きくなくても運用できるのは多くの利点があると思います。
その一方で経路充電についても疎かにせず偏在を是正することや老朽化している施設の更新、需要と供給のバランス(設置基数の算出)も重要かと思います。
急速充電器の高出力化も今後進んでくるので規制緩和等のアシストも国が取り組んで欲しいですね。
2014年にミニキャブミーブ16Kwを購入5.6万kmを走破しました、しかし4年目に運悪く全損となり現在V2Hに繋ぎ蓄電池として活用しています(現残容量75%程度)。
幸い保険が150万円下りましたので直後に2013年製の同一車(1.2万km)を購入しました、現時点で6万kmを超えましたがまだ残容量が80%以上残っています。
三菱eKクロスEV購入の下取り車として査定していただきましたが残念ながら25万円程と言うことで蓄電池バージョン2として余生を過させる予定です。
12Kwの蓄電池が25万円ですから視点を変えてみると安い買い物だったと思えます。
V2Hに対応の電気自動車は例えバッテリーが劣化してしまったとしても今回のように家庭用蓄電池として使えます。
100Kwのバッテリーを積むモデルXはクルマとしては素晴らしいと思います、しかしせめて緊急時にでも裏技なしで100Vが取り出せるとその評価もグンと上がるのですが、これも日本人的考え方なのでしょうか。
日産サクラを発注しました。
真ん中のグレードです。
納期は11月頃との事です。
国の補助金55万円です。
その他に名古屋市から20万円出ますが320台分の予算しか無いのでアリアの納車が進むと先に使われて貰えない可能性大です。予算が1桁足りない気が、、、。
暖房性能の弱いEVなのにシートヒーターが標準で備わらないまさかの仕様!
装備するためには寒冷地仕様にする必要があり、セットオプション含めると11万円もの余分な出費となます。総額300万超えの軽自動車!
補助金満額欲しいです。
軽EV普及には、日常の使い勝手に関するユーザー視点が大変重要と思います。
実際に5年間軽EV(三菱i-Miev、10.5kWh)を使ってきて感じる事は以下です。
・まず自宅充電(200V)の設備を準備する事。
・冬場のプレヒート機能は必需品。
・シートヒータ(前・後)とステアリングヒーターは標準装備
・強力なデフロスター機能
・断熱キャビン
・高周波ノイズ低減(子供は高周波ノイズに敏感)
・寒冷地仕様には電池容量をアップ(3〜5kWh程度)
快適性を犠牲にしたら、ユーザーはガソリン車からは乗り換えてくれないです。
工場など事業所の電気代は一般より安いので更にメリットはありそうですね。
その安い電気代の工場や事業所は三相交流なのでEVの充電には使ってはいけません。
私は職場に単相200Vを設置してもらってEVに充電していますが、その電気代は家庭用と同じです。月約1000キロですが3500円くらいの電気代が上がってるそうです。普通のガソリンコンパクトカーなら8000円になりますね。
職場の倉庫内の電動フォークリフトは安い三相交流で充電できますが、コネクタの規格が違いますし、変換アダプターを使ってEVに充電すると電力会社との契約違反になると聞いております。
Farfetchdさん
動力契約で単相利用すると契約違反なんですね、高圧受電であれば可能かと思っておりました…
約款など確認して勉強してみます。
そうですね、三相交流もR-S・S-T・T-Rとバラせば単相です。
極端にバランスを崩さなければ問題無いのでは。
高圧受電設備のエキスパート(電気管理技術者)として、電気主任技術者や第一種電気工事士の試験内容に絡んだ話をします。
工場の高圧引込電力は動力及び付帯電灯を負荷とし、100~200kW程度の工場だと50kVA以下が付帯電灯になります。その供給源となる電灯変圧器は100/200V単相三線式だから現代の一般家庭と同じです。
一方動力変圧器は基本三相200Vモーターへの供給がメイン。R-S-T相のバランスがとれていることが要件になり、仮にR-S,S-Tなど単相200V負荷を加えると不平衡電力となり、それが大きければモーターの回転に悪影響を及ぼすため推奨されません。
とはいえ非常停電時に使う発電機は大概三相三線式。それから電灯負荷へ供給する場合は三相R-S/S-T/T-Rのバランスを崩さないようT-L結線のスコット変圧器を使いますが、これも二次側のL結線側にほぼ等しく負荷をかけることが重要なので偶数台の電気自動車を同時に充電することになりますよ。
ひとつの変圧器バンクで電灯動力とも供給したければ単相変圧器をR-S/S-Tに2台つなげてV-V結線にします。電灯を取り出す変圧器の容量はその分若干大きめになっています。これは街中の電柱でもよく見かける方式なので覚えておいて損はないかと。
電気自動車に乗るのに電気の勉強をしなきゃいけない…そんな時代が来るかもしれませんよ!?それに備えて電気系国家資格を取得されてはいかがですか!?ひとまず第2種電気工事士取得が手掛かりですが実技試験が難儀かもしれません。
生活圏に、イオンやイトーヨーカドーが有れば、買い物や食事がてら、普通充電が利用出来るので、家充電をする回数はかなり減ると思いますので、かなり魅力的だと思います。zesp3は普通充電無料ですし。
実際イオンモールやイトーヨーカドーで弁当を買っているアイミーブ乗りの電気管理技術者です(笑)昼飯時に充電器を使うことで遠出も苦にならないですよホンマ。
日産サクラか?三菱eKXEVか?…答えは充電カートの差に表れると思います。
日産ZESP3プレミアム10/三菱電動車両プレミアムとも普通充電定額なんで一見大差ないですが…実は三菱電動車両プレミアムのほうが税抜き千円安いです!しかも10分間の課金は日産350円/三菱80円(いずれも道の駅・商業施設の場合)。
問題は今後三菱eKXEVがバカ売れし場合…三菱電動車両プレミアムも価格変更ですかね!?日産リーフの二の舞になりそうです。
もうひとつの問題は普通充電器の故障放置問題。イオンタウンなど半導体不足もあってか最近故障したままのスポットが多いです。これも自宅充電環境が整わないと厳しいかも。
集合住宅の充電器設置問題も住民の高齢化で駐車スペースは空くものの投資額の回収が問題になってきます。管理組合も将来の空き部屋増加リスクに備えねばならないそうで。