フォルクスワーゲン『ID.Buzz』試乗レポート〜魅力的だが車幅が気になる【塩見智】

電気自動車の販売シェアが高い北欧、デンマーク・コペンハーゲンで行われたフォルクスワーゲン『ID.Buzz』の国際試乗会に参加してきた。テスラをはじめとする各社のEVが多数走り回る街なかであっても、ファニーフェイスの大きなワンボックス型EVは、ひと際市民の目を引いた。

フォルクスワーゲン『ID.Buzz』試乗レポート〜魅力的だが車幅が気になる【塩見智】

77kWhのバッテリーで航続距離は400kmクラス

フォルクスワーゲン(以下、VW) ID.Buzzは、世界三大自動車メーカーグループのひとつであるVWが、電化に大きく舵を切るべく開発したMEBというEV専用プラットフォームを用いて開発された。欧州ではこのプラットフォームを用いたハッチバックのID.3、クロスオーバーSUVのID.4、4ドアクーペのID.5を販売している。国際戦略車のID.4はまもなく日本にも導入される。

ワンボックススタイルのID.Buzzは、IDシリーズの変化球であり、同時にID.Buzz Cargoという商用車としても販売される。むしろこっちが主眼で乗用車が派生かもしれない。日本導入が正式決定したわけではないが、前向きに検討中とのこと。多分入ってくるだろう。

サイズは全長4712mm、全幅1985mm、全高1938mm、ホイールベース2989mmと、短くて幅広く、背が高い。77kWhのリチウムイオンバッテリーをフロア下に搭載し、永久磁石同期モーターが後輪を駆動する。

一充電走行可能距離は最大423km(WLTPモード)。実用値に近いアメリカのEPAモードに換算すると、約377kmとなる。ただし、日本仕様はバッテリー容量が77kWhのままかどうかはわからないという。MEBの他のモデルには4WDも存在するが、このクルマには現時点では設定されていない。

タイプ2をリバイバルさせたルックスが個性的

ずんぐりとしたフォルムと2トーンカラーの塗り分け方を見れば一目瞭然、ID.Buzzは往年のVWタイプ2(T1ブリー)をEVとして現代に蘇らせた存在だ。

タイプ2のリバイバルは過去コンセプトカーとして何度か登場したが、市販にこぎつけたのは初めてだ。ヘッドランプは真ん丸ではなく切れ長だが、グリルレスデザインなのはタイプ2と同じ。ID.Buzzは実際にはフロントマスク下部にいくつもの穴が開いていて必要なパーツを冷却している。フロントマスク中央のブランドロゴは片手を広げても覆いきれないほど大きい。

一段登って運転席に座ると、目線が高く遠くまで見渡せる。水平基調のダッシュボードの中央に10インチのタッチスクリーンがあり、多くの操作をこれで行う。物理的なスイッチは少ない。

ステアリングホイール奥には5.3インチの小さなディスプレイが配置され、スピードをはじめ、走行に必要な情報を表示する。ステアリングコラムの右からシフトレバーが生え、奥や手前にひねるようにしてRNDを操作、先端のスイッチを押してPという具合だ。

左側にはウインカーレバー。ヘッドランプ類のスイッチはダッシュボードの窓側に配置される。インテリアはVWにしては珍しく明るい色づかいだ。ベースカラーはホワイトで、差し色としてボディカラーと同じイエローが使われる。


ID.Buzzはワンボックスだが、2列シート5人乗り仕様のみの設定。リアに40:60の分割可倒式の一体型3人がけシートが備わる。後席は左右それぞれ前後に150mmのスライドが可能。電動スライドドアが両サイドに備わる。

スライドドアに備わるドリンクホルダーや小物入れに物を置いたままドアを開けると取り出せなくなるのはいただけないポイントだった。財布などを置いたなら、先に取り出してからドアを開けよう。スライドドアのウインドウを開閉できないのも残念だ。ラゲッジ容量は5人乗った状態で1121ℓ(後席背もたれ上端まで積載した場合)、後席を倒せば2205ℓに拡大する。

加速性能は控えめだが走りは静かで力強い

ID.Buzzのリアに配置されるモーターの最高出力は150kW(204ps)、最大トルクは310Nm。車両重量は2471kg。最高速は145km/hでリミッターが作動する。0-100km/h加速10.2秒というデータからわかる通り、EVとしてはおとなしい部類に入る。

ただしモーター駆動の特性は健在で、発進は力強い。5人乗りの貨客両用車としては十分実用的な動力性能が備わっている。静粛性、スムーズな加減速は言わずもがな。回生ブレーキを強さはシフトレバーでDもしくはBを選ぶことで、強弱2段階から選べる。ステアリングパドルは備えていない。

全高は1.9mを超えるが、EVならではの低重心が奏功し、背高グルマを運転している感覚はない。後輪駆動ならではの癖のない素直なハンドリングにも好感がもてた。高速道路での直進安定性も素晴らしかった。ただし、著しく車重が重い上に、大径タイヤの重量もあって、不整路面を低速で通過するとバタつくことがあった。

今回試乗したのは欧州仕様で、普通充電では最大11kW、急速充電では最大170kWの出力で充電できる。その場合、普通充電なら約7時間30分で0%から100%に、急速充電なら30分間で5%から80%まで充電できると示された。ただし、急速充電器、普通充電器ともに高出力な公共充電インフラの整備が遅れている日本では、設備の出力に応じて充電時間は延びることになる。

日本導入の成否を決めるのは価格と車幅?

日本導入を果たしたとして、成否を決めるのは価格だろうが、あと2つポイントがあると思う。航続距離と全幅だ。ルート、行動範囲がある程度定まっている商用車なら問題ないが、人や荷物を満載してあちこち出かける趣味性の強い自家用車としては、423km(日本のWLTCモードでは450km程度の航続距離が示されると思われる)というカタログ上の航続距離はやや短いと判断されるかもしれない。アルファードより10cm以上ワイドな車幅も、都市部ではネガティブな要素として捉えられるかもしれない。

もちろん航続距離や車幅は人によって求める値が異なるものなので、この組み合わせがフィットする人もいるわけだが……。個性的でよく目立ち、積載能力が高いEVとして、社用車への導入を検討する企業もあるかもしれない。大前提として、このクルマは理詰めではなく「好きか嫌いか」で判断する存在だ。

(取材・文/塩見 智)

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塩見 智

先日自宅マンションが駐車場を修繕するというので各区画への普通充電設備の導入を進言したところ、「時期尚早」という返答をいただきました。無念! いつの日かEVユーザーとなることを諦めません!

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