2025年秋にアップデートされたBYDの電気自動車「SEAL(シール)」AWDモデルに複数名のモータージャーナリストが同乗して移動した「横浜→奈良→東京」のロングドライブを諸星陽一氏がレポート。クルマとしての完成度やコストパフォーマンスの高さを実感する試乗体験となりました。
SOC「55%」でも航続可能距離は300km超
2025年10月にBYDのe-スポーツセダン「SEAL(シール)」がマイナーチェンジを実施して、ジャパンモビリティショーでお披露目されました。このアップデート版シールで、「横浜→奈良→東京」のロングラン試乗する機会がありました。
奈良に向かうのは、日本自動車輸入組合(JAIA)が主催する創立60周年記念イベント(関連記事)のお手伝いをするためでした。今回の試乗は私一人で行ったのではなく、私を含めた日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)のメンバー5名で運転を交替しながらの移動です。

参加メンバーは横浜駅近くにあるBYDジャパン本社に集合。シール(AWD)に3名、シーライオン 7(AWD)に2名という振り分けで分乗してスタートしました。2台とも直近に行われた試乗イベントに使用した車両だったため、スタート時のバッテリー残量(SOC)は低くなっていました。今回はアップデート版シールに絞って話を進めていきます。シールの出発時SOCは「55%」、航続可能距離表示は「307km」でした。目的地の奈良市までは約460kmなので、途中の経路充電(急速充電)が必要です。
長年にわたり、いろんな市販EVで長距離試乗を行ってきましたが、試乗車のSOCは100%、もしくはそれに近い状態からスタートすることがほとんどです。でも、SOCが半分程度からのスタートながら300kmを超える航続可能距離表示だったおかげで、まったく不安を感じることはありませんでした。
シールが搭載する駆動用バッテリーは82.56kWhと、市販EVのなかでも大容量といえますが、ここ数年で発売されるEVの航続距離性能は向上しています。SOCが下がった状態からの出発には、リアルなEVユーザーの感覚を追体験できたように感じました。
30分間の食事休憩&充電で航続可能距離は200km以上回復
横浜駅近くのBYDジャパン本社から東名、新東名と経由するルートを目指しますが、横浜市内の一般道、首都高、そして保土ケ谷バイパスと渋滞が続き、東名高速に流入してからもいつものように大和トンネルまで渋滞。その後、大井松田-御殿場間の右ルートが工事通行止めとなっていたため、渋滞は御殿場インターを通過するまで続きました。

渋滞を抜けて新東名に流入。余裕をもって走るため、早めに最初の充電を予定していた新東名高速の駿河湾沼津SAに入りました。
駿河湾沼津SAにはABB製の150kW器が1基(2口)、ニチコン製の90kW器が4基(4口)設置されています。シールは90kW器側に駐車しました。駿河湾沼津SAまでの走行距離は106kmで、到着時のSOCは30%。横浜スタート時のSOCは55%で「25%」の電力を使用したことになるので、単純計算だと100%で424kmの航続距離です。カタログ値の航続距離は575kmですが、大人3人が乗車して普通にエアコンを使用した数値ですから、実用的に何の問題もない航続距離性能といっていいでしょう。
充電器を接続するとシールはすぐに出力80kW台の充電を始めました。食事をしながら30分間の充電でシールのSOCは67%に回復。走行可能距離は209km増えて354kmとなっていました。前述のようにシールのバッテリー容量は82.56kWhなので、充電前のSOC30%時の24.77kWhから55.32kWhに増えたことになり30分で充電できた量は30.55kWhという計算になります。食事を兼ねた30分間の休憩&充電で、200km以上走れる電力を補給できるのは頼もしく感じます。
充電区画をエンジン車が占拠している場面に遭遇

実際に目にして残念だったのが、充電用の駐車スペースにキャラバンが止まっていたこと。もしかしたらコンバートEVかな? と思って確認しましたが充電ケーブルは接続されていませんでした。たしかに駐車場は混雑していましたが、一般車の駐車枠がすべて埋まっていたわけでもなく、運転手は不在でしたが、助手席には女性が乗っていました。
車いす用駐車スペースに駐車するクルマも多い世の中ですから、充電用区画にエンジン車が止まっているのはそんなに珍しいことではないのかもしれません。でも、EV充電用の駐車区画は充電サービス事業者がコストを掛けて確保している場所。たとえるなら、ガソリンスタンドの給油場所を給油できないEVが占拠するのと同じです。
湾岸長島PAでは充電器の不具合にまで遭遇

次に目指したのは伊勢湾岸道の湾岸長島PAです。駿河湾沼津SAから湾岸長島PAまでの距離は224km、到着時SOCは19%まで減りました。
湾岸長島PA下りの充電スポットは東光高岳の50kW器が1基(1口)とABBの150kW器が1基(2口)が少し離れた場所に設置されています。シールは150kW器に接続しました。ところがシールを繋いだ150kW器の調子がよくありません。

認証して充電が始まるのですが、2〜3分するとエラーが出ます。1番と2番を入れ替えるなどしながら、試していると5分程度エラーが出ることなく、充電ができました。そこで安心して施設内に移動しお茶を飲んで帰ってきたら、またエラー表示です。結局、何度かやり直して73%まで充電できました。後で調べてみると、この150kW器が運休中になっていて充電器交換と表示されていたので、おそらくクルマ側の問題ではなく充電器側になんらかの問題があったのだと思います。
まあ、結果的に走り続けるための充電はできましたし、EVユーザーからしばしば聞いていた「急速充電器の不具合」にまで遭遇できたのはよい機会だったと思うことにします。
150kW器では30分でSOC50%相当を充電できた
初日の往路は2回の充電で奈良まで到着しました。奈良では試乗会などを行って、2日目の復路はSOC40%、走行可能距離220kmで夕刻に奈良を出発しました。

5名のジャーナリストでクルマを乗り換えましたが、私はこのレポートのために復路でもシールに乗車。シーライオン 7には3名が乗車して別ルートでの移動となり、私とシールに同乗した同業者が翌日に鈴鹿サーキットで仕事があるということで、鈴鹿サーキット近くの平田町まで彼が運転。平田町から東京まで、私ひとりで走りました。
私が運転することになった時点でのSOCは10%、走行可能距離は52kmでした。この時点では前日にABBの150kW器で充電できなかった原因が特定できておらず、同様の充電器でテストをしたいという思いがありました。
充電スポット検索アプリの「EV充電エネチェンジ」で調べてみると新東名浜松SAにABBの150kW器がありました。平田町からの距離は約150kmで、このままでは到達できません。とはいえ、せっかくならバッテリー残量を十分に下げてから充電を試したいので、近くの日産ディーラーに設置されている50kW器で30分充電してSOCは38%に。走行可能距離206kmで新東名浜松SAを目指しました。

浜松SA到着時のSOCは7%、走行可能距離37kmでした。途中の岡崎SAあたりでは「ちゃんとたどり着けるかな?」と、ちょっとドキドキする体験までできました。
浜松SAでの充電は湾岸長島で遭遇したような不具合はなく、30分でSOC7%→57%に。さらに、駿河湾沼津SAのABB製150kW器でも30分で25%→75%と、2回とも30分でSOCにしてちょうど50%の充電が可能でした。往路の90kW器で充電できたのが「37%相当」だったのと比べると、やはり最大150kW器はパワフルです。もちろんバッテリーの温度や残容量、外気温などいろいろな条件があるでしょうが、シールでの高速道路長距離走行時は150kW器を活用するのが便利です。
大型トラックが直面する大問題に感じた怒り
復路は夜間の移動となったため、いわゆる「430(ヨンサンマル)休憩」をするためのトラックがSAPA内はもちろん高速道路本線上の路肩などにまで数多く止まっている状況を目撃しました。実際に目にすると信じられない数であり、信じられない駐車方法です。
「430休憩」とは4時間走行したら30分休憩しなくてはならないという法規です。ところが、SAPAの大型車駐車枠がいっぱいで、この法規を守るために本線上に駐車する「違反」を犯さないとならないという皮肉なパラドックスが起きています。

浜松SAでは駐車スペースに停められないトラックがEV充電スペースにも駐車。充電枠を1つ使用不能にしていました。たまたま充電するクルマは私が乗っていたシールだけだったし、こんなことで怒る気はありません。むしろ実行不可能な法律を作ったことに怒りを感じます。そして日本は本気で物流改革を行わないとならないと感じました。
ナビの使い勝手には改善の余地を感じた

さて、充電の話が続きました。シールがアップデートで変わった部分について触れておきましょう。
まずサスペンションです。アップデート前のシールはRWDが固定減衰力、AWDが機械式油圧可変ダンパーという方式でしたが、RWDに機械式油圧可変ダンパーを装備。AWDはDiSus-Cという電子制御油圧可変ダンパーが新たに採用されました。DiSus-Cは機械式油圧可変ダンパーよりも減衰力の調整幅が大きく、その名のとおり電子制御で減衰力をリアルタイムで変更していくタイプです。
「コンフォート」にセットするとかなり柔らかい設定です。イメージとしては昭和の国産大型セダン。ゆったりと乗るにはいいフィールで、路面のいい高速道路を流して走るととても快適です。一方「スポーツ」はしっかり硬くなって、路面をつかむ印象です。
とはいえバネの硬さは変更できずダンパーだけでのセッティング変更なのでちょっともの足りない印象もありました。とくにワダチのある高速道路や路面にうねりのある道ではどちらのモードもマッチしません。中国の道はとてもきれいに整備された舗装路もあれば、舗装されていないラフロードもあります。スポーツモードでは整然とした道、コンフォートモードではラフロードなどという使い方がマッチするのでしょう。
ACCの性能は高く、設定した速度とそれに応じた車間距離を保ちます。車間距離は4段階で調整できますが、車間距離は若干長めという印象です。気になったのはウインカーを操作してもレーンキープ機能を優先するような場面もあったことです。ウインカーを点滅させてから車線変更しているのに、車線変更を阻んで元の車線に戻そうとする動きをすることがありました。これが毎回ではなく、なにかの加減でそうなるのです。ウインカーを操作してからの時間などが関係しているのか? ステアリングの転舵速度が関係しているのか? いろいろ試しましたが、原因を特定できませんでした。なにか設定が関係しているなら、OTAで解決できると思います。
ナビはゼンリンの地図を使い、システムもゼンリンが開発しているのですが、ちょっと使いづらい面がありました。「はいBYD」の音声トリガーで操作可能ですが、目的地を入力したいときは、まずナビを立ち上げてから行き先設定をしなくてはなりません。これはちょっと不便です。システム起動時に自動でナビも立ち上がるようにしたほうがよいでしょう。また、音声認識も精度が低く、とくに高速道路のSAPAなどを認識してくれないことに使いづらさを感じる場面がありました。
実用的なスポーツセダンEVとしてコスパの高さは圧倒的

フランクも装備しています。
シールはシーライオン 7と同様にセンターモニターが縦と横に回転する機構を持っています。この機構はギミック的要素が強いと思っていたのですが、筆者のドライビングポジションだと横位置でモニターを使ったときに、右下部分がステアリングで隠れてしまうのです。これを縦位置にすると画面すべてが視界に入り、モニターが使いやすくなります。大型モニターだからこそ、縦位置でも使えることが大切なのだと気付きました。
シールAWDは572万円のプライスタグで、基本的な機能を満たすためのオプションは装着する必要がない「フル装備」です。バッテリー容量が80kWh(推定)程度のEVスポーツセダンであるテスラ「モデル3」のロングレンジAWDが621万9000円〜なので、コストパフォーマンスの高さが際立ちます。
ただし、モデル3への国のCEV補助金額が127万円(2026年3月現在)であるのに対して、シールAWDは35万円(2WDモデルは45万円)となっていて、価格設定の健闘が帳消しになっているのが悩ましいところです。
日本国内の販売店網拡充を進めるBYDが、コストパフォーマンスの高さに加えて、どんな魅力を打ち出してきてくれるのか。また、OTAを含めてどんなアップデートを見せてくれるのか。さらなる今後に期待して&注目したいと思います。
取材・文/諸星 陽一






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