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インスター試乗会であえて「サクラから乗り換えは?」を聞いてみた/御堀さんの電気自動車生活

インスター試乗会であえて「サクラから乗り換えは?」を聞いてみた/御堀さんの電気自動車生活

横浜で開催されたインスターのメディア向け試乗会に、日産サクラがマイカーである自動車評論家の御堀直嗣さんと一緒に参加。実際に試乗してみて「サクラから乗り換えようと思えるかどうか」をテーマに寄稿を依頼しました。その結論は「必要十分なEV性能とは?」という命題について考えさせてくれるものでした。(寄本)

目次

サクラの航続距離で満足しているライフスタイル

今回、寄本編集長からのお題は、「日産サクラに乗る御堀さんは、インスターに乗り換えますか?」である。

答えは、今のところ予定はない。

ただし、インスターが気に入らないわけではない。逆に、とても魅力的だ。そして、サクラの発売前にインスターが売り出されていたら、買っただろうとさえ思う。

5ナンバーのコンパクトEVとして完成度の高い魅力を実現しているインスター。でも、御堀さんのライフスタイルとしては「サクラで満足」というのが結論だった。

いまインスターに乗り換えない理由は、私がサクラに満足しているからだ。その理由を、話す必要がある。

私がサクラでもっとも頻繁に出かける遠出は、毎週末に通う乗馬クラブへの往復だ。都内に住む私が千葉市にある乗馬クラブへ通う道のりは、片道約60kmである。往復で120km強になる。満充電で家を出れば、サクラの20kWhのバッテリー容量でも、経路充電なしに帰宅できる。ちなみに、一充電航続距離のカタログ値は、WLTCで180kmだ。

ほかに、取材先への移動もある。たとえば御殿場インターチェンジや河口湖インターチェンジ付近で催されることが多い新車試乗会では、目的地に50%以上の残量で到着できれば、経路充電が不要になる。なぜなら、御殿場も河口湖も、往路最終の登り坂が急で、電力消費が増える。逆に、帰宅する際は下り坂が連続するので電力消費が抑えられ、50%以上充電量があれば問題なく帰宅できるからだ。

とはいえ、ギリギリで走るのは心臓によくないので、経路充電をしておく。ただしそれも、30分待つ必要はなく、10~15分も補充できればよいのであり、それこそトイレに寄る程度でいい。なにも満充電にする必要はない。そして、帰宅したら家で充電すればいい。

近年は、仕事先で充電できる機会も出てきた。まさに目的地充電だ。普通充電器であっても、数時間の取材の間に帰宅のための余力を得られる。目的地充電が必要とされる理由がここにある。

それ以上の遠出をする場合は、経路充電すればいいだけで、20kWhのバッテリー容量であれば、高性能充電器を探す必要さえない。とはいえ、今年、古希(70歳)を迎えた私には、そんな長い距離を運転する気力も体力もない。遠出する際は、特急や新幹線に乗っていく。行った先の駅に、もし、EVのレンタカーがあればありがたいと思う。

私がEVに乗る理由とサクラへの満足感

そもそも、何のためにEVに乗るのか。

理由は、エンジン車やハイブリッド車に比べ、圧倒的に優れた性能や商品性に喜びを覚えるからで、かつ根底に、環境対応がある。

都内に住む私は、日常の移動は公共交通機関が主だ。二酸化炭素(CO2)排出量の視点でいえば、一人当たりのCO2排出量は公共交通機関を使った方が少ないだろう。しかも、よほど疲れたり、連れがいたりする以外は、ホームや改札などへの移動は階段を利用する。一段おきに登る。理由は、足腰を鍛錬し、自律した暮らしをできるだけ続けるためだ。そして介護への依存を減らしたいと思っている。それが、人手不足に悩む介護事業へのささやかな支援にもなるのではないか。人は、あらゆる場面で他人と関わり合いながら生きている。もちろん、環境問題もその一つだ。

というわけで、サクラ以上の性能を備えたEVに乗る必要がない暮らしを私はしている。

最廉価グレードのカジュアルに望むこと

インスターは小型EVとして必要十分な急速充電性能を備えている。

もしインスターを買うとしたら、廉価なCasual(カジュアル)が気になる。

42kWhというバッテリー容量が好ましい。それでもサクラの2倍以上もある。タイヤ寸法が細いのもいい。私のサクラはXグレードで、Gグレードより細いタイヤであるのも、電費のよさにつながっていそうだ。

一方で、カジュアルに要望もある。

一つは、シートヒーターがないのは問題だ。私が、サクラの20kWhで満たされている理由の一つは、シートヒーターとハンドルヒーターを備えているからだ(Xグレードに注文装備で追加した)。これを活用することで、気温が零下となる日がある都内で、スタッドレスタイヤを装着していても、この冬はアプリの電費表示が10km/kWhを割ることはなかった。出発前に100%充電をすれば、メーター上に160km前後の走行可能距離が示される。

ハンドルヒーターは入れっぱなし(ただし、30分ほどで自動的に切れるので、再び入れなおす)だが、シートヒーターはせいぜい15分も使えば体が温まり、以後は消してしまう。そのうえで、足元が冷える際には、足元への暖房を入れる。そのときの温度設定は、最低の18℃だ。このとき、空調は室内循環に設定し、窓ガラスが曇るなら外気導入にする。

冬でも日が昇れば気温も上がり、ハンドルヒーターは引き続き使う場合もあるが、シートヒーターは使わずに済むときがある。

シートヒーターやハンドルヒーターは、空調で室内を温めるのに比べ消費電力は1/10であると日産自動車の技術者に教わった。EV購入時の装備として、シートヒーターとハンドルヒーターは不可欠だ。
次に、運転支援機能(ACC=アダプティブ・クルーズ・コントロール)も、電力消費を抑えながら、楽に、快適に、安全に移動するのに不可欠だ。老齢の私は、これなくして遠出はできない。

サクラでは、高速道路に入ればプロパイロット(これもXでは注文装備)に依存している。これにより、速度の上下があっても消費電力は安定する。

インスターのカジュアルは、上記2つの装備が欠けている。注文装備もできない。これでは、より少ないバッテリー容量のEVを買う意味が薄れる。

もう一つ、ヒョンデに検討してもらいたいのは、基礎充電を設置する段取りのワンストップサービス支援だ。

いくら手ごろな5ナンバーEVを市場導入しても、基礎充電ができなければ普及はおのずと行き詰まるだろう。すでに、既存の事業者によって、マンションなど集合住宅への基礎充電設備設置の支援が行われ、月極駐車場への設置も道筋がつけられようとしている話を聞く。そこまでの段取りを、ヒョンデが窓口になって支援してくれれば、より安心してEVを使えるようになっていくのではないだろうか。

ただ「安いです」「いいEVです」「身近になりました」といっても、所有する最大の障害を取り除く支援がなければ、EVを諦める消費者は減らない。

インスターは、優れた5ナンバーEVだ。その詳細は、寄本編集長が記事にしているはずだ。そのうえで、なぜ、私がインスターに買い替えないのか。それは、倍以上のバッテリーを搭載しているとはいえ、私にとっての誘惑が、サクラを上回っていないからだ。インスターの登場をきっかけに、日本でもさらに魅力的で大衆的なコンパクトEVが増えていくことを期待したい。

取材・文/御堀 直嗣
※記事中写真:Hyundai Mobility Japan

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この記事を書いた人

1955年生まれ。一般社団法人日本EVクラブ理事。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。1984年からフリーランスライター。著書:「快走・電気自動車レーシング」「図解・エコフレンドリーカー」「電気自動車が加速する!」「電気自動車は日本を救う」「知らなきゃヤバイ・電気自動車は新たな市場をつくれるか」「よくわかる最新・電気自動車の基本と仕組み」「電気自動車の“なぜ”を科学する」など全29冊。

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