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ヒョンデ「インスター Voyage」東北周遊1430km長距離遠征レポート【前編】コンパクトEVがファーストカーとして使えるか?

ヒョンデ「インスター Voyage」東北周遊1430km長距離遠征レポート【前編】コンパクトEVがファーストカーとして使えるか?

ヒョンデの最新モデル「インスター」のVoyageグレードでさいたま〜東北地方を周遊してきました。日産サクラなどと比較してどれほどのEV性能を実現できているのか。前編は、ロングドライブにおける航続距離や急速充電性能など、ファーストカーとしての使い勝手を検証します。

目次

49kWhのバッテリー搭載でロングドライブ性能にも期待

今回のインスターは小型EVとして街乗りなどの用途がイメージできるものの、バッテリー容量は49kWh、日産サクラと比較するとおよそ2.5倍以上のバッテリーを搭載しており、ファーストカーとして長距離走破性能にも期待が集まっているはずです。ファーストカーとしての実用性を把握するために、関東から東北地方を周遊しながら、同時に公共のチャデモ急速充電器のインフラ動向もレポートします。

今回の検証車両であるインスターVoyageの主要スペックと走行条件は下記の通りです。

インスターVoyage 主要スペックと走行条件(※は推定値)
●搭載バッテリー容量(グロス/ネット):49/約47kWh
●定格電圧(最大電圧):310V(約350V)
●日本WLTCモード(WLTCモードクラス2)航続距離:458km
●欧州WLTCモード(WLTCモードクラス3)航続距離:370km
●EPAサイクル航続距離:※301km
●最大充電出力/SOC 10-80%充電時間:85kW/非公表(独自検証値:31分)
<装着タイヤ>
●185/65/R15
●Kumho ECSTA HS52 EV
●空気圧:2.5/2.5(前輪/後輪)(適正値2.5/2.5)
<走行条件>
●車内の空調システムは常にONにして快適な状態をキープ(21℃オートに設定)
●追い越しなど含めて、制限速度+10%程度までは許容

安定した急速充電性能を確認

那須高原SA下り線。

① 埼玉県さいたま市街→那須高原SA(150kW級急速充電器)
●走行距離:167.5km
●消費電力量:83.5%→13.5%
●平均電費:196Wh/km(5.10km/kWh)
●外気温(さいたま→那須高原):38℃→34℃
●天候:晴れ

最初の充電スポットは那須高原SAです。ここは東北自動車道で東京から200km弱の立地であることから、多くのEVの最初の休憩&充電スポットとして重宝することになるであろう経路充電スポットです。とくに那須高原SAまで標高が上がるので電費は悪化しがちです。EVユーザーからすると、直前まで充電の減り方が早いことを感じるはずで、ここで早めに充電しておきたいという心理が働くことは間違いありません。

那須高原SAには、すでにe-Mobility Power(以下eMP)が150kW級を1基、90kW級を2基設置しており合計6台のEVが同時充電可能です。以前の記事でもお伝えしたように、東北自動車道はこの1年ほどで急速に充電インフラが拡充しており、基本的に90kW級以上のみを使用して移動することが可能です(関連記事)。

一方で、今回の遠征中の日曜の昼間では、私が充電中の30〜40分の間にEVが何度も入れ替わり、私を含めて3〜4台が常時充電しているという状況でした。日本国内のEV販売シェア率が現状は2〜3%(BEVは1%台)であり、今年から来年にかけて軽乗用EVなど手頃な車種がいくつも発売されることを踏まえると、那須高原SAのハイピーク時はこの1〜2年で充電渋滞が発生してしまうかもしれません。もちろん前後のSAPAに充電スポットを追加するのも手でしょうが、やはり上り勾配が続く区間であるという点を考慮に入れると、今後はこの那須高原SAの充電器を増設したほうがいいと感じます。

この充電セッションでわかったのはインスターの充電性能の安定性です。インスター49kWhバッテリー搭載グレードではSOC60%程度まで最大80kW強(約240A×300V前半)という充電出力がキープされます。しかもSOC70%程度まで最大70kW(200A×約350V)の充電出力がキープされました。

つまりインスターはSOC70%程度までは何も気にすることなく充電し続けることができます。このようなフラットな充電カーブを有するEVはEV初心者の方にとってもわかりやすいと思います。とくに、街乗りを中心とした日常生活の足としてインスターを所有するような、急速充電を使用する長距離走行を行う頻度の少ないユーザーならなおさらのことでしょう。

さらに、恒例の1000kmチャレンジにおいても熱ダレのような挙動は一切確認されませんでした。電池の冷却システムのおかげで、真夏に高速走行と急速充電を繰り返すというような使用用途でも全く問題ありません。

ただし、インスターの急速充電における弱点がシステム電圧の低さです。日産サクラやリーフなどの主流EVは定格電圧が約350Vであるのに対しインスターは310Vと低いため、90kW級(200A)の急速充電器を使用しても、序盤は約60kW(200A×約300V)しか発揮できません。ちなみにボルボEX30やメルセデスEQSなどの定格電圧は約400Vなので、序盤でも約80kW(200A×約400V)を発揮可能です。

いずれにしてもインスターで効率的に急速充電を行う場合、なるべく150kW級(350A)急速充電器を見つけてSOC60-70%まで充電を行うという運用方法がベターでしょう。

インスターを購入するならVoyage以上のグレードがオススメ

② 那須高原SA→ヒョンデシティストア仙台
●走行距離:185.1km
●消費電力量:81.5%→21.5%
●平均電費:155Wh/km(6.45km/kWh)
●外気温(那須高原→仙台):34℃→32℃
●天候:晴れ

東北地方周遊を本格スタートする前に、せっかくヒョンデ車に乗っているので直近でオープンしたヒョンデシティストア仙台に立ち寄りました。たまたま展示されているインスターはエントリーグレードのCasualグレードで、全席シートリクライニングができなかったりシート素材がファブリックだったり、前席シートヒーターやハンドルヒーター、LEDヘッドランプ、後席USB-Cポートが全て非搭載など、私の検証車種であるVoyageと比較しても大幅に簡素化されているように感じました。

さらにCasualの場合42kWhと電池容量も小さくなり航続距離や充電性能も低下します。何といっても冬場のEV性能に大きな違いを生むヒートポンプシステムが搭載されていない点が「弱点」ともいえます。

CasualとVoyageの値段差は50.6万円ですが、CEV補助金などを踏まえれば、一般ユーザーにはCasualではなくVoyageグレードの購入をお勧めしたいと思います。

いずれにしても、仙台でも実車を見て試乗することができるようになり、ヒョンデ車を購入後も整備拠点として利用可能となったことから、仙台周辺のユーザーも一度試乗に足を運んでみるのがいいでしょう。

この仙台市街までは緩やかなくだりが続くということ、および仙台周辺で若干流れが悪くなったこともあり、那須高原SAまでと比較すると電費が向上しています。とはいうものの、真夏の昼間にエアコンを全開にして流れに合わせて高速走行すると、6km/kWh程度がインスターVoyageの標準的な電費といえそうです。最上級グレードのLoungeは17インチのタイヤホイールが装着される(Voyageは15インチ)ことから、もう少し電費が悪くなると考えておいた方がいいでしょう。

東北道菅生PAで充電渋滞に遭遇

③ 仙台市街→山形市街(90kW級急速充電器)
●走行距離:80.8km
●消費電力量:44.0%→15.0%
●平均電費:163Wh/km(6.13km/kWh)
●外気温(仙台→山形):31℃→28℃
●天候:晴れ

いよいよ本格的に東北地方周遊を始めます。まず向かったのは山形市街の90kW級急速充電器です。実は今回の遠征に際して、途中でインターを気兼ねなく降りられるようにNEXCO東日本が提供する「ドラ割 東北観光フリーパス 南東北周遊プラン 首都圏発着」を使用しました。この場合一定の料金を支払うだけで、関東までの往復料金と南東北地方において高速道路が乗り放題となります。この夏に東北地方を旅行する場合は多くの場合でお得になるので要チェック(関連ページ)です。

ところがここで遭遇した問題が充電渋滞です。元々は山形道手前の菅生PA上り線の90kW級(2口器)を使用する予定だったものの、写真の通り2台のリーフが充電中。さらにどちらの車両も充電を開始したばかりで25分ほど待機する必要がありました。

ここで個人的に気になったのが、どちらのリーフも福島県内のナンバープレートだったという点です。詳細は不明ですが、充電器を覗いた時にたまたま聞こえたユーザーの会話から推察するに、おそらく仙台周辺を観光して福島方面に帰宅する途中だったのでしょう。ところが、この菅生PAは仙台市街から20kmほどしか離れていないのに、どちらの車両もSOCは20%程度しか残されていませんでした。

何が言いたいのかというと、私も含めて、仙台市街には急速充電器が無数に存在するにも関わらず(とくにリーフは90kW級でスペック的には充分。90kW級は仙台市内にさらに設置数が多い)、わざわざ高速に乗ってからSAPAの充電器を使用しているのです。なぜかといえば、SAPAの方がトイレ休憩や食事休憩の間に充電をすることができるからです。

逆に仙台市街に設置されている90kW級以上の急速充電器の多くは、日産をはじめとする自動車ディーラーに設置されています。ディーラーに設置された急速充電器の場合、充電中に気兼ねなくトイレ休憩や食事休憩に行くことができず、よって家族旅行などで経路充電を行う場合、充電&休憩スポットとしての利便性の高さから高速道路上の急速充電器が選ばれているのではないかと推測できるのです。

いずれにしても、せっかく市内に高出力急速充電器を設置してもEVユーザーが好んで使わない実態があるのではないかと推測できます。やはり経路充電として重要なのは、急速充電中に気兼ねなくトイレ休憩などで車両から離れることができる安心感だと思います。

その意味において、自動車ディーラーの高出力急速充電器を経路充電インフラと位置付けるのは相性が良くないと再確認した思いでした。少なくとも自動車ディーラーに充電器が一基だけ設置される場合に国から補助金を与える必要はないというのが個人的見解です。

④ 山形市街→道の駅にかほ(90kW級急速充電器)
●走行距離:150.9km
●消費電力量:72.0%→20.5%
●平均電費:165Wh/km(6.06km/kWh)
●外気温(山形→にかほ):28℃→26℃

山形県酒田市を経由して秋田県に入りました。この「道の駅にかほ」には90kW級急速充電器が設置されており、仮眠を取るにはもってこいの立地です。すでに600km近く走行していますが、平均電費は約6km/kWhに留まりました。ほとんど高速道路を使用しており、流れに合わせて元気に走行していることが電費の伸び悩みの原因でしょう。ただしここから仙台までの区間は下道を使用するため、市街地・郊外走行でどれだけ電費が向上するのかといったところも注目ポイントです。

次回、後編のレポートでは、秋田、岩手、宮城を時計回りに周遊しながら関東へ戻っていきます。とくに、eMPの充電カードを使わずに利用できる様々な充電サービス事業者が展開する充電器を実際に使用してインスターとの相性問題や使い勝手をレビューしたいと思います。

ヒョンデは自社の充電カードを発行していないこともあり、インスターのオーナーとなった方はeMP(提携含む)の充電カードを所有しないケースも多いのではないかと想定できます。はたしてどの充電サービスがインスターにとって使いやすい充電サービスなのでしょうか。後編をお楽しみに!

取材・文/高橋 優(EVネイティブ※YouTubeチャンネル

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この記事を書いた人

免許を取得してから初めて運転&所有したクルマが電気自動車のEVネイティブ。

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