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スモールEVのアクティブスタイル「インスタークロス」試乗レポート/お手頃EVの選び方を考察

スモールEVのアクティブスタイル「インスタークロス」試乗レポート/お手頃EVの選び方を考察

ヒョンデのスモールEV「インスター」に追加された新グレード「インスタークロス」の試乗会に参加してきました。EVとして、コンパクトカーとしての使い勝手の良さや気持ちいい走りの良さは既存グレードでの既報の通り。EVがあるライフスタイルの広がりと楽しさを感じる1台でした。

目次

遊び心いっぱいの特別仕様を備えたアクティブスタイル

4月に発売されたばかりのヒョンデ「インスター」に、専用バンパーやルーフバスケットなど「タフ」な印象の専用エクステリアなどを採用した新グレード「インスタークロス」が追加されました。

インスターがEVとして魅力的なクルマであり、コンパクトカーとしての使い勝手の良さや気持ちいい走りの良さを備えているのは既報の通り。9月某日、羽田空港周辺で開催された試乗会では、冒険心や遊び心をいろいろと詰め込んだインスタークロスが、既存グレードで感じた基本性能の高さそのままに、EVがあるライフスタイルの広がりと楽しさを満喫できる1台であることを実感できました。

CEV補助金は全グレードが56万2000円

まず、インスターのグレードと価格を確認しておきましょう。

グレード総電力量一充電走行距離車両本体価格
Casual42kWh427km2,849,000円
Voyage49kWh458km3,355,000円
Lounge3,575,000円
Cross393km3,729,000円

新グレードの「Cross(クロス)」は、既存バリエーションのフル装備グレードである「Lounge(ラウンジ)」と同等の装備内容にルーフバスケットなどの専用エクステリア、クロス専用デザインのアルミホイールなどが追加され、価格は372万9000円(価格は税込)と、インスターの最上級グレードという位置付けになります。

国のCEV補助金は、インスターの全グレードで小型・軽自動車としてほぼ満額の56万2000円で、補助金適用後の実質価格は316万7000円。ざっくり比較すると、トヨタ「カローラ スポーツ」の最上位グレード(約317万円)と同じくらいという感じです。

一充電走行距離はラウンジよりも少し落ちる

搭載する駆動用バッテリー容量はラウンジグレードと同じですが、それなりに大きなルーフバスケットを装着していて空力性能がスポイルされるため、一充電走行距離(WLTCモード)はラウンジが458kmであるのに対して393kmと、15%ほど少なくなっています。

EV全般に、高速道路を「制限速度以下で定速巡航すると電費がいい」といえますが、クロスの場合はルーフバスケットの空気抵抗が電費の敵になってしまうので、航続距離を重視するならより速度を抑えた走りが求められるってことになりそうです。とはいえ、カタログスペックで393kmということは、エアコンフル稼働の100km/h程度で巡航する実用的な航続距離が8掛けとしても約314km。東京をスタートして8口の高出力急速充電器がズラリと並ぶ新名神浜松SAまでの約230kmくらいは一気に駆け抜けられるはずなので、日常的なドライブで不便を感じることはないでしょう。

子犬の足跡バッジなどのアクセサリーも発売予定

インスタークロスは遊び心満載の特別仕様グレードです。そもそも、インスターには「インスター(EV)があるライフスタイル」の楽しさを演出してくれそうな専用アクセサリーがいろいろと用意されているのが特長です。

ヒョンデ公式サイトの「ショップ」には、後席用のトレイやアンブレラスタンドなどのグッズがラインナップされていて、いろんなアイテムをまとめておトクな価格設定の「ピクニックセット」や「空間活用セット」などが用意されています。

ヒョンデ公式サイトより引用。

今回試乗したクロスのボディカラーは、クロス専用のエクステリアカラーである「アマゾナスグリーンマット」でした。ボディサイドやアルミホイールの一部には木目調のデカールが施され「ワイルドだろぉ」って感じの個性を主張。さらに、リアの車名ロゴの上やステアリングに子犬のフットマークをデザインしたバッジがあしらわれていました。

このデカールやバッジは公式サイトのショップを探しても見当たらなかったので「ただのお遊び?」とヒョンデ マーケティングチームのSenior Specialistである山﨑貴弘さんに確認すると「試乗車に装着したのは試作品だけど、正式に発売する予定」とのこと。

基本グレード発売からほんの半年ほどで新グレードのクロスが登場したり、ジョーク雑貨的なアイテムをラインナップしちゃうあたりにも、インスターというコンパクトEVがライフスタイルを彩ってくれる可能性と、ヒョンデの担当者の方々が楽しみながらインスターの魅力向上に取り組んでいるいい雰囲気を感じたのでした。

ちなみに、子犬の足あとデザインのフロアマットはすでに公式ショップで販売中。試乗車には、これも追加予定のラゲッジマットが入れてありました。

インチダウンしてOZのホイールを装着するのもいい感じ

インスターの特別仕様車といえば、今年1月、東京オートサロン2025に参考出品された「INSTER Tarmac」が印象的でした。この1台を、まさに手作りで仕上げたのがマーケティングチームの山﨑さんでした。

そして、公式サイトのショップには、この「INSTER Tarmac」に装着されていたアルミホイールである「OZ ラリーレーシング」も紹介されています。

4本セットで12万9800円というのは、相場的にもなかなかお買い得ではないでしょうか。ひとつ注意したいのが、このアイテムはオートサロンの参考出品車にならって、サイズが16インチです。インスタークロスに標準装備されているホイールのサイズは17インチなので、装着するなら「195/55R16」のタイヤを別途購入する必要があります。

標準のタイヤサイズは「205/45R17」ですから、いわゆるインチダウン。偏平率が高くなるのでむしろ乗り心地が良くなったり、タイヤ幅が狭くなるので電費性能が向上する、のではないかと思います。インスターでこのホイールを実際に装着した方がいらしたら、コメントで感想など教えていただけるとうれしいです。

日本で買えるコンパクトEVとして最強の1台

試乗レポートといいつつ、装備やアクセサリーの話ばかりしてますね。パワートレインや足回りなどについては、既報の試乗レポートもいろいろあるので参照いただきたいのですが、つまりのところ、インスターの乗り心地や走行性能、EV性能は、現時点で日本で買えるコンパクトEVで「最上級&最強」だと感じています。

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お手頃EV車種の選び方を考えてみた

日本でEVが普及しないのは「欲しくて買えるEVがない」ことが最大の要因だと考えています。コンパクトカーで300万円台は決して安いクルマとは言えないですが、冒頭でカローラ スポーツを引き合いに出したように、マイカー購入になにがしかのプラスアルファを求めるのであれば、エンジン車に比べて高いと切り捨てる金額でもありません。

マイカーは「300万円で300km」基準でKONAカジュアルに

参考までに私個人の思いを明示しておくと、まず、2013年に手作り改造EVで日本一周した体験が決め手になって「マイカーはもうEVしか買わない」と決め、当時乗ってたエンジン車を売却。でも、高価なマイカーは買えないので、まさに「欲しくて買えるEV」の出現を心待ちにしていました。その後、EVsmartブログの編集長を引き受けたのを契機に「150万円で150km」を条件にして中古の日産リーフ(AZE0/バッテリー容量30kWh)を購入。5年ほど乗っているうちにバッテリー劣化(10セグになりました)が進んだのと、ボルボ EX30、BYDのドルフィンやATTO3、そしてヒョンデ KONA(コナ)などが発売されたこともあり買い替えを決意。

家族が「韓国製の自動車はイヤ!」と反対したこともあって最後までEX30とコナで迷いましたが、実質価格300万円程度で、満充電から300km先の急速充電器まで程度は心配なく走り切れること、つまり「300万円で300km」を自分が納得できる条件として、ヒョンデのコナ、それもバッテリー容量が48.6kWhと少ない「カジュアル」グレードを購入しました。

このあたりの経緯はEVsmartブログで記事にしたので、記事末にテキストリンクを貼っておきます。

私の思いや選択を一般の自動車ユーザーに押しつけるつもりはありませんが、日本国内で買えるEVで「優れたコストパフォーマンスと実用性を備えた車種は何か?」という視点で選んだのが、コナ カジュアルだったということです。この時、比較対象としてインスターが発売されていたら、コナとどちらにするか悩んだことでしょう。

私はゴルフや釣りが趣味(荷物や相乗り機会が多い)ってこともあり、今でも最終的にはコナを選ぶだろうとは思います。でも、自分のライフスタイルに合わせて「どっちにする?」という手頃なEVの選択肢が増えていくことが、日本のEV普及にとってとても大切であることは間違いありません。

そしてインスターは、現段階で「マイカーをEVにしたいんだけど、何がいい?」と質問されたら、「予算を抑えたいんだったらインスター」とイチオシできるコンパクトEVです。

高級EVのジレンマ

また「予算は500〜600万円」というのであれば、イチオシは「テスラのモデル3かモデルY」です。テスラが実現してきたのは「エンジン車の利便を超えるEV」でした。独自の急速充電ネットワーク「スーパーチャージャー」の拡充を含め、EVとしてのポテンシャルは他社のEVと比べて大きなアドバンテージがあると感じます。

「EVでもエンジン車と同じように使いたい」という世界の自動車ユーザーに魅力的なEVを示してきた先駆者はテスラです。ドイツ御三家をはじめとする既存自動車メーカーは、テスラが具現してきたEV性能を追いかけて、大容量バッテリーを搭載した高級EVを主軸として「エンジン車からEVへの置き替え」を進めようとしてきました。

ところが、「エンジン車と同じように使える大容量バッテリー搭載の高級EV」を所有すると、EVならではのメリットよりも「エンジン車のように使える」ことが満足度を左右するポイントになってしまいがち。そうなると「エンジン車と比べたEVの欠点」ばかりが気になってしまうのはやむを得ないことでしょう。

お金に余裕のある方が高級EVを選択するのを否定するわけではありませんし、航続距離が長い高級EVの魅力は承知しています。でも、「エンジン車のように使える」ことを目指してしまうと、結局、エンジン車を凌駕することはできないのではないか。私は最近、このパラドックス的な障壁を「高級EVのジレンマ」であると感じ、EVシフトのスムーズな進展を案じています。

日本の自動車メーカーも「インスター」に続いて欲しい

ちょっと横道に逸れました。何がいいたいのかまとめると……。

まず、幅広い層が購入を検討できる価格でインスターを発売してくれたヒョンデに拍手を贈りたいと思います。そして、インスター クロスという選択肢の拡大をスピード感をもって実現したのは素晴らしいことだと感じます。

繰り返しになりますが、日本でEV普及が本格的に進展するためには「欲しくて買えるEV選択肢」の拡大がとても大切。そもそもコンパクトカーに強いはずの日本の自動車メーカーが、インスターに続く魅力的で大衆的価格のEV車種を繰り出してくれることを願っています。

さらに願わくば、より多くの日本の自動車ユーザーが、インスターの魅力に気付いてくれますように……。

取材・文/寄本 好則

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この記事を書いた人

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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