メルセデスの中でも最上級に位置づけられるブランドがマイバッハです。そのマイバッハのEV、そしてSUVという新しいジャンルのモデル「メルセデス・マイバッハ EQS 680 SUV」に試乗しました。ベーシックな価格は2790万円と、庶民とは無縁なクラスですが、EVは高級車にぴったりであることが実感できました。
最上級ブランドの電気自動車
マイバッハブランドの電気自動車、「メルセデス・マイバッハ EQS 680 SUV」に試乗しました。まずは端的な感想として、EV、つまりガソリンなどの燃料を使わず、バッテリーに蓄えた電力でモーターを駆動するという方法はマイバッハのような高級車、それもショーファードリブンと呼ばれる、おかかえ運転手付きのクルマとのマッチングが最高にいいということを改めて実感しました。
環境問題へのアプローチとしてEVを選択するのであれば、マイバッハのような大きく重いクルマは不要でしょう。人生の成功者だからといって、環境負荷の大きなクルマに乗るなんてけしからん、というような考えに立てば、許されるクルマではありません。
そうしたイデオロギー的なことは横に置いておいて、単純にパワートレインとして扱った際のEVはマイバッハにとっていい影響だけを与えています。まず重量です。一般的にクルマは軽いほどいいとされますが、ショーファードリブンとなると話は違ってきます。
それなりに運転経験を積んだ方であれば、軽自動車に乗ったときになんとも言えないチープさを感じたことがあると思います。あのチープさの大きな原因の一つが「軽さ」です。よく「どっしりとした乗り心地」などという表現がありますが、まさにその「どっしり」はクルマの重さが生み出す性能です。
マイバッハ EQS 680 SUVの車重は3050kgもあります。ロールス・ロイスのICEモデルでは2000〜2600kg程度、EVのスペクターで2890kgですからマイバッハ EQS 680 SUVの3050kgは驚くべき重さです。
3t超えのボディの動きは実にゆったり、たおやかです。段差を乗り越える時もタイヤがたわみ、その動きがホイール、そしてサスペンションと伝わってくるのに適度な減衰を受けて身体に伝わってきます。ボディの軽いスポーツカーでは決してあり得ない動きですが、それこそがショーファードリブンらしい乗り心地を生んでいます。
エアサスペンションのフィーリングも理想的
車重が重いからこそ生きてくるのがエアサスペンションです。エアサスペンションはメルセデスだけでなく、国産車でも多くの車種が採用してきました。しかしながら、どうしてもバランスボールの上に乗っているようなブワブワした乗り心地になってしまう車種があります。ところがEVが台頭してきて車両重量が重くなってくると状況は一変します。重い車重とエアサスペンションの組み合わせが理想的なフィーリングを生み出したのです。
もちろん単純に重いだけでは鈍重でストレスの多い乗り味になってしまいますが、マイバッハ EQS 680 SUVは3tの車重に対して、フロントに174kW/346Nm、リヤに310kW/609Nmのモーターを搭載しています。これだけの出力があれば、3tの車重などものともしません。アクセルを軽く踏み込むとグッと力強く加速します。発進加速時や路面状況の悪いときはフロントモーターも使いますが、高速巡航時などはフロントモーターを切り離して後輪駆動状態となります。
4WDといってもつねにフロントタイヤに駆動力を掛けているタイプと、フロントタイヤの駆動を切っているタイプだとハンドリングに差がでます。タイヤの持つ性能を駆動に使っている場合は、横方向の性能が落ちてしまいます。
マイバッハ EQS 680 SUVはそうしたこともしっかりと考慮したセッティングとなっている印象で、3tの車重を感じさせない正確なハンドリングを実現しています。加えてリアアクスルステアリングと呼ばれる4WS(4輪操舵)機構を備えており、3210mmのホイールベース、5135mmと長いボディながら、最小回転半径は5.1mと小回りがききます。
118kWhのバッテリーを搭載して航続距離は640km
搭載される電池は118kWhのリチウムイオンで30A/6kWの普通充電と150kWの急速充電に対応。WLTCモードの航続距離は640km(欧州仕様車)と発表されています。EVsmartブログでは原則としてアメリカEPA基準に換算した実用的な航続距離の推計値を併記しますが、この価格で、このサイズのバッテリー容量になってくると、細かな数値の違いは「実用」にはあまり関係がない気がしてきます。
V2HとV2Lにも対応しています。メルセデス・ベンツ日本が行った充電テストの結果が発表されていますので、紹介しておきます。
●急速充電(150kWタイプ)
気温:19℃(屋内)
試験場:急速充電器メーカー開発施設
充電時間:10%から80% 約54分
30分で電池残量10%から54%まで充電
●急速充電(90kWタイプ)
気温:20℃(屋外)
試験場:自社施設内
充電時間:10%から80% 約63分
30分で電池残量10%から43%まで充電
●急速充電(50kWタイプ)
気温:26.5℃(屋内)
試験場:自社施設内
充電時間:10%から80% 約114分
30分で電池残量10%から28%まで充電
試乗車はマイバッハ EQS 680 SUVのなかでも最上級モデルとなる4人乗りのファーストクラスパッケージ装着車で、リヤシートが独立した仕様。リヤシート左右間には幅広のテーブルを設定。トランク部分にはシャンパンを冷やすための冷蔵庫まで装備されます。
メルセデス・ベンツG 580 with EQ Technologyもそうでしたが、EVはこうあるべき……という作り方ではなく、クルマはこうあるべき、そのなかのEV化についてメルセデス・ベンツはこう考える、ということが伝わって来る試乗となりました。
取材・文/諸星 陽一
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