マイカーとして電気自動車の日産サクラを愛用する自動車評論家の御堀直嗣氏が、EVへの理解を深めるために提言する「実感コラム」の連載シリーズ。第1回は、20kWhのバッテリー容量と、180kmの一充電走行距離について考えます。
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日常生活に必要なEVのバッテリー容量は?
日常生活で必要なEVのバッテリー容量は、何kWhなのだろう?
この問いに対する答えは、人それぞれのはずだ。だから、コレで決まりという答え(数値)はなかなか出せない。
一般論的には、日本の自動車ユーザーが一日にクルマで移動する距離としてもっとも多いのは約40kmというような統計の数字が出てくる。とはいえ、釈然としない気持ちは残る。
いざEVを手に入れようとしたとき、結局、何kWhを基準にすればよいのか、あるいは一充電走行距離が諸元(カタログ)値で何kmであれば十分なのか、結局、自分で答えを出さなければならない事態に戸惑いを覚える人は多いだろう。結果、EVはまだ止めておこうという気持ちにさせられるのではないか。
一充電走行距離180kmで「十分」と判断した理由

ある日の満充電時、走行可能距離は185kmと表示された。
私が所有する日産サクラの車載バッテリー容量は20kWhで、一充電走行距離の諸元値は180kmである。
これを、十分だと感じるか、不安に思うか。
私は、自分にとって十分な性能なので、サクラが発売されると同時に販売店へ行き、「サクラをください」と、何の躊躇もなくすぐに契約を済ませた。
その根拠は何か。
今年、古希を迎えた私は、もはや自分でクルマを運転して何百kmも遠くへ出かけるのは体力的にも気力的にも無理になった。
かつて、30~40歳代のころはレースの取材をしていたので、東京から三重県の鈴鹿サーキットまで一人で運転してひとっ走りということを何度も繰り返してきた。同じ調子で、宮城県の仙台には二つのサーキットがあったので、そこへも年に何度も出かけた。
それでも、さすがに山口県や大分県のサーキットまでクルマで移動するのは荷が重く、飛行機を使った。つまり、片道400km前後の移動であれば苦も無くクルマで移動していたのである。
しかしいまは、クルマの運転はもちろん同乗させてもらったとしても、あるいは新幹線を利用したとしても、何時間もかけて移動する遠出はくたびれてしまうし、ずっと座席に座り続けるのがつらい。
私のケースでは「年齢」を理由に挙げたが、現役世代の若い方でも、軽自動車で片道200km以上の遠出などほとんどしないという人は少なくないのではないかと思う。
実際の運用では諸元値以上の電費を記録
前置きが長くなったが、そういう今の私にとって、クルマで移動する距離は、毎週末に通う千葉県の乗馬クラブまでの片道60km、往復で120km程度が最長レベルである。つまり、サクラの性能でも余りあるほどだ。
諸元から、20kWhで180km走れるとすると、1kWhでの走行距離(電費)は計算により9km/kWhとなるが、私が運転する日常的な利用では、11km/kWh前後の数字が出る。冬にスタッドレスタイヤを装着しても、10km/kWh台を保てている。
ちなみに、WLTCの諸元値では、8.06km/kWhとなる(諸元表記は124Wh/km)。試算での9km/kWhとの差は、充電の際の損失を考慮した数字であると、日産は回答している。
つまり、私のクルマの使い方に対して諸元の数値でも余裕があったのに、実走行ではさらに走行距離にゆとりが出ているのである。
エンジン車やハイブリッド車(HV)では燃費となるが、それらのクルマで諸元値以上の燃費値を出すのは容易でない。ところが、EVの特性を活かして運転すれば、諸元値以上の電費で走行距離を延ばせるのである。
電費を延ばす運転のポイント
では、どのような走り方をしているか説明しよう。
走行モードは「エコ」に入れっぱなしで、e-Pedal(回生ブレーキを活用したワンペダルドライブ機能)を常用している。
そして、一般道を走る際はシフトをBレンジにし、高速道路に入るときはDへ切り替える。高速道路では基本的にプロパイロットを使い、ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)の巡航速度は80km/hに設定している。ただし追い越しなどでより高い速度が必要な場合は、アクセルペダルを踏んで加速させるが、追い越しを終えたら再び走行車線へ戻って、80km/hでの走行を続ける。
高速道路でも巡航速度を抑えることが、良好な電費の走りにとって、誰にでも実践可能で、最大のポイントといえる。
ただし、日産の販売店までの数kmを、定期点検や整備に出すため走るときなどは、市街地のみで走行距離も短いため、電費は5〜6km/kWh程度になる。そのようにほとんど高速道路を走らない人の場合は、私の数字と違った電費になるのだろう。
シートヒーターなどを積極的に活用する
ところで、私の電費、ことに冬期の実績は空調の使い方も関係しているに違いない。
夏も冬も、冷暖房は利用するが、それ以前に、冬にはシートヒーターとハンドルヒーターをまず活用する。基本的に、この二つでほとんど体は温められ、空調の必要性をあまり感じないほどだ。
それを実現するため、私のサクラはXグレードなのだが、注文装備となる運転席と助手席のシートヒーターと、ハンドルヒーターを追加装備している(ホットプラスパッケージと呼ばれるセットオプション)。
EVと空調の関係は非常に重要で、空調の使い方次第で一充電走行距離に大きな差が出る。一方、シートヒーターやハンドルヒーターは、消費電力が空調の1/10ほどに抑えることができる。
たとえば、空調を使うことで走行距離が10〜20%短くなると仮定した場合、これをシートヒーターやハンドルヒーターで済ませることができるなら、走行距離への影響は1〜2%に過ぎないということだ。それは、ほぼ実感的な走行距離に影響しないほど小さな値ではないだろうか。
そのうえで、冬の暖房は冷える足元を中心に使っている。シートヒーターとハンドルヒーターがあれば、都内から千葉へ出かける際にはそれで十分だからだ。
しかも、設定温度を上げすぎず、外気温計の数字よりやや高い程度にとどめ、一方で送風は一段強めにする。こうすることで暖かい空気が足元に届きながら、その周辺の温度が冷めすぎないように保てる。
送風を一段強めるやり方は、冷房でも効果がある。
外気温計の数字より数℃低い温度設定とし、送風を一段強めにすると、十分涼しい風が送り出される。ただし温度設定は、上は32℃以上、下は18℃以下は、それぞれHi(ハイ)とLo(ロー)の表示になるので、数字の出る範囲で操作している。このやり方で、猛暑もほぼ無事にやり過ごすことができている。
以上のようなわけで、サクラの20kWhというバッテリー容量と、諸元値で180kmの一充電走行距離は、私のクルマの使い方にとって十分すぎるほどなのだ。
誰にでも通用する事例ではないかもしれない。だが、自宅に基礎充電があれば、20kWhでも日常的になんら不満はなく、180kmという一充電走行距離で余りあるゆとりを実感することもできるのである。
文/御堀 直嗣
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