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サクラのススメ【04】EVはタイヤの減りが早いのか?

サクラのススメ【04】EVはタイヤの減りが早いのか?

マイカーとして電気自動車の日産サクラを愛用する自動車評論家の御堀直嗣氏が、EVへの理解を深めるために提言する「実感コラム」連載シリーズ。第4回は「EVはタイヤの減りが早いのか?」について考察します。

目次

タイヤの減りが早くなる主要因は「重さ」

EVsmartブログ編集部から、「サクラ(EV)のタイヤは減りが早いのか?」というお題をいただいた。

EVであるかどうかを問わず、重いクルマのタイヤは減りが早くて当然だ。タイヤに掛かる荷重が増えれば、路面との密着が強まり、その分、接地面のゴムの減りは早まる。

タイヤの減りが早いと名指しされることは、EVの認知度が高まりつつある証でもあるだろう。同時にまた、EVは環境適合車だといわれながら、リチウムイオンバッテリー製造時の二酸化炭素(CO2)排出量が多いとか、タイヤの減りが早いので粉塵が増えるといった負の側面を強調しようとの思惑を感じる。

しかし私にいわせれば、片腹痛い。

いま、新車販売ではSUV(スポーツ多目的車)人気だが、そもそもSUVは、ハッチバックやセダンなどそれまでの主力の乗用車に比べ、車両重量が重いので、燃費も悪くなるし、タイヤの減りも早いはずだ。ところが、SUV人気に対して負の側面を指摘する声はほとんどない。

繰り返すが、EVであろうとSUVであろうと、重くなればタイヤの減りは早まる。

サクラの車両重量は私が乗るXグレードで1070kgである。上級のGグレードは10kg重い1080kgというのが、諸元値だ。

サクラの基になるエンジン車の日産デイズは、Xグレードでもっとも軽いのが850kg、ターボエンジン車でもっとも重いのはGグレードの940kgである。エンジン車でもっとも重い940kgと比べても、サクラのXグレードは1.2倍弱の重さになる。理由は、主にリチウムイオンバッテリーの重さだろう。

低重心で安定感があるサクラの走り

それでも、サクラの標準タイヤサイズはXもGも155/65R14で、デイズのターボエンジン車はそれより幅の広い165/55R15を装着する。

車両重量が1.2倍ちかく重いサクラが、ターボエンジンに比べ2倍近いモータートルクでありながら、デイズのXと同じタイヤ寸法で操縦安定性と乗り心地を満たしていることは、評価されていいのではないか。タイヤへの負担が大きくなるEVでも無闇にタイヤ寸法を拡大せず、細身のタイヤで性能を満たしているところに、EVに対する日産の志が伝わってくる。

そのうえで、EVの重さはタイヤグリップの向上につながり、床下にバッテリーを積むことによる低重心が、エンジン車の軽より操縦安定性を高める要素ともいえる。首都高速で急なカーブを曲がるときにも、サクラで不安を覚えたことは一度もない。

ちなみに、サクラの仕上げを担当したのは、日産スカイラインGT-Rの開発に携わった実験部のテストドライバーだ。

偏平タイヤが多く採用されるようになった理由

ところで世間では、超偏平タイヤへの指向が強く、接地面の広いタイヤを装着するクルマが目立つ。人気のSUVもその代表例だ。

偏平タイヤとは何か?

接地面積の拡大により操縦安定性を高め、より高速で走れることを目的としている。接地面幅の広いタイヤのはじまりは、レースだ。コンマ1秒の速さを競うレースでは、直線の最高速度はもとより、カーブをいかに速く通過するかが、勝敗を左右する。カーブで掛かる遠心力に耐えながら速さを維持できる接地面積の広いタイヤが使われはじめた。

やがて、欧州のスポーツカーで採用されるようになった。代表例が、イタリアのピレリP7という銘柄だ。それは憧れの的になり、やがて世界のタイヤメーカーが偏平タイヤの開発に乗り出した。

新車が画一化されだすと、一般の乗用車でも採用例が現れた。理由は、見かけがスポーティだから。それがSUVにまで広まり、今日に至る。

しかしタイヤ技術者にいわせれば、一般道で偏平タイヤを装着しても、広げられた接地面すべてがきちんと機能しているわけではないという。高速道路を含め一般道は、路面に凹凸があり、レースを催すサーキットのようにまっ平な舗装ではないからだ。また、偏摩耗も起こしやすい。片減りしてタイヤ交換時期を早める原因になる。

組み付けるホイールの大型化も招き、タイヤとホイールの両方で重量増になる。つまり燃費が悪化する。さらに値段も高い。

一般の乗用車で偏平タイヤを使う合理性はほぼない。

そこに一石を投じたのが、BMWのi3だ。大径だが細身のタイヤは、ブリヂストンが開発した。オロジックという名のタイヤは、細身なので空気抵抗の低減にも役立つ。逆に偏平タイヤは、空気抵抗を増大させる。

BMW i3のベースグレードは、「155/70R19」のタイヤを装着。空気抵抗を減らすため、ブリヂストンが専用開発したものだった。

EVに合った本格的なエコタイヤの開発を願う

いろいろ述べてきたが、EVのタイヤの減りが早いなら、それを抑制する開発は必要だ。

かつて、1990年代に気候変動抑制のため、燃費をよくするエコタイヤが相次いで開発されはじめたとき、当時のエコタイヤは、燃費は改善されるが、ブレーキが利きにくい危険性をはらんでいた。

タイヤのグリップと転がり抵抗は相反する性能で、両立を十分にできないまま市場導入された結果だ。しかし今日、エコタイヤだからといってブレーキが利きにくいことはない。それでいてエコタイヤと名乗らないタイヤに比べ、燃費は大きく改善される。

同様の話は、スタッドレスタイヤでもある。スパイクを付けなくても、雪道や凍結路面でグリップを得られるのが現在のスタッドレスタイヤだ。しかも、乾いた舗装路での操縦安定性にも遜色がない。

しかし、スタッドレスタイヤが誕生した当初は、雪道でグリップするが、舗装路になるとふらふら走る印象があった。雪道では、雪をつかむゴムの柔らかさが必要で、一方の舗装路ではゴムはそれなりに硬く、アスファルト舗装で踏ん張ることが求められるからだ。ここでも相反する性能の両立に苦労があった。

タイヤの歴史を振り返れば、電費を損なわず、それでいて車両重量が相対的に重いEVでも減りの少ないタイヤ開発に期待できるのではないか。それには、もっとEVが普及する必要がある。EVの時代が訪れれば、タイヤの減りが早いという話は忘れられるだろう。

ちなみに、フランスのミシュランは、タイヤの摩耗粉塵の排出量でプレミアムブランドタイヤ12社の平均値に比べ26%少ないとドイツ自動車連盟(ADAC)から評価されたという。減りの少ないタイヤが現れはじめたということだ。

ところで、新品のタイヤの溝は約8mmといわれる。そして、1万5300km以上走った私のサクラの溝深さは、3年経った車検での計測で5mm(前輪)残っていた。ただし冬の5か月前後はスタッドレスタイヤに交換していたので、ざっくりとした計算でサマータイヤを装着した6割弱の月数となる8750kmを走って3mmの摩耗と仮定すると、やはり、軽自動車としては「タイヤの減りはやや早い」といえるかもしれない。

その分、タイヤ交換の時期が早まったとしても、細身のタイヤ寸法であれば価格はそれほど高くないはずだ。そのうえで、EVの普及により本格的EVタイヤが開発されることを願うばかりである。

【参考サイト】
ミシュラン、ドイツ自動車連盟のタイヤ摩耗粉塵排出量の評価で業界のリーダーに(プレスリリース)
ADAC調査報告書(PDF)

【シリーズ記事】
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文/御堀 直嗣

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この記事を書いた人

1955年生まれ。一般社団法人日本EVクラブ理事。1984年からフリーランスライター。著書:「快走・電気自動車レーシング」「図解・エコフレンドリーカー」「電気自動車が加速する!」「電気自動車は日本を救う」「知らなきゃヤバイ・電気自動車は新たな市場をつくれるか」「よくわかる最新・電気自動車の基本と仕組み」「電気自動車の“なぜ“を科学する」など全29冊。

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