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サクラのススメ【最終回】今、EVを買うなら何を選ぶか

サクラのススメ【最終回】今、EVを買うなら何を選ぶか

電気自動車の日産サクラをマイカーとして愛用する自動車評論家の御堀直嗣氏が、EVへの理解を深めるために提言する「実感コラム」連載シリーズ。当初は6回で完結する予定でしたが、編集部から追加のお題。「今EVを買うなら何を選びますか」という問いについての考察です。

目次

今も気になるのはテスラ モデル3

いま、改めてEVを買うとしたら、何を選ぶ? 連載「サクラのススメ」番外編として依頼された。私の好みと独断で、ざっくばらんに話そう。

提供元:Tesla, Inc.

今でも欲しくて、つい目が行くのは、テスラ モデル3だ。

なぜ、世界的に人気のモデルYではないのか。私はセダンが好きだからである。また銘柄を問わずSUV(スポーツ多目的車)に興味がない。モデルYは、モデル3より車体が少し大きく、運転していて手に余る感じがする。手足のように無意識に自在に扱えるのは、モデル3の方だ。

モデル3を選ぶなら、もっとも廉価な後輪駆動が希望だ。バッテリー容量も少なくて構わない。なくなれば充電すればいいだけの話だ。スーパーチャージャーの性能には定評がある。余計なバッテリー容量は重量増を招き、電費を悪化させる。

後輪駆動にこだわる理由は、運転していて自然な感触が得られるからだ。前輪駆動や4輪駆動を批判するつもりはない。ただ後輪駆動は快いのである。

ちなみに、馬は四つ足だが、駈け足は後ろ足からはじめる。そして駈け足の力強さを感じるのは、後ろ足が地を蹴ったときだ。人間は馬と4000年に及ぶ付き合いがある。それが後輪駆動を心地よく感じさせるのかもしれない。

モデル3はまた、EVであるだけでなく、操作性などに先進性があり、近未来のクルマと心躍らせるところがある。EVを前提に企画し、開発しているテスラだけに、エンジン車が1886年から140年近く積み上げてきた概念に縛られていない。

最新のモデル3ではウィンカーレバーを省いたり(次期モデルでは復活との噂もある)、シフト操作を画面で行ったりするが、慣れれば不便はない。逆に、他のEVにないうれしさを実感させる。

なぜ、モデル3を買わないのか

ほかにもよさはいろいろあるが、話が長くなるので割愛する。では、モデル3にぞっこんであるのに、なぜ買わないのか?

最大の理由は、V2H(Vehicle to Home)に対応していないからだ。

イーロン・マスクは、家庭には専用のバッテリーを備え、太陽光発電と合わせて環境適合性を高めればよいと考えているようだ。しかし、せっかく家に大容量バッテリーのEVがあるのに、V2Hができないことは納得いかない。

拙宅を建てた会社は、テスラ製のバッテリーを家庭用として扱っている。その最大容量は13.5kWhで、工事費込みの値段が189万8000円(税別)とのことだ。正極材はリン酸鉄のはずだ。

それに対し、サクラでさえ20kWhのバッテリー容量を持ち、日常的にはクルマとして利用できる。バッテリーは、AESC(ホンダN-ONE e:も同じ)の三元系だ。

東日本大震災を思い返すと、東京でも計画停電が行われた。自宅でEVに充電し、停電時間帯はV2Hで家に電力を供給すれば、計画停電と関係なく電気を使い続けられる。

日本でEVを買うなら、V2H無しは、私には考えられない。

ヒョンデ インスターは現実的な選択肢だが……

現実的なのは、ヒョンデ・インスターだ。

理由は、5ナンバー車だからである。インスターの魅力は、多くの人が語っているので、ここでは省く。

ヒョンデのEVを評価する理由の一つは、日本再進出で初導入となったIONIQ 5のときから、EVがどうあるべきかを練り上げている。たとえば車両の周囲を監視するカメラ映像は、メーターの左右に画面があって、右左折の際にそれぞれの側の様子が映し出され、確認の補助として役立つ。

また充電待ちさえ快適にする発想として、ゼログラビティシートを設定するなど、EVを使ってこその装備が考え抜かれている。インスターにも、そうしたヒョンデらしいEVのよさが詰め込まれていると感じる。

私が選ぶとしたら、もっとも廉価なCasualでバッテリー容量は十分だ。ただし懸念材料として、空調がヒートポンプ式でないのに加え、シートヒーターが装備されないのは納得できない。サクラを購入する際も、シートヒーターとハンドルヒーターが欲しくて寒冷地仕様を注文した。

シートヒーターとハンドルヒーターは、贅沢装備ではなく、EVに必須の機能である。とても残念だ。

軽EVの選択肢も増えつつある

サクラと同じ軽EV仲間では、ホンダN-ONE e:がいよいよ売り出された。

N-ONE e:で注目したのは、ワンペダル操作で停止までできることと、ハンドル位置の改善により、適切な運転姿勢がとれることだ。

バッテリー容量が多いことで一充電走行距離がサクラより長いのは、私にはそれほど意味がない。

勢いにのる中国のBYDも、日本向けに軽EVを導入する準備を進めている。先般、外装を偽装したBYDの軽EVらしきクルマを見かけた。着々と地固めをしているようだ。2026年夏とされる発売が楽しみである。

BYD RACCO(プロトタイプ)

ジャパンモビリティショーに出展されたプロトタイプを見ると、スーパーハイトワゴンである。軽のスーパーハイトワゴンとは、もっとも背の高い車種で、ホンダのN-BOXがあてはまる。ダイハツのタントが切り拓いた分野だ。スズキならスペーシア、日産ならルークスがそれに属する。市場での人気は高い。

軽EVは、選択肢が増えている。BYDによるスーパーハイトワゴンのほか、サクラ/eKクロスEV、N-ONE e:は、やや背の低いハイトワゴンだ。そしてワンボックス型の商用ワゴンとして三菱ミニキャブEV/日産クリッパーEV、ホンダN-VAN e:がある。

考えるほどにサクラの魅力を再確認

こうして話してくると、サクラのよさが光ってくる。

3年を経たいまも飽きることなく、満たされた気持ちが続いている。サクラの本質的価値が優れているからだろう。スカイラインGT-Rの開発に携わったテストドライバーが仕上げた乗り心地と操縦性の調和は、私の感覚に合っている。

なので、車検を継続した。

改善してほしいのは、ワンペダルで停止までできるようになること。そして、ハンドル調整にテレスコピック(前後位置調整)機能がついて、適切な運転姿勢がとれるようになることだ。

ワンペダルについては、ブレーキホールド機能があるので、OTAで装備できたらうれしい(可能かどうかはともかく)。ハンドルの調整機構は、機械的機能だから直すのは無理だろう。

そのうえで、アリアで公開されたプロパイロット(先進運転支援機能)がサクラにも適用されたら素晴らしい。テスラのFSDのような機能だ。650万円以上するEVで試作している機能が、軽EVに付くはずがない、といわれるかもしれない。だが、これこそEVだから活かせる機能だと思う。

実現したら、もっと安心して乗馬に通えるだろうし、さらに歳を重ねてもクルマで出掛け続けられるようになるかもしれない。

それほど軽EVの満足度は高い。スズキも来年には出してくるようだ。軽と聞いただけで興味を失ってはいけない。軽EVは、これまでの軽自動車の概念を超えた存在であるからだ。

【シリーズ記事】
サクラのススメ【01】一充電走行距離180kmに「ゆとり」を感じるカーライフ(2025年9月5日)
サクラのススメ【02】経路充電インフラ整備よりも優先して自動車業界が為すべきこと(2025年9月9日)
サクラのススメ【03】航続可能距離表示が少なくなってもあわてないポイントは?(2025年9月20日)
サクラのススメ【04】EVはタイヤの減りが早いのか?(2025年10月2日)
サクラのススメ【05】納車から3年間のメンテナンスと維持費を振り返ってみる(2025年10月19日)
サクラのススメ【06】電気自動車のサクラをお気に入りのポイントは?(2025年11月9日)

文/御堀 直嗣

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この記事を書いた人

1955年生まれ。一般社団法人日本EVクラブ理事。1984年からフリーランスライター。著書:「快走・電気自動車レーシング」「図解・エコフレンドリーカー」「電気自動車が加速する!」「電気自動車は日本を救う」「知らなきゃヤバイ・電気自動車は新たな市場をつくれるか」「よくわかる最新・電気自動車の基本と仕組み」「電気自動車の“なぜ“を科学する」など全29冊。

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