BYDのSUV『シーライオン7』AWDで中国地方への遠征を行いました。BYDの最新電気自動車がどれほどのEV性能を実現しているのか。充放電ロス低減がアピールされているV2Hの効率も試しました。
シーライオン7の進化を約1700kmの遠征で確認
まず、私自身、ATTO 3、ドルフィン、シールという3車種はすでに長距離テストを行ったことがあります。直近ではシールを使用して真冬の北海道遠征を行ってEVsmartブログで記事にしました(関連記事)。
https://blog.evsmart.net/test-drive-reports/hokkaido-expedition-part-1-saitama-to-cape-soya-charging-and-efficiency-report/
そして今回、BYDの日本導入4車種目となる『SEA LION 7(シーライオン7)』を早速長距離テストすることができました。シーライオン7はシールのSUVバージョンと思われがちですが、インフォテインメントシステムの刷新とともに新型モーターの採用など、実はかなり異なる部分が多く、シールからどれほどの改善が行われているのかをテストできる良い機会となりました。
遠征の道程は、神奈川県海老名市から中国地方を周遊して車両返却場所である愛知県小牧市を目指す約1700kmのルートをチョイス。中国地方における充電インフラの実態を確認するとともに、関西でV2Hの検証を行う行程を組みました。充電行程を含めてレポートします。主要スペックと走行条件は下記の通りです。
『シーライオン7』AWD主要スペック(※は推定値)
●搭載バッテリー容量:82.56kWh
●定格電圧:550.4V
●日本WLTCモード航続距離:540km
●欧州WLTP航続距離:456km
●最大充電出力:105kW
<装着タイヤ>
●サイズ:245/45/R20
●銘柄:ミシュランパイロットスポーツEV
●空気圧:2.9/2.9(前輪/後輪)(適正値2.9/2.9)
今回遠征の走行条件
●車内の空調システムは常にONにして23~24℃オートに設定
●追い越しなど含めて、制限速度+10%までは許容
●「車種それぞれのオドメーターとGPS上の距離を補正(今回のシーライオン7AWD・20インチ純正タイヤ装着の場合はGPS距離と比較して1.71%下振れ)
●電費はSOCから推定
急速充電では高電圧(600V)システムの強みを発揮
では、行程に従って、充電記録を軸にレポートしていきます。

浜松SAではアリアと同時充電。
① 海老名SA上り→浜松SA下り(150kW級急速充電器)
●走行距離:196.2km
●消費電力量:91%→32%
●平均電費:約236.5Wh/km(4.23km/kWh)
●外気温(海老名→浜松):15℃→14℃
●天候:雨(80%)
最初の充電スポットは浜松SAです。ここは神奈川と愛知の中間地点であり合計8台のEVが同時充電可能という基幹充電ステーションです。その一方で150kW充電器は1台しか設置されておらず、アリアと充電出力を分け合うことになりました。

アリア側の充電器表示。
ここで注目するべきはシーライオン7とアリアそれぞれの充電出力です。電気自動車の急速充電では、電流値と電圧値によって充電出力が決まります。同じ充電器を使っても、車両側が要求する「電圧」によって充電できる出力が異なってくるということです。
浜松SAに設置されている最大150kWの2口器は、2台同時充電になった場合、それぞれ最大90kW(最大電流値は200A)に制限されます。実際に充電器の液晶表示を確認すると、アリアはSOC56%の段階で75kWであった一方、シーライオン7は84kWの充電出力と表示されていました。アリアは400Vシステムであるため「200A×約375V」であるものの、シーライオン7は「200A×約420V」で固定されます。さらにアリアは低SOCの場合は約70kW(200A×約350V)しか許容できないため、同じ200Aだったとしてもシーライオン7と比較して15kWほど充電出力が低くなるのです。
遠征初日は日曜日でした。これから高性能EVが増えるほどに150kW充電器を占有できる機会がますます少なくなる中、どのSOC領域でも84kWを一貫して発揮できるという点は、600Vシステムを採用して電圧固定の恩恵を受けられるシーライオン7の強みと言えるでしょう。
② 浜松SA下り→湾岸長島PA下り(150kW級急速充電器)
●走行距離:109.9km
●消費電力量:59%→31%
●平均電費:約200.4Wh/km(4.99km/kWh)
●外気温(浜松→湾岸長島):14℃→15℃
●天候:雨(100%)
湾岸長島PAは上下線ともに最大150kWの2口器と40kW器が設置されています。浜松SAとは異なり隣り合うEVに遭遇しなかったことから15分間のブーストモードが終了するまで105kW(250A×420V)を発揮し続けることができています。
約15分の充電で25.761kWhを回復することに成功。SOCにして28%分を充電できました。ここでは京都市街まで辿り着ける分を目安とした充電を行いました。
V2Hの効率が向上していることを確認
京都に立ち寄ったのは、今回の興味深いミッションを行うためです。京都市内在住の私のフォロワーの方が自宅にV2H機器を設置しながらシールも所有しているとのことで、シーライオン7がどれほど昇降圧ロスを低減できているのかを検証する運びとなったのです。
シーライオン7はV2Hに対応しているのが目玉機能のひとつです。実はシールもV2Hに対応可能ではあるものの、600Vシステムを採用していることによって昇降圧電力ロスが大きくなってしまい、充電や放電の際の効率が低く、実際にV2H機器を発売するニチコンも対応車種としては紹介していないという状況で、あくまでも停電時のみの利用に限定しています。ちなみにこれは800Vシステムを採用するヒョンデIONIQ5も全く同様の問題を抱えており、今後増加していくであろう高電圧システム採用EVの大きな課題でもあります。
シールとシーライオン7、それぞれをV2H機器(ニチコンのEVパワーステーション)に接続し、電力をやり取りしてみました。充放電ロスの結果は以下の通りです。
シール | シーライオン7 | |
---|---|---|
充電ロス | 約1.6kW | 約0.9kW |
放電ロス | 約1.1kW | 約0.6kW |
充放電ロス合計 | 約2.7kW | 約1.5kW |
この通り、シールと比較して充放電ロスが約1.2kW(約44%)低減しているという結果となりました。シーライオン7では新型モーターが採用されており、モーターの巻線を使って昇降圧を行う際の昇降圧ロスが低減したと推測することができます。
こちらのオーナーさんは以前日産リーフ40kWhを所有されており、その際の充放電ロスは概ね1kW程度だったそうなので、確かに400Vシステムのリーフと比較すると0.5kWほどロスが増加しているものの、昇降圧を必要とする高電圧システム採用のEVであると考えてみると、目に見えてロスが低減されている様子が見て取れます。
シールではロスが多すぎて実用的に使う気になれなかったそうですが、シーライオン7程度のロスであればV2Hを使用することができそうだとオーナーさんは説明されていました。いずれにしても、シーライオン7では充放電ロスがシールと比較しても低減されていることが確認できました。これはV2H機器をすでに導入、もしくは今後導入を検討しているユーザーにとっての朗報となるのかもしれません。

V2H機器を通した放電時、車両側の表示とV2H用スマホアプリの表示。車両側は3.5kWを放電して、実際にV2H機器は2867W(約2.9kW)を受け取っているので放電ロスはおおよそ0.6~0.7kW程度。こうした検証はV2H機器の性能にも依存するため、同じ機器で検証・比較する必要があります。精密な機器を使用した計測ではありませんが、少なくともシールよりもロスが低減されている様子が確認できました。
経路充電には最大180kWのFLASHをチョイス
V2Hの検証を無事に終え、翌日は京都市街から国道9号線を走り中国地方に上陸しました。途中、鳥取砂丘を観光しながら鳥取市街で食事休憩を済ませて、さらに山陰道を経由して島根県方面を目指します。
③ 京都市街→鳥取市街経由→道の駅大山恵みの里(FLASH:180kW級急速充電器)
●走行距離:262.3km
●消費電力量:65%→8%
●平均電費:約170.9Wh/km(5.85km/kWh)
●外気温(京都→鳥取→大山):20℃→9℃→12℃
●天候:雨(25%)
経路充電に選んだのはFLASHの充電スポットです。FLASHが設置されているのが道の駅大山恵みの里で、ここは山陰道のインターに隣接しており経路充電としてはベストな立地です。
このFLASHはチャデモ規格とともにNACS規格の充電ケーブルを搭載しており、2020年10月以降に生産されたテスラ車ならアダプターなしで利用することが可能です。私の最近の急速充電スポットの選び方は、高速道路上は当然eMP社ですが、それ以外はFLASHを選択することが増えています。やはり専用アプリやカードを作成する必要がなく、クレジットカードやQRコード決済でその都度簡単に利用することが可能。その上最低でも100kW、場所によっては最大240kW級という充電出力に対応しているという充電スピードの速さが魅力的です。

SOC8%から85%まで、75.4kWhの充電料金は3317円という結果に。2024年末から全国のFLASHではキャンペーンとして充電料金単価が66円/kWhから44円/kWhへと下がっておりお得に充電可能です。ちなみにFLASHの充電電力量は充電器側の電力であり、車両側が受け取った電力ではないことに注意が必要です。
④ 道の駅大山恵みの里→道の駅シルクウェイにちはら
●走行距離:229.7km
●消費電力量:85%→25%
●平均電費:約205.3Wh/km(4.87km/kWh)
●外気温(大山→益田):12℃→7℃
●天候:雨(50%、その内大雨50%)
島根県西部の益田市に到着しました。途中大雨だったこともあり電費が悪化していますが、気温が低下している点も踏まえると個人的には許容範囲内だと感じます。ここまで150kW以上の超急速充電器しか使用せずに最小限の充電時間で移動することができており、充電インフラの高出力化の様子が見て取れます。
そして、この前半戦での総走行距離は1004kmに到達しました。後半は山口県から一気に愛知県まで走り抜ける際の充電行程を共有しつつ、さらに急速に整備が進んでいる山陽自動車道の充電インフラ最新動向をレポートします。
取材・文/高橋 優(EVネイティブ ※YouTubeチャンネル)
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