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充電過疎地域でもEVは使えるのか?/テスラ最安「モデル3 RWD」で東北一周1700km弾丸遠征レポート【前編】

充電過疎地域でもEVは使えるのか?/テスラ最安「モデル3 RWD」で東北一周1700km弾丸遠征レポート【前編】

テスラの売れ筋セダン「モデル3 RWD」を使用して東北地方を周遊しました。モデルチェンジを果たしたテスラの最安グレードがどれほどのEV性能を実現しているのか。さらに「充電インフラ過疎地域」と言われている東北地方の最新急速充電インフラ動向もレポートします。

目次

CEV補助金は87万円! モデル3 RWDで超長距離を検証

まず、私自身、テスラ車を3台乗り継いできているテスラユーザーです。今回検証するモデル3も所有経験があります。また長距離検証という観点ではモデルS/3/X/Yの4車種、累計15回ほど行っています。

そして今回、2023年末から日本で納車がスタートした新型モデル3(いわゆるハイランド世代)の入門グレード「RWD」を検証することができました。すでにロングレンジAWDグレードは検証済みでしたが、やはり車両価格の安さからテスラの入門モデルといえる、航続距離の短いRWDグレードで不安なく長距離を走ることができるのかを検証する意義があります。

そして新型モデル3 RWDのEV性能を試すために、関東から日本海を北上して青森県の北に位置する竜飛岬を目指し、さらに八戸経由で三陸道を南下して東北一周するというルートをチョイス。東北地方における充電インフラの実態把握も行います。主要スペックと走行条件は下記の通りです。

【主要スペック(※は推定値)と走行条件】
●搭載バッテリー容量(グロス/ネット):60/57.5kWh
●定格電圧(最大電圧):345V(約400V)
●日本WLTCモード(WLTCモードクラス2)航続距離:573km
●欧州WLTCモード(WLTCモードクラス3)航続距離:554km
●EPAサイクル航続距離:438km
●最大充電出力/SOC 10-80%充電時間:170kW/非公表(独自検証値:24.5分)
<装着タイヤ>
●235/45/R18
●ブリジストンTuranza T005 EV
●空気圧:2.9/3.0(前輪/後輪)(適正値2.9/2.9)
<走行条件>
●車内の空調は常にONにして快適な状態をキープ(21℃オートに設定)
●追い越しなど含めて、制限速度+10%程度までは許容

東京→新潟は問題なく無充電で走破

最初の充電スポットは新潟スーパーチャージャー(以下SC)です。ここは新潟県唯一のスーパーチャージャーであり、日本海沿岸ということでも数少ないスーパーチャージャーでもあります。基本的には24時間365日開放されていますが、設置場所の新潟県スポーツ公園でサッカーの試合が開催される場合、前日の23時から試合当日の開門時間まで充電器を使用することはできません。よって新潟SCを利用する際は下調べが必要になります。

できればテスラ車の車載ソフトウェアとサッカーの試合日程を連携させて、使用不可である場合は車載ディスプレイ上で利用不可情報を表示して欲しいところではあります。

① 大宮SC→新潟SC(250kW級急速充電器)
●走行距離:298.8km
●消費電力量:100%→17.6%
●平均電費:158.9Wh/km(6.29km/kWh)
●外気温(大宮→新潟):26℃→16℃
●天候:晴れ

新潟SCには気持ちよく走ってSOC17.6%で到着したので、東京都に在住の方も無充電で新潟SCには余裕で辿り着けると思います。ただし冬は低温環境だけでなく降雪による電費悪化が予想できるため、途中どこかで充電する必要があると思います。

今回は立ち寄りませんでしたが、途中の高崎SCでは、高崎玉村スマートICをETC2.0で通過して2時間以内に再流入すると高速料金が据え置かれます。よって高崎SCを利用するために高速を降りて道の駅玉村宿に立ち寄ったとしても、高速料金が追加でかかることがなく利便性が高いのです。

とはいえ、練馬ICから82kmしか離れていないことを考えると、できれば群馬県北の水上だったり、関越トンネルを通過した直後の湯沢あたりにスーパーチャージャーができるとさらに利便性は高まると思います。

コンビニのSCは冬もちゃんと除雪されていて安心

② 新潟SC→酒田SC(250kW級急速充電器)
●走行距離:162.2km
●消費電力量:57.2%→21.5%
●平均電費:127.6Wh/km(7.84km/kWh)
●外気温(新潟→酒田):16℃→13℃
●天候:一時雨(10%)

山形県北部の酒田SCは日本海側としては本州最北端のスーパーチャージャーです。この酒田SCは日本海東北自動車道の酒田中央ICを降りてすぐ、さらに国道7号線も近接しているという経路充電としてはこの上ない立地です。さらにファミリーマートに設置されていることから24時間365日開放されており、軽食購入やお手洗いを利用することもできます。何よりも酒田周辺は冬に豪雪地帯となるものの、コンビニの駐車場内であれば除雪の心配もありません。

実は私は新潟SCを冬に利用した際、入り口が除雪されておらずSCを利用できなかった経験があります。雪国でEVを運用する場合、降雪などによる電費悪化とともに充電器を利用できるかという懸念も大きく、その意味において除雪の心配がないコンビニに急速充電器が設置されるというのはEVユーザーの安心感が大きいのです。

この酒田SC以北はスーパーチャージャーだけでなく、NACS規格を採用するテンフィールズファクトリー社のFLASHも設置されていないのでSOC99%まで充電しましたが、SOC21.5%から充電しても44分で充電を完了。新潟SCで11分しか充電していないこともあり充電中に十分な休憩時間を確保できました。とくにRWDグレードに搭載されているLFP(リン酸鉄リチウムイオンバッテリー)は充電性能が高く、SOC80%以降でも充電効率が落ちにくいという特性が強みです。

酒田市から青森市まで一気に走破

③ 酒田SC→竜飛岬
●走行距離:343.7km
●消費電力量:99%→20%
●平均電費:133.1Wh/km(7.51km/kWh)
●外気温(新潟→酒田):13℃→12℃(最低気温7℃)
●天候:晴れ

ついに津軽半島最北端の竜飛岬に到着しました。途中には自動車専用道路もあり、有料道路を使わずとも比較的スムーズに移動することができました。また到着時の充電残量も20%と、実は酒田SC出発時の充電残量予測と合致しており、やはりテスラの充電残量予測精度の高さが見て取れます。

この写真はフロントトランク(フランク)です。以前愛犬を連れて長距離ドライブした際の記事でも取り上げた通り、フランクは車内と切り離された空間であるため、匂いの強い食材や汚れ物、ゴミを保管するのにもってこいです。最近では様々なEVで採用されていますが、特にテスラの場合は車両設計の最適化が進んでいることもありフランク容量が大きく、実用性も高いという点もテスラの隠れた魅力でしょう(モデル3の場合は88L、モデルYでは116Lを確保。特にモデルYの場合は底が深いのでコストコのバッグで目一杯買い物してもすっぽり収納可能です)。

④ 竜飛岬→青森SC(250kW級急速充電器)
●走行距離:79.6km
●消費電力量:19.8%→5.1%
●平均電費:102.4Wh/km(9.77km/kWh)
●外気温(新潟→酒田):17℃→21℃
●天候:晴れ

SOC5.1%でなんとか青森SCに到着しました。この区間で特筆するべきポイントとして、まず竜飛岬からの電費が9.77km/kWhという、その他のミドルサイズEVでは達成困難な驚異的な電費を叩き出しています。EVにおいて電費の伸びやすい郊外走行が中心だったものの、途中遅い車を追い抜くなどハイペースで走行しているという点を加味すれば、やはりモデル3の電費性能を超える市販EVはほぼ存在しないと言っていいでしょう。

また青森SCは酒田SCと同じくファミリーマートの駐車場内に設置されており、24時間365日利用可能であるという点、そして冬に除雪が行き届いているという点で優れた急速充電スポットであると言えます。唯一気をつけるべき点が、この青森SCから青森港まで概ね30分弱程度と距離がやや離れているということです。青森から函館にフェリーで移動するために初めて青森SCを利用するという方も少なくないでしょうから、充電時間も含めて、フェリーを利用する際は時間に余裕を持って訪れる必要があります。

テスラSCの理にかなった配置を見習うべき

酒田SCからは432.9km走行して93.4%消費して無充電で走破することができました。深夜から明け方までは外気温が一桁にまで低下したことから電池残量に一抹の不安が過りましたが、結果的には5%を残して余裕で走破。この走破能力を見れば60kWh程度しか搭載していないRWDグレードでも必要にして十分な電池容量であると感じます。

ただし冬の場合、電費は20%程度悪化するため、航続距離は350km程度になるとイメージ可能です。すると、今回の場合であれば酒田SCから竜飛岬を経由して青森SCに到達することができません。実はテスラジャパンはすでに秋田市街にもスーパーチャージャーを設置する計画を表明しています。豪雪地帯であることを加味すると秋田SCは必須でしょう。その一方で秋田SCさえ稼働してしまえば、秋田市街から青森SCまでは秋田道経由で190km。今回のように竜飛岬経由だとしても320kmで走破できるため、流石に大雪などの状況ではおすすめしませんが、同じ走行ルートでも利便性は格段に向上します。

やはりこのように考えてみると、テスラの急速充電ネットワーク、特に今回のような経路充電ネットワークという観点で極めて効率的な設置の仕方ができていると感じます。

地方都市では戸建の割合が高く、基礎充電よりもコストが高く付く超急速充電器をわざわざ使用するメリットがユーザー側にありません。よって高速道路上をはじめとして、それに準ずるインター付近のコンビニや道の駅などに経路充電ネットワークを拡充することが重要です。現在様々な充電サービスプロバイダーが勃興している日本の経路充電サービスにおいて、このテスラの効率的な急速充電ネットワークのあり方を改めて参考にする必要があると思います。

チャデモ規格の公共用超急速充電スポットも増えている

ちなみにこの青森SCまでの900km弱の区間には、チャデモ規格の超急速充電ネットワークも同時に拡充しているという点も重要です。

この充電マップは90kW級以上のチャデモ急速充電器をプロットしたものです。まず関越自動車道には上里SA、谷川岳PA、塩沢石打SAの下り線それぞれに90kW級が設置。さらに2025年度中には赤城高原SAにも150kW級が設置予定です。さらに新潟から秋田までの日本海側ルートにも90kW級以上が点在しており、24時間稼働する充電器に絞ってみても、鶴岡とにかほには90kW級、秋田市街にはBMWとトヨタディーラーに150kW級、メルセデスと日産ディーラーに90kW級が設置。さらに市内のセブンイレブンとファミリーマートにもそれぞれ90kW級が設置され、国道13号線を内陸に少し進むとローソンにも90kW級が設置されています。

もちろん青森市街にもトヨタ、メルセデスに150kW級、日産とファミリーマートに90kW級がそれぞれ配備。充電インフラ過疎地域と言われてきた日本海側も、テスラスーパーチャージャー以上に90kW級以上の超急速充電器の設置が進んでいる様子が見て取れます。

とはいえ、これらの地方都市の超急速充電器がどれほどの稼働率であるのかは懸念が残ります。今後各自動車ディーラーが90kW級以上の急速充電器を街中にこぞって設置したところで、地元ユーザーが使う機会は少ないであろう(使うとしても高級EVの購入特典でよくある1年間充電無料などの期間中くらいでしょう)こともあり、稼働率低迷は避けられません。地方都市における超急速充電器は、あくまでも国道沿いや道の駅に集中配備することが重要だと思います。少なくともそれ以外の立地に補助金を出してまで超急速充電器を配備する必要はないと感じます。

谷川岳PA上下線には90kW級充電器が設置。ここは関越トンネルの出入り口に位置しており、上りで電気を消耗したEVにとってはオアシス的な充電スポットと言えます。

後編では青森市から八戸市へと太平洋側に移動して、三陸道経由で関東へ南下していきます。三陸道沿線も急速充電器過疎地域であることから、はたしてテスラの最も電池容量の少ないエントリーグレードで充電過疎地域をどのように走破することができるのか、NACS規格拡大への期待とともにチャデモ規格の充電インフラも含めてレポートしていく予定です。

取材・文/高橋 優(EVネイティブ※YouTubeチャンネル

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この記事を書いた人

免許を取得してから初めて運転&所有したクルマが電気自動車のEVネイティブ。

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